ナザリックの首無し騎士(仮題)   作:石上三年

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この話ではナザリックの内部の構造、原作に無い職業(クラス)の設定を捏造、それに伴い原作に記述のある職業の設定を一部捏造しています。
またNPCが制作された順番に関しては根拠のほとんどない憶測です。ご了承願います。


異分子:かのじょのかんがえたかっこいいきし

 その日トミータはログインした直後にリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使って、己が製作したNPCの守護する領域に転移した。

 

 ナザリック地下大墳墓第三階層、死への通路(デス・パッセイジ)

 第四階層から下の攻略ヒントなどのデータを隠した宝箱を置いた部屋につながる、通路と言うにはふさわしくないほど大きな区画だ。中に入ってみると天井は城塞型のダンジョンに比べれば低めだがちょっとした講堂を細長くなるように二つ繋げた程度の面積がある。

 そうはいっても実際にこの通路を作る際に使用した拠点内の面積はさほど広くない。これにはダンジョンやギルド拠点の構成システムを逆手にとったトリックがあるのだが、ここでは割愛する。

 

 第四階層に向かうだけなら通らなくても構わないこの通路は、アインズ・ウール・ゴウンのメンバー以外のPCが侵入するとアンデッドを中心としたモンスターが大量にPOPするように罠を仕掛けている。加えてこの通路を守護する領域守護者はPOPしたモンスターを自陣営と見なして強化することが出来るようスキルとAIを調整しているので、初見では攻略するのが難しいかもしれない。

 

 薄暗い石造りの通路の奥に待ち受けるのは、光沢の全くない黒い鎧の上から赤いマントを纏う首無し騎士(デュラハン)と、黒い戦車を引く黒毛の首無し馬(コシュタバワー)だ。

 戦車の手綱を握りながらデュラハンは自分の首を抱えている。顔の右側にかかって表情を隠すのは燻した銀のような色の癖毛だ。しかし表情を隠したとしても、顔立ちを確認すればこの首無し騎士が女性だと一目で分かる。

 

 待機モーションでは目を閉じるように設定してあるが、一部のスキル使用時とモーションにおいては瞼を開いて赤褐色の目を露わにする。

 今は閉じられているその瞳を、確認できないのがトミータには少しだけ残念だった。

 何せトミータにとって自慢のNPC(我が子)であったのだ。

 

 このNPCの名はデュランバート・ホロウ。

 

 モーションのプログラムは当時は転職前だったヘロヘロに監修してもらいながらトミータが作成し、設定のひねりについてはタブラ・スマラグディナと討論を重ね、外装についてはペロロンチーノとモモンガと女性陣の意見を参考にして修正を加えたもののトミータが一から作ったのだ。

 ビルドについてはロールによる遊びはあるものの対集団戦を想定したトミータの構想に、ぷにっと萌えの助言が加わって製作者の想像以上にフィールド込みで凶悪化した対集団戦仕様である。

 

 そしてデュランバートは仲間たちとの悪ノリの結果100LVとなってしまったNPCだった。

 

 物語の「オーバーロード」にて存在を明記されている100lvのNPCは守護者統括と5名の階層守護者と領域守護者1名、そして執事と詳細不明の1名と例外1名。

 もっとも富田緒理恵の前世は、オーバーロードのコアなファンではないので物語の外で語られた設定などを知ろうとはしていなかったし書籍版9巻とweb掲載版の前編までしか読めていなかった。

 

 しかしこの世界でナザリック地下大墳墓がアインズ・ウール・ゴウンの拠点として改装された過程を見守ったトミータは、自分の関わらないところでパンドラズ・アクターを除く全ての100lvのNPCたちが創られていくのを見ていた。

 故にこのデュランバートが物語の中に存在しない100lvNPCだと断言できる。

 

 ◆

 

 ギルドの中でNPCを作成していないのがトミータとモモンガだけになってしまった頃、雑談の一環として「どんなNPCを作りたいか」と聞かれてトミータは深く考えずに素直に答えてしまった。

 

「可能ならデュラハンを作りたいですね、単なる首無し騎士じゃなくて本来のアイルランドの伝承に近いやつ。ただし性別は女子で【戦車を駆る者(チャリオッター)】の職業を取らせたいかな」

 

 トミータは叶うはずがないだろうと思っていた。

 

 チャリオッターは「戦車」という攻防一体の装備アイテムを装備可能にするのだが、一般的な剣や鎧に比べて数倍の資材を消費する。ガチビルドを好むプレイヤーにはアイテムの活用効率の悪さとステータス値の半端さから敬遠されがちな職業だった。ソロプレイヤーは【チャリオッター】の基本職業といえる【騎乗兵(ライダー)】の方が資材の面から使い勝手が良いと考える。【チャリオッター】を好んでいたのは商人ロールプレイにこだわっていたプレイヤーぐらいだろう。

 チャリオッターをそこそこ使えるNPCにしようとするなら、かなり高いlvが必要だった。

 

 ただこの会話をした時その場に居たメンバーに問題があった。

 ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」の中でも頭脳派のぷにっと萌えとタブラ・スマラグディナが居た。

 トミータの構想中のNPCについて、設定魔のタブラ・スマラグディナにはコンセプトを、アインズ・ウール・ゴウンの軍師ぷにっと萌えにはビルド方針と活用法の草案めいたものを、根掘り葉掘り聞き出されたのである。

 

 ホラー映画を好むタブラが20世紀の名作を引き合いに出して乗っかったのは、トミータにはとんだ大誤算であった。

 

