The Duelist Force of Fate   作:Anacletus

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エイプリルフールは色々あって寝てた作者です……連載にかまけて何年滞ってるんだよと突っ込まれそうな作品が二年ぶりに更新されて、旬が過ぎた期日ネタでこんなものを上げてるというだけでもずいぶんとアレですが……書いてたから仕方ないね。


遊戯王「Dフォース」

遊戯王「Dフォース」

 

 ビルの最上階。

 薄ら暈けた雲間から差す光を背に1人の少年。

 

 いや、青年が元来の目付きの鋭さのままに目の前に投影されたホログラムを見つめていた。

 

 それは世界が蹂躙される光景。

 

 圧倒的ですらあった嘗ての人類の叡智を前にして動く巨獣が街を踏み潰していく光景に他ならなかった。

 

 だが、その横にもまた滅亡の脅威が映像として映し出される。

 宇宙からの脅威。

 

 圧倒的な技術格差を背景にして無限の重武装の空飛ぶ兵隊が人工的なワームホールからやってくるという情景には常識人すら笑うしかないだろう。

 

 またも新たな景色が映し出される。

 今度は巨大な構造物の設計図だ。

 その全身を鋼で構成された三匹の龍の首持つ黄金の獣。

 嘗て、日本を蹂躙した敵を鹵獲した政府は次なるステップへと至るべく。

 

 米国との間に新たな技術教導隊を発足させ、共同での未来技術の開発へと着手している。

 

「……海馬セト。この状況をどう見ますか?」

 

 青年の横。

 まるで巨大な揺り篭。

 

 いや、安楽椅子とも言うべき浮いた鋼の塊の中から老いて尚光を失わない眼光が彼を見据えた。

 

「はッ、何を意見しろと言うのだ? 今更、この世界が後戻り出来るような場所にいるとでも言うつもりか?」

 

「ええ、貴方と貴方の会社の力があれば」

「フン。オレ個人には何ら関係無い話だ」

 

「……海馬コーポレーションの力は今や日本の軍事技術の8割を占める事になっています。それを否定するのですか?」

 

「貴様……」

 

 青年がその機械の奥、仮面から覗く瞳に目を細める。

 

「Gフォースが破れた今。轟天級の製造とあの巨獣を模倣した海馬コーポレーション最大の事業無しに人類は生き残れません。外宇宙からの侵略者。活発化する怪獣達の出現……あの宇宙人達が言うようにそれが知的生命へのカウンターとして星に君臨する運命ならば、それに抗うには日本と海馬コーポレーションの技術がいる」

 

「チッ、そんなのはあの“鉄の男”と奴の会社に任せておけばいい……」

 

「その苦悩は分かります。ですが、人がいなくてはあなたの望む世界はやって来ない。人類が生き残る為には一部のミュータントや宇宙人達とも手を取っていかなければならない。あなたの望む世界にそれとも人類や彼らは必要ありませんか?」

 

「……破滅した未来から逃げてきた男がオレに説教しようと言うのかッ」

 

「セト……私が望む未来に辿り着ける人物は……私が模倣しようと思った人物は二人存在しました」

 

「何?」

 

「1人はネオ・ドミノシティの英雄……もう1人は伝説のデュエリストと並び讃えられた不屈にして孤高、人類史に大きな爪痕を残した天才」

 

「貴様―――オレをどうやら怒らせたいようだな?」

 

「何故、鉄の男や緑の巨人、アメリカの象徴、そのような突出した才能達がいる中で貴方が選ばれたか。分かりますか?」

 

「オレが知るわけがないだろう!!」

 

 終に我慢出来なくなった様子で青年が声を荒げる。

 

「彼らは確かに……大きな力と才能と能力を持っていた。けれども、あなた程に突出した渇望を持ってはいなかった」

 

「馬鹿な……オレにあるのはッ―――」

 

「―――あなたに在るのはもう存在しない相手との再戦を望む気持ちのみ。ですが、その為にあなたは死すらも超越するだけの力を手にした」

 

「………」

 

 鋼に喰われたような男が浮いたまま雲間から顔を出した日差しの方を向いて、空を見上げる。

 

「このまま旅立てば、それは叶うでしょう。ですが、人類が滅びた世界にあなたの望む未来は決して訪れない……」

 

 今まで二人の男の会話に割り込む事もなく。

 壁際のソファーで心配そうな顔をしていた少年が1人。

 何かを言い掛けたが、その唇を震わせるのみで声を喉の内に押し留めた。

 

「……今は此処までにしておきましょう。とりあえず、報告します……懸案であったヘリキャリアですが、鉄の彼が日本に用意してくれた“あの動力炉”のおかげで初期ロットが完成しました」

 

「フン。この国の無能共が減って清々したわ!!」

 

「……対G用の艤装と同時に再開発も終了。現在、学習することで強くなる“鋼の兵士達”と共にバージョンアップを済ませ、日米合わせて合計14隻を引き渡しました。フル稼働した動力炉を維持出来れば、順次月1隻のペースで就航させる事が出来るでしょう。国連軍への配備分は来年の今頃までには全て揃っているはずです」

 

「雑魚が幾ら揃おうと無駄だと国家の上の連中は分からぬらしい」

 

「……ですが、人々を守る為に力が必要なのもまた本当の事でしょう。それが単なる時間稼ぎに過ぎずとも……」

 

「Gを倒せるのはこのオレだけだ」

 

「……“赤い悪魔”関連の事件で破壊されたキャリアに乗っていて負傷していた人材がほぼ復帰したとの事で、半年以内には日米合同軍の中で戦力化されるでしょう。また日米へビルサルド側からの出向が決定。モゲラの回収された残骸から抽出した技術と我々の技術のハイブリットで……ギドラもまた蘇るでしょう」

