ソードアート・オンライン Desire Of DragonKnight   作:光陽03

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7話目にして今回でようやく主役の変身でございます!
長かった…


七枚目 龍の赤き瞳

リュウキとリズベットは水晶を入手し出現した階段を使って、無事に砂浜へと戻ることに成功した。

パーティー結成から水晶入手に至るまでの長くて短いような時を 共に行動した彼らには、既に友情めいた感情が芽生えており、年相応の満面の笑みで喜びを分かち合う。

 

 

「やっとあの窮屈な洞窟を抜け出せたわね。あんなとこもう二度とごめんだわ」

 

「わかる。迷宮区とかでも真っ暗闇なのはあってもあそこまでじゃない…俺、1人だったら絶対生き残れる自信なかった」

 

「さすがにそれは大げさよ。それにあの洞窟に転移した時最初あたしとはぐれたじゃない」

「だからその間がすっげえ地獄だったんだよ。ああ、思い出すだけで吐き気がする」

 

「まさか本当にしないでしょうね!?するならせめてあたしが見えないところでしなさいよ!汚い!」

 

「ひでえ…本当にしねえって、ただの例えだろ」

 

 

冗談混じりの言葉を本気で引かれかけたリュウキはがくりと項垂れる勢いで凹む。

その仕草がうけたのかリズベットは、堪えきれず吹き出すと腹の底から笑い声を出す。

 

 

「ははは、ごめんごめん。ちょっとからかってみたくなっただけだから」

 

「…いいよ、どうせ。俺は笑われるのがお似合いだよ」

 

 

体育座りで不貞腐れたままそっぽを向くリュウキ。

-意外とかわいい

自分と大差ない年齢で実力も高い方であろうリュウキにこんな一面があろうとは。

またしても込み上げてくる笑いを今度こそ耐えようとしつつリズベットはリュウキの肩を叩き、謝る。

 

 

「あたしが…悪かったからさ、本当にごめ、んって」

 

「…笑い堪えて言ったって説得力ねえよ。いいよ、笑いたきゃ笑えよ」

 

 

それもそうだ。

リズベットは失礼ながら相手の言葉に内心同意する。

逆の立場であったとしても、リズベットはそれとまったく同じことを口にしていただろう。

 

 

「もう笑わ、ないから、約束す、るから…だから本当にごめんって…ぷっ、はははははは!」

 

「ほら見ろ到頭笑っちゃったな!お前!」

 

 

駄目だ。どうしても笑ってしまう。

もはやある意味吹っ切れたリズベットは当人を前に大爆笑。

こんなにまで爆笑されてはリュウキからすればいい気はしない。だがどうしてか不快にもならない。

その理由をリュウキがはっきり理解しているか定かではないが、まあいいかと軽く流し砂浜に手をついて立つとリズベットに街に帰ろうと促す。

 

 

「さて、もう帰ろう。目的の水晶も手に入れたしこうして問題なく無事なわけだからな」

 

「そうね、そうしましょ。一応、ここフィールドだしいつモンスターが来てもおかしく」

 

『-グアアアアア』

 

「ッ!?…この声モンスターか?」

 

 

リズベットの言葉を遮る謎の奇怪な声。

その出所を探すリュウキとリズベットの2人であるが、

砂上にも、空中にも、隆起する岩の上のどこにもモンスターの影すら見当たらない。

しかし幻聴にしてはやたら記憶に残る異常な声だった。

そしてリュウキだけは、脳を刺激する金切り音がけたましく聞こえていた。

 

 

 

「どこにいるのよ?隠れてないで出て来なさいよ!」

 

「リズベット、伏せろ!」

 

「え?ちょっとなに!?」

 

 

音の発生源…揺れ動く海面に黒い巨影を捉えたリュウキはまず、真っ先にリズベットに覆い被さるように飛び退く。

突発的な行為に出たリュウキにリズベットは目を丸くするが、彼女の体は押し倒され完全に背が砂浜にダイブする寸前、瞳が水飛沫を撒き散らし元いた場所を薙ぐ得体の知れぬ影を目撃した。

それはブヨブヨとした10数メートルはあろうかという強大なクラゲ型モンスター。しかもその体躯に突き刺さっているのはつい先程2人が鍾乳洞で獲得したのと同じ数多くの水晶。

 

 

「何よあれ…クラゲのモンスター?それに体に刺さってるのあたしたちのと同じ水晶?」

 

