仮面ライダーWの短編の物語です。
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pixiv様、ss投稿掲示板様等にも同一の作品を載せています。
読みやすいほうでお気軽にどーぞm(_ _)m
静かな夜だった。
この世の全てが暗黒に包まれてしまったような、不吉な夜。
月齢では本日は満月。
しかし、空は厚い雲で覆われており、星どころか月すらもみえない。
風も亡く、人もまったくいない裏路地で、まるで世界に自分ひとりだけが取り残されているような錯覚に陥る。
この街はとても強い風が吹くことで有名なはずなのだが、この日は不気味なくらいに風が凪いでいた。
「ハァ、ハァ、ハァ、」
私は今、追われている。
誰に追われているのか、何故追われているのか、どこに助けを求めればいいのかすらも分からない。
何も考えがまとまらないまま、とにかく私は走る。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、」
全力疾走なんて学生のとき以来だ。
走ることを忘れた私の足は、最初の10歩程度で軋みだした。
肺は体に充分な酸素を入れることができず。
喉は焼けるように熱い。
それでも、走る。
だって、もし私が歩みを止めてしまったら。
そこが私の人生の終着点になってしまうのだから。
自分で言うのも何なのだが。
私はこの街に住む、ごくごく平凡な一般人だと思う。
平日は朝から晩まで働き、家ではテレビをみながらご飯を食べ、適当にダラダラしてようやく床に就く。
週末には友人と遊んだり誰もつかまらなかったら家で映画のDVDをみているような、どこにでもいる小市民。
特定の誰かに恨みをかったことなどないし、何か良くない犯罪に手を染めたこともない。
今日だってこんなに夜遅いのは、たまっていた会社の事務整理に思いのほか手間取ってしまったからだ。
やっとの思いで本日の仕事に決着をつけ、会社から出る。
ぱきぱきっと首を鳴らして携帯で時刻を確認する。
どうやらいつもの帰宅時間を大幅にすぎてしまったようだ。
普段なら人のいる大通りから帰るのだが、それだと電車に確実に乗り遅れてしまう。
なので、少し怖いが近道の裏路地から帰ることにした。
怖いといっても、もう何度も通っている道なので特に不安はなかった。
何てことはない。
このまま歩いて電車に乗り、帰ってシャワーを浴び、毎週楽しみにしているテレビ番組をみながらご飯を食べ、時間になったら寝る。
いつものささやかな日常の繰り返し。
何もないけれど、それでも大切だと胸をはれる、とてもかけがえのない日々。
今日だってそうなるはず。
そうなるはず、だったのだが。
(Anomalocaris!!!)
機械の電子音のような声。
この声を境に、私の人生はくるっと反転した。
「ハァ、ハァ、ハァ、」
裏路地をがむしゃらに走る。
右に曲がり、左に曲がり、また右に曲がり。
とにかく走る。
止まることは許されない。止まってしまったら、私の全てが終わってしまう。
走りすぎてもう何も感覚がない足。
満足に空気が入ってこない肺。
早鐘のように鼓動を乱打する心臓。
息なんか荒くなりすぎて、まるで盛りのついた犬のようだ。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、」
それらの一切を無視して力の限り走る。
自分は走ることしかできない機械か何かなのだと。
もし走ることを止めてしまったら自分はお払い箱なのだと。
そんなバカなことを必死で自分に言い聞かす。
しかし、その逃走劇は突然に幕を下ろされた。
路地の行き止まり。
分厚いコンクリートの壁が、突如私の前に立ちはだかった。
焦る、焦る、焦る。
出口らしきもの、自分の体をすべりこませそうな窓をさがす。
探す、探す、探す、さがす、さがす、さがす。
しかし何もない。
"■■■■ーーーー!!!"
およそ生き物の鳴き声とは思えない、悲鳴にも似た甲高い声が私の耳に突き刺さる。
「・・・・・・・。」
私はおそるおそる、たっぷり時間をかけて振り返る。
そこには、
"■■■■ーーーー!!!"
正真正銘の、化け物がいた。
無機質で大きな黒目。
エビやカニのように硬そうな甲羅。
刃物のように鋭い爪と牙。
そんな異形を持ちながら、それは人間のように二足で立っていた。
"■■■■ーーーー!!!"
