ソードアート・オンライン Desire Of DragonKnight 作:光陽03
まだライダーは登場しませんが、それまでお付き合いください
息巻いて突入した合計47人のプレイヤー。彼らを待ち構えていたのは、緋色の毛皮に包んだ巨体を誇る第1層のボス『イルファング・ザ・コボルドロード』とそれを障害から守護するように陣取っている『ルインコボルド・センチネル』数体。
いずれも前情報の通りで、嫌というぐらい頭に叩き込んだその情報とパーティーを率いるディアベルの指揮により、好調と言える滑り出しだ…今のところは
「A隊B隊スイッチ!C隊D隊ボスのタゲを取れ!E隊F隊センチネルを近付けるな!」
(的確な指示だ。ボスのみではなくセンチネルにも目が行き届いている…あれでβテスターではないのか)
自らも剣を取りながら周囲に指令を飛ばすディアベルにライアはセンチネルの棍をショートダガーの僅かな刀身で弾き返しつつ、密かに賞賛の意を抱く。
普通あれだけ巨体、しかも初めて対峙するボスを前にすれば浮き足立つか、腰が抜けて判断が鈍るのは自然だろう。
実際この47人の内の何人かはそういった者がいるはず、ましてや一度死ねば次がないのなら尚更緊張は計り知れない。無論それはライアも例外ではなく顔には微塵も見せないが緊張で今にも震えそうになるのをどうにか殺しているのだ。
しかしディアベルは
パーティーリーダーとして己を含めた47人の命を背負っている重圧に押し潰されることなく、勇猛果敢に佇んでいた。
それで場数を踏んでいないのとのことなのだから、そこまでくれば一種の才能と言う他ない。
「俺も負けてられないな…スイッチだ!」
「了解ッ!」
そう呟いたライアがセンチネルの棍を打ち上げると、彼と替わるように踊り出た黒髪の少年…キリトが片手剣を水色のライトエフェクトで輝せ喉元に切っ先を押し込む。
-アルゴが目をつけるだけあって実力はかなりのものだ。おそらくその実力は自分よりも上だろう
これ程の実力者がパーティーにいれば戦闘もスムーズに進む。
そして自分のパートナーのリュウキもすっかり戦い方が板に付いてきたようでキリトが攻め込んだセンチネルに単発ソードスキル『スラント』を発動させている。
更に赤フードにもう1人の黒髪の少年も片手に
その戦いぶりを頼もしく感じると共に彼らに負けてられない思いがライアの胸中に宿る。
「-おい!大丈夫か?」
「……あ、ああ。リュウキかどうした?」
「どうしたはこっちの台詞だって。ニヤついてたけど大丈夫か?」
「そ、そうかそれはすまない 」
「気をつけろよ、誰かに見られてたらなんて言われるかわかんないような顔してたぞ」
「そこまでだったのか?」
自分は戦闘中にそんなにも人に見せられない酷い表情をしていたのだろうか。
その瞬間の自分の顔を見たいと思う反面恥ずかしいからやめた方がいいと忠告する感情が両立し、何とも言い難い複雑な心境になる。
だが戦闘が継続している今は余計な感情は後回しだ。
そう切り替えライアはリュウキとキリトら他の面々に合流し残るセンチネル討伐に取りかかろうとした時、
『ブモオォォォォォォ!!』
イルファング・ザ・コボルドロードが雄叫びを上げ斧とバックラーを放り捨て、腰元の鞘に赤太い手をかけだす。
後一つ残された体力バーレッドゾーンにまで追い込められたのだ。
ここからが正念場…曲刀タルワールに武器を変え、戦闘パターンも目に見えて変化する。
「下がれ、俺がやる!」
「「ディアベル!?」」
ここに来て陣頭指揮に徹していたディアベルがソードスキルのモーションを取り攻撃体勢を整える。
多くのプレイヤーはその行為に一切の違和感を覚えない…しかしごく少数の、正確には元βテスターのキリトとライアは違う。
奇しくも声を揃えて驚愕と困惑の混ざった声色でディアベルの名を叫ぶ。
それで2人は自分とまったく同じ表情、、考え、危惧に至ったことでで互いの隠している素性を悟るも、すぐさま意識はディアベルへと戻る。
(ここはパーティー全員で包囲するのがセオリーのはず…)
(単独で攻撃?この大事な局面でそんな無茶をするか?ここまで的確に堅実な戦略を展開していた男が?)