「クエストクリアが表示されなかったのはラストにこいつがいたからか。しかもこの大きさでミラーモンスター…最悪だろ!」

 

 

驚くリズベットと傍らで毒づくリュウキ。

そんな彼らをターゲットとして定めたクラゲ型モンスター『サファイア・ブロバジェル』は青白い触手を伸ばし、幾つもの束となり強襲する。

狼狽しつつも彼らとて、伊達に戦闘経験を積み上げてはいない。

あらかじめ臨戦体勢を整えておりリュウキとリズベットはそれぞれ剣と槌を握り、『サファイア・ブロバジェル』を向かえ打つ。

 

 

「やるしかないってことね。いくわよリュウキ!」

 

「ああ!っておい、お前は下がってろよ!マスターメイサーでもフィールドにあまり出たことないんだろ?だったら-」

 

「じゃあ何!?黙って見てろって言うわけ?そんなのお断りよ、あんた1人に任せておけないもの」

 

「気持ちはありがてえけどこればっかりは、っお!?」

 

 

舌戦を繰り広げるリュウキとリズベットだが、彼らは四方八方から迫る触手を捌くので手一杯だ。

両手しか持たぬ人間では何十近くの触手を持つクラゲ相手では防御するより身を守る手段はなく、唯一密閉空間でないことが救いだろう。

 

 

「ああもう!相性最悪、全然効果がない」

 

「こっちもだ。いくら切ってもキリがない…だったらこいつはどうだ! 」

 

 

触手を3本切り落としたリュウキはまだ残存している触手を放置してそのまま直接本体に対象を変え、高く跳躍し頭上に掲げた剣を縦に振り下ろす。

だが弾力の豊富なボディには剣が通用せずフリーな触手から横っ腹を打ち付けられ、砂浜へとはたき落とされた。

 

 

「おわちゃ!?」

 

「リュウキ、大丈夫!?」

 

「俺のことはいい、まだ平気だ。それより戦いに集中しろリズベット!」

 

「はいはいわかってるわよっ!」

 

 

相槌を打ちながらソードスキル『サイレント・ブロウ』による、範囲攻撃で触手を寄せ付けぬリズベット。

しかしいつまでもそれが長く続くとは限らない。

ソードスキルによる発動後の硬直時間が仇となり、リズベットは触手に絡め取られてしまった。

 

 

「しまった、きゃあああああ!?」

 

「リズベット!待ってろ今すぐ助ける!」

 

 

四肢ごと纏めて束縛されたリズベットを救出するべくリュウキはソードスキルを連発するが、『サファイア・ブロバジェル』の弾力性あるボディにはてんで効き目がない。

むしろ触手の反撃を食らわぬようにするので一苦労だ。

そうしている間にもリズベットの華奢な体は締め付けられ、肺を圧迫されているからか顔も蒼白なやなりつつある。

これが続けばいつHPが全損するかわからない。

一秒でも早く触手をどうにかしなければ危険だ。

リュウキが懸命に剣を振るう。

 

 

「この馬鹿野郎、いい加減リズベットを離しやがれ!」

 

 

あまりにしつこくリュウキがうっとおしくなったのか『サファイア・ブロバジェル』は触手に青い電気を纏わせ、バリバリ激しく音を立てる触手を鞭のようにリュウキを払い飛ばす。

 

 

「があああああ!?」

 

「…リュ…ウキ…ああッ!?」

 

 

運悪くも岩肌に衝突したリュウキはイエローゾーンにまでHPを奪われる。

砂を握り締め立ち上がろうと踏ん張るが足が言うことを聞いてくれず、膝元から砂浜に突っ伏しる。

海洋生物特有のぬめぬめとした質感と全身をきつく戒める痛みに攻められながら、微かに開いたリズベットの瞳はリュウキを映す。

彼もまた朦朧とした意識の中自身に視線を移す彼女を見、伸ばした手が音もなく砂に。

 

 

 

 

 

 

-ここで終わるのか?