その不快な声は、私から逃げるための気力と生きるための希望を根こそぎ奪い取っていく。
ぺたん。
あまりの恐怖に腰が抜けてしまった。
私はその場でヘタりこむ。
その怪人はゆっくりと私に歩み寄ってくる。
一歩、また一歩、とそいつは歩を進めてくる。
不意に私と目が合う。
「・・・・・・・。」
ああ、なんだ、と私は思う。
私はここにきて、この怪人になぜ襲われたのかようやく理由が分かったような気がした。
こいつには、理由なんか無いんだ。
ただ、たまたま目についた私を襲ってみただけ。
人が邪魔だという理由で虫を踏み潰すのと同じこと。
自動販売機でジュースを選ぶくらいの気軽さで、こいつは私をターゲットにしたのだ。
"■■■■ーーーー!!!"
もう、ダメだ。
私はきっと、明日の太陽をみることはできない。
私の愛した日常は、きっとこの路地裏の袋小路で終わりになる。
怪人は私の心情なんか気にせず、ただこちらを見ている。
"・・・・・・・"
気のせいか、その顔は笑っているようにみえた。
弱い者をただ弱いというだけで見下すような、気持ちの悪い笑顔。
そいつは手を振り上げる。
その腕の先には、金属をも簡単に断ち切れそうな鋭い爪。
そのありったけの狂気を詰め込んだような凶器を、月光が怪しく照らしている。
・・・・・・月光?
おかしい。
本日は雲が厚くて星はおろか月ですらみえないはずなのだが?
くるくるくるくる・・・・・
下のほうから音がする。
足元をみると、かざぐるまが勢いよく回っていた。
この街はとても強い風が吹くことで有名であり、そのためか街の至るところには様々な形状の風車が設置してあった。
風こそがこの街の象徴なのだ。
空を見上げると、綺麗な満月が顔を出していた。
きっとこの街の風が、あの厚くて不気味な雲を吹き飛ばしてくれたのだろう。
"■■■■ーーーー!!!"
怪人は顔をしかめた。
いや。実際のところはどうか分からないが、少なくとも私にはそういうふうにみえた。
どうやらこの怪人は、さっきの暗くて不気味な雰囲気が好ましかったようだ。
突然吹いたこの爽やかな風とすべての希望を照らし出すようなあの月光が、思いのほかうざったらしかったらしい。
まるで、楽しく遊んでいる最中に親にケチをつけられたときの子供ようなしかめっつら。
どこにその苛立ちを発散したらいいのか、よく分からないといった風情だった。
"■■■■ーーーー!!!"
しかし。
"■■■■ーーーー!!!"
その理不尽な怒りの矛先が私にかわるのに数秒とかからなかった。
"■■■■ーーーー!!!"
怪人、は、こちらを、みる。
"■■■■ーーーー!!!"
怪人、は、爪を、ふり、あげる。
"■■■■ーーーー!!!"
しかして、その、怪人の、爪は。
びゅんっ!!
と、音を立てて、私の胴体を真っ二つにした。
(Cyclone!!!)
(Joker!!!)
・・・・・・かのように思えた。
"・・・???"
突然の声に怪人の手が止まる。
先ほどと同じ、機械の電子音のような声。
「やっと見つけたぜ、この通り魔野郎」
「やはり犯行は月齢の周期に合わせて、場所を変えて行っていたみたいだね」
続いて聞こえた別の声。
この場に不釣合いな、なんとも落ち着いた二つの声。
目をこらすと路地の入り口のところに人影がみえる。
「しっかし、園崎家も財団Xの加頭も倒したってのにどうしてドーパントがいなくならねぇんだ?」
ただし、影は一つだけ。
「ふむ。
この前のEXEの一件もあるが、、今回のケースはおそらく別口ではないかな。
たぶん財団Xの残党がまだガイアメモリの売買を続けているのだろう。
あるいは、まだ僕たちの知らない第三勢力がいる、とも考えられる。
もし、そうだとするならば。
・・・・・・実に興味深いね」
影は一つだけのはずなのに、その声たちは確かにその人影から聞こえた。
"■■■■ーーーー!!!"
