俺の異世界転生記!   作:紅露雨

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零世――転生におけるテンプレ空間

 ……ここは?

 

 気が付くと見知らぬ場所に居た。

 夢かと一蹴する事は簡単だが、全身に襲い掛かる違和感が夢ではないと感じさせる。

 違和感の内容は言葉で説明しよふうがない、強いて言うなら直感だ。

 

 ここはとにかく“白”だった。

 上下左右は勿論のこと、振り返っても白。視界に入る全ての情報が白そのもの。

 この“白”は俺が俺でなくなる、俺という存在を呑み込んでしまう、そんな違和感を感じさせる“白”だった。

 

 少し離れた所に白い靄がかかる。この白だけは何故か“白”しかないここで色として認識できた。

 ……俺がいる時点で白以外の色があるはずなのだが、どういう訳か俺には体がない。

 

 普通に考えたら夢なのだろう。

 だが、強烈な違和感が夢ではないと言っている。

 夢でなければここはどこなのだろうか。なぜ、俺はここにいるのか。

 そもそも体がないのにこうして考えていられることも不思議だ。

 考えれば考えるだけ、理解(わか)らなくなる。

 だが、何か考えていなければ俺もやがては“白”になる。

 根拠はない。しかし、“白”しかない空間は俺を確実に恐怖へと誘うのだ。

 

「おや、気がついたかい?」

 

 遠くに居た白色が俺の存在に気づいたのか、こちらへと近付いてきた。

 白色がヒト型になり髪の毛が、顔が、服が、描き足される。それに色が足され、十代後半くらいの若い女性になり、こちらへと話しかけてきた。

 だが、返答しようにも身体がない。つまり声が出したくても出ない。

 

「大丈夫、君は“そこに居る”」

「女か。確かに俺はここに居るが。ここに……“居る”?」

 

 その女性が俺の存在を認め、許した。

 それを合図に俺の身体も彩られ、会話することができるようになった。

 

「やあ、久しぶりだね。それとも、初めましてかな?」

 

 本当に久しぶりに知人に会ったかのような雰囲気。

 だが、俺にはこの女性に見覚えもなければ、この場所に心当たりもない。

 

「俺はあんたを知らないから、初めましてじゃないのか?」

 

 心当たりは無いが、もしも彼女が知人だったら失礼なので記憶をたどってみることにした。

 やはり記憶には彼女は居なかったが、だったら彼女は一体何者なのか。そして、ここはいったいなんなのか。

 

「いや、久しぶりとか初めましてとかはどうでもいい。ここはどこで、あんたは誰なんだ」

「僕かい? 僕は君達でいう地主になるのかな? 単位は世界だけどね」

 

 無い胸をはる自称世界の地主。

 何故、貧乳をチョイスしたのか、俺の知り及ぶところではないが……なるほど。

 世界の持ち主、それはつまり。

 

「神か。それなら、ここは神の間ってところかな」

「うーんまぁ、大まかに言ってしまえばそうなるね」

 

 なら話はわかりやすくていい。簡単な話だ、俺は死んだんだな。

 だが、どこにでもいるようなしがない高校生が、特に理由もなく神様に会えるのだろうか。

 俺は知らないが、彼女の口振りだと俺と会ったことがあるみたいだから、何かしらで生前に接触している可能性は高い。

 

 俺の幼稚な脳では、連想できる出来事はひとつしかない。もしかしたらそれはただの願望なのかもしれない。

 ――異世界への転生。

 的外れだったら非常に恥ずかしいことになる。黒歴史確定だ。それでも湧き上がる衝動を誰が抑えられようか。

 

 

「転生……できるのか?」

「ご名答。たしかにアースのある地域でそういう作品が流行った時期があったというのは知っているよ。最近は廃れたと聞いていたんだけどね」

 

 今でも作品自体は多いけどな。新たな作品が生まれているわけだ。

 廃れてもなくなるわけではない。

 だから書いている人が居れば読む人も居るのだろう。

 

「まあ正直、知っていても実際にこうなると驚きしかないけど」

「どうだろうね。でも、死を抵抗なく受け入れる事ができる人間はそこまで多くないよ」

 

 受け入れるも何も死んでしまったのだ。その事実は変えられない。

 無駄に抵抗するくらいだったらいっそ開き直ってしまったほうが建設的でもある。

 

「さて、その転生だけど……その前に、怒らないで聞いて欲しい」

 

 どうせいつものパターンだろう。所謂テンプレってやつだな。

 神を助けて死んだか、神のミスで死んだか。

 

「あんたらのせいで死んだのか?」

「……こうもすんなり進むとあれだね……正直、君の正気を疑うよ」

 

 今更何を言っているんだか。

 そもそも、正気だったらこんなふうに落ち着いてはいられないと思うぞ、俺は。

 こういう時って取り乱すのが普通なのか?

