人は天国に行ったとき、現実からの解放感に幸せを感じるのだろうか、それとも不安を覚えるのだろうか
クマはまさにその狭間でひとり戦っていた
まさに新世界が開けた時、クマが抱いた感情は戸惑いであった
人は今までの経験、データから行動を決定する
目の前の光景はクマに過剰な情報の流入を与え、ヒトより小さい前頭葉の活動は限界に達していた
クマは一介の大学生であった
今までに彼女ができたことはなく、データを入れるコップの中身は常に空であった
そこに湯水のように流れ込んでくるもの
少女たちの体が描くなめらかな曲線で構成された神秘的なライン
場合によっては円、もしくは球と自然の作り出す幾何学に偉大さを感じずにはいられない
湯船につかっている者は髪をアップにしており、しずくの垂れるうなじは健康的な赤みがかっている
笑い声が響き、中には走り回るものもいる
誰一人クマの視線を気にしている者はいない
以前であれば叫び声を上げられ、警察のお世話になっていただろうが、目の前のそれはみな自然体であった
恥じらいという意味では若干不足するかもしれないが、決して得られないはずのものを得たその達成感に対し
クマはただ心に誓う
絶対に今日という日を忘れない
自分は分けもわからないまま、この世界飛ばされてきたが、超越者はきっとこの光景を見せたかったのだ
やるべきことが何か、成すべきことが何か、クマは静かに理解した
思考の奔流に身をゆだねているうちに準備が整った
クマは洗い場に伏せの恰好で固まっている
「クマさん、お湯をかけますよ」
「クマ―」
言葉と共に心地よい温度の湯が降ってくる
自然と体の力が抜け、筋肉がほぐされていく
お湯をかけている少女の隣では、もう一人がボディーソープを手に塗りたくっている
クマに二つの手が迫る
緊張する間もなく二つの手はクマの背中に触れていく
軽くわしゃわしゃとされるも、クマの体毛の多さは人間の比ではない
「あら、これじゃあボディソープ足りないわね」
そういうと容器を手に取り、クマの上から直接垂らしていく
容器の中身が空になったところで再びわしゃわしゃされる
泡立つことに成功した体毛は指通り良くかき混ぜられていく
円を描くように丁寧に、ゆっくりと
背中から尾部へ、そして足へ
「クマさん、かゆいところあるかしら?」
「ク、クマクマ」
「そう、良かった」
クマは日中の二足歩行の疲れが抜けていくのを感じる
すると後背部に感じる手の数がまたたく間に増えていく
二つから四つへ、六つ、八つ際限なく増えていく
クマの体が泡立っていくのを面白そうに眺めていた周囲の少女たちが加勢を重ねてくる
直線的にかき回す者
少し乱暴にこする者
遠慮がちに触れる者
再びクマの脳にデータの流動が始まる
経験したことの無い感触
呼吸が荒くそして短くなる
「おい!オレにもやらせろよ!」
「わたしもやってみていい?」
「ふむ、興味深いですね」
クマはもみくちゃにされていく
ようやくもみくちゃが一巡したのかクマが一息つこうとした時、思いもよらない言葉が飛ぶ
「クマさん、ひっくりかえって下さい」
「お腹も洗うからゴロンして」
「クマ?」
少女の言葉の意味を理解することは、さらに新たな世界への扉を開けることと同義であった
クマの経験値は休むことなく、上昇をし続ける
後日、体毛から油脂が失われたクマは海であわや溺れそうになった
(続く)
次回、「クマ艤装展開」
頑張ります!(頑張ります!)