ソードアート・オンライン Desire Of DragonKnight 作:光陽03
今回からまた再開させたいと思いますので何卒よろしくお願いいたします。
桃色の鞭が実在するはずのない電脳世界の空気を裂き一角獣の角が石床を抉り、破片が活火山が噴火したように広範囲に拡散し飛び散る。
ガイとライアの決闘は拮抗状態となり双方とも目立った外傷ももらっていない。
胸部を目標に定められたメタルホーンの刺突をライアはステップを踏んで逃げ、同じ一動作でカードを引き抜き左手に装備している盾型武器エビルバイザーに挿入。
『Advent』
「おっと、それはさせないよ」
紅色に染まった体躯のエイ種契約モンスター『エビルダイバー』がライアの隣に出現し、敵対するガイ目掛けて進行を開始する。
接近するモンスターを前にしてもガイは動じず己もまたカードを左肩に装填した。
『Confine Vent』
音声入力が成された瞬間エビルダイバーはガイを突き飛ばすことなく消滅し、攻撃は失敗に終わってしまう。
ガイが使用したのはコンファインベント、あらゆるカードを無効にし相手の手数を減らせることを主目的とした特殊な効果を秘めたカードだ。
ライダーカードの種類は契約したモンスターによって著しく変わる。
ドラグセイバーやエビルウィップのような契約モンスターの部位をモチーフにした武器を呼び出すカードやアドベントやファイナルベントのように契約モンスターそのものの協力を得て攻撃するカードもある中で、コンファインベントのようなカードは極めて異質でタチが悪い。
ドラグセイバーやナスティーベントは契約モンスターの全容さえ分かれば、どのような効果があるのかまだ予想がつきそうなものだが、コンファインベントは実質契約モンスターとは関連性がないようなカード。
その異質なカード1枚があるかないかで命運を分けるのが、ライダー同士の戦いの恐ろしいところ。
「ざーんねーん。これで1枚無駄にしたね」
「……初めて会った時からそうだなお前は」
「…なにが?」
「戦いを、SAOをゲームとして楽しんでいる。生死の境界を分ける戦いをただの遊び感覚でしている」
ライアはエビルウィップの握り手を下ろし正面を見据えて言った。
哀れみと悲しみを帯びた声で明確な意思を持って伝えられた言葉をガイは、小馬鹿にするように一笑に伏す。
「今更何言ってんだよ、このゲームはSAOはそういうゲームなんだよ、いかに理不尽なレベル差で相手を蹂躙するか…それがデスゲームの本質なんだよ。殺りたくないなら今すぐ退場してくんない?ウザイからさ」
「やはりお前とは和解できそうにない…それが本当に残念でならない」
何が本質だ。現実とは異なるオリジナリティーに満ちた世界観を楽しむ、それこそが本質であり数多くのファンを魅了する娯楽機器。
それがゲームのはずだ。こんなふざけた殺し合いを、SAOという名の死の舞台をゲームとは死んでも認めない。
「今終わらせる。お前との因縁を…ここでっ!」
『Final Vent』
物静かな言動のままファイナルベントのカードを抜き出し差し込むライア。
飛来するエビルダイバーの背に全体重を乗せサーフィンの要領で突撃する彼の瞳の奥には、仮面越しからでも感じ取れる殺意が宿っていた。
直撃すればまず死に至る大技。だがガイはまたしてもたじろぐことなくカードを使い待ち構える。
「甘い甘い、よっと」
『Confine Vent』
「もう1枚!?しまった!」
「馬鹿だな、カードが1つとは限らないのに」
技を無効化されエビルダイバーも消されたせいで、支えを失い倒れ込んだライアを蹴りあげたガイはそう皮肉ると別れを告げる。
「もう飽きたから…死ねよ」
『Final Vent』
己の契約モンスター『メタルゲラス』を召喚しその肩に足裏を合わせ、超速度で距離を詰めにかかるガイに対しライアは丸腰。
しかも余りのカードでは打開できる効果はなくあたりどころが悪かったのか、立ち上がる余力も失われていた。
文字通りの絶対絶命の危機、しかしそこに遅れて助太刀に現れた者がいた。
「はあっ!」
割り込んだ人物はガイの側面に助走を加えた飛び蹴りをぶちかまし、ファイナルベントの発動を阻止した。
