ソードアート・オンライン Desire Of DragonKnight   作:光陽03

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今回からライダーの登場です。
年内に後1話は投稿したいものです……できたらいいな


五枚目 フラワー・ナイト

「お願いだよ…私を独りにしないでよ…ピナ」

 

 

第35層迷いの森。

日が顔を見せず月の独壇場と化した時間帯の木々が生い茂る森の奥地で少女は涙した。

彼女-シリカは『ビーストテイマー』『竜使いシリカ』という通称を持ち、使い魔にドラゴン種のフェザーリドラをテイムしたアインクラッドでも最年少に近い幼い少女だ。

『ピナ』と名付けられたそのフェザーリドラはシリカにとって、絶望の象徴でしかなかったソードアート・オンラインの世界に希望の光を照らしてくれた。

それ以降彼女は心の支えであるピナをいつどこに行くにも一緒に連れて行動し、片時も離れたことはなかった。

 

 

しかしたった今この瞬間、ピナは死んだ。

その原因はシリカの愚かしい自尊心がきっかけだった。

そもそもシリカとて最初から1人ではなく、ちゃんとしたパーティーの一員として迷いの森に踏み入ったのだ。

だがそのパーティーの女性プレイヤーと口論となり、頭に血が登ったシリカが独断でパーティーを脱退し、単独で森を抜け出そうと考えた。

独りだろうと中層ダンジョンぐらい簡単に抜けられる、そうたかをくくっていたのが不味かった。

迷いの森はその名の通りプレイヤーを惑わす仕掛けが仕組まれており、シリカはまんまとそれに引っ掛かり帰り道を見失い、そうこうしているうちにモンスターに出くわしピナを死なせてしまったのだ。

 

 

 

ピナは3体の猿人のモンスター『ドランクエイプ』からマスターのシリカを文字通り身をなげうって守り、その愛くるしい体を温かく包んでいたであろう尾羽1枚を残して果てた。

そして次はシリカの番が近づいていた。

友と言っても過言ではない存在を失った彼女は悲しみにうちひしがれ、慟哭を上げがむしゃらに短剣ソードスキルでドランクエイプを倒そうとするも、逆に餌食となり大樹の根っこ部分に投げ捨てられる。

-もうどうしようもない

生への渇望を捨てたシリカは迫る死を、ドランクエイプの棍を受け入れようとした時

 

 

『キイイイイイイ!!』

 

 

どこからか鉄砲玉のように飛来して来た濃紺のコウモリが、夜景に混ざってドランクエイプらの周囲を飛び交う。

並みのコウモリよりも大きな体躯、鋭利な刃物にも負けぬ切れ味を誇っていそうな両翼、血を固めて形作ったような赤い両目。

それらの特徴を合わせたコウモリのモンスターが超音波を発声させ、ドランクエイプ3体を悶え苦しませる。

シリカにはさしたる影響がなく、どうやらドランクエイプのみが怪音波の標的になっているようだ。

コウモリのモンスターがバサッと翼をはためかせて暗い海へと保護色となって飛びさっていくと、不快音から解放されたドランクエイプが頭部を抑えて、気を持ち直すと再びシリカに狙いを定める。

しかしドランクエイプの棍棒がシリカの華奢な体に触れることはなく、ポリゴン体となり四散していく。

ドランクエイプのいた場所に立っていたのは全身黒服の片手剣を携えた男の剣士だった。

彼はシリカを見ると穏やかながらも悲哀を込めた声色で言う。

 

 

「ごめん…君の友達、助けられなかった」

 

「いいえ、助けてくれてありがとうございます」

 

 

泣き出しそうになる衝動を抑制するのでやっとなシリカを剣士キリトは、以前目の前で大事な仲間を死なせてしまった自分に重ねる。

だが決定的に違うのはキリトは仲間に秘密を隠して偽りの仮面を被っていたことだろう。

 

 

「その羽根、アイテム名設定されてるか?」

 

「え?」

 

 

キリトに指摘されてシリカがピナの遺品となった羽根をタップすると、『ピナの心』と確かにアイテムとして成り立っていた。

それを見たシリカはピナの死を実感し肩を震わせ涙を浮かべ、その様子を見たキリトが慌てて補足する。

 

