The Duelist Force of Fate   作:Anacletus

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第八話「偽装者の欺瞞」

第八話「偽装者の欺瞞」

 

人は罪を背負って生きている。

どんな聖人もどんな悪人も等しく罪には裁きを持って世界は応えるだろう。

sin.

私のそれは一体何だろうかと回答を望めば、自ずと答えは出てしまう。

夕暮れが過ぎた頃。

帰ってきた家の主はバッタリと倒れ臥した。

「は!?」

衛宮邸の居間。

今まで魂すらも抜けた様子で気絶していた衛宮君が目を覚ます。

「あ、衛宮君。起きたのね?」

「え・・・あ、と、遠坂・・・か?」

「どうかした?」

「い、いや・・・なんつーか。もう途方も無い夢を見たんだよ」

「へぇ。どんな?」

「帰ってきたら家の門以外が全部消し飛んでてさ。それで・・・家が在った場所に特撮に出てくる怪獣がバッタリ倒れてて、此処で映画の撮影でもあったのかとか。はは、聖杯戦争に参加してるからかな・・・ちょっと、突拍子も無い夢を見たみたいだ」

「ふ、ふ~ん。衛宮君て特撮とか怪獣映画とか好きなの?」

「いや、全然」

「なら、きっと悪い夢でも見たのよ。ちょっと疲れ気味なんじゃないの?」

「だな。今夜は少し栄養のあるものでも作るよ」

「え?! いや、もうちょっと寝てた方がいいわ!! そんな夢見るくらいなんだから本当に疲れてるのよ!? 帰ってくるなりセイバーの前で倒れちゃうし。今夜は私が作っておくから衛宮君は居間でテレビでも見てればいいんじゃないかしら!?」

「遠坂。何慌ててるんだ?」

「あ、慌ててなんかいないわよ!?」

「ま、まぁ、遠坂がそう言うなら・・・」

「そうそう。衛宮君は居間でゆぅぅぅぅっくりしてのんびりと待ってればいいから」

「・・・遠坂」

「な、何?」

「遠坂って結構、家庭的だよな」

私は思わず反射的に立ち上がっていた。

「な、何言ってるのよ!? もう!! わ、私もう仕度しに行くから」

「あ、ああ」

私が台所へと移動しようとした時、居間に普段着姿のセイバーがスタスタと入ってくる。

「凜。やっと庭の復元がおわ―――」

「だあああああああああああああああああああああ!!!!」

私はセイバーの首をガシッと腕で挟んで引き寄せ、その耳にヒソヒソと状況を告げる。

「・・・解りました。では、彼とイリヤスフィールにはそう伝えておきます」

セイバーがイソイソと戻っていく。

ふぅっと息を吐いた私は衛宮君がこちらを怪訝そうな顔で見ている事に気付いた。

「なぁ、遠坂。セイバーは何しに行ったんだ?」

「え?! な、何しに? あ、あはは、女の子の行動が気になるなんて衛宮君まさかセイバーに恋でもしたのかしら!?」

「は!? ば、な、何言ってるんだよ遠坂!? そ、そんな事あるわけ無いだろ!?」

衛宮君のうろたえっぷりに私は「このネタ使える!?」と会話の引き伸ばし工作に掛かる。

「でも、衛宮君がセイバーを召喚したって事はセイバーと何か近しいって事じゃない? それにあんなに綺麗な英霊を召喚したんですもの。ホントは衛宮君の趣味や好みが反映されてたりして」

衛宮君が思わず赤くなった。

(あ、あれ・・・結構・・・本気で衛宮君・・・)