突然の来訪者に怪人が吠える。
しかし、その咆哮はさっきのように勝ち誇ったものではなく、"自分を無視するな"というアピールまじりの威嚇のようにみえた。
びゅうううっ!!
"・・・っ!??"
その怪人に「黙れ!」と言わんばかりに、さらに強い風が吹く。
まるでその人影を取り巻く竜巻のような強い風。
"・・・・・・・っ!"
怪人は驚いている。
というよりかは、怯えているかのようにみえた。
あの得体の知れない人影に、未知への不安を抱いているのか。それとも、
実はある程度あの影の正体を理解していて、出会ってしまった自分はここで破綻するかもしれないということを予期しているのか。
雲が晴れ、月の光がいっそう濃くなる。
その月明かりで、一連の声の主の正体が明らかになった。
つまるところ、その声の主も怪人だった。
ただ、このエビの化け物とはまったく違う姿をしていた。
右が緑、左が黒のアシンメトリーの怪人。
顔もマスクで覆われており、その両目で光る赤い複眼が印象的だった。
「まぁともあれ。
こいつはウォッチャマンに感謝だな。あいつの情報がなかったら、犯行現場の特定にはもっと時間がかかっていただろうぜ」
「ふむ、確かに。
しかし、いいのかい?
情報料をかなりふんだくられてしまった。 僕の記憶違いでなければ今月も赤字は確実だと思うのだが?」
「ふ、男が細かいことを気にすんな。
いいか、男の仕事の八割は決断。 そこから先はおまけみたいなもんだ。
報酬なんざ二の次。
それが、ハードボイルドってやつなのさ」
「・・・・・・ふむ、なるほど。
その考えは全く理解はできないが、君の考えはよく分かった。
それじゃあ、所長に怒られる役は君に一任するとするよ。
あのスリッパはかなりの攻撃力を持っている、僕向きじゃない。」
「ぅおいっ!?」
「それに僕は、一刻も早く片付けて「とうふ」の検索を続けたいからね」
「・・・・・・とうふって、お前な」
・・・・・・・。
私はあっけを取られてしまった。
その奇妙な一体の人影は、この緊迫した状況の中でも全くショックを受けた様子もなく、あまつさえ自分の職業理念(?)みたいなものについて語り始めてしまったのだ。
しかも、もう一つの声に至っては、とうふの検索がどうとかと言い出している。
内容はまったく意味不明で、まるで理解不能だった。
でも。
それはまるで、友人同士が話すような下らない会話の一幕だった。
私が愛した、とりとめのないささやかな日々。
どこにでもある、かけがえのない大切なもの。
もう二度と聞くことはできないと覚悟した日常の声が、そこにはあった。
ぱたり。
そう思ったら私は、突然体から力が抜けてしまった。
今まで張り詰めていた心の糸が切れてしまったらしい。
いけない、意識、が、遠く、なる。
「・・・っと、
ま、早く終わらすってことに関しては俺も賛成だ。
あのか弱い女の子をいつまでもこんな暗い路地に寝かしておくわけにはいかねぇ。
―――半分力貸せよ、相棒」
「やれやれ、相変わらず君は甘いな。
そんなことだから、いつまでたってもハーフボイルドを卒業できないのだよ。
まぁしかし、それが君の良いところでもあるのだがね。
いいだろう。力はいつだって貸してやるさ。
なんたって、
―――僕たちは二人で一人の探偵だからね」
ハーフボイルドっていうな!という声が遠くに聞こえる。
「・・・・・・・。」
ああ、そうか。
思い出した。
落ちてゆく意識のなか、私はある噂を思い出した。
「さぁて、覚悟はできてるか? 通り魔野郎!」
この街には伝説がある。
「君の犯行原理には実に興味がある。倒したあとでじっくり調べさせてもらうよ?」
曰く、街のどこかで誰かが悲しい涙を流したとき、必ず吹く一陣の風があるという。
「「さあ、」」
その風の名を、人々は親愛と敬意と畏怖を込めて、こう呼んだ。
「「お前の罪を数えろ!」」
"仮面ライダー"、と。