 

「ま、待った待った。心アイテムが残ってればまだ蘇生の可能性がある。47層の南に『思い出の丘』っていうフィールドダンジョンがある、そこのてっぺんに咲く花が使い魔蘇生用のアイテムらしい」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

 

思いも寄らないもたらされた情報にシリカは蜘蛛の糸ほどの淡い希望が天から降りたのを感じるが、すぐに現実へと引き戻される事態に気付く。

それはシリカのレベルにあった。

今のレベルでは47層は安全圏とはとても言えないからだ。

 

 

「報酬を貰えば俺が行ってもよかったんだけどなぁ、ビーストテイマー本人が行かないと肝心の花が咲かないんだよ」

 

「いえ…情報だけでもとってもありがたいです。頑張ってレベル上げすればいつかは」

 

「それがそうもいかないんだ。使い魔を蘇生できるのは死んでから3日らしい」

 

「そんな!」

 

 

せっかく見えた光明が遠ざかる音がシリカを襲った。

3日間で得られる経験値などたかが知れてるし上がったとしてもソロで、はたして頂上まで行けるかと言われたら自信はない。

八方塞がりな状況のシリカにキリトから装備と救いの手が差し伸べられる。

 

 

「この装備で5、6程レベルの底上げができるはずだ。後は俺が一緒に行けば、たぶんなんとかなる」

 

「どうして、そこまでしてくれるんですか?」

 

 

赤の他人に装備を無償で提供するなどそうそう上手い話があるはずがない、きっと代価を要求されるだろうとシリカは幼いながらも勘ぐっていた。

警戒心を向けられたキリトは、ばつの悪そうに視線を反らすと躊躇いがちにそして恥ずかしそうに言う。

 

 

「…笑わないって約束する?」

 

「はい」

 

「君が…妹に、似てるから」

 

 

聞いた瞬間シリカは目の前の相手に失礼だとは承知していても、堪えきれず吹き出してしまう。

 

 

「わ、笑わないって言ったじゃないか!」

 

 

裏切られたキリトの本心からの叫びが、濃い闇に紛れた木々に囲まれた森に轟いた。

 

 

 

 

 

彼らのいる地点から多少すぐ離れた木の影から3つの異形の双眸が怪しく眺めていたのを、彼らはまだ気付いていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迷いの森の位置する35層主街区。

攻略されてからというもの、すっかり中層プレイヤーで溢れかえったこの街の宿にキリトとシリカは一晩過ごすことにした。

宿に足を運んでいる途中でピナを死なせてしまった遠因の女性プレイヤーロザリアと他数名のパーティーに遭遇してしまい一悶着あったが、無事宿に着いた。

その宿のある一点、シリカとキリトが明日の段取りを計画するために使用中の部屋をレンガ作りの建物の物陰から隠れて見上げる男がいた。

 

 

「キリトも一緒とはな…さすがに予想外だ。今回はいつも以上に厄介なことになりそうだ」

 

 

忌々しげに舌打ちを打つ男は毛髪を掻き鳴らし、吐いた溜め息が冬特有のエフェクトで白く映える。

それが自身から出たものであると知ると、男はけだるそうに腕組み壁に寄りかかる。

すると宿の扉から脱兎の如く走りさる人影が視界の端に飛び込んで来た。

何かに襲われて逃げるかのように、己の振り分けた敏捷スキルを駆使して走る人影から男はあらかさまな怪しさを感じ取っていた。

街中は圏内と呼ばれ、その中では必ずと言っていい程死なない。

とはいえいくらか抜け道は存在するがそれは面倒な手順を踏まなければならないために、実行に移すのは至難の技。

-一体あいつ何者なんだ

人影を追跡するべく男は後を()ける。

気取らないために隠蔽(ハイディング)スキルを発揮し音を立てず忍び寄るように、かといって近すぎず遠すぎずの常に一定の間隔を空けつつ尾行を試みた。

だが敏捷スキルの効果で速度が増大している相手を追跡するのは正直厳しい。

 

 

(いっそのこと人目に触れてでも多少強引な手を使って問い詰めてやろうか)

 

 