 

「我々の技術だと? 貴様の間違いではないのか?」

 

 その皮肉げな言葉にも動じず。

 声は続ける。

 

「……インダストリーから生身の人間を守る為、また外宇宙からの侵略者に対抗するという名目でようやく三世代前の“スーツ”のデータを入手しました。これによって嘗てから集めていたミュータント達の固有能力に関係なく防御面ではほぼ日米政府からの要求水準に到達。この関連技術に付いてはX(未知)たる彼らにもほぼ全ての情報を現物込みでリークしました」

 

「……それで奴らが人類を救うとでも?」

 

「ですが、彼らもまたあなたが望む未来においてきっと決闘者となる可能性を秘めている。敵が増える事をデュエリストとしてのあなたの本能は歓びませんか?」

 

「分かったような事を……」

 

「次のGの出現時期に……再び、外宇宙からの侵略が発生する確率が94%を超えている今、もはや立ち止まっている暇は無い……でなければ、人類は滅びる事になる……“時間を操る魔法使い”からの言葉を借りれば、我々は団結出来なかった。故に敗北した、と」

 

「そんなオカルトの預言程度!! このオレが覆してくれるわ!!」

 

 青年がまるで敵を睨み付けるように鋼に覆われた男の背を睨む。

 

「フ……神、魔法使い、宇宙人、超人、超科学……まるでDMの中にいるようですね。我々は……」

 

「奴らがどんな存在だろうと。この三枚のカードがある限り、決して……そう、決して人類を滅ぼせるものか!!」

 

 青年は自らの傍らにあるケースに揃った神達を前に拳を握る。

 

「もうすぐ赤い帽子の“彼”がこの世界に到達します。その時、あなたの運命もまた回り始める……その三枚の失われた神達と共に……」

 

「貴様の戯言など知った事か!! これは“奴”がッ、オレへ屈辱的にもッッ!! どうにかしてみせろ空から投げて寄越しただけの代物だッッ!! だが、奴の前に立つ為ならば、存分に使ってやろうではないかッッ!! デュエリストの頂点が世界の頂点である事をこの馬鹿騒ぎに興じる連中に叩き込んでやるッッ!!! Gだろうと侵略者だろうと神だろうとミュータントだろうとオレの前に等しく粉砕される未来を用意してやるわッッ!! ははははッッ、はーっははははははははははッッッ!!!?」

 

 青年が片手を己の前に突き出し、見つめる。

 

 何も無いはずの空間に蒼き燐光と共に展開されるデュエルディスクにデッキから一枚のカードがドローされ、押し込まれた。

 

 途端、爆発的な光の本流が奔り、ビルの部屋が内部から爆砕し、濛々と土埃が上がる。

 

 その最中から見える眼光を見た者が在れば、恐れ戦き震えるだろう。

 白き鱗に蒼き瞳。

 竜の中の竜。

 幾多の戦いを経て尚進化を続ける青年の半身。

 いや、化身だろう存在。

 

「あちらの世界で精々見ているがいい!! このオレが全てを薙ぎ倒し!!  貴様の前に立つ時!! 絶望してくれるなよ!! 遊戯ぃいいいいいいいいいいいいいいッッ!!!」

 

 青年の叫びに呼応して、青眼の竜が咆哮した。

 その眼前には街の残骸だけが広がっていた。

 G災害……人智を超えた人という中身を失った都市に孤独な宣戦布告が響く。

 

 青年の闘志を前にしていつの間にか集結していた男達、女達が同じディスクを下げた片手で拳を握る。

 

「行くぞ。凡骨!! 貴様等Dフォースの初披露だッ!! 

 

 青年を前にケッと嫌そうな顔をしたヤンキーのような茶髪の男が1人。

 隊長という身分にも関わらず、自分の雇い主に態度も悪くガンを飛ばした。

 

「人類を救う為にはもはや皆さんに縋るしか道は無くなりました。そのデュエルディスクとデッキのみが人の未来を切り開くでしょう。あらゆる敵を罠に掛け、魔法によって討ち果たし、モンスター達と共に戦うアナタ達ならば……きっと、この破滅の未来を変えられると私は信じます……機関始動!!」

 

 鋼の男の言葉と共に内部からビルが内部から粉々になっていく。

 

 だが、ビル内部にいた青年とDフォースと呼ばれた彼らは傾いていくビルの中から現れつつある巨大な空飛ぶ要塞の最上階で浮遊したまま、水平を取り戻す室内の床に再び降り立つ。

 

 壁が次々に後側へと回って、反転しながら変形していく。

 やがて、其処は巨大な艦橋の先端。

 爆破されたビル内部から出てきた船の中枢へと変貌した。

 

 吹き込んでくる風に目を細めて、全ての命令を下す立場にある青年は今正に人類に向けて振り下ろされようとしている宇宙からの危機。

 

 “星喰らうもの”が見えた空の先にディスクを装着した腕を向けた。

 

「目標ッ!! 未来への障害の全てッ!! 貴様等の力を見せてみろッ!!」

「兄様!! 行くぜ!!」

「ああ、木馬……此処が、此処からがオレの、オレ達の未来だッ!!」

 

 最大戦速。

 世界を食い潰す宇宙からの脅威に向かって希望の船は翔ぶ。

 

―――滅びのバーストッッ!! ストリィイイイイイイイイイムッッ!!!!

 

 その日、戦争が始った。

 人類と人類に与する者達。

 そして、それ以外の者達との最後の戦争が。

 その中で燦然と耀く最後の希望を人々はこう呼んだ。

 

 Dフォース。

 

 誇り高き決闘者(デュエリスト)達、と。


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