ソードアート・オンライン Desire Of DragonKnight 作:光陽03
連続して書くとあまりにも長くなってしまったので分割しました。
そしてタイトル通りようやく今回からライダー同士のバトルが勃発しますよ
アインクラッド攻略も中盤に差し掛かり、プレイヤーの技量も初期とは見違える程にレベルアップしている。
そんなプレイヤーたちが一同に会す第59層ボス攻略会議。
収集した情報を元に戦法を組み立て犠牲を最小限に抑えるのが主目的であるこの会議なのだが、今回ばかりはその戦法に賛否両論の声が上がった。
今回の指揮官的立場であり作戦立案者でもある、血盟騎士団通称kob副団長アスナがNPCを囮に利用し、ボスを撃破するという作戦を立案したのだ。
-システムに組み込まれた存在のNPCを盾代わりにする。
プレイヤーのリスクを軽減する意味でもこの作戦には同意する者が多数であった。
ただ1人を除いて
「はあ…」
「相変わらずお前と副団長さんは仲がわりぃな」
そのたった1人、キリトにエギルが攻略会議終了後に声をかけた。
呼び止められたキリトは飄々とした仕草で彼に言葉を返す。
「相性が合わないんだろ」
「そうでもないと思うがな、俺から見れば2人とも仲睦まじくように思えるが」
民族が放牧するようなイメージを沸かせる草原の茂る大地を踏みしめ、キリトとエギルの会話に男がそう言って割って入る。
闇色の軍服調のスーツ、その襟に嵌められている銀の天馬が縁取られたギルドバッジ。
キリトもエギルも視界に入った男の全容を両目を凝らして見ると大手を振るとまではいかずも、歓迎の眼差しを送った。
「ライア、久しぶりだな。こないだの54層のボス戦以来か」
「大体それぐらいからだな。キリトもエギルも変わりない様で幸いだ」
「お前も元気そうでよかったよ、リュウキは一緒じゃないのか?攻略会議にも参加してなかったみたいだけど」
「残念ながら一緒じゃない。度々会ってはいるが、共に戦うことはあってもパーティーを組むことはこの先ないだろう」
「喧嘩別れでもしたのか?」
「そうじゃない。ただそれぞれ目指す道が別れた…それだけの話さ」
-く、空気が重たい
エギルの質問を皮切りに彼らを取り巻く空間に気まずい空気が漂う。
どうにか会話を続行させようとキリトが焦りに表情を乱しつつも、言葉を紡ぐ。
「そういやライア、さっきのあれどういう意味だ?」
「あれとは…どれのことだ?」
「キリトとアスナのことをお前が仲睦まじいって言ったことじゃないか?」
脳内に疑問符を浮かべるライアにエギルが助言を与えるとライアはああ、と思い出したように呟きを漏らす。
そして粒程の抑揚を見せない声色で先の続きを喋り始めた。
「別段嫌味の類いで言った訳ではないんだが気を悪くしたのならすまない」
「謝ることじゃないって、俺はただ単にどこがそう思ったのか気になっただけなんだ。俺とアスナは仲睦まじいって程でもないぜ?」
「確かにな。俺もさほど会話してないからはっきりと断言はできんが、最近じゃ会う度に言い争ってるところしか見ないぞ」
「互いに言いたいことを遠慮なく言える…それができるだけ充分仲が良いと言えないか?」
悪意のない純粋な心情を胸にライアが語る内容に、キリトとエギルは同時に顔を見合せ首を傾げる。
わかるような、わからないような、どちらとも言い難い顔だ。
「なんて言うか…」
「よくわからんな」
「何であれわかりあえるということだ、彼女も悪い人間ではないしな。彼女がどんな道を歩むのか、それはキリト次第で変わる」
「俺、次第?」
「ああ。お前がどう行動するかでアスナの…彼女の運命は変わる」
「運命って急に壮大だな。また占いか?」
「そうだ。俺の占いは外れない」
☆
この時キリトはライアの言葉を大袈裟だと一笑に伏した。
あの攻略の鬼と畏敬の念を込められるまでに変貌を遂げたアスナと根っからのゲーマーであり、ビーターの自分が通じあえる。
冗談にしてはなかなか優秀だ。そのぐらいにしか思っていなかった。が、
「あなたたち、こんなところで何をしてるの。攻略組の皆が迷宮区に挑んでいるのにあなたたちはのうのうと寝ているの」
さっそく副団長様のおでましとなった。しかもご立腹の様子だ。
他人事のようにキリトは街の草花の上で、仰向けになりながら半目で両手を腰に当てている彼女に目を向ける。