一向に距離を詰められず男が諦めて脳裏に浮かんだ手段に出ようとするが、突如として甲高い金切り音が彼の頭に警鐘にも似た頻度で響く。

 

 

「ちっ!タイミングが悪い。この肝心な時に」

 

 

男は踏みとどまり元来た道を振り返るがその時には異音は鳴り止み、そちらに気を取られた一瞬の隙に人影も逃してしまう。

 

 

「どちらも取り逃がしたか…何者なんだあいつは。いや、ともかくまずは狙いの奴が先だ」

 

 

元々の目的は明日になればおそらく果たせる…思い描いた何の不都合が生じないとは限らないが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第47層思い出の丘

 

主街区『フローリア』の外に広がるこのフィールドは赤・青・黄色など現実にありふれた色や、2つの色が混合した非現実的な色をした花が至るところに根を伸ばして咲き誇る、SAOでも観光スポットの要素を備えた奇異な場所だ。

そこに咲くとされる使い魔用蘇生アイテム入手のため、キリトとシリカは行く手を阻むモンスターを蹴散らし突き進んでいた。

 

 

「キリトさん後どのくらいでしょうか?」

 

「そうだな、もう半分くらいじゃないか」

 

「まだそんなにあるんですね…でも私諦めません。必ずピナを生き返らせてみせます!行きましょうキリトさん!」

 

「その意気だシリカ。っと、その前に…いい加減姿を見せろよ、街からずっと()けてるだろ、何が狙いだ?」

 

「え?え?」

 

 

不意に背後の木目掛けて言い放つキリトにシリカがあたふたした様子で困惑する。

そんな彼女を自らの背に庇う形で前に出るキリトだが木陰からゆるりと現れた人物を視認すると、剥き出しにした警戒心を解き肩の力を緩めた。

 

 

「お前…ナイト」

 

「お知り合いですか?」

 

「前にちょくちょく顔を合わせたことがあってな。お前、何でここに?」

 

 

キリトと似た黒髪と黒服。違いはキリトに対して羽織っているのがマントである点と両目共に黒ずんだ物静かな印象を与える碧眼である点だけ。

彼-ナイトはキリトとシリカに歩み寄ると2人にこう切り出す。

 

 

「お前たちがこれから取りに行くアイテムに興味があってな、後を()けてた」

 

「あなたも…使い魔を失ったんですか?」

 

「言ったろ、興味があるだけだと。効果は知らん、心配するなアイテムはお前たちの好きに使え」

 

「なんだか…よくわからない人ですね 」

 

「まあ、悪い奴じゃないんだけどな」

 

 

本人に聞こえぬように声に気を配って話し合うキリトとシリカ。

そそくさと早歩きで先を行くナイトにシリカは頬をふっくら丸く膨らませて、その背中を追う。

 

 

「ちょっとあの人勝手過ぎます!待ってください」

 

「ははは…」

 

「-きゃあああああ!?」

 

 

植物族モンスターが己が手足として活用する触手を伸ばしてシリカを吊り上げ、彼女を拘束する。

似たような事態には既に2,3度出くわしておりその被害はシリカに集中しているがために、彼女にはこの層のモンスターを引き寄せる何かがあるのではないかと本気で疑ってしまう。

 

 

「キリトさん!見ないで助けてください!」

「だから見ないでは無理だって」

 

 

そう言う間も植物モンスターの触手はシリカを手玉に弄び、やむなくキリトが片手剣を引き抜くが、その時には触手もモンスターもポリゴンとなり消失した。

戒めから解放されたもののシリカは尻餅を付き、その傍らではナイトが細剣の刀身を素手で撫で呆れたように言う。

 

 

「さっさと行くぞ、こんなところで油を売ってる暇があるのか?」

 

「助けてくれたのは嬉しいですけど、あなたに言われなくてもわかってますよ!」

 

 

ナイトが同行してから色んな意味で賑やかになってきた一行は丘の上に登頂するが、そこには意味ありげな台座とそれを避けるように草花があるだけで他にめぼしい物はない。

僅かな望みにかけて来たのに無駄骨だったのか。シリカは涙ぐみながら辺りを見回す。

 

 

「ない…ないよ、キリトさん!」

 