予期せぬディアベルの行動にキリトもライアも目を丸くするが、数瞬の後それを遥かに上回る事例が彼らを襲う。
それはイルファング・ザ・コボルドロードの武器だ。
当初彼らが予想していたのは『曲刀タルワール』、だがたった今握られているのは刀系統の武具『野太刀』…
「駄目だ!全力で後ろへ飛べ!」
誰よりも先に武装の違いを見抜いたキリトがディアベルに叫び、警告するがわずかに遅かった。
イルファング・ザ・コボルドロードは野太刀を手に円柱を縦横無尽に飛び回り、上空からディアベルを垂直に切りつける。
巨体の前では貧弱なディアベルの体は衝撃に耐えきれずダメージを受けるどころか打ち上げれ、無防備な彼を格好の獲物だと目を付けたように更に巨体な猛獣の追撃がディアベルを粉砕する。
「ぐわああああああ!!」
「ディアベルはん!」
連続で野太刀の刃を体に刷り込められたディアベルは倒れ、彼を救出あるいはそれまで足止めをしようとしたキバオウたちをイルファング・ザ・コボルドロードが標的として定めた。
ノーマークだったキリトとライアは身を翻し、ディアベルに回復ポーションを使用し命をつなぎ止めようとするが、それは直接本人の手によって阻まれる。
「ディアベル何故あんな真似を!?」
「お前たちも…βテスターならわかるだろ?」
「ラストアタックボーナスによるレアアイテム狙いか」
ラストアタックボーナス…ボスに最後の攻撃を決めた者に報酬としてレアアイテムが与えられるボーナス。
ディアベルはそれを狙おうと焦って失敗してしまったのだ。
キリトが彼の意図を読み取り代わりに言葉に出すと、ディアベルはそれが正解だと肯定するように弱々しく頷く。
「頼む、ボスを…皆を…」
その言葉を最後にディアベルは青い破片となって宙に散っていく。
彼の魂が現実世界に戻れたのか、天に召されたのか知る手段はない。ただはっきりと言えるのは彼がソードアート・オンラインの世界から消えたこと、その最期の瀬戸際までパーティーの身を案じていたことだけだ。
「ここまで来たら後戻りはできないぞ」
「わかってる、ラストアタック…取りに行く」
彼は最期まで自らの意志に殉じて散った。
ならば自分たちもそれぞれの意志に忠実に戦わなければ死後の彼の顔に、泥を塗ってしまう。
だから成すべきことは
彼が志半ばで成せなかった
「どうすればいいんだよ!ディ、ディアベルさんが死んじまった!?」
「落ち着け馬鹿野郎!」
「ディアベルさんが、ディアベルさんが!」
パーティー全体に乱れが生じ始めていた。
ディアベルの死が皆に影響を与えたのだ。
他者から慕われる人物程、偉大な功績を遺して死んだ人物程その喪失は他者の精神に甚大な負荷を及ぼす。
現にディアベルという男にはそれだけカリスマ性があったのだ。
「くそっ!お前もう赤なんだから大人しくしてろって!」
リュウキもその内の1人であるが、臆せずイルファング・ザ・コボルドロードの撃破に他プレイヤーと一丸になって奮戦している。
しかしその群衆をイルファング・ザ・コボルドロードは羽虫を払うように野太刀を振るい、前面に展開していたプレイヤーらを吹き飛ばす。
「おわああああ!」
石床に背中からダイブしかけたリュウキをライアが寸でのところで抱き抱え落下ダメージを無効にする。
助けられたと気付いたリュウキは彼に礼を述べるとすぐまたイルファング・ザ・コボルドロードへと顔を向き直す。
「無事か?」
「あ、ああ大丈夫。早くあいつを倒さないと…」
「その前に回復しろ。時間は少しの間なら彼らが作ってくれる」
「彼ら?誰だよそれ」
見ればキリトと栗色の長髪少女がスイッチを駆使した連携で、イルファング・ザ・コボルドロードに次々と色鮮やかなソードスキルをぶちこんでいた。
「すげえ…うん?でもあんな子最初からいたか?」
「細かいことは後回しにしろ。俺たちも続くぞ」
