クラウドとユウキの二人は村から少し離れた場所でレベル上げを行っていた
「まだ弓を使わないの?」
「そういえば使ってなかったな。あまりにも馴染みが無さすぎて存在を忘れけてた」
クラウドは慣れた手つきで装備を変更すると、腰に矢筒と弓が現れる
「おー・・・これは取り外しも楽そうだ。まぁ、当たるかどうかは別だけどな」
さっそく弓を手に持ち、矢を構え弓を引き絞る。キリキリと鳴る音がどこか心地いい感じもがするのは気のせいなのだろうか
まだこちらに気がついていないモンスターに向けて矢が放たれるが、少しの所で外してしまう。やはり、思っていた以上に難しい
その攻撃でこちらに気がついたモンスターをユウキが華麗な剣捌きで倒していく。クラウドは肩の力を抜き再び矢を構えた所で妙な既視感を覚える
(なるほど。コイツの扱い方はもうわかった)
先ほどとは打って変わる鋭さで放たれた矢は猿型のモンスターの眉間を正確に打ち抜き。さらに、二本、三本と的確に決めていく
モンスターを一掃し終えた所でユウキが驚きの表情を浮かべながら戻ってきた
「凄いよ!もしかして、リアルで弓道でもやってた?」
「いいや、正真正銘。これが初めてだ」
と、言っても。ある意味これはチートだ
八雲に刷り込まれたモノは知識だけにとどまらず、いわゆる《体が覚えていること》も例外ではない。ただし、その場合は相性があるのかソレが現れる場合とそうでない場合がある。現実で言えばサッカーは並みの上程度だったがバスケットボールに関してはかなりの腕前だったと自負できるものだ
今回で言うと剣は自力で覚えたが、弓は相性が良かったらしい
「よーし、この調子でバンバン倒していくよ!」
「まだ前線を張れる程の自信はねーが、バックアップは任せとけ」
ユウキの剣が舞い、クラウドの矢がそれを際立たせる。まるで光と影のような一体感をクラウドは感じていた。それ程までに、ユウキとの戦闘での一体感は今までに感じた事のないモノだったのだ
ふと、あの本を思い出し。スキルを発動させる。引き絞る手にさらに力を溜めると矢が赤く発光する、先ほどよりも高いダメージが発生し命中させた猿を軽くノックバックさせる程の衝撃を与えた。スキル名は《ブレイクショット》。矢の威力をあげるスキルと見ていいだろう
遠方から走ってくるモンスターの両足をまずは打ち抜き、最後に眉間にブレイクショットを叩き込む事でモンスターを消滅させる。慣れてくれば動き周りながら射ることもできるようになるかもしれない
しばらくして、二人は再び村に戻ってきた
「もー、くたくただよ」
「だな。俺も限界だ・・・」
昨日泊まっていた宿に戻り、丁度仕度を済ませた所だった。思っていた以上にレベルの上がりが早いのは恐らくユウキと一緒にいるからなのだろう。お荷物だと思っていたのが共に戦えるレベルにまでなるとは思ってもいなかった
弓の練度も上がりある程度使いこなせるようになると、必然とスキルも増える。だが、確認はまたの機会でいいだろう
ユウキがウィンドウを操作しながら唸りを上げているのでクラウドは何かあったのかと尋ねるとかなり、真剣な顔をしたユウキが振り返る
「ねぇ、クラウド。ステータスってどうしたらいいのかな」
「そりゃあ個人個人違うだろ。俺は速さも力も今は均等に振るけどな」
しばらくユウキは考え込んだ後、ステータスを振り始めた。そういえばと思う。弓を使い出してから剣を振っていなかった事を思い出し苦笑を浮かべる。剣と弓を使いこなせばと昨日考えてたハズだっだろうと自信に突っ込みを入れ溜息をこぼした
「あ!そうだ、まだ時間あるよね?」
ユウキが何かを思い出したように声をあげたのに対してクラウドは軽い返事を返す
「少し行ってみたい所があったんだよ〜、ちょっと付き合ってくれないかな?」
「気になるところ?まぁ・・・そうだな。食事も調達しなきゃならねぇし、いくか」
「やったー!ありがとう!!」
そんな事でそんなに大喜びするか普通。そのセリフは心の中に仕舞っておいた、何故ならまたパンチをくらいたくないからである
頭の周りに音符を撒き散らしそうなくらいテンションの高いユウキが向かったのは何やらファンシーな見た目の店だった
「なんだ、ここ」
「まぁまぁ、ちょっと待ってて!」
「おい。ここまで連れてきて待っててはないだろ・・・って、もういねぇー・・・」
それから数分待った後、突然肩を叩かれ振り返ると。長い黒髪に赤いヘアバンドを着けたユウキがいた。前より随分と女らしく見える
「どうどう?似合ってるー?」
「素直に言えば・・・そうだな。可愛いんじゃないか?」
ユウキはその返答を予想してなかったのか少しの間固まり、後ろを向いてしまった
何か悪いことを言ったのかと、肩に手をかけるとさらに一歩離れてしまう