「そんなはず-いや、ほら見てごらん」

 

 

キリトが指し示した先を辿ると数秒前までは変てつもなかった台座の上に、芽が顔を出し始め常識ではあり得ない急激な成長を遂げる。

やがて白い百合に近い形状の花が星のような黄色い粒子を放出して花開く。

 

 

「あれが蘇生アイテムか」

 

 

シリカが花びらにそっと触れると彼女の手には温かみを持って煌めく花があった。

ネームウィンドウが開き3人一斉にアイテム名を確かめる。『プネウマの花』…蘇生アイテムであるのは間違いないようだ。

 

 

「これでピナを生き返らせられるんですね…」

 

「生き返らせるのは後のは方がいいだろうな。ちょっと我慢して急いで戻ろう」

 

「はい!」

 

 

転移結晶を使えば街まであっという間だが何分高価な代物だ。

別段帰り道を歩く時間がないのではないし、価値の高い貴重品はどうにもならない事態に直面した際のみに使いたい。

3人…というよりシリカが興奮に胸を踊らせ帰路に着く途中、川を挟んで架ける石造りの橋を通り過ぎようとした時キリトが橋を越えかけたシリカの肩に手を置き、低い声で凄む。

 

 

「そこで待ち伏せてる奴、出てこいよ」

 

「-え?」

 

 

先程と同じような言葉がキリトから出、デジャヴを感じたシリカは反射的に自身の右を振り向くと、ナイトはいる。

だったら今度は誰なのだろう、シリカが顔を戻すや早いが驚愕に目を見開く。

何故なら橋の向こう側には昨晩揉めるに揉めた女性プレイヤー、ロザリアがいたのだから

 

 

「ろ、ロザリアさん!?」

 

「アタシのハイディングを見破るなんて見事な索敵スキルね剣士サン、侮ってたかしら…その様子だと首尾よく『プネウマの花』をゲットできたみたいね。おめでと、シリカちゃん」

 

 

思いがけない賛美を頂戴するがシリカの疑念は晴れない。

-嫌な予感がする

その予感が正しいと裏付ける言葉が数秒ともたずにロザリアの大人の魅力を物語る艶めかしい唇から、溢れる。

 

 

「じゃ、さっそくその花を渡してちょうだい」

 

「!?な、何を言ってるの……」

 

「無駄だとはわかっているが一応聞いといてやる。お前がこの花を欲しがる理由は何故だ?見たところ使い魔はいないようだが」

 

「昨日は見なかった顔ね、アタシの好みじゃないけど…まあいいわ、それよりあなたの質問に答えてあげる。売れば金になるからよ」

 

「案の定…だな」

 

「悪いけどそうはいかないなロザリアさん。いや、犯罪者(オレンジ)ギルド『タイタンズハンド』のリーダーロザリアさん、と言った方がいいかな?」

 

 

SAOプレイヤーのカーソルは主に3種類に分類されている。

ごく普通のプレイヤーには緑、数回程殺人を犯したプレイヤーにはオレンジ、そして定期的に殺人を犯すプレイヤーにはレッド。

プレイヤーの半数以上は緑カーソルであり、オレンジとレッドは緑に比べるとかなり少ない。

もっと言えばオレンジとひとくくりに分類されていても、自己防衛から仕方なく殺人を犯してしまったプレイヤーも中にはいる。

だが殺人の快楽に溺れたオレンジやレッドプレイヤーの一部はギルドぐるみで、SAOをゲームクリアするどころか金銭やレアアイテムを奪うためにはプレイヤーキルを躊躇うことはない危険集団。

それがオレンジギルド並びにレッドギルドの実態だ。

 

 

「でも、だって、ロザリアさんはグリーン」

 

 

シリカの言うようにロザリアのカーソルはグリーン。

そこだけ拾えばごく普通のグリーンプレイヤーの仲間、どこも異常はない。

しかし異常がないからオレンジプレイヤーではないというのはこのSAOでは通用しない。

 

 

「オレンジギルドと言っても全員が犯罪者カラーじゃない場合も多いんだ。グリーンのメンバーが街で獲物をみつくろい、パーティーに紛れ込んで待ち伏せポイントに誘導する。昨夜、俺たちの話を盗聴してたのもあいつの仲間だよ」