その反応に私の心が何故かグラグラと沸騰寸前のお湯のように揺れる。

「確かに・・・その・・・セイバーは可愛いと思う。でも、それは誰だってそう思うだろ。少なくとも・・・あんな女の子が英霊だなんて普通誰も思わないさ」

「そ、そうね。英霊として祭り上げられるくらいだもの・・・過去に凄い偉業でも残してない限り出てこない英霊ってだけで、あの容姿じゃ驚くわよね」

私は何故か複雑な気分になって話を切り上げる事にする。

「それじゃ、とにかく衛宮君は居間で寛いでなさい。私が後はやっておくから」

「ああ、それじゃ遠坂の夕飯に期待して待ってる」

「ええ、飛びっきりのを用意するわ」

私が再び台所へ向かおうとした時、バーンと庭側の戸が開けられた。

「ッッ!?」

一瞬、私は硬直するものの、セイバーが言った通り、庭はもう元の姿に戻っていた。

「あ、おにーちゃん。起きたの?」

「イリヤ。どうしたんだ? 庭の方から来て・・・庭で遊んでたのか?」

「え・・・凜から聞いてないの?」

「何が?」

「だっしゃあああああああああああああ!!!!!」

「おわ!?」

「あぅ!?」

私は衛宮君も纏わり付こうとしたイリヤをエルボー気味に腕で掻っ攫って部屋の端まで超高速で移動した。

「(イリヤ!! 衛宮君にこれ以上の心労を掛けないで!!)」

「(まだ、言ってなかったんだ。おにーちゃんならきっと赦してくれると思うけどな・・・)」

「(そ、そうだとしても、これからの聖杯戦争を生き抜く為には衛宮君のパワーアップが必要不可欠なのよ!! 修行にも精神衛生の観点からもテンションが下がるようなことはご法度よ!!)」