「今日はアインクラッドで最高の季節で最高の気温設定だ。こんな日に迷宮区に潜るなんて勿体ないだろ?」
我ながらさぞ相手を小馬鹿にしたような言い分だろう、とキリトは自負していたが訂正するつもりはなかった。
それにはいそうですかと素直にアスナに従ってやる義務もなければ義理も今となってはない。
死にたがっていた新米ソロプレイヤーから、トップギルド血盟騎士団副団長の地位まで登り詰めたアスナには。
過去を懐かしんでいたキリトはふとアスナの発言に眉を動かす。
「待てよ、あなた…たちってどういう意味だよ」
「…後ろ、見てごらんなさい」
「後ろって。あ、ああ~」
腰に当てていた手を今度は胸の前で腕組みをし、ジト目で睨むアスナに促されたキリトがゆったりと振り返る。
そこには自分と同じく足を交差させて熟睡しているライアがいた。
「ソロのあなたはともかくどうしてフェニックス・ウィングスの副リーダーの彼までこうなのかしら」
フェニックス・ウィングス、そのギルドの名はキリトも嫌という程聞き慣れている。
血盟騎士団と同等の実力者揃いの攻略ギルド。そのトップギルドの頂点に立つラサースはアスナが所属する、血盟騎士団団長ヒースクリフとアインクラッドで唯一対等に会話できる存在として有名だ。
「別によくないか?」
「わかってるの?こうしている間も私たちの現実での時間が失われているのよ」
「でも今俺たちが生きているのはこの世界だ」
キリトがそう言い切るとアスナは二の句を告げず押し黙る。
その様子を尻目にキリトは睡眠欲に従順になりまた深い眠りについた。
「…ん……もう夕暮れ時か。今日は少し寝過ぎてしまった」
「よく熟睡してたぞライア、よっぽど疲れてたんだな」
ライアが目を開いた時には太陽は既に沈みかけて黄昏の空はやや黒みががっていた。
隣で胡座をかくキリトに未だに重たい瞼をこすりつつもライアは返事を返す。
「ここのところは特にな。ところで何故、アスナまでいるんだ?」
「さあな、本人に直接聞いてみたらどうだ。ほら丁度目が覚めたみたいだしな」
視線を落とした先には寝息を立てて眠るアスナ。
容姿端麗な顔立ちと気品が童話眠り姫を連想させ、夕焼けの光が更に神秘性を引き立てていた。
「…っくしゅん、うん…」
上半身を起こしたはいいものの寝惚けているのか焦点が定まっていない。
瞬きを数度繰り返し意識がまどろみから抜け出したのかアスナは、己の状況を瞬時に理解し跳び跳ねるかの勢いで立つ。
流れ作業の如く愛剣の柄本に手をかけ振るわんとするのをキリトが懸命にアスナの理性に呼び掛ける。
「待て待て!」
「さすがにそれは危ないぞ」
「……はん1回……」
「「うん?」」
「ご飯1回!それでチャラ!いい!」
「「あ、ああ」」
羞恥に顔を真っ赤に染めて、一気に捲し立てるアスナにキリトもライアも黙って頷くしかなかった。
アスナに連れられて彼らが入店したのは第57層マーテンのNPCレストラン。
席に着くや否や彼らは、そこそこ名の知れた面々であるがために周りの注目に晒されてしまった。
だがそんなことは日常茶飯事のアスナとライア、スルースキルに関しては一級品のキリトは構わず運ばれた料理に手をつける。
「…まあ、その何て言うか、今日はありがとね。ガードしてくれて」
「あぁ、いや」
「お互いに何もなくて幸いだ」
「そうね、街の中は圏内だから誰かに攻撃されたりPKされることなんてないけど寝てる時は別だから」
そう言ってアスナはティーカップを口に運ぶが、その仕草が礼儀作法に疎い者が見ても実に板についた動きだ。
リアルではもしやいいとこのお嬢様ではないか、キリトがそう評し続きをアスナに代わって代弁する。
「デュエルを利用した睡眠PKだな」
SAOにおいて圏内は安全エリアであり、その中でならHPが減らないために何があっても問題ないと言われてきた。
しかし近頃はその圏内における安全性を揺るがすケースが頻発している。
それこそが睡眠PK。簡単に言うとまず無防備な睡眠中の標的を見つけ、その指を操りデュエル承認ボタンを押し完全決着モードを選択。
この時点でデュエル開始となり後は標的のHPを全損させればそれでお仕舞い。
狙われた相手は成す術もなくこのゲームから退場となるのだ。