 

「そして盗聴役は万が一聞き耳を立てたのがばれた時のために敏捷スキルも上げているのがほとんどだ。昨日宿屋から慌てて飛び出て来た奴のようにな」

「じゃ、じゃあこの2週間、一緒のパーティーにいたのは…」

 

「そうよォ、あのパーティーのお金がたっぷり貯まって美味しくなるの待ってたの。一番楽しみな獲物だったあんたが抜けちゃうからどうしようかと思ってたら『プネウマの花』を取りに行くって言うじゃない」

 

「成程、俺たちを殺して金ごと奪う腹積もりか」

 

 

キリトとナイトの波状攻撃に己の企てがバレていると悟ったロザリアは、隠していた本性をさらけ出す。

その素性はキリトとナイトがこれまで出会った犯罪者プレイヤーとまったく同種の性質だった。

 

 

「でもそこのマントの新顔剣士サンはともかくそっちの剣士サンはそこまで解ってながらノコノコその子に付き合うなんて馬鹿?それとも本当に体でたらしこまれちゃった?」

 

「いいや、俺もあんたを探してたのさ。ロザリアさん、あんた10日前に38層で『シルバーフラグス』っていうギルドを襲ったな、メンバー4人が殺されてリーダーだけが脱出した」

 

「ああ、あの貧乏連中ね」

 

 

あくまでも落ち着いて記憶を探るロザリア。

その仕草のひとつひとつに腹立たしさを募らせつつ、キリトは語る。

ロザリア率いるギルドに襲われ唯一生き残ったリーダーが毎日最前線のゲート広場で、号泣しながら仇討ちをしてくれる人物を探していたこと。

そのリーダーが仲間を殺したロザリアたちをあえて『殺してくれ』ではなく『黒鉄宮の牢獄に入れてくれ』とキリトに懇願したこと。

だがそれをキリトの口から聞いても尚ロザリアの顔色は変わらない。

 

 

「馬鹿みたい、大体アタシそういう奴が一番嫌い。あんたたちみたいに正義とか法律とかこの世界に妙な理屈持ち込む奴がね」

 

「訂正してもらおうか」

 

 

両手を上に上げて呆れるロザリアにナイトが言い放つ。

 

 

「何よ?」

 

「俺をそのくくりに入れられるのは我慢ならん。俺はお前が何をしようがどうでもいい、それが人殺しだろうとな」

 

「なんてこと言うんですか!?」

 

「あら?珍しいわね、てっきりあなたも同じタイプかと思ったわ」

 

「そういう奴は、キリト(こいつ)馬鹿(もう1人)で充分だ」

 

「まあそれはいいんだけど、あんたら3人でどうにかなると思ってんの…?」

 

 

そう得意気に笑みを浮かべるとロザリアの背後、キリトたちの背後から複数のプレイヤーが姿を現す。

おおよそ10人前後、しかもほぼ全員カーソルがオレンジだ。

今まで体感したことのない威圧感にシリカはキリトの服の袖を掴み、助けを求める。

 

「…キリトさん!」

 

「大丈夫、心配しないで」

 

「キリト…?まさか!」

 

 

ふとそれを聞いたオレンジプレイヤーの1人の表情が強張り、固いものになる。

 

 

「ロザリアさん、こいつ、ビーターの攻略組だ…」

 

 

-攻略組

SAO攻略に身を捧げ常にフロアボス相手に激闘を繰り広げる、危険な最前線に立つ高レベルプレイヤーの中の高プレイヤー。

それが攻略組だ。

けれどもそれで引き下がるロザリアではなかった。……よもやこのすぐ後にその英断を悔やむとはこの時の彼女は思いもしないだろう。

 

 

「攻略組だからってなんだってんだい!この人数でかかればたった1人余裕だわよ!」

 

 