予期せぬ奇襲にあったガイはメタルゲラスごと転倒しそれを確認した乱入者は、満身創痍の身のライアへと駆け寄る。
「大丈夫かライア!しっかりしろ!」
「何故ここに来た…お前が何故ここにいる…」
「邪魔すんなよ。今いいとこだったのに」
「ガイお前、まだこんなことやってんのか!」
「はあ?何の話?つーか誰だよお前?」
叫ぶ龍騎にガイはせっかくの機を妨害され苛立ちを隠せずにいる。
せっかくの機を逃したのだ。その苛立ちは微量ではない。
「ま、どっちでもいいけど。どうせすぐ死ぬんだから」
気を持ち直したガイのメタルホーンがドラグセイバーと交錯し閃光を撒き散らす。
龍騎はドラグセイバーを支える両の腕に一層力を込めるがガイは一歩も退かず、びくともしない。
むしろ両腕を押し上げれ守りの薄くなった胸に振動と痛覚が走り、積み重ねられた木箱を背中で押し潰す。
「いッ~あんのやろう。」
『Strike Vent』
散在した木箱の欠片を乱雑に地面へ投げ捨てた龍騎がドラグクローへと装備を変える。
メタルホーンを携えるガイに照準を定め真後ろに降り立ったドラグレッダーと同時に火炎を放出し、その反動で若干足を引き摺り下がった。
「何!?」
近距離型の装備しかないと踏んでいた相手からの思わぬ反撃をガイは咄嗟にメタルホーンで防御するも、威力は絶大なもので積み立てられた木箱に覆い被さるように吹っ飛ばされてしまった。
「よしっ、どうだ!」
「図に乗るなよお前っ…お前から先に殺してやるよ 」
「いい加減にしろ!」
ガイの一言に龍騎が憤慨しドラグセイバーを握る握力を強める。
明らかに怒気を表した声でガイを責め立てた。
「そうやってお前は殺すとか簡単に言ったりやろうとするけどな、この世界で俺たちが殺し合いしたって何の意味ないだろ!」
「意味なんてさあ、自分が楽しければそれで充分なんだよ、そういう物だろ?ゲームはさ」
「お前…!まだそんなこと!」
「よせ…無駄だ。奴に何を言っても通じない」
龍騎とライア、そしてガイは物思いの言葉を口々に投げ交わし睨み合いを続ける。
そんな中ガイは冷淡な思考を巡らせ戦況を見定めて見定めていた。
(どうしようかな…)
ライアはともかく途中から割り込んできたあの口煩い赤いのはまだカードを数枚残しているだろう。
カードも大半を使い切り、数でも戦力的に不利な状況に自分は立たされている。
ならば取るべき最善の行動は限られていた。
「冷めちゃったし今回は見逃してやるよ」
「何、待てよ!」
メタルホーンをぶら下げ現実世界へ通じる道の役目を担っているガラスに触れようとするガイを龍騎が咎める。
彼を諌めたのは意外にもライアであった。
「今奴を深追いするな、俺もお前もミラーワールドの活動時間が限界に近い」
ライアに指摘されて見ると彼の体も自分の体も至るところが粉粒と化しており、進行すればいずれ全身が粒子になってしまうだろう。
この現象こそミラーワールドの活動限界時間を報せる粒子化だ。
ミラーライダーにはミラーワールドで活動できる時間に制限が儲けられ、その制限時間は5分と短い。
それを超過してしまえばそのミラーライダーは全身を粒子化し消滅してしまう。
「くそっ、あいつ…何でまだあんなこと」
「その話は後だ。現実に戻るのが先だ」
「あ、ああ」
もう姿を消してしまったガイに龍騎が俯いて一言呟くも、ライアの現実的な発言に意識を引き戻される。
鏡面に触れ互いに現実世界へと移動するとライダーとしての姿が鏡が砕けたような澄んだ音を立てて解除され元の姿に戻る。
左右反対の景色から帰還した2人は真っ先にガイを求めて路地を出た。
だがそこにガイはいなかった。
「いない…あいつどこに行った…」
「まだそう遠くには行っていないはずだ…それより、リュウキ。ガイのことはもう諦めろ」
ライアの言葉にリュウキは金槌で打ちのめされたのに等しい衝撃をくらい、絶句する間もなく彼にその理由を問いつめた。
「なん、お前どうしてそんなこと言うんだよ。あいつだってもしかしたらまだ俺たちの」
「俺たちの仲間だった頃のあいつはいない。いや元々存在すらしていなかったんだ、最初からあいつは隠していたんだ自分の本当の姿を」