俺もリズベットもあのモンスターに殺されて

 

結局俺は何も守れやしなかった。

あの時から何も変わっちゃいない。

必ず守ると力になると約束した人を目の前で失い、そして今またパーティーを組んだ少女を同じように失おうとしている。

俺はとんだ馬鹿野郎だ

 

 

 

『立ちな、まだ終わっちゃいない』

 

 

 

 

聞こえたような気がした。

霞むような暗い海の底で心の芯に響く、活気に満ちた自分を後押しする声

それともうひとつ…戦意を奮い立たす誇り高き龍の雄叫びが

-戦えと

 

 

 

 

 

 

「そう…だよな。まだなんも終わってない。リズベットも俺もまだ生きてる、そしてこれからも生きるんだ」

 

 

リュウキはそう呟き両足でどっしりと砂を踏む。

燃えたぎる闘争心を双眸と胸に宿した彼は『クイックチェンジ』で瞬時に、表面に竜の顔を模した意匠が型どられたカードデッキを掴み前に突き出し構える。

 

 

「ありがとな団長…俺のことはもう心配しなくていいからゆっくり休んでてくれ……変身!!」

 

 

言葉と共に右手を左斜め上にピシッと伸ばし、現れたベルトにカードデッキを装填したリュウキの姿は瞬く間に変わった。

赤く丸い瞳が光る鉄仮面、如何なる攻撃をも通さぬ鎧、そして左腕には龍の頭部をそのまま切り取ったような機械を装備している。

まさしくそれは龍の騎士…プレイヤーネーム通り、龍騎(リュウキ)の名が名前負けしない姿だ。

 

 

「っしゃあ!」

 

『Sword Vent』

 

 

カードデッキから剣の絵柄が記されたカードを左腕の機械『ドラグバイザー』に挿入すると、雲ひとつない天空より柳葉刀の武器『ドラグセイバー』が砂上に刺さる。

 

 

「はっ、おりゃああ!」

 

 

銀色に光る刀身を更に陽光で照らし龍騎は砂を蹴って、リズベットを捕らえた触手を半ばから切り捨てた。

並みの剣とは段違いの切れ味を発揮し、触手も紙くずのように容易く切断され、解き放たれたリズベットを龍騎は俗にいうお姫様抱っこの要領で受け止めた。

 

 

「しっかりしろ!リズベット」

 

「…そのこえ…あんた…リュ…キなの?そのかっこ…何なの?」

 

「後で説明する。悪いけどそれまでここで休んでてくれ」

 

 

解放されても呼吸が元通りとれない様子のリズベットを、龍騎は『サファイア・ブロバジェル』の攻撃範囲外の岩陰に彼女の身を隠す。

自身はそのままドラグセイバーで向かい来る触手をひとつひとつ両断しつつ、間合いを詰めにかかる。

攻撃が通用しないとわかると『サファイア・ブロバジェル』は戦法を変え、体躯に電流を放出して突貫を仕掛けてきた。

 

 

「こういう時は、これだ」

 

『Guard Vent』

 

 

浮遊して距離を縮める『サファイア・ブロバジェル』に対し、龍騎は龍の鱗を代用したような左右両方に装備可能な盾『ドラグシールド』を構え防御に徹する姿勢を見せる。

その目論見を裏切らず『サファイア・ブロバジェル』はドラグシールドと正面切って接触し、ジリジリと盾ごと龍騎を押し込んでいく。

だが途中で龍騎は上体を反らしたせいで軌道が逸れ失敗してしまう。

 

 

「さっきのお返しだ。たっぷりくらえ!」

 

『Strike Vent』

 

『-グオオオオオオ!』

 

 

斜め45°程の角度を龍騎が見上げ息巻いて別のカードをまた改たに使う。

すると先刻『サファイア・ブロバジェル』が出てきたのと同様に、紅蓮の龍…『無双龍ドラグレッダー』が勇猛な叫びを上げ海面から飛び出し龍騎の隣に控えた。

そしてその龍と同じ武器『ドラグクロー』を右手に装着した龍騎は右足を引き、ドラグクローをパンチするかの勢いで突き出す。

 

 

『プルゥァァ』

 

 

ドラグクローから発射された火球とドラグレッダーが噴出した火炎弾が交わり、『サファイア・ブロバジェル』を燃焼させ悶えさせている。

HPバーも格段に減り始めたのを見た龍騎は、もう一押しとばかりにカードデッキからカードを挿入。

 

 

『Final Vent』

 

「はああ…だあ!」

 

 

ドラグレッダーが龍騎を渦巻き状に囲むように旋回。

左手と右手で輪を形成するように胸の前で構え、肘を曲げやや右側に持っていく。

膝を屈折させて、天高く飛翔するとドラグレッダーもそれを追い舞い上がる。

そして雲ひとつない大空とギラリと光る太陽を背に、身体を捻り返して右足を限界まで伸ばす。

下降中にドラグレッダーの吐いた灼熱の炎の後押しで更に加速し、流星の如く『サファイア・ブロバジェル』に接近していく。

 