ロザリアの発破を受けオレンジプレイヤーは各々、武器を抜き放つ。

ナイトもやむなしと細剣を握りオレンジプレイヤーらを見据えるが、その彼を目に見えぬ奇妙な音が襲う…昨夜感じたのと同じ金切り音。

-ようやく来たか

彼らが睨み合う橋下の川の水面から、赤・黄・青の3体の蜂型モンスターが、ロザリアの真後ろからは金と銀の同種の蜂型モンスターが出現した。

ただそれらは通常のフィールド上の蜂型モンスターとは大きく異なっており、大きさが異様で人間とほぼ変わらない程にデカイ。

赤い固体『バズスティンガー・ホーネット』は2本の針を、黄色の固体『バズスティンガー・ビー』は弓を、青の固体『バズスティンガー・ワスプ』は片手剣を、金の固体『バズスティンガー・ブルーム』はビーと同じく弓を、銀の固体『バズスティンガー・フロスト』はホーネットと同じく2本の針を携帯している。

 

 

「5体も来るとは…」

 

「こいつらは!?一体、それにどこから?」

「なんなんだい!?このモンスター共は!」

 

 

ロザリアのみならず最前線で戦い抜いているはずのキリトとすら見たことのないモンスター。

索敵スキルでモンスター名こそ見えたものの、出現パターンも外見も今までにないタイプのモンスターであるために不用意に近付けない。

すると『バズスティンガー・ブルーム』がくぐもった奇声を発しロザリアに組み付く。

 

 

『シャアアアアア』

 

「ひっ、ひい!?や、やめて!」

 

「ロザリアさん!」

 

「見るな」

 

 

先程から目の前で起こる状況に頭が追い付けないシリカをナイトが、マントで覆い隠して視界を塞ぐ。

グチャグチャと汚ならしい音のみがシリカに唯一入る情報だった。

そして

 

 

「ああああああああ!?」

 

 

ロザリアの絶叫が収まるのと同時に響く破砕音。

それだけでシリカには何があったのか知るには充分だった。-死んだのだ、ロザリアが

シリカも、仲間のオレンジプレイヤーも、キリトも、まるで理解できないと言いたげに瞳を丸くする。

ロザリアを咀嚼した『バズスティンガー・ブルーム』は白い涎を垂らして次なる餌を求め、オレンジプレイヤーの首を掴む。

それが合図となり『バズスティンガー・フロスト』もオレンジプレイヤーへと、川の水面から出現した3体はシリカへと向かう。

 

 

「うわあああああ!?く、来るなああああ!?」

 

「させるか!」

 

 

オレンジプレイヤーの動きを針で封じようとする『バズスティンガー・フロスト』にキリトは『ヴォーパルストライク』によるジェット突撃をかまして突き飛ばし、飛ばされた『バズスティンガー・フロスト』が『バズスティンガー・ブルーム』を巻き込んで多くの花を下敷きにする。

 

 

「お前ら早く逃げろ!ナイト、そっちは任せたぞ!」

 

「仕方ない…この3体で妥協するか」

 

 

キリトの要求に既にシリカを守りながらナイトは『バズスティンガー・ホーネット』・『バズスティンガー・ビー』・『バズスティンガー・ワスプ』と交えていた。

彼の実力をよく知るキリトはナイトなら心配ないと判断し、自分は金と銀の蜂に向き直る。

 

 

「うおおおおおおおお!!」

 

 

 

 

 

バズスティンガー3体の前にナイトは防戦一方となっていた。

シリカを守りながらという要因もあるだろうがバズスティンガーの連携も侮れず、イエローゾーンには達していないが徐々にHPバーが削られていく。

 

 

「ナイトさん!私のことはいいですから戦ってください!」

 

「…なら、そうさせてもらおうか」

 

 

ナイトは『ブラストストック』による刺突で『バズスティンガー・ワスプ』の胸部を突き衝撃波が吹き荒れる。

その余波で他の2体も吹き飛ばされナイトから離されてしまう。

3体全てから間合いを確保したナイトはスキル『クイックチェンジ』を用い手早く片手に、黒い長方形のカードデッキを呼び出す。

そしてそれを左手に持ち替え正面に突き出すと、ナイトの腰にベルトのような機械が現れ、それにはコウモリの翼のような紋章が描かれたカードデッキを差し込める程のスペースがあった。

 

 

「変身」

 

 

