ソードアート・オンライン Desire Of DragonKnight   作:光陽03

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四枚目 悲壮のクリスマス

SAO開始すなわちデスゲーム開始から1年が過ぎた。

1年が過ぎてもアインクラッドの頂き100層はおろか、半分の50層にも到達していない。

そして浮遊城アインクラッドは二度目のクリスマスを迎えようとしていた。

 

 

 

 

 

 

第49層ミュージエン。

どこもかしこも白銀の雪が積もり、街中がもうじき到来するクリスマスムード一色に染められている。

屋根や街路樹に降り積もる雪がクリスマスを彩り、ショッピングに勤しむカップルも数多くいた。

だがそんなカップルとはちょっとばかり違う、ある1組の男女が木製のベンチに座り会話していた。

 

「久しぶりだナ、キーリュー。ギルドを抜けたとはライライから聞いてたけど、まさか本当にソロでやってるとはナ」

 

「…色々とあったんだよアルゴ。それよりクリスマスイベントの新しい情報は?」

 

「そんなのねーっテ、なにせβテストにもなかったクエストダ。情報の取り様がねえヨ。むしろオレっちよりそっちの方が知ってるんじゃないカ」

 

「知ってたら最初から聞いてねえよ」

 

 

キーリューとアルゴに呼ばれた男は頤に手を当てて考えに没頭する。

アルゴはその傍らで天からのプレゼントとさえ思える神秘的な雪景色を瞳に映し、呟く。

 

 

「クリスマスイブの深夜、つまり今日…12月24日夜24時にどこかの樅の木の下にイベントボス『背教者ニコラス』が現れる。んで、そいつがドロップするのが」

 

「-蘇生アイテム」

 

「あくまでも噂でしかないけどナ」

 

 

このソードアート・オンラインの世界においてゲームオーバーになった者の姿を目にすることはない。

故にプレイヤーの数は増えることはなく永久に減るばかりとなっている。

そんな劣悪な最中にアインクラッドにある日を境に奇妙な噂が飛び交い出したのだ。

それこそが彼らの話題にしている、クリスマスのイベントボス『背教者ニコラス』が落とすとされるアイテムの中の一つ。

 

 

『背教者ニコラスの持つ大袋には命尽きた者の魂を呼び寄せる神器がある』

 

 

つまりは蘇生アイテムというわけだ。

この噂が広まった頃からニコラスを狙うプレイヤーは躍起になって無謀なレベリングに挑戦し、フィールドの狩場を独占するギルドやパーティーさえもいるという話だ。

しかしそれも致し方ない話だと彼ら2人は思う。

信憑性こそ薄いものの、もしそれが真実なら散ってしまったプレイヤーが息を吹き返し、また蘇生させた人間の隣に居続けることになる。

それが仲間か、友人か、恋人か、それとも別の何かか…蘇らせる対象はその人次第だろうがとにかく是が非でも手にしたい一品のはず。

その為なら無茶なレベル上げだろうが、貯め込んだ金で一流の装備を揃えようが…同じようにアイテムを狙うプレイヤーを蹴落とそうが、如何なる手段を用いるだろう。

なにせそれで大事な人とまた会えるのなら

 

 

「それでもその僅かな可能性にすがるしかない奴らが蘇生アイテムを求めるんだ。例え自分が死ぬことになっても」

 

「…お前もその1人カ」

 

「まさか、俺にその気はないよ」

 

 

男はアルゴの言葉を嘲笑うように否定すると雪道に足を踏み出し、ベンチから離れる。

アルゴは座ったまま彼に念を押す。

 

 

「フラグボス相手にソロで挑んだらどうなるかしんねーゾ!」

 

 

既に遠く離れた距離にいたもののしっかり聞き取れたのか男は振り向かず片手を振って応答の意を示す。

だがアルゴの胸の不安は消えることはなかった。

薄暗い暗闇の空に舞い散る雪景色のせいで彼の後ろ姿が、今すぐにでも消えてしまいそうな気がしたからだろうか。

 

 

(大丈夫カ?アイツもキー坊も)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第35層迷いの森。

アルゴとの会話の後、リュウキは装備を整え迷わず攻略済みのこのエリアに急行した。

-たぶんここだ

根拠こそないが確信めいたものはあった。

以前ライアと来た時、ある1本の巨大な木を発見したことがあった。

妙に記憶に残りやすい特異な形状の大木だっただけに何らかのイベントの印だろうと、その時はさほど構わずクエストの続きに移った。

一週前にそのことを思い出したリュウキはそれに目星を付け、レベル上げや資金集めに時間と労力を費やした。

その折他にもめぼしい木を他層の森にいくつかあったが、不思議と熟考せず35層の森を選んだ。

 

 

「もうすぐで時間だ」

 

 

24時、日付が変わるまで後1時間とない。

道中のモンスターたちを極力やり過ごしながらも目標の大木目指して突き進む。

残り2つのワープポイントの1つをくぐり抜けた先でリュウキを待ち構えていたのは、最後のワープポイントの前で立ち止まる少年と彼の眼前に同じく佇む複数人で構成されているパーティー。

そのパーティーの中心人物と思われる無精髭の男と彼が見つめる少年にリュウキは覚えがあった。

 

 

「クラインと、キリトか!」

 