 どちらにしろ、死んでる時点で正気なはずはないだろうに。

 

「死んだ人間が正気なものか。まあ、あんたらのせいで死んだのは分かった。その埋め合わせ的なあれで転生させられる流れなのも」

「たしかにその通りなんだけど一つの選択肢として、ここで君の魂を輪廻の流れに戻すこともできる。ただ、その場合は本当に君は死ぬ事になるけどね」

 

 そんなのどちらを選ぶかなんて決まっているじゃないか。

 ここで完全な死を選ぶのは、余程人生が嫌なやつかただの馬鹿だろ。

 それに、転生と言えば男子の夢、剣と魔法の世界と相場が決まっているものだ。

 そんな世界に行けるチャンスを自ら手放すわけがない。

 

「流石にそれは意地が悪いんじゃないか? 答えは分かりきっているんだろ?」

「それもお見通しだったかな」

「お見通しもなにもな。初めから一つしか選択肢は無いだろうに」

 

 もし、本当に殺す気ならさっさと殺すか、一番初め……謝る前に選択肢をだすだろう。

 そもそも神と人では格が違うのだから媚びへつらう必要がない。

 寧ろ、こうやって対等な会話が成立しているのが怖いくらいだ。

 

「それもそうだね。さて、転生の話になるんだけど、うちの世界に送られてくる魂には僕からの贈り物、所謂転生特典が三つ送られるんだ」

「その三つはそちら側で選ぶのか?」

「いや、基本的には転生者が決めれるよ」

 

 転生特典まで付いてくるだけではなくこちらで決めれるとは……太っ腹だな。

 

「といっても、強力すぎるものは……ダメだったり、選ぶ数が減ったりするけどね」

 

 まあ、能力の制限は当然か。飼い犬に手を噛まれては馬鹿らしい。

 そもそも、こちらが特典を選べるだけでもありがたいしな。

 

「じゃあ……いや、俺はどんな世界に行くんだ? 科学が発達した世界と魔法が発達した世界では随分変わってくるからな」

「そうだね。世界の名前はリンフィード。魔法が八、科学が二くらいの割合で魔法が発達している世界かな。あぁ、アースの読み物にでてくるような生物例えば龍や亜人とかもいるよ」

 

 ……ほんと、どこまでもテンプレだな。

 

「ふむ……」

 

 能力を創る能力とか、考えた事象が現実になるとか、そういったチート能力も魅力的だが、あまりイージーモード過ぎても面白味に欠ける。

 ……不老不死とまではいかないが、死ぬことには耐性が欲しいか。

 それと、どんな状況でも絶対に必要な能力……記憶力。

 もう一つは、常人より才能に恵まれていればそれでいいか。

 

「一つ目は概念的攻撃……例えば呪いとかだな、これを無条件で無効化する能力。二つ目は自分の意思で取捨選択できる都合良い絶対記憶能力。三つ目は人よりも魔法の才能を高めに設定してくれ。ってくらいかな」

「結構自重するんだね。一般教養と能力の創造って言うと思ってたよ」

 

 やっぱ、あれなのか、チート能力を頼む人もいるのか……。

 いや、そんなぽんぽん転生するものなのか?

 

「あんまり強すぎても面白くないし、変な制約つけられたくないからな」

「ふふ、それもそうだね。さ、特典も決まったし転生……しましょうか」

 

 神が笑いながら指を鳴らす。

 それを合図に俺の身体がふっ……と消え、そして少し遅れて意識も……暗転……す――

 

 

 ◇

 

 

 少年を自らの世界へ送り出し、一人、この場所に残された彼女。

 世界を跨ぐという事は疲れるのか、それともただ単に気が抜けたのか、目を閉じ軽くため息をついた。

 

「目が覚めたらもう喋れるようになっているよ。君の羞恥を思ってのことではないけどね。……そっちのほうが色々と都合がいいのさ」

 

 少年は既にいないが、そこにいるかのように、誰もいない所に向けて語りかける“神”。

 期待を込めてか、哀れみを思ってか、はたまた別の感情なのか。新たな転生者へ向けた思いに、その口角は先程に比べ僅かに上がっていた。

 

「さあ、君のもうひとつの物語の始まりだ――」

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