身体ごと腰を左側に捻ると、正面に戻りつつカードデッキを差し込み口に挿入。

するとベルトがそれを認めるように紋章を発光させる。

ナイトの体に複数の虚像が重なり1つに纏まるとその姿は瞬く間に変化していた。

深い闇を思わせる紺の鎧、腰にはコウモリを模した細剣型の武器、中世の兵士に似た覆面。

 

 

「ナイトさんが…変わった…?」

 

「キリトには言うなよ。面倒事は嫌いだからな」

 

『Sword Vent』

 

 

ナイトはシリカにそう言うとカードデッキから引き抜いたカードを1枚、コウモリを模した細剣『ウィングバイザー』の柄部分を開閉し、装填。

晴天の空を滑空して横切るコウモリのモンスター『ダークウィング』より、槍型武器『ウィングランサー』を受け取り『バズスティンガー・ホーネット』に対峙する。

針を持つ手をウィングランサーで払いのけがら空きになったところを一突き入れ、背後に移動してきた『バズスティンガー・ワスプ』の片手剣をウィングバイザーの鋼の刀身で遮った。

 

 

「すごい…」

 

 

数的不利にもかかわらずナイトは巧みな剣技で渡り合うがさしもの彼も限界はある。

遠距離から『バズスティンガー・ビー』の矢を浴び動きが止まった、一瞬を狙って他の2体が懐に飛び込む。

『バズスティンガー・ワスプ』の片手剣にウィングランサーを落とされ、次には『バズスティンガー・ホーネット』の針が鎧を貫きナイトは花畑に飛ばされた。

それを見たシリカはナイトの身を案じる。

 

 

「ナイトさん!」

 

『Nasty Vent』

 

「いいから耳を塞げ!」

 

「は、はい!」

 

 

素直に指示に従うシリカ。

ダークウィングが超音波を発生させバズスティンガー3体を苦しませ動きを制限させる。

 

 

(あれ?これ…昨日見たような)

 

 

同じ光景をシリカは見たことがあった。

昨夜ピナが死んだ時、自分が殺されかけた時モンスターが全く同じ反応をしていた。

それでシリカは理解した。

彼が昨晩近くにいたことを、そして彼に命を救われたことを

そんなシリカの胸中に構わずナイトはカードデッキより自らの紋章が描かれたカードを取り、ウィングバイザーに挿入し駆け出す。

 

 

『Final Vent』

 

「はあああ」

 

 

疾走中、ダークウィングが彼の背中にマントとして装備されそのままナイトは高く飛び上がる。

ある高度まで達したところで急降下。その身体をドリルのように包み込み、猛スピードで一ヵ所に固まっていたバズスティンガー3体を貫く。

 

 

「-はあああああああ!!」

 

 

爆発が膨れ上がり花畑を焦土と化す。

燃え残る火をバックにナイトはカードデッキを抜き元通りの姿に戻り、シリカの安否を確認する。

 

 

「3体だけあってレベルの上がりもさすがだな…怪我はないか」

 

「はい…」

 

「そうか、ならもういいな」

 

「え!?もう行っちゃうんですか!?」

 

「俺の目的はもう終わった。これ以上ここにいる理由はない」

 

「ナイトさんの目的って…あのモンスターだったんですか?お願いします!教えてください、 あのモンスターについて」

 

頭を下げて願うシリカ。

ナイトは暫しじっと彼女を眺めていたが、転移結晶を取り出しフィールドを去ろうとする。

転移先を口にする間際シリカの頭を優しく撫でるとナイトは何処かへと消えてしまう。

 

 

「-あっ……行っちゃった」

 

「おーい!シリカ、無事か?」

 

「キリトさん!」

 

「よかった、何もないみたいだな」

 

 

橋の方向からバズスティンガー2体を掃討し駆け付けたキリトはシリカの安全を認めると、安堵の息を吐く。

 

 

「あれナイトはどこいったんだ?」

 

「ナイトさんは、もう行っちゃっいました」

 

「そうか、あいつ何がしたかったんだ?」

 

「よくわかりませんけど…ちょっと変わった人ですけど…悪い人じゃないと思います」

 

 

そうキリトに言うシリカの笑みは思い出の丘のどの花よりも、美しく綺麗で…温かみがあった。

 

 

 

 

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