「リュウキ!?まさかお前も蘇生アイテム狙いか!」

 

 

目標到達直前の地点で睨み合うクライン率いるギルド『風林火山』とリュウキ、そしてキリトの3勢力。

話し合いで済む問題ではあるまいし、蘇生アイテムはおそらく1つだけ…譲り合うというわけにもいかない

 

 

「お前らイベントボス相手にソロで挑むのはよせ!俺らと合同パーティーを組むんだ。蘇生アイテムはドロップさせた奴の物で恨みっこなし、それで文句ねえだろ!」

 

「…それじゃあ、意味ないんだよ…俺1人でやらなきゃ」

 

 

クラインの決死の申し出にリュウキは一瞬揺らいだがキリトの方は虚ろな双眸のまま、イベントボスのために手入れしたであろう剣に手をかける。

やむを得ないと諦めた風林火山の団員が臨戦体勢に入り、一戦交える覚悟を決めた時……ワープポイントから新たなパーティーが出現した。

その規模は風林火山の倍以上はあろうかという大パーティーだ。

 

 

「お前らも()けられたな、クラインリュウキ」

 

「そうみてぇだな」

 

「これだけの人数、どこのギルドだ?」

 

「あいつら聖竜連合ッす!フラグボスのためなら一時的オレンジ化も辞さない連中ッスよ」

 

 

聖竜連合、かの有名な血盟騎士団に勝るとも劣らぬ名声と規模を持つギルド。

それが目の前にいる、何故?などという疑問を口にする者はいない。

わかりきっている。自分たちとまったく同じものを狙っているのだ。

そうでなければ有名ギルドがわざわざこんな時間にこんな辺境のエリアに大所帯で足を運びはしない。

 

 

「くそっ!いけキリト、リュウキ!お前らは行ってボスを倒せ!」

 

「クライン!?」

 

「死んだら許さねえぞ!絶対許さねえぞ!!」

 

 

目尻に液を溜めながら言うクラインにリュウキは残るか迷うがキリトが真っ先にワープポイントに駆け出したのを捉えて慌てて後を追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ…はあ…はあ…」

 

「サチ、サチ」

 

 

結果としてキリトとリュウキの予想は的中し、クリスマスイベントのボス『背教者ニコラス』は現れた。

長時間の戦闘の末2人のライフはレッドゾーンに突入し危うく死ぬ手前まで追い詰められたが、その甲斐あって討伐には成功。

だがこれが当初の予定ではソロであったのだから、アルゴの言葉が嘘ではなかったと今更ながら思い知らされる。

疲れからか呼吸を乱し大の字に倒れるリュウキが余力を振り絞って首だけ動かすと、キリトがうわごとのように誰かの名を呟きながらニコラスがドロップしたアイテムをタップするのが見えた。

 

 

「……どうだ?……蘇生アイテムは?」

 

 

録に機能しない体たらくのままリュウキが訊ねるとキリトは、返事代わりに入手した蘇生アイテムを投げ寄越してきた。

せっかく手に入れた貴重な蘇生アイテムをそんな雑に扱うはずはない。

不吉な予感がちらつきつつアイテムをタップし表示された説明文に目を走らす。

 

 

「……そうか。やっぱそんな上手い話、ないよな」

 

『このアイテムのポップアップメニューから使用を選ぶか、あるいは手に保持して蘇生プレイヤー名を発声することで、対象プレイヤーが死亡してからその効果光が完全に消滅するまでの間(およそ10秒間)ならば、対象プレイヤーを蘇生させることができます』

 

 

-10秒間

要はこれまでに死んだプレイヤーには効果がなく、これから死に直面するプレイヤーのみにしか適用されない。

それが蘇生アイテムの正体だったのだ。

 

 

「キリト…お前…これ」

 

 

説明文から顔を上げた時にはもうキリトはどこにもいなかった。

おそらくはもうフィールドから立ち去ったのだろう。

そして自分にこれを渡したのは彼にとって、もはや価値のなくなったガラクタ同然に成り下がった宝石だから。

 

 

「お前はこのアイテムで、誰を生き返らせたかったんだ?」

 

 

聞かせる相手がいないと理解しながらもリュウキは思いがけなく言ってしまった。

キリトには生き返らせたい大切な人がいたはずだ…先程口にしていたサチなる人物だろうが

その願いが叶わないと知った瞬間彼は何を思ったのか、考えるだけでも哀れになる。

 

 

「俺も…戻るか」

 

 

ニコラスとの戦闘で疲弊した身体を引き摺って積もりに積もった雪の上を踏みしめると、コツッと足の爪先が何かに当たる。

普段ならばどうというわけはないが立つのも精一杯な体であるためか、リュウキはバランスを崩しひんやり冷える柔らかな雪に顔面からダイブしてしまう。

 

 

「っ~!もう何なんだよ!」

 

 

足元にある物を悪態をつき拾い上げると、それは長方形の漆黒のケース。

中にカードが入っているのを見る限りではどうやらカードケースのようだ。

 

 

「マジかよ……何で団長と同じ物がこんなとこにあんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

悲壮漂うクリスマスから3カ月後

 

 

「現在確認しているライダーは5人。既に退場している1人を除くと…まだ正式に決まっていないライダーは後7人」

 

 

そう呟く人物の手にもまたカードケースが握られていた。

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