 

『ガアアアアアアア!』

 

「だあああああ!!」

 

『プルゥウワアァ』

 

ドラグクローの火炎弾の威力が相当効いていたのか『サファイア・ブロバジェル』は録に身動きも取れず、直撃をもらった砂を引き摺って爆発しポリゴン片となって散る。

イベントボスを撃破したことでクエストクリア表示が出ると、龍騎はベルトからカードデッキを引き抜き変身を解除。

左手で曲げた右腕を押さえてガッツポーズを決めクエストクリアの実感を確かめた。

 

 

「よし!これでようやくクエストクリアだな」

 

 

 

 

 

 

 

第48層リンダース

紆余曲折ありながらもレアリティアイテム『アインスサファイア』を獲得したリュウキとリズベットはこの層にあるリズベット自身が経営しているらしい鍛冶屋『リズベット武具店』に足を運び、長い冒険の疲れを癒すことにした。

外の川の水を掬う水車が特徴的なプレイヤーホームであり、現代の日本では耳にする機会に恵まれない古風な音が鳴り胸の鼓動に合わさる。

 

 

「どうぞ入って」

 

「48層にこんなプレイヤーホームあったんだな。いくらぐらいしたんだ?やっぱ200万とかしたんじゃないか?」

 

「もっと上よ、300万よ300万」

 

「さ、さ、300万!?マジか…」

 

「そんな驚くことないじゃない。毎日上で戦闘してるあんたならあたしなんかより持ってるんでしょ」

 

 

今日1日の冒険を通してリュウキのオーバーリアクションならぬ大袈裟な反応にすっかり適応したリズベットは、きっぱりそう返す。

お気に入りの揺り椅子に座りリュウキも用意した他の椅子に座ったのを認めるとそっと一息吐き気持ちを整理し、ある決心をするとこう切り出す。

 

 

「あ、あのさ…さっきのあれ、なんだったの?」

 

「あれって、どれのことだよ?ミラーモンスターのことか?」

 

「それもそうだけどあんたの姿よ。あの騎士(ナイト)みたいなあれはなんだったのよ」

 

「あー、そっかそっちも説明しなきゃなんねえんだ…」

 

 

困り果てたように額を抑え揺り椅子に背を預け凭れるリュウキ。

だが説明しなければならないことだと腹をくくり、だらけた姿勢を止めリズベットに語る。

 

 

「お前も見たと思うけどSAOのモンスターには通常モンスターにはない能力を持つ奴らがいる。鏡面…鏡の中を移動する特性が」

 

「鏡の中?でも、確かあのクラゲが出てきた砂浜に鏡なんかなかったわよ」

 

「鏡面っても、鏡だけとは限らない。水面だったり金属の表面だったり、反射するものなら何でもいいんだ。それがあればミラーワールド…鏡の世界からモンスターが出てくる」

 

「ミラー…ワールド」

 

 

聞き慣れない単語を柔らかい唇を動かして復唱するリズベットにリュウキは頷き返し、また自分の知る知識を伝える。

 

 

「そのミラーワールドから出てくる特殊なモンスターを俺たち(・ ・ ・)はミラーモンスター。そう呼んでる」

 

「じゃあ海面から出てきたってことは、あのドラゴンのモンスターもミラーモンスターなのね。でもおかしくない?」

 

「どこがだよ」

 

「だってドラゴンはあんたの味方してたでしょ?あんたがビーストテイマーだってんなら話は別だけど、もし違うなら同じミラーモンスターなのにおかしくない?」

 

 

SAOのモンスターは完成されたAIに沿って行動しており基本的にはプレイヤーに敵対するのが、大半を占めている。

テイミングに成功したモンスターならプレイヤーに協力する場合もあるものの、それはビーストテイマーの使い魔として認識され常にプレイヤーの傍に出現し続けるはず。

ドラグレッダーはそのどちらにも属さず、プレイヤーに力を貸し戦闘時以外は姿を見せないSAO史上類をみないモンスターだ。

 

 

「俺がミラーライダーだからだよ。ミラーライダーはミラーモンスターと契約して協力関係になって、プレイヤーを襲うミラーモンスターを倒すんだ。」

 

「そんなの聞いたこともない…まさかそれってユニークスキル!?」

 

