「…………」
目が覚めたら十歳の誕生日だ。
なぜすぐにわかるか? 別に特別なことは何もない、ただ記憶を覗いただけだから。
俺の存在が特別といえば特別だが……そんなことはどうでもいいか。
二人分の記憶を持つって結構……来るものがあるな。
俺に似た人格っぽいから、性格は問題ないが知能レベルが……ほら。
そんなことより、なぜ貴族の家に生まれたのかあの貧乳に小一時間問いつめたい。
別に平民でいいじゃないですか。これは試練ですか? いいえ、ケフィアです。
元々の記憶があるからいいけど、身体の方の記憶なかったら詰みだぞ。
記憶にもあるが一応部屋を見回してみる。
壁紙は白、床は赤い絨毯が敷いてある。いかにも貴族って感じの部屋だ。
絨毯も非常に高価なものが敷いてあるみたいだ。肌触りいいし。
俺が寝ていたベッド。まあこれは庶民的な高級品か。
シーツが他のモノに比べて安物っぽいのは幼さ故の過ちがあるからだろうか?
しかし掛布団は異常な程ふわふわしてて出たくない。この布団は人をダメにするな。
次に本棚。小学生(小学校には通ってないらしいが)らしく絵本とか置いてある。
中身はえーと? 『正義の味方 カイバーマッ』粉砕★玉砕★大喝采!! っておい。
……他は、『永遠大陸』、『魔王物語物語物語』、『iB』などなど。
どっかで聞いたことあるけど気にしたら負けだ。
部屋の角にはおもちゃ箱が置いてあるな……。
中身は普通に積み木とか、オルゴールとかか。
そういえば、科学があまり発展していないとかなんとかだったがこの世界にゴムはないのか……あったはゴムボール。
普通に、子供のおもちゃ箱だったな。つまらんな、魔法器具的なのなんかないのか?
一応チェスは魔道具らしい。相手の駒を獲るときに動くとか、マスの名前を宣言すれば動いてくれる。
例えば「キングをAの五へ」といえばキングがAの五に移動するし、移動先に敵の駒があれば盤上から叩き出す。
なかなか面白いな。
最近は専らこのチェスがマイブームだったみたいだな。
汚い字で勝敗が書かれている紙がチェス盤と一緒に置いてあった。
……まぁ、勝率は察してやれ。
さて、去年までの記憶から察するとだ、恐らく奴は扉の前で待機している筈。
それでクラッカーの様なクラッカーで此方を驚かし、こういうんだな「誕生日おめでとうございます」と。
パーン!
……ほら来た。
「シンラ様、お誕生日おめでとうございます」
ニコニコ顔の専属メイドのメイ。手に持っているものは赤い煙を上げているクラッカーの様な物。
現在十五歳の彼女はいろいろあってアルストリア家に勤めているのだが……。
こう、なんで紐付きクラッカー使うかな……。
一応主人に当たる俺が紐と紙まみれになったんだが。
「……ありがとう、メイ。ゴミ、片付けておいてね」
「むぅ、わかりました。あ、オリシュ様がお呼びでしたよ」
「ん、すぐ行く」
先程、クラッカーで俺を攻撃したこの少女は俺専属の召使いだ。世の男どもが愛してやまないメイドさんなのだ。
しかしどうなのだろうか、この世界では貴族制度、奴隷制度まである。
メイドはやはり萌えの対象ではないのか? それともセーラー服やナース服等と同じ扱いなのか?
とか考えているうちに父上の部屋の前まで来てしまっていた。
「シンラです」
ノックを三回し名前を言うと勢いよく扉が開く。
そういえばこの世界での俺の名前はシンラ=アルストリアだ。そして地球の時の俺の名前は望月森羅だ。
名前が変わらなかったのは有難い心遣いだな。
「誕生日おめでとう! 我が息子よ!」
そして宙に紙を浮かせた状態で突っ込んできた父、オリシュ=アルストリア。
ジョリジョリすんな、髭痛いから。てかお前、髭剃れよ。
「痛いです父上。……メイド長に怒られるよ?」
「う、ごほん。でだ、シンラ改めて誕生日おめでとう」
「ありがとうございます。それで、なんで呼ばれたの?」
子供っぽい喋り方ってこうでいいのか?