見覚えのない少女が細剣をイルファング・ザ・コボルドロードの肥大な腹部に突き刺す姿に、リュウキの口から感嘆の呟きが溢れる。
だが今はそれどころではない。
一刻も早く倒さなければいつディアベルの後を追う者が現れてもおかしくないのだから。
「俺もいく」
「お前…確か、クナイト!お前も一緒に戦ってくれるのか?」
低く冷たい声でリュウキの隣にライアと共に並び立つ黒髪の少年。
リュウキとしてはまさか彼が自分から協力してくれるとは思っていなかったようで大層驚いていたが、この助け船には感謝していた。
「2人共対処はセンチネルと変わらない。だが少しでも危険だと判断したら退くんだ。いいか?絶対に死ぬなよ」
「っしゃあ!いくぜライア、クナイト!」
「何度も間違えるな。ナイトだ」
昨日から名前を間違えてくるリュウキに冷ややかに訂正を入れるナイト。
しかしリュウキは聞いているのかいないのかイルファング・ザ・コボルドロードの野太刀にホリゾンタルを打ちかまし、振り下ろされるはずだった刃の軌道を無理矢理曲げる。
それに続くようにライアは短剣スキル「アーマー・ピアス」で、ナイトは細剣スキル「リニアー」で体力ゲージを減らす。
「あいつらに任せっぱなしにするな!俺たちも続けええ!」
「「おおおおおお!!」」
更にはエギルの叱咤で他プレイヤーたちも各々得意とする武器を構え、イルファング・ザ・コボルドロードを攻撃していく。
だがイルファング・ザ・コボルドロードとて立派に第1層のボスの役割を与えられ、あのディアベルを葬った強者。
そうそうやられてばかりではない。
時折野太刀を振り回しプレイヤーを滅しようとするが、直前のモーションで感ずいたキリトの合図で全員が回避に成功する。
ディアベルというパーティーリーダーの喪失で、一時は戦意までも失いかけた彼らは先程までの混乱が嘘のように奮闘し、元々少なかったHPが消えかかっている。…後一撃で片がつく
「アスナ!最後の攻撃一緒に決めてくれ!」
「了解!」
「いっけえええええ!」
リュウキの声援の後押しを受けたキリトと彼にアスナと呼ばれた少女が同時にソードスキルを発動し、イルファング・ザ・コボルドロードを両断する。
絶命の雄叫びを上げ四散するイルファング・ザ・コボルドロード。
完全に破片が消え失せた瞬間、パーティーの勝利を褒め称える表示が宙に出現しその場は歓喜の嵐に包まれた。
「よっしゃあああい!」
「…当然だ」
「これで、ディアベルも報われるはずだ」
リュウキとナイト、それにライアもそれぞれ温度差はあれど初のボス討伐に喜びを隠せずにいた。
特にリュウキは最も感情表現が激しくでその場で飛び上がりガッツポーズをしており、隣でやられているナイトは迷惑そうに露骨に引いている。
…あれだけ厳しい戦闘の後でよくもまあそんなに元気なものだ。
苦笑しつつライアはリュウキの体力を羨ましく思い、同じパーティーメンバーのキリトとアスナに労いの言葉を送ろうとすると
「-なんでだよ!なんでディアベルさんを見殺しにしたんだよ!」
ある1人のプレイヤーの放った言葉が空気を一変させてしまった。
そのプレイヤーは言い知れぬ不信と憎悪とにたぎらせた瞳でキリトを睨む。
「…見殺し?」
「そうだろ!お前はボスの使う技を知ってたじゃないか、あの情報を最初から伝えていればディアベルさんは死なずに済んだんだ!」
「ッ!」
キリト自身そこを追及されるだろうと薄々わかりきっていたが、実際言われるとなると覚悟していても体が反応して息が詰まってしまう。
彼が言葉に詰まったのをいいことに別の人物が乗じてキリトを指差して言う。
「俺、知ってるこいつ元βテスターだ!他にもまだいるんだろ!?βテスター共出てこいよ!」
波紋はますます広がり、彼を養護する人間もいるにはいるがとても静まりそうになく、見かねたリュウキが飛び出す。