「けどあの時俺たちと一緒にいた時のことをまだ残ってるかもしれないんだぞ」
「それも推測の域でしかない。お前もそろそろ現実を見ろ、それができなければ今度こそお前はあいつに殺されるぞ」
迷いのない目付きでリュウキを射止めるライア。
リュウキとは異なり彼の中ではガイという存在を敵と割りきっているのだろう。
そんな彼の忠告を一心に投げかけられたリュウキはやりきれなさからか、目線を背け握り拳に筋が立ち込める。
「やっと見つけた…ライアくんどこにいるのよ…」
「アスナ、そうだ…すまないな迷惑をかけてしまったな」
アスナの顔でライアはつい先程までガイと戦うことになった経緯が記憶に甦る。
他意はないものの結果的には彼女からすればライアの行為無断で離れたとみなされただろうと推察し、すぐに謝罪の意を口にした。
「あれ?あなたは、確かソロのリュウキくんだったけ」
「あ…久しぶりだなアスナ。元気そうでよかった」
「ところでアスナ、さっきのプレイヤーの件なんだがどうだった?」
「何かあったのか?」
「殺人、PKだ。デュエルではない…白昼堂々それも圏内でな」
「圏内、嘘だろ!?そんなのありえないだろ!だって圏内じゃ全損ルールのデュエル以外でPKは成り立たないんだろ!?」
「残念だけど本当よ。そのことについてなんだけどキリトくんが犯人の手掛かりと思われる成果を見つけたの」
アスナはこれまでキリトと共に現場で得た収穫をライアとついでにリュウキに話す。
消えたプレイヤーには直前までヨルコなる女性プレイヤーとおり、彼女とはぐれた間にあのような惨劇に見舞われたこと。
カインズとヨルコは同じギルドの仲間同士であったこと。
包み隠さず全てを教えてくれた。
「それでそのキリトは?」
「先に51層のエギルさんのお店に向かったわ。ライアくんと、リュウキくんも来てくれないかしら」
「ああ。いいよ」
アスナの誘いを断る理由が見当たらなかった。
唯一の安全エリアである圏内の意味がなくなったとすればこれからもっとたくさんのプレイヤーが同じ目にあうかもしれない。
そうならないよう真相を解き明かすためにも彼らと同行した方がいいだろう。
リュウキを加えた彼らはエギルの店に出向く。
こじんまりとした店内を勝手知ったる足踏みで奥の階段を上がると、キリトとエギルが彼らを出迎えてくれた。
リュウキも来るとアスナが事前にメッセージで連絡していたために、無駄な時間を浪費せずに済んだ。
「早速本題に入ろう。まずこの事件の流れを整理してみよう、俺たちは建物の外にロープで首を吊るされているプレイヤー…カインズさんを見つけた。そしてそのプレイヤーはすぐ…死んだ」
「それで私たちは消えたカインズさんがデュエルで負けた可能性を疑ってウィナー表示が出てるプレイヤーを探したんだけど」
「そんなプレイヤーは近くにはいなく消えたカインズというプレイヤーを殺した武具だけが残された…今わかっているのはこのぐらいだな」
事件のあらましを振り返りつつ唯一目撃した三人が、口を動かし持つ限りの思考を巡らす。
その端で彼らによる説明を聞いたリュウキはエギルの手中にある闇夜の不気味さを象徴するような彩りをした、漆黒の槍に目を引かれた。
「これがその凶器ってわけか…エギル、なんかわかるか?鑑定スキル持ってんだろ商売人なんだし」
「今やってる……ロープはNPCショップで売ってる汎用品だランクはそう高くない、耐久度は半分近く減ってるな。それで槍の方なんだが、こいつはPCメイドだな」
「それなら作った奴の名前がわからないか?」
リュウキが急かすように顔をエギルの手元のメニュー画面に近付かせた。
PCメイド、すなわちプレイヤーメイド。
その言葉通りNPCショップで販売されてるようなありふれた物品ではなく、鍛冶スキルを上げたプレイヤーの手によって精製されたものを意味している。
リズベットによって精製されリュウキの愛剣『エングレイブローカス』と同類の代物。
それならばかなり限定された情報が得られるはずだ。
「グリムロック…聞いたことがねえな。少なくとも一線級の鍛冶師じゃねえな」
「固有名は?」
「ギルティーソーン、罪のイバラってことか」
エギルから武器の製作者と固有名を聞き出したキリトはちょいとばかり、彼から槍をふんだくる。