「それだけでもかなりの犠牲者が出てるらしいの。うちのギルドでもこれ以上の犠牲者を減らすために対処法を考えてるんだけど、そうしている間にも犠牲者はどんどん増える一方で…」
「レッドプレイヤー、特に犯罪者ギルドは狡猾だからな。これからも…もしかしたら既に新たな手口を見つけて実行に移している可能性もある」
「ある意味ボスモンスターよりも凶悪な奴らだよ、あいつらは」
トップギルド副団長のアスナとライアは沈痛な面持ちでアインクラッドの闇を語り、キリトの総括に内心同意する。
実力が高いが規則性のあるモンスターよりも、腹に一物抱えているプレイヤーが末恐ろしいという彼の考察はまさにVRMMOの負を表しているといえよう。
「-キャアアアアアア!!」
「な、何!?」
「悲鳴…外からだ」
「行ってみよう!」
平和な街並みに轟く悲鳴に彼らは店を抜け出し人垣を掻き分けて現場へと行き着いた。
重厚な甲冑に体を隠したプレイヤーが建物にぶら下がっている。
それ自体は一見問題ないように見えるが違う。そのプレイヤーの胸を武器が貫通し、建物の壁に突き刺さっていたからだ。
「早く抜け!」
事態の緊迫さをいち早く見抜いたキリトが武器を抜くように警告を促す。
プレイヤーもその指示を信じ凶器を自らの身から外そうとするが、自力では厳しいようで悪戦苦闘していた。
誰もが不安な視線を注ぐ中最悪の結末が訪れた。
到頭プレイヤーがポリゴンと化して破片が宙に舞ったのだ。
「ウィナー表示を探すんだ!デュエルで敗れたなら勝った奴に勝利画面が出るはずだ!」
キリトが周囲に呼び掛け自分も目を凝らして探すが一向に見つからない。
ならば建物の中かと見当付けたアスナと共にキリトは階段を全速力で駆け上がり、まだ付近の空間を見渡しているライアを耳鳴りが襲う。
「っ!?まさか」
プレイヤーが散った建物の数歩程離れた飲食店の窓ガラスに、サイの怪物がこちらを見つめているのが姿が映り込む。
そのモンスターを発見したライアは人だかりを避けて裏道に侵入すると、その先はオブジェクトとして設定されたと思われる鏡面が砕けた姿鏡と木箱に身を預けるように座るプレイヤーがいた。
「へえ~誰かと思ったら随分懐かしい顔じゃん。ひっさしぶりだな」
「-ガイ、お前と長々と話し込むつもりはない」
「つれないな昔の仲間にその言い方はないんじゃない」
ガイは気さくというより軽々しい態度でライアの肩に手を回して、サイの顔に似た紋章のカードデッキを見せびらかす。
「…単刀直入に言う。今の騒動、あれはお前たちの仕業か」
「どうかな~違うかもしれないしそうかもしれないしどっちだろうね~」
「はぐらかすな、言ったはずだお前と長話をする気はないと」
徹頭徹尾突き放す姿勢を崩さないライア。
やれやれと言いたげにガイは両手を挙げ再度カードデッキをライアの眼前で煽るように左右に揺らす。
「どうしても聞きたいなら力ずくでやってみたら?ミラーワールドのメタルゲラスが見えたんならライダーになったんだろ、お前も」
「そうか、そうだな。ならそうしようか」
アイテム画面から紅色のエイの意匠がなされたカードデッキを呼び出し、ライアは周囲に迷惑をかけまいとフィールドに出歩く。
しかしその行為を中断させる言葉をガイは投げ掛けた。
「どうせやり合うならミラーワールドでやろうよ。いちいちフィールド出んの面倒臭いし、制限時間があるけど5分ももたないでしょ」
「戦いは気乗りしないがお前とリュウキを接触させるわけにはいかない。俺がこの手で黒鉄宮に送ってやる」
それぞれ姿鏡の前に並び立ちカードデッキを翳す。
ガイは右腕を垂直に立てるように、ライアは右手の小指と薬指を曲げると同じタイミングでカードデッキをベルトに装填した。
「変身!」
「変身」
2人の体を軸に複数の虚像が重なり戦士へと変わる。
ガイは1本角で黒い鎧を纏った戦士に、ライアは弁髪が特徴的な紅色の戦士となり顔を見合わせた。
そして鏡面へと吸い込まれるように彼らは別世界へと消え、そこは風景は変わらないものの他のプレイヤーの姿も囁きもない何一つない空間。
戦うにはもってこいの場所だ。
「んじゃあさっそくやろうか」
『Strike Vent』
「ああ」
『Swing Vent』
刺突型武器メタルホーンを装着するガイと鞭型武器エビルウィップを装備するライア、両者共に石床を蹴って走り出し己の得物を敵の得物にぶつけた。