心臓が早くなる。
芽依は、きっと本当に希を殺すつもりだ。
早く止めないと、希が殺されてしまう。
……芽依は、何をしても良いと言った。
なら、μ'sを呼んでも構わないはずだ。
私は直ぐに携帯を取り出し、海未に電話をかけた。
どうして海未なのかはわからない。
ただ、一番かけやすかっただけかもしれないし、頼りになると思ったのかもしれない。
「もしもし、海未?」
『もしもし、絵里。どうかしましたか?』
いつも通りの声。
いつも通り。
他のみんなは、いつも通り。
なのに、こんな非日常に巻き込んで良いのか。
μ'sというだけで。
……いや、良くないに決まってる。
私と希は偶然この場にいたからで、他のみんなは別に——。
『絵里?』
巻き込むわけにはいかない。
関係無い人達を。
「ごめんなさい、海未。またあとでかけるわね」
『え、絵里——』
海未の返事を聞かずに電話を切った。
どうしてか知らないけど、海未の返事を聞いたらいけない気がした。
「海未ちゃんって、お友達?呼べば良かったのに」
芽依は振り返って言った。
希の方に行く時間が縮まったと思えば、今の時間も別に無駄なものでは無かったはず。
「こんな馬鹿げたゲームに巻き込みたくないもの」
「どうせ二人じゃ私には勝てないよ。海未ちゃんを呼べば、もしかしたら勝てるかも」
「嫌よ。どうして自分が勝つために友達を巻き込まなくちゃいけないの?」
芽依はしばらく黙りこくったあと、ゆっくり口を開いた。
「……へぇ、絵里ちゃんって面白いんだね。自分よりお友達の方が大切なんだぁ。そんなの、言葉だけ……でしょ?」
「痛……!」
芽依はニッコリ笑うと、希の髪を強引に掴んだ。
さっきから余裕な様子でいた芽依が、強引に髪を掴んだ。
癪に触ったかのように。
「ねぇ、絵里ちゃん。希ちゃんのこと刺してよ。嫌なら私が絵里ちゃんのこと刺しちゃうけど、どっちが良い?」
冷酷。
今の芽依は、その一言で表せる表情をしている。
冷酷な顔。
冷酷な微笑み。
「い、嫌よ……!」
「ふふっ、みんなそう言うよね。じゃあ、反対だったら?」
「反対……?」
「自分の手、切り落として?できたら二人の勝ちで良いよ」
芽依がニッコリ微笑む。
でも、おかしい。
これのどこが、さっきの逆なのか。
そもそも、どうして友達を大切にしているかどうかの話にゲーム勝ち負けが出てくるのか。
芽依の言うことはわからない。
「絵里ちゃん。ゲームに勝つってことは、
……なるほど。
自分と希の命を助ける代わりに手を切り落とすか、手を切り落とさない代わりにまた馬鹿げたゲームの続きをするか。
きっと、芽依が言いたいのはそういうこと。
手を切り落とせばもうこの件は無かったことにできる。
手を切り落とさなければ状況は変わらない。
それなら、私は——。
「どうする?」
「——やるわ」
「ふふっ、わかった。希ちゃん、ナイフ渡してあげて?」
芽依はニッコリ微笑んだ。
高校生の髪を鷲掴みにしながらニッコリ微笑む小学生。
こんな光景を見られるのは、きっと今この場所だけだろうと呑気に思う。
「い、嫌……!」
「だって、絵里ちゃん。諦めて?」
「ぅ……わ、わかったわよ……っ」
「じゃあ、ゲームの続きね」
芽依はそう言うと希の髪をパッと離した。
と、次の瞬間芽依の動きが止まった。
何が起きたかわからないまま呆然としていると、動きを止めた小さな影がしゃがみこんだ。
「きゃあぁぁっ!」
二人に駆け寄ると、希が芽依を押さえつけ、腕をナイフで刺していた。
芽依は腕から血をポタポタ滴らせ、小刻みに震えている。
「ど、どうしよう、エリち……」
希が不安そうな顔で言う。
そうは言っても、私だってはっきり言って不安だ。
そりゃあ、勝手にゲームしようとか言ってきたけど、私たちを殺そうとしたけど——。
子供だと思って見ちゃいけないってわかってるけど、あくまでもあの子は子供なわけだし。
そんな小さな子供がこんなに怖がってたら、心配になるのが普通の考えなはず。
人間なら。
「あんたたち、何やってるの!?」
希の家の玄関の戸が開くと、にこが駆け込んできた。
「にこ!ねぇ、お願いなんとかして!!」
私は咄嗟にそう叫んだ。
別に何かを意図したわけでもないし、無意識だったわけでもない。
どうしてかわからないけど、とにかくにこに助けを求めた。
「はぁ!?べ、別に良いけど……!どうしろってのよ!?」
オロオロした末、にこは芽依の元に駆け寄った。
「大丈夫……?何があったの……?」
にこが屈んで声をかけると、芽依がにこに泣きついた。
……もしかしたら。
もしかしたらだけど、本当はあんなことしたくなくて、何か事情があって仕方なくやってたのかもしれない。
本当に芽依が心配になった。
さっきまでの狂気を、一切感じなかった。
二日分の更新ができず申し訳ありません。
今回の更新は1月3日(本日)の分の更新となります(昨日、一昨日の埋め直しはいたしません)。
明日の更新は休みとなります。