「最初は俺も思ったけどユニークスキルとは違う。他にもミラーライダーになれるプレイヤーを俺は知ってる……それも2人」

 

 

ある1人のプレイヤーしか持たないスキルを現すユニークスキルではないかと、食い付き気味に問うリズベット。

顔にほんの一瞬重く暗い陰りが宿ったリュウキだが、すぐにどうともない手つきでメニュー画面を弄る。

竜の意匠のカードデッキを現出させ、そこからドラグレッダーの絵柄が描かれたカードを抜きリズベットに見せる。

 

 

「これが契約を示すカード。あるイベントクエストでたまたまカードデッキを手に入れた俺はドラグレッダーと契約したんだ。それで俺はミラーライダーになった」

 

「そんな凄い力があるんならあんな苦労してまで水晶なんていらないんじゃないの?」

 

「あんま便利なもんでもなくてさ、一度に使えるカードにも限界があるから下手に使えないし…それより問題はステータスにあるんだ」

 

 

そう言うとステータス画面を可視可モードに切り替えリズベットへとスライドさせ、見るように促す。

プレイヤーにとってスキルと同等の生命線を、易々と他人に見せていいのだろうか。

リズベットは不安混じりに目を通す。

レベル、体力、装備品、筋力値、敏捷値、などどれも生死を別つ重大要素である。

 

 

「何よ…このステータス。体力も筋力値も敏捷値も全部レベルに合ってない…」

 

 

リズベットは寝耳に水という表現が似合う驚きようのまま、リュウキのステータスに再度確認する。

高いレベルに反して、他のステータスが著しく低い。

まるで延々と一定ラインから動く気配のないかのように

 

 

「ドラグレッダーと契約してからだ。こんなステータスになったのは、たぶんミラーライダーになった代償みたいなもんなんだろうな」

 

 

本人はあっけらかんと言いのけているが実際問題、かなりの痛手のはすだ。

スキル制のMMOならまだしもSAOは完全レベル、ステータス主義。

未知のスキル『ミラーライダー』の恩恵があるとはいえ、ステータスだけ見ればカードデッキがなければそこいらの中層プレイヤー複数人に勝てるのかどうかすら怪しいところ。

 

 

「ま、レベル上がれば体力だけは上がるみたいだしあんま気にしてないんだけどな 。水晶は他の奴に使ってくれよ」

 

「な、何言い出すのよ?この水晶あんたとあたしでゲットしたんじゃない」

 

「だからこそだよ。リズベットならそれで良い装備を作れるだろ、その水晶は俺じゃなくてもっと他の奴にやった方がいいだろ?」

 

 

苦労して得た素材を自分から棒に振ったリュウキは椅子から立ち上がり、出入り口より帰路につこうとする。

リズベットとしてはこんな結果で納得できるはずがない。

彼の言ったように他のプレイヤーに使うのも悪くはないのだ。しかしそれでリズベットが満足するかは別だ。

 

 

「じゃあまたな-うぐっ!? 」

 

「またなじゃないでしょまたなじゃ!」

 

「締まる!リズベット、締まるって!」

 

 

外に出かけたリュウキの首根っこをリズベットが掴み半強制的に引き戻す。

意思に反した方向に無理矢理引き寄せられたリュウキは息が詰まったまま仰向けに倒れ込む。

 

 

「何すんだよリズベット!?」

 

「片手剣…だったわよね。決めた、あんたが何と言おうとあたし、あんたの片手剣作るから。少しそこで待ってなさい」

 

 

しばらくその言葉の真意を図りかねた。

フリーズしたコンピューターのように全ての動作の停止に追い込まれたリュウキは硬直から抜け出すと出入り口を後ろ手で閉め、リズベットに聞き返す。

 

 

「どうしてそうなるんだよ。俺のことはいいって言っただろ」

 

「あんたはよくてもあたしが納得いかないの。あんたと一緒に取った水晶を見ず知らずプレイヤーに使うなんて鍛冶屋の名が泣くわ」

 

 

それに、とリズベットは小悪魔的微笑を得意気にアピールし付け加える

 

 

「水晶はあたしが持ってんだからどう使おうがあたしの勝手よね」

 

「……わかったよ、好きにしろよ」

 

「あんたもOKってことでいいわね?」

 

「そうだよそれでいいよ」

 

 