誰もが集める視線に気づいているはずのキリトは一瞬の躊躇いもなく穂先を自らの掌に突き刺す。
しかし攻略不可の障壁によって阻まれ槍が彼の手を貫通する光景は防がれたようだ。
「何もないな…やっぱ武器にトリックがあるんじゃないんだな」
「何やってんだお前はああ!」
「何してるのあなた!」
リュウキとアスナが秒速に至る神速を発揮してキリトにそれぞれ片側ずつ接近し、今しがたの彼の行為を罵倒する。
「実際にこの武器で死んだ人がいるのよ!なのにどうしてあんな真似した!?」
「いや圏内で本当に刺さるか実際にやってみたら分かるかと思って」
「それならせめて一言言えよ!いきなりあんなの目の前でやられたこっちの身にもなれよ馬鹿!」
アスナもリュウキに責め立てられ困惑の色を浮かべるキリト。
その彼に笑い声でからかうライアが別の人物に火をつけた。
「ははは、リュウキに馬鹿と言われたら重症だぞキリト」
「確かにな…」
「うおい!それどういう意味だよ!」
聞き捨てならないとリュウキが反感を示すがキリトとエギルがそれに便乗する始末。
「パーティーを組んでいた時どれだけお前の無鉄砲ぶりに頭を抱えたか…」
「ボス戦の時も人の言うことをまるで聞いてないしな」
「こないだなんか俺が外してる間の店番頼んだら妙なもん買い取るわ損失が多いわ最悪だったぞ」
「だそうだ。他にも掘りかえせば出てくるんじゃないか、似たようなことが山程」
「……そんなボロクソ言うなよ……!大体俺はお前らが思ってる程…馬鹿じゃない……!」
散々な言われようにリュウキは一言そう揺るぎない自信を秘め反論し、ライアたちにいい放つ。
長年付き合いを続いているライアがならばと場にいるリュウキ以外の全員に訊ねる。
「そこまで言うなら多数決で決めようか。リュウキが馬鹿だと思う人、手を挙げてくれ」
-何だかんだ言って冗談に決まっている。
そう信じこむリュウキの期待はまんまと裏切られ、ライアが告げた途端数秒と持たずに3つの手が挙げられた。
「あ、ああ、ああああ!?」
リュウキは膝を曲げ床に両手を付き崩れ落ちるもふと数が合わないことに気付く。
見上げるとただ1人、アスナだけが手を挙げていなかったのだ。
「アスナ、お前…」
-お前だけは俺の味方なんだな。ありがとう
そう言葉にしようとしたまさに次の数秒後、アスナは申し訳なさと同感が混ざりあったような表情をしながら手を宙に挙げた。
そう、それはつまり彼女もライアたちに同意したということだ
「は……ああ……」
この世の終わりを垣間見たような絶望感に満ちた目付きで、リュウキは石化したように項垂れたまま固まる。
しかし彼をそんな有り様にした元凶はあっさり本筋に切り替えた。
「と、おふざけはこのくらいにしておいてこれからどうする?ひとまず今日のところは解散するにしても明日の段取りだけでも決めておく必要があるだろう?」
「そうね、私とキリトくんはとりあえずヨルコさんを訪ねてみようと思う。カインズさんを殺した人のヒントが得られるかもしれないし」
「だな。ライアはどうする?俺たちと一緒に行動するか?」
「いや俺は別角度からこの件を探ってみよう。少し思いあたるふしがある」
そう言い残しエギルの店を出たライアは、この時脳裏にある人物の面影が浮上していた。
-ガイ
あの男がこの事件に何らかの形で関わっているのは疑う余地はない。
ガイがどういう意図であの事件現場の付近にいたのか、それが解明できれば事件の真実に自ずと近づけるはずだ。
そしてその役に適任なのはガイと関係の深い自分だけ。リュウキには悪いが、彼をもう2度とガイに会わせるわけにはいかない。
自分のマイホームに帰宅しようと転移門の前まで来たところで後ろからリュウキに声をかけられ、歩みを止める。
「俺もライアと一緒に」
「駄目だ。お前はキリトたちといろ」
「あいつのことならもう大丈夫だ…もし今も人殺しをしてるならあいつは俺が止めてみせる」
「止める…か…わかった」
もしリュウキがガイを止められなければその時は自分がガイを殺す。
リュウキの手をガイの血で汚れさせるようなことがあってはならない…自分の命に替えてもそれだけは防いでみせる。