「ちょっとそれおかしいだろ!βテスターだからってなんだって言うんだよ、あいつがいなきゃ俺らがヤバかったんぞ!」
「あいつはボスの情報を知ってて隠したんだぞ。そのせいでディアベルさんは死んだんだ」
「あの人が死んだのは誰のせいでもないだろ。仮にあいつに責任があるんだったら俺やあんたらにだって責任があると思うけどね」
「お前βテスターの肩を持つのか!それとも…お仲間が責められてるから慌てて庇おうとしてるのか?」
「んだと…」
「熱くなるなリュウキ!」
一触即発になりかねない雰囲気の中、挑発を浴びて何をしでかすか恐ろしいリュウキにライアが忠告するも、ヒートアップした熱は冷めきっていない様子だ。
エギルもアスナもキリトを批判する者に怒りを募らせるしかない最悪な空気で、キリトは突如奇抜な行動を取り始めた。
「はははは、はははは!……元βテスターだって?俺をあんな素人連中と一緒にしないで欲しいな」
-罵声に耐えきれず気でも狂ったのか
ライアを始めとする何人かはそう疑うが、お構い無しにキリトはまた口を開く。
「SAOのβテストに当選したほとんどはレベリングのやり方も知らない初心者だったよ。今のあんたらの方がまだマシさ…でも俺は違う。俺はβテスト中に誰も到達できなかった層まで登った、ボスの刀スキルを知ってたのは上の層で刀スキルを使うモンスターと散々戦ったからだ…他にも色々知ってるぜ情報屋なんか問題にならないくらいな」
さっきまでの緊迫した様子が嘘であるかのように饒舌に語るキリト。
その彼が口にした言葉に傍聴者であったプレイヤーたちは口々に野次を飛ばす。
「そ、そんなのってありかよ…」
「もうβテスターどころの話じゃないチートじゃないか」
「ベータのチーター、だからビーターだ!」
「ビーター、良い呼び名だなそれ。そうだ俺はビーターだ、これからは他のテスターごときと一緒にしないでもらおうか」
キリトはそう言うと装備メニューから黒いマント「コートオブ・ミッドナイト」を現出させ肩にかけると、第2層へと繋がる門へと静かに歩む。
アスナやエギル、それにナイトも彼の意図をわかっているのかあえて何も言わず黙りこくり、同様に見守ってライアにはキリトの後ろ姿がひどく脆く見えた。
(キリト…お前は自ら破滅の道に進むというのか。ディアベルだけじゃない、他のβテスターたちの汚名を背負って)
だがそれが彼が選び取った道。
自らを犠牲とし、同じ犠牲になったディアベルの名誉を守り、同じβテスターたちを向けられる偏見から救い、自ら
「ああ、ちょっと待ってくれ!」
リュウキが走り出しキリトを呼び止める。
何事だとキリトは恐る恐る振り向くとリュウキは気さくな笑みを浮かべてこう言った。
「次もよろしくな、後それと次は絶対負けないからな!」
瞬間、空間を静寂が支配し誰もが先とは別の衝撃に襲われていた。
しかし背後の雰囲気に気付いていないのかリュウキは更にこう切り出す。
「っと忘れるところだった。お前名前何て言うんだ?」
「え…」
「だってほら、これから一緒に戦っていくのに名前も知らないんじゃあれだろ?あ、俺はリュウキね」
「なんやあいつ、ほんまもんのバカとちゃうか」
「確かにな…」
相も変わらず陽気に話すリュウキにキバオウは馬鹿と呆れつつ蔑み、近くでそれを耳にしたナイトはそれに同意する発言をする。
キリトは言葉では返さず人差し指で空間のある一点を差し示し、それを辿るリュウキの瞳はパーティー全員のHPゲージを捉えた。
「こんなとこにあったのか~、俺にライアにクナイト…じゃなかったナイトだろ、アスナってのがさっきあの女の子のことだから…このキリトってのがお前か!」
ようやく合点がいったと何度も頷くリュウキを余所にキリトは上層への階段を登り、ボス部屋を後にする。
…ディアベルさんの運命は変えられなかった
次回はあのクリスマスイベント回です。