もう何をどう言っても、徒労に終わると悟ったリュウキはリズベットの要求を飲む。

彼女の言い分もわからなくはなかったし、やはりあれ程のレアリティアイテムだ。

ゲームプレイヤーとしてはSAOが初心者だがそれなりに矜持はある。

そしてそれはリズベットはリズベットで鍛冶屋としてのプロ意識もあるだろう。

 

 

「でもやるからにはちゃんとやってくれよな。ちょっとは期待してやっから」

 

「そういう偉そうな態度でいられるのも今の内よ。ぎゃふんと言わせてやるんだから」

 

「…ぎゃ…ふん?」

 

「今言わなくていいのよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久々に、いいやSAOに閉じ込められて初めて心の奥底から楽しいと実感した。

初対面の人間と冒険し、数々の困難に見舞われながらも乗り越え金属(たからもの)を入手し、共通の友人をきっかけにいつの間にか友情が芽生え、そして今はそれ以上の感情を抱きつつある。

今回の件はリズベットにとって牢獄でしかなかったこの仮想世界を、もうひとつの現実と認めさせた。

 

 

 

 

「始めるわよ。武器は片手剣でいいのね?」

 

「おう、頼むわ」

 

 

愛用のハンマーを担ぎ、武器作成に必要なメニュー行程を設定しながらリュウキに確認をするリズベット。

いよいよ武器作成に取りかかるのだが何分『アインスサファイア』の金属ランクは高くリズベット自身初めて叩く代物。

もしその高ランクに見合うだけの剣にならなかったら…不安が脳裏を過るもリズベットはハンマーを水晶に打ちつけ、かき消すように振るう。

 

-もうあれこれ考えるのはもうやめた

ただ素直な自分の気持ちを乗せて振るうだけだ。

鍛冶屋の誇りに賭けて成功させよう

使い手が不便なく振るえるだけの武器にしよう。

そしてリズベットの…篠崎梨香の魂を込めて完成させる。

 

カキィィン

極めて高く力強い金属音が発生する。

これで終わりとばかりにリズベットがハンマーを身近な作業台に置いた途端、『アインスサファイア』が蒼き輝きを放って作業部屋を埋め尽くす。

光が収束すると『アインスサファイア』は輝かしい光沢を保った剣となり、高レア武器の風格に見合ったオーラを纏わせていた。

 

 

「できたのか?」

 

「うん、銘は『エングレイブローカス』。英語で軌跡を刻むって意味…あたしも聞いたことないからまだ情報屋のブックにない代物かも」

 

「こんな剣作れるなんて、リズベットお前スゲエよ」

 

「全然、あたしなんてまだまだよ。」

 

「そんなことないって、これはリズベットにしか作れない。俺が保証する」

 

 

根拠なく言っているのは間違いない。リズベットはリュウキの言葉から薄々見抜いていた。

武器作成と言ってもただハンマーを金属にぶつけるだけのスキルさえ上げてれば、誰がやろうがさほど大差ない作業だ。

ゲームなのだからそれが当然なのだ。

けれどもリュウキにとってはその部分は関係ない些細なことなのだろう。

自分のために作ってくれた。

その事実だけで彼は満足なのだろう。

 

 

「ほんとにサンキューなリズベット。金、 いくらだ?結構稼いでっからそこそこ払えるぞ」

 

「…お金は、いい」

「いいって、どうしてだよ?」

 

「それは…」

 

 

リズベットの心音が高鳴り心臓のリズムが速くなる。

言うなら今しかない。

真面目な中学生であった篠崎梨香の人生初めての…

 

 

「……って…」

 

「ん?…何だよ、よく聞こえねえよ。もっとはっきり言ってくんねえか」

 

「毎日…ここにメンテに来て」

 

「もちろん!むしろこっちが頼みたいぐらいだって!」

 

 

リズベットの申し出にリュウキは快諾し何度も首を頷かせる。

言葉を表面のまま捉えているために、隠れたリズベットの思いには微塵も気付いていないようだ。

 

 

「はあ…やっぱり、気付いてないか」

 

「気付いてないって、何にだよ」

 

「何でもない。別に」

 

「おかしな奴だなお前、まあとにかくこれからよろしくなリズベット」

 

「…リズでいいわよリズで。よろしく、リュウキ」

 

 

 

 

 

 

 

今はこれでもいい。

でもいずれは必ず打ち明けよう。高鳴るこの胸の思いを…人生で初めて恋した人に

 

 

 

 

 

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