「赤くなってるから・・・今は見ないで」
少し覗きこむと、プイとすぐに顔を逸らすが、そう言うユウキの頬は確かに赤くなっているように見えた
「なんだよ、面白いやつだな」
「ボ、ボクだって!その・・・照れるんだからね」
一瞬こっちを振り返り、またそっぽを向くユウキが面白くて思わずクラウドは笑いをこぼす
「そんな笑わなくてもいいじゃんか!」
「なかなか面白いモノが見れた。ったく、こんな笑ったのなんていつぶりかも、わかんねーよ」
「もう、失礼しちゃうな。ホント!」
「悪かったから、そんな怒るなよ」
謝りつつも笑っているクラウドにユウキはまだ頬を膨らませている。当分許してくれそうには無さそうだ
ユウキといると何故だか明るい気分になれる
「ありがとな」
「なっ、それでお礼を言われてもこっちはビミョーだよ。でも、どういたしまして!」
そう言ってユウキは笑顔を見せた
生まれて初めて、自分に対して素直に感情を見せてくれる存在に出会えたのかもしれない。だからだろうか、初めて、リラックスしていられる自分がいる
「てか、お前いつまで俺と一緒にいるつもりだよ」
「うーん・・・ずっと?」
どこまで本気で答えてるんだか、まぁ。顔を見ればそれが嘘や建前で言ってない事くらいわかる。いや、むしろ顔には正直という文字が見えるくらい裏表の無い奴だ。まだ短い付き合いだが、それが凄く伝わってくる
「ずっとってお前な・・・そのうちギルドとか、入ったほうがいいぞ。その方が安全だ」
「でも、クラウドといると何だか安心できるっていうか・・・それに優しいし、どうしてか信用できる人だなって思うんだよ。一緒にいちゃダメかな?」
「ダメって事はねぇが・・・優しいとか言われたの生まれて初めてだわ、頭大丈夫かお前」
「あー!ひどい!やっぱ前言撤回!!そう言うクラウドこそギルドには入らないの?」
クラウドは少し黙ってから、現実での事を思い返す。みんな、寄り付いてくるのは自分の能力に惹かれ利益を求めてくる者ばかり。ギルドに入ってもそれは例外ではないかもしれない・・・。実験の材料になるのも、天才という肩書きを背負わされ振り回されるのも御免だ
「俺は・・・入らない」
ユウキはじっと考えるクラウドを見ていた。瞳が一種揺れ、冷たい色に染まっていく。問いに答えた時のクラウドはとても寂しそうな表情を浮かべていた
似ている。自分の抱えている不安を押し隠そうとする表情だ。まるで、自分を見ているかのような錯覚を覚える。自分が明るさでそれを押し隠そうとするように、人に対して厳しい態度をとる事でクラウドもまたそれを押し隠そうとしているのかもしれない
「なら、ボクはクラウドと一緒にいるよ」
クラウドは一瞬呆気に取られた表情を浮かべてから表情を曇らせる
「あまりオススメできない選択だな・・・それは」
「ボクはクラウドといて、楽しいよ?」
「はー・・・勝手にしろよ、ったく」
一瞬驚いた表情を見せてから背を向けてクラウドは歩きだす。でも、それが照れ隠しなのだとユウキにはわかっていた
何故なら、少し微笑んでいるのが見えたから
「ユウキ。これからよろしくな」
「あー!ようやく呼んでくれたよ。ボクの名前」
自分の残りの命はそう長くはないだろう。どのくらい持つか、それを考えるだけでもたまらなく怖くなる。だけど、クラウドと共にいる時はそれを時々忘れる事ができる
いや、そうじゃない。不安よりも楽しさが勝ると言うのかもしれない
クラウドは後ろを少し歩くユウキの表情が曇っている事に気がつき、言葉を探す。今まで誰かと親しくなる事のなんて無かったクラウドにどれだけ気の利いた言葉が言えるだろうか
よく考慮してから言葉を口にした
「お前が不安に思う事は何にもないさ。何かあっても必ず何とかしてやるから」
ユウキは一瞬驚いた表情を浮かべてクスクスと笑いだす。次に見せた表情は明るい笑顔だった
「本当に?どんな事でも?」
「言ったろ。必ず何とかするって、俺に不可能の文字はねーよ」
ユウキはその言葉で気持ちが楽になるのを感じた。クラウドがどのくらい本気で言ってるのか、どこからそんな自信が湧いてくるのかはわからない
だけど、共に行動してきたクラウドを見ていて思う。彼は嘘や建前で人を励まそうとしたりはしない
だからなのか。安心感が生まれるのは
「ありがとう。これからもよろしくね!」
ユウキは昨日よりも、クラウドに近い距離を歩く。クラウドはニコニコと横を歩くユウキを見て思う
人の温かさというものがようやくわかった気がする
「悪くないな・・こういうのも」
「ん?なにが?」
「なんでもねーよ」
「えー!気になるじゃんかー!」
その時はデスゲームに囚われているとは思えないほど、暖かい雰囲気に包まれていた