クマ型軽巡洋艦クマだクマ!   作:秋津洲かも

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クマ着任の日

どうやら俺は熊になってしまったようだ

 

全身を覆う茶色の体毛、手から伸びる鋭いかぎ爪

 

視線の高さは恐らく2メートルを超えている

 

四足歩行が妙に体になじむ

 

これだけの物的証拠を突き付けられれば納得せざるを得ない

 

俺は熊だ!

 

俺の背には電、雷がまたがり、きゃあきゃあとはしゃいでいる

 

夕日が沈もうとしている中、鎮守府へ向かって海上を走行している

 

なぜ水に浮くことができるのか

 

今の俺にはなんとなく分かる

 

アメンボと一緒の原理である

 

体毛から発せられる特殊な油脂成分が水をはじき、浮力を生み出している

 

ではなぜ海上を進むことができるのか

 

残念ながらそれは俺には分からない

 

 

 

 

「クマさん、鎮守府はあとちょっとなのです」

 

「クマさんはやーい!頑張って!」

 

「ぬいぬい」

 

「クマ―↑」

 

電、雷、不知火とは会話が通じるようだ

 

しかし陽炎とだけは意思の疎通ができない

 

おそらく心の清らかな者としか会話できないのだろう

 

陽炎と呼ばれる少女は俺と会ってからずっと警戒している

 

この年頃の少女特有の警戒心がそうさせるのだろうか

 

脚に力をこめると、波しぶきが一層大きくなり体を押し出す力が強くなる

 

前方に陸地が見えてきた

 

 

 

 

 

港にはたくさんの女の子の姿が見える

 

こちらに大きく手を振っている

 

岸壁に着岸すると、黄色い声が辺りに響く

 

「きゃー!本当にクマだわ!」

 

「わたし初めて見ました。思っていたよりずっと大きいんですね」

 

「OH!たくましいデース!見惚れてしまいマース!」

 

「黒くてでかくて、なんだかオーラを感じるぜ」

 

岸壁に爪を引っ掛けよじ登ると、列から一歩前にいる一人の女の子と目が合った

 

セーラー服に短パン、長い茶色の髪を潮風にたなびかせている

 

「球磨型軽巡洋艦球磨だクマ―、よろしくクマ―」

 

笑顔がはじけ、こちらに右手を差し出してくる

 

俺は握手を返そうと四足歩行から二足に切り替え、右前足を上げる

 

 

 

 

瞬間、

 

球磨は跳躍、同時に体を回転させ鋭い回し蹴りを放ってきた

 

咄嗟に右前足で頭部をガード、衝撃で上半身が崩れそうになるも足を踏ん張り耐える

 

着地した球磨は再び満足そうに微笑む、「なかなか見どころがあるクマ」

 

周囲から「おー!」という歓声と拍手が巻き上がる

 

新人いじめだろうかと、俺は頭をひねっていると

 

「キミが報告のあったクマだね。私は横須賀鎮守府提督の登別(のぼりべつ)だ。これからよろしく頼むね」

 

「ク、クマクマ―!クマクマ↓」

 

20代半ばほどの凛とした美人、赤いフレームの眼鏡をかけ、白い軍服に身を纏う

 

タイトスカートから伸びる綺麗な脚に目が行ってしまうも、なんとか一礼し挨拶を返す

 

「そうか、大変だったね。ドロップしたてでまだ状況も良く分かっていないんだろう?」

 

「ほらみんな!戻った戻った。夕ご飯にしよう」

 

手をパンパンと叩き、周りに解散を促す

 

「騒がしくして済まないね、みんなキミが珍しいんだ」

 

「クマ―クマクマ」

 

「さ、詳しい話はあとあと、食事にしよう・・・ときにキミは生肉でいいのかな?それともハチミツ?」

 

「ク?クッマ―クマ―!」

 

「そうか。ではこちらで用意させてもらうよ。電、雷。彼を食堂に案内してやってくれ」

 

「分かったのです」

 

「任せておいて」

 

微笑みを残し、登別提督はきびすを返す

 

俺は精一杯の感謝をこめて、頭を深く下げる

 

正直、ここまで歓迎されるとは思ってもみなかった

 

港についた途端、猟銃で撃たれ軽トラックの荷台で運ばれていく自分の姿を想像していた

 

人の温かさに目尻が熱くなる

 

そして足に再び限界を迎えた俺は四足歩行に戻る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ク!クッマ―↑クッマクッマ↑」

 

これだけ美味しいカツ丼は初めて食べる

 

肉の脂身と赤身のバランス、カラッとした衣、キャベツのしゃきしゃき感とそれに絡むソース

 

肉汁が体に染み渡り、ご飯を必死にかき込む

 

「いい食べっぷりね、揚げてくからどんどん食べなさい」

 

足柄さんと呼ばれる女性は俺の食べる様子をニコニコ見ながら、厨房に立っている

 

あれだけ楽しそうに料理をしていると、それだけで美味しさが増す

 

料理は愛情、良く言ったものだ

 

隣に座る赤い袴の女性は俺に負けじと、ほっぺたを膨らましながら咀嚼している

 

「クマさんなかなか良く食べますね。一航戦として私も負けていられません」

 

イチコウセンという言葉の意味はよく分からないが、本当に美味しそうに食べている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お腹が膨れた俺はロビーのソファーの上で仰向けになっている

 

そのお腹の上で電と雷が寝そべっている

 

「お腹いっぱいなのです、眠くなってきちゃったのです」

 

「電、寝ちゃだめよ。ちゃんとお風呂に入ってからにしなくちゃ」

 

「クマー」

 

「お風呂といえばクマさんはどうするのです?」

 

「一緒に入ればいいじゃない」

 

いや待て!それには問題がある!非常に重要な問題だ!

 

今の俺は熊とはいえ、元々は立派な男だ!

 

「クマ―!クッマクマクマ」

 

「そうね、湯船に入ったら抜けた毛で大変なことになっちゃうわね」

 

「湯船に入らず、シャワーだけにするのです!」

 

「じゃあ、わたしはタオルを取ってくるわね」

 

そうか!湯船にさえ入らなければ問題はない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗闇の世界、俺は今ここにいる

 

俺にとっては戦場とも呼ぶべき、脱衣所

 

実際には危険を避けるため薄目を開けているが、暗闇ということにしておいて欲しい

 

できるだけ視線を下げ、ハプニングに備える

 

それでも人間だった頃にはなかった異常な嗅覚は、嫌が応にも脳に信号を伝える

 

3キロ先の動物をも探知する現代の科学技術を超越したセンサー

 

それは少女たちの甘い香りとシャンプーなどの芳香を感知し、心拍数を押し上げていく

 

聴力は人間のそれと大差ないが衣擦れの音がするたびに、本能が耳の位置を勝手に動かす

 

当たり前だが俺は特に脱ぐものが無い

 

電と雷の支度が終わるのをただただ待つほかにすることが無い

 

時折、「あ、クマさんだー」と少女たちに体を触られるが、精神を集中し、無我の境地へと到達せんとする

 

「クマさん、準備出来たです。行きますよ」

 

「浴室は滑るから足元に気をつけてね」

 

そうか、危険は良くない、非常に良くない

 

そう浴室に入るときに滑って転んだりしたら大事だ

 

ここは目を開けざるを得ない

 

仕方がないことである

 

前方、カララと戸が開き、未知への世界が開かれる

 

俺は前足を上げ、目をしっかりと見開き、前人未到の地へ1歩を踏み出した

 

 

 

 

(続く)




クマなら倫理的に問題はありませんね、・・・ありませんよね?

次回、「浴室の戦い」

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