合図を出した直後、芽依は消えた。
いや、消えたんじゃない。
消えるような速さで、後ろに飛んだのだ。
やっとのことで芽依を目で追い、視界に芽依が入った直後、部屋が真っ暗になった。
黒。
希の家を包み込んだ黒が、私たちを闇に取り込む芽依を表しているように感じた。
「ふふっ、こうしたら面白いでしょ?なんにも見えな〜いっ♪」
あはは、なんて笑ってこの状況を楽しんでいる芽依は、私たちの恐怖の対象そのものだった。
別に、部屋が本当に真っ暗になったわけではない。
朝日に照らされ、うっすら周りが見渡せる。
とはいえ、カーテンは閉めているし、電気や家電なんかは完全に消えてしまっている。
おそらく、電源の一番重要なところを切られてしまったのだろう。
おかげで、見えるものは僅かだし、ある程度目が慣れてきた今でも、遠くの希の顔までは見えない。
もちろんそんな状態では、芽依を目で追うことなんてできない。
さっきの消えるような瞬間的な動き。
あれは人間の動きではない。
どう見ても、どう考えても、あれは人間ではない何かの動きだ。
もちろん芽依がそんな存在なはずはないし、人間は人間なんだということをわかっている。
けど、普通じゃない。
芽依は異常だ。
人間として見てはいけない、そんな気がした。
人間として見ていたら、子どもとして見ていたら、間違いなく殺られる。
小学生相手にこんなことを考えるのもどうかと思うが、まだ死にたくないのなら、芽依を殺すしかないと。
そう思った。
芽依を殺さなければ、こちらが殺されるだろうということも悟った。
「痛ッ——!」
考え事なんかするなという意味なのか。
眠りかけていた心に、希の鋭い悲鳴が走った。
「希……!?」
顔もハッキリ見えないほど遠くの希の方を見ると、ちょうど希の真後ろに朝日が重なり、希が影になって見えた。
壁に寄りかかって倒れ込む希の前に、攻め寄るように立つ小さな人影。
それは、間違いなく芽依だった。
けれど、芽依は刃物を持っていない。
「……あはっ」
おかしい。
隠し持っていたというのか、それとも。
刃物なんか使わずに、希に痛みを与えたのか。
確かに、やろうと思えばできるだろう。
突き飛ばすとか、叩くとか。
でも、それであんなにも鋭い悲鳴をあげるかといわれたら、それは肯定できない。
ということは、隠し持っていたのだろうか。
「ふふっ、油断しない方が良いよ?お姉ちゃん。私、刃物なんかいらないって言ったでしょう?」
気付いた頃には、芽依は私に近付いていた。
私の正面、希がいたのとは違う、暗い部屋の隅から、ゆっくりとこちらに歩いてくる小さな影。
「じゃあ、刃物なんか使わずに、希にあんなに鋭い悲鳴をあげさせたって言うの?どうやって?」
それの顔は見えないはずなのに、ニッコリと微笑んでいるのがわかった。
それは、別に伝わってきたわけでも、感じ取ったわけでも、見えたわけでもない。
ただ、今までそうだったからというだけ。
それだけなのだけど、もうそんなことに慣れてしまっている自分がいることを実感して怖くなった。
芽依ではなく、自分が。
「バチバチってしたの」
「何か隠し持ってたんでしょ?」
「ううん」
「じゃあどうやったって言うのよ」
バチバチ。
きっと、電流を流したということだろう。
ということは、何かを隠し持っていたということ。
なのに。
芽依は、何も隠し持っていないと言う。
そんなことはあり得ない。
おかしいどころの話では無い。
何も隠し持たずにそんなことをするなんて、芽依の身体から電流が流れ出ているとかでもない限り不可能だ。
「誰にでもできるよ。ただ、バチバチってするだけだもん。音、聞こえなかった?」
「聞こえなかったわよ、音なんて」
「そうだよね。お姉ちゃん考え事してたもんね」
差し込む朝日に芽依が重なり、さっきまで見えなかった顔が映し出された。
その顔は確かに微笑んでいて、かつ、冷酷だった。
「ねぇ、やり返さなくて良いの?本当に希ちゃん殺しちゃうよ?」
芽依は優しく微笑んだ。
さっきまでの冷酷さを兼ね揃えた微笑みではなく、確かな優しさに溢れた笑顔。
それなのに、その笑顔を浮かべているのが芽依だというだけで恐怖心を掻き立てられる。
「ふふっ、絵里ちゃん、怖がってるの?大丈夫だよ。絵里ちゃんに
それが一番大丈夫じゃない、なんて言っても、きっと芽依は聞き入れない。
この子は、大切な人を傷付けられる悲しみを知らない。
だから、平気で親友の目の前で希を傷付けたりできるんだろう。
そこまで考えたところで、芽依が希の方に向かって行っているのに気付いた。
日付変わってしまいましたが、12月31日分の更新です。
中途半端ですが一旦区切ります。
皆様、あけましておめでとうございます。