「(それって単に凜が怒られたくないだけなんじゃ・・・)」

「(ちゃ、ちゃんと責任は取るわよ)」

「(一緒に暮らしてて解るようになったけど、凜って結構お金に五月蝿い守銭奴よね?)」

「(な!? 守銭奴とか!? わ、私はあくまで無駄なものにお金を掛けない主義なだけであって、そんなのは心の贅肉乙な話であって――)」

「(あ、そっか。もしもバレたら賠償だけで凜の資産が全部飛んじゃうから、あんなに必死で・・・)」

「なぁ。二人とも何話してるんだ?」

私が振り向くと半眼で何やら怪しげなものを見るような衛宮君の視線があった。

「な、何でもないわよ!! 女には時々男には話せない事があるの!! 衛宮君には一切全然これっぽっちも関係ないから大人しくテレビでも見ててくれないかしら!!」

「(何か、もう自棄ね。凜)」

私はもうイリヤからすらも微妙な視線を向けられて泣きたい気分になった。

「あ、あはははは」

私が笑って誤魔化すと衛宮君が隣に置いてあった鞄を持って立ち上がった。

「ど、何処行くの!?」

「え? 部屋に鞄でも置いてこようかと」

「!?」

私は硬直する。

まだ、そこには「何も無い」はずだった。

「わ、私が持ってってあげるわ!!」

私は慌てて衛宮君に駆け寄り、鞄を奪い取る。

「うわ!? と、遠坂!?」

「え、衛宮君はとにかく「此処」で「大人しく」待っててくれればいいから!!!」

私が言い含めるように諭すと衛宮君が微妙な視線で私を眺め始める。

「遠坂・・・何か隠してないか?」

「え、か、隠し事!? な、何の事かしら!!」

ダラダラと私の額に冷や汗が浮かぶ。

自覚しながらも止められない。

止められるわけもない。

「やっぱり・・・何か隠してるだろ。遠坂」

「か、隠してないって!! しつこいわよ!? 衛宮君!!」

その時、私の背後に気配。

「凜。やはり彼は素晴らしいサーヴァントだ。これだけの土地や建物を直すドワーフを召喚するとは・・・凜もそろそろ手伝っ―――」

私は思わずセイバーの口を塞いでいた。

セイバーがフグー!!と驚きの声を上げて何やらこちらに白い目を向ける。

その視線は「まだ、隠そうとしているのですか?」と言っているようだった。

「セイバー。教えてくれないか? どうして今日の遠坂は変なのか?」

「え、衛宮君!! 私は何処も変なんかじゃないわよ!!」

「凜。もう隠し通そうとするのは諦めましょう。正直に、真摯に、それが物事を解決する一番の方法です」

セイバーの言葉に私は呻く。

どうやら此処までかと。

私は近くの壁に寄りかかった。

「分かったわ。衛宮君も驚かずに聞いて欲しいんだけど・・・」

「あ、ああ」

私の真剣な顔に衛宮君の腰が微妙に引けていた。

「今日、その・・・デュエ―――」

ギギィィィイイイイイイ。

そんな音がした。

「「あ」」

イリヤとセイバーの声が重なる。

バタン。

そんな音がしてダラダラと私の背筋に冷や汗が滴り落ちた。

恐る恐る後ろを振り向く。

壁は「まだ」ハリボテだったらしい。

「遠坂・・・・・・」

そのハリボテの先には瓦礫で埋まった地面に懸命に槌を振り下ろす髭を生やした浅黒くて背の低いオッサンが三人もいた。

その横で彼がこちらを見てからグッと親指を立てる。

「・・・・・・」

「C・リペアラー的には久しぶりにやりがいのある仕事らしいとか・・・そういう問題じゃないのよおおおおお!!!!!!」

大地に槌を振り下ろされる度に地面から家の土台や基礎がゆっくりと「復元」されていく。

現場監督よろしく何処から調達してきたのか不明な黄色いヘルメットを被った彼は次々に大量のカードを虚空に投げては新しいモンスターを召喚していた。

比較的小さなモンスター達は呼び出されてから彼に指示を受けると様々な仕事に従事していく。

「復元」だけでは足りないらしい作業を百鬼夜行かというモンスターの大群がそれぞれに分担して行っていた。

あるモノは庭に樹木を生やし。

あるモノはその樹木を切り出して加工し、家に運び。

あるモノはその加工した樹木を屋根に載せ。

あるモノはそれぞれに働くモンスター達に魔力を供給し。

あるモノは出来上がったばかりの廊下の上で跳ねて強度を確かめ。

「え、衛宮君。これは!! その・・・」

振り向いた時。

「おにーちゃん?!」

「シロウ!!」

再び、衛宮君はあまりの事に気を失っていた。

 

夜。

衛宮邸の復元された居間のテーブルには少し遅い夕食が並んでいた。

「で、だ。遠坂」

「は、はい」

私はらしくもなく俯いていた。

「家は直るのか?」

「明日中には全部元通りになるそう、です」

「・・・・・・」

キリキリと胃が痛むのを我慢する。

実際、どんな理由があろうと住居を爆砕どころか粉々にしてしまったのは事実だ。

それを隠し通そうとしたのも言い逃れが出来ない。

「なら、これで話は終わりだ」

「え?」

顔を上げるともう怒った様子もなく衛宮君は笑っていた。

「イリヤから聞いた。セイバーからも」

私が横を見ると二人ともこちらを見もせず食事を続けている。

ポンポンと隣のイリヤの頭上に衛宮君が手を乗せる。

「イリヤを助けてくれて、ありがとな」

「お、おにーちゃん・・・」

「衛宮君・・・」

「オレがいてもきっとイリヤの事、助けてやれなかったはずだから・・・」

「そんな!? 別に私は普通の対応をしただけで!」

「これからもよろしく頼む。遠坂」

「衛宮君・・・ええ、これから夜はビシバシ訓練するからね!!」

「はは・・・お手柔らかに」

再び食事が再会される。

その温かな空気に私は自分の中で何かが変わっていく事を自覚していた。

団欒。

その言葉の実感を久しく忘れていた気がする。

十年前。

まだ、あの頃の自分はそんな言葉を知らずともそれを知っていたはずなのに、こうして衛宮邸に来るまで私はそんな世界をすっかりと忘却していたのだ。

衛宮士朗。

遠坂凜。

イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。

セイバー。

そして名の無き決闘者。

敵対していた誰もがこんな風に食卓を囲める事を私は本当に奇跡だと思う。

【凜。君に足りないものはそれだ】

不意に私の脳裏に何かがチリッと焦げた。

「遠坂。どうしたんだ。ボーっとして?」

「ふぇ?! わ、私ボーっとしてた?」

「はい。何やら心此処に在らずという顔でした」

セイバーの声にイリヤも頷いていた。

「・・・・・・」

「家の修理代を請求されない安堵で気が抜けたんじゃないかですって!? 元はと言えばアンタのせいでしょうがッッ!? 何で怪獣映画に出てくるような化け物出さなきゃいけなかったのよッッ!!!」

