ボンヤリとする視界に何かが見えまた暗闇に呑まれていく。何度も何度も繰り返す、暗闇の中では苦痛に襲われる。吐き気と頭痛、目眩。それらが激しく蠢き、自分という存在を食い荒らしていくかのようだ。少年は叫んでいた、言葉にならない叫びを暗闇の中でただ一人上げ続ける。突然、光が差し込みハッと青年は体を起こした。額には大量の汗をかき自分がうなされていたのだと自覚する
そして、鏡を見てからあれからかなりの時間が経った今も少年はその呑まれそうな暗闇に苦しまされているのだと自身のかおを見て思う
青年の名前は咲羽 八雲。今年は受験の大切な時期になるであろう18歳だ、だが彼は勉強などこの生きてきた中で一度もした事がない。何故ならありとあらゆる知識や経験がもう、とある研究の・・・そう。あの暗闇の中で刷り込まれているからだ、記憶に無くてもまるでずっと前から知っていたかのように全てをこなす。いわゆるデジャブという奴は八雲にとっては確実なモノであり万物に対して起こりうる事象であり、答えなのだ
だから、無意識に全てをこなす事のできる彼にとって勉強など米の一粒よりも価値はないのである
だが、そう便利なモノばかりではない。幼い頃のその経験は未だに夢に出てきては己を苦しめる。さらには、吐き気や頭痛等を頻繁に起こす等。まさに最悪のバーゲンセール
だが、人間誰しも慣れはあり吐き気のほうは然程問題ではなくなってきたがやはり頭痛だけはどうにもならないものだ。日によっては頭が割れるのではないかというほどの痛みに襲われる事もある
そんな彼を天才と呼び、自分の手元に置こうとする機関から数え切れないほどの誘いを受けているがその全てを拒否している。実の父親であり、とあるモノの開発の一部としてデータを提供していた咲羽庄司もしかり、その機関もしかり、今まで目に入ってきたモノは全て自分をモノとしてしか見てはいない。母は自分が産まれてすぐに他界し家族の温かみとかいうものも八雲にはわからない、そんな彼が上手い事友好関係を育める事などなく今は家でゲームや小説に没頭する日々が続いている。そんな彼を虜にしているのが父も一部関わったというナーヴギアなるモノを利用したゲームだ。実はその父親の息子だからという理由でベータテスターとして参加して以来、どうしてもあの世界が忘れられずにいた。それから時間が経ちようやく正式サービスが今日始まったのだ。窓を見ればそろそろ夕飯時なのだろうかという時間
寝床に仰向けになりナーヴギアをセットし、八雲は思う。自分を一つのモノとしてしか認識しない現実に生きる価値があるのかと
これから行くバーチャル世界では自分も人になれるのだろうか
合図と共に世界が切り替わっていく、そしてあっという間に世界は色彩を変え、鮮やかに変化していく
あの頃は人と人との関わりもあまり見受けられ無かったが今回は正式サービス初日。人も沢山いる事だろう
前回ログアウトした、小川は始まりの街の中にある人気のない場所だ
水面に映る自分とは違う顔を見て何故だかホッとした
背中には刃こぼれの目立つ両手剣がある。正式サービスと共に買い替えの頃合いなのだろう、ベータ版の時と同様の最寄りの武器屋で新調し街を行き交う人々を見る。だれもが本当の自分を隠し生きる世界。そんな世界にいると気持ちが落ち着くのを感じる
ふと、起床してから何も口にしてい無かった事を思い出し一度ログアウトしてから出直そうと思ったがどこにもログアウトの項目が見つからない。周りでも同じ理由でざわついている事に気が付いた
そして、鐘がなる
この時は誰も想像すらしていなかった。このゲームの恐ろしさを