 当然会話の主導権を頭脳派の二人からトミータが奪えるはずもなく、いつの間にか二人の主導でトミータのNPCの採用が決定されそうになった。

 しかしトミータのやんわりとした抵抗に止めを刺したのは、ウルベルト・アレイン・オードルの言葉だった。

 

「それだけ構想をしっかり練っていたってことは、そんなデュラハンを作りたかったんでしょう? ゲームなんですから我慢せずに作りたいものを作ればいいじゃないですか」

 

 図星をつかれてトミータが反論の言葉を失っている間に集まってきたメンバーがいつの間にか多数決を取って、正式にNPCのデュランバート・ホロウの作成が決定したのである。

 作ってもいないNPCの運用や配置について話す者も、素材を集めにどこそこのマップへ行こうと計画を立てる者も、皆楽しそうだった。

 

 仲間たちの様子を目にしてトミータは腹を括り遠慮を捨てた。

 そして仲間たちの行動の結果デュランバートは100lvとなってしまったのである。

 

 配置そのものはデュランバートがアンデッドであるために、あっさりと墳墓エリアに決まった。

 しかしさすがにナザリック内の墳墓エリアにだけ戦闘向けの100lvのNPCが2体も居るのはマズイのでは、という意見はトミータが筆頭になって出した。新たなNPCを100lvにするなら戦闘メイドのプレアデスたちを強化した方が良いのでは、という意見も当然出た。

 

 しかしぷにっと萌えが大規模な攻略隊がナザリックに訪れた場合に備えて可能な限り敵を消耗させたいと意見を述べた。この時点で彼はかの1500人以上のプレイヤーたちの攻略計画を察していたのだろう。

 100lvNPCなのだから7階層までの攻略ヒントを守らせたらつり合いが取れるのではという意見をペロロンチーノが出してしまい、他にもRPG好きのギルメンが「一般的なRPGだとダンジョンの外に攻略ヒントが置かれてるんだから、うちの場合はダンジョン内に置いておくぐらいでフェアになるんじゃないか」と言ったせいで流れは決まった。

 

 最終的な段階ではアインズ・ウール・ゴウンの諸葛孔明と呼ばれる男の意見が重要視され、多数決でデュランバートを100lvにすることが決定した。……トミータが反対に一票投じたにも関わらず。

 

 

 ◆

 

 

 デュランバートはトミータの熱意とある意味で仲間たちとの想い出の結晶でもあった。

 だからこそトミータは余計に惨いことをしてしまった気がするのだ。

 

 前世の知識の中にある「物語のオーバーロード」に、デュランバートは存在しない。

 もしも未来が「物語」の通りになるのなら、トミータはユグドラシル終了後親に置去りにされた子供のような存在を1人増やしてしまったことになる。

 

 トミータはデュランバートの前でコンソールを開き、彼女の設定を確認した。

 

 

 ◇

 

 

 ナザリック地下大墳墓第三階層「死の通路」領域守護者。

 黒毛のコシュタ・バワーを愛馬としブラックシューターと名付けている。

 宝物殿の領域守護者であるパンドラズ・アクターとは友人関係にある。

 

 振る舞いは良識的だがプライベートでは気さく。やや男性めいた口調。

 鎧の装着時には、声と顔立ち以外に女性らしさを感じさせない。

 ふわふわもこもこした生物を愛くるしいと感じる。

 

 デュランバートは誰もが思う理想の忠臣であり、誰もが納得する模範的な騎士である。

 戦場では勇敢に先陣を切り、帷幕では知略によって主君を支える。

 必要となれば躊躇わずに自分の心を封じて、謀臣の役割に徹することも出来るだろう。

 

 騎士の心得として、野営や狩猟の知識と従者として振る舞う際の礼儀作法や家事の技術などを習得している。

 また各種武芸の知識と技術を身に着けているが、メインウェポンの大鎌を除いて優れた技量といえるのは剣・槍・弓の扱いのみである。

 

 デュランバートの本質は厳格にして公正。

「不滅の存在はない」という持論を持つが故に、ありとあらゆる生命を厳格かつ公正に見定める。

 彼女は相手が何者でも、たとえlv1の人間であっても、決して侮りはしない。

 同時に「全ての命の価値は本質的には等価。付随する感情によって、めいめいに付加価値をつけているに過ぎない」と思っている。だがその付加価値を彼女は誰のものであっても肯定するだろうし否定することはないだろう。

 

 ◇

 

 その後ろにはタブラ・スマラグディナと議論を重ねて完成させたデュランバートのバックグラウンドの設定が連なっている。

 

 トミータはコンソールを通じて外部のクリエイトツールに接続する。

 数分のロード時間の後デュランバートの設定変更画面を開くと、トミータは中に現れたキーボードに指を滑らせる。

 

 “過去・未来を問わずアインズ・ウール・ゴウンの下に名を連ねた者たちの心の平穏と幸福を、もっとも尊いものと感じ、重んじ、その実現のために行動する。またギルドメンバーに等しく忠誠を誓う。”

 

 この文章は序盤のデュランバートの性格などを記述したあたりに書き加えられた。

 そしてトミータ自身、書き加えるべきかいなか迷っている文章を、設定の末尾に大量の空白と改行の末に加える。

 

 “眼前で造物主の語った全てを忘れることなく、いつでも正確に思い出せる「まじない」をかけられている。”

 

 その一文がとんでもない爆弾になる可能性を知りながら、トミータは設定変更のためのEnterキーを押した。

 

 

 




NPCでパンドラは末っ子、デュランバートはその上……という想定です。

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