彼がヤレヤレという顔をした。

「・・・・・・」

「サーヴァントの責任はマスターの責任じゃないのか!? アンタはこのッッ!!」

私がガンドを撃つ。

しかし、彼はひょいっとソレを避けた。

「くぅうう!? サーヴァントの癖に!!!」

ガンドの連射で捉えようとするものの、在り得ない超高速の残像を残して座ったまま彼がガンドを避けまくる。

その光景は数年前の弾丸を避ける映画のようで、腹立たしいどころではなかった。

「何で普通の身体能力の癖にそんな動きが出来るのよ!?」

「・・・・・・」

「これのおかげっ、て!!! カード!?」

彼が箸を持つ手に一枚のカードを持っていた。

「くぅ!? 覚えてなさいよ!」

私は怒りをゆっくりと飲み込む。

「・・・・・・」

「面白くない? 面白くないって何よ!?」

「・・・・・・」

「ガンドを打ちまくって更に衛宮邸が大崩壊&土下座直行コースになると思った? くぅううう!? 絶対いつか泣かせる!!!」

「はいはい。遠坂もお前も落ち着こうな」

微妙に恨みが篭った仲裁の言葉に私はやむなく怒気を治めた。

夕食はその後も賑やかに進み、恙(つつが)無く終わる。

食後のお茶が出され、その場で今日一日の報告が行われる事になった。

聖杯戦争を生き抜く為、情報共有は毎日欠かさず行うというのが衛宮君と私の取り決めた約束だった。

今日、学校で発見したサーヴァントの情報をを彼にも説明する。

「・・・・・・」

「そう。誰かがあの学校に巧妙に偽装して結界を仕掛けてた。衛宮君が見つけたのはお手柄よ。セイバーにも確かめて貰ったけど、人間の生気に影響を及ぼすものだったわ。あんな大規模な大規模な結界、人間に張るのは無理だから、ほぼサーヴァントの仕業で間違いない」

学校に行く衛宮君を護衛する為、セイバーを彼のカードで透明にして連れて行ったのが大正解だった。

学校で違和感を感じた衛宮君が昼時にセイバーに確認してもらったところ、まず間違いないなく結界の主はサーヴァントだと確定していた。

「・・・・・・」

「中の人間の生気を集めて魔力にする気なのよ」

「へぇ、そんな大規模な結界を張れるなんてキャスターかしら?」

イリヤの言葉に私は首を振る。

「まだ、そうと決まったわけじゃないわよ。でも、あの結界を破壊しないと学校は地獄になる」

「・・・・・・」

「そりゃ早めに壊しておきたいのは山々だけど」

彼の言葉に私は昼間に出した結論を思い出す。

「出来ればすぐにでも壊したいんだが、どうやら普通にオレ達の魔術じゃ破壊できないようでさ。セイバーに壊してもらうって手もあるけど、もし次に同じような事を何処か別の場所でされたらと思うと迂闊に手も出せない」

衛宮君の言葉にセイバーが更に付け加える。

「はい。ですが、あのまま放置しておくわけにもいかないでしょう。数日中に発動する結界に対して何らかの対策を立て、発動と同時に結界に干渉してくるサーヴァントを補足して打ち倒す。これが最善と思われます」

「・・・・・・」

「対策に良い方法があるですって? どういう事」

「・・・・・・」

「相手の結界の能力を確定できれば無効化できる? いや!? ちょっと待て!!! あんな大規模結界を本職でもないアンタがどうにかできるっての!?」

私が驚く。

確かに今まで奇跡とも思えるような出来事を起こし続けてきた彼の力は信じている。

が、そこまで彼の力が万能なのかどうか私には未だよく分かっていなかった。

「・・・・・・」

「待ち構えているのはいつだって罠と相場は決まってる?」

私が首を傾げると彼が紫色のカードを何処からとも無く取り出した。

「・・・・・・」

「罠はいつだってアド損と割られる恐怖に晒されているが無力じゃない? サイクロンと大嵐が無い環境は最高だなッ、ひゃっはー? また、デュエルの話なわけ・・・」

もう彼に対してデュエルするなとかデュエルで物事を語るなとか何でもデュエルで解決しようとするなとか言うのを諦めている私はとりあえず彼の話を聞く事にした。

「で。どうしようってのよ?」

私と衛宮君とセイバーとイリヤが彼の言葉に耳を傾ける。

凡そ、彼には今回まったく出番が無いだろう作戦が提示された。

戦闘で無ければデッキを消費する事なくカードは使える。

しかし、きっとそのカードは弱いものばかりなのだろう。

そう漠然と私は考えていた。

そんな私の考えを打ち破るような一枚を彼はテーブルの上に置く。

今朝、衛宮君が未熟なせいで姿を消せないセイバーが学校へと付いていこうとして一悶着あった。

その時もそうやってカード一枚で事態を解決したのは彼だった事を思い出す。

「・・・・・・」

「ホント。アンタの力って万能よね。まるで・・・」

 

―――神様みたい。

 

何気ない一言。

 

いつもならば言い返してくるだろう軽口。

 

でも、彼は何故か・・・その時だけは何も言わず、ただ表情も無く、首を振るだけだった。

 

自分に出来るのはデュエルだけだと。

 

英雄であるはずの男はそう何処か遠い目をしていた。

 

次の日、作戦を練った私と衛宮君は結界を張った正体不明の敵(サーヴァント)と遭遇する事になる。

 

圧倒的な優位を得て・・・。

 

カチリとまた何処かで歯車のズレたような、そんな気がした。

 

To be continued


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