正直昔のことなんて覚えてないから口調作って喋るが難しい。
「シレジアには十歳になると魔力検査する慣例があるのは…」
シレジア……この国の名前らしい。正式名称はシレジア王国だ。かなり簡素な名前だな。
その昔、ある勇者と7色の魔法使いが魔族との戦いに備え建国したという。
俺の生まれたこの家はその魔法使いのうちの白、光を司る由緒正しき名家だとか。
それより十歳なのか検査。
俺の記憶にある転生物の大概が五歳だぞ?
……まあ、流石に五歳児にレベルを合わせて生活するのも嫌だから助かるといえば助かるが。
「……誕生日に検査するの?」
「そういう事だ……ん、念話が入った」
念話? テレパシー的な何かか?
こめかみを押さえ少しの間、沈黙する。
「…………は? 机?」
そう言うと父上は乗り越えてきた机の方まで戻りなんかゴソゴソしだした。
そういえば父さんの形見の数珠は地球か……。母さんのネックレスも。
……俺だけか。
「あったあった、まあ何で家に有るかはいいか」
机の引き出しから水晶を取り出した父上。
こっちを見るや怪訝そうな顔になった。
「……なんで泣きそうな顔になってるんだ?」
――――っ!
「貸してっ!!」
恥ずかしさのあまり持ってきた水晶をぶんどったはいいが……どうすればいいのかわからん。
魔力を流すとか? ま、なんとなくでいいか。
なんとなく、心臓の方から何かが流れるイメージで水晶を持つ手に意識を集中させる。
どうやらあっていたらしい。
水晶が銀色に光り、数字と文字が浮かび上がる。
数字は二千万、文字は……炎、水、雷、地、風、光、闇の七文字。
「おお! 流石、俺とセリアの子だな!」
すまないが、アンタの子じゃないんだよ“俺”は。
「……二千万」
後ろから覗いてたメイが固まってる。まあ、想像通りだが通常じゃありえん数字なのだろう。
神様さんはもしかしなくても“人より”の意味を間違えてるねこれ。
俺は普通の人よりは魔法的才能を高めに望んだよ、ああ望んださ。
これ……普通の人とかじゃなくて人間の域超えてません?
「……ねぇメイ、これってすごいの?」
……我ながら白々しい。
いや、でももしかしたら常人の平均が一千万だったり五百万だったりするかもしれない。
「凄い? いやいや、え? えーっと、私が今年測った時、約三千四百だったから…」
メイさん? 敬語取れてますよー。
まあ、案の定一般人は魔力が少ない、と。
メイが少ないだけかもしれないが……もしそうだったとしてもここまでの差は無いだろう…。
やってくれましたな……神様よお……。
「メイが大体……そうだな、五千八百人位か……凄いぞシンラ! ただ、王にどう報告しようか……」
メイが十五歳で三千四百か……対する俺は十歳で二千万。並べるとこうなる。
3400
20000000
いやあ、ぶっ飛んでんな。文字通り桁違いじゃねぇか。
しかも浮かんだ文字は属性だろ?
七文字って事は七属性か。どういう振りされてるのか知らんがかなり異常だな。
俺が研究機関だったら飛んでくね。おー怖い怖い。
って考えると貴族生まれっていいな、でっけえ後ろ盾があるじゃんね。
「ま、別に報告はしなくていいか。シンラ、これから魔法のお勉強しなさい」
王への報告はありのまま話せばいいと思うんだが……。
こんな威厳の欠片もない父上でも腐っても始まりの七貴族。
王に次ぐ発言権があると思うのだが……いや、有るが故に知れてはいけないのか?
自分に次ぐ発言権を持つ者が自分以上の力を手に入れたら……本当に信用しているものじゃなければ、俺だったら消すしな。
となると、外出は控えたほうが良さそうか?
「シンラ様が楽しみにしていた魔法の勉強ですよ? 私も一緒に勉強しますよ?」
少々考え事に耽っていたらしい、渋っていると取ったのかメイが後押ししてきた。
「メイも一緒なら勉強するか……。父上、それでは」
用が終わったのでさっさと退室した。のだが、ガタッと物音がして後ろを振り返った。
目に飛び込んできたのはorzの体制になっている父上。
……貴族の威厳なんてあったもんじゃないぞ、それ。
「くぅ……メイ、あとは頼んだぞ。何かあったら、すぐにメイド長を呼べ……私はまだ仕事が残って……」
「わ、わかりましたオリシュ様。では行きましょうか、今日は簡単に魔力というものを…」
過保護になる気持ちもわからなくはないが、メイが引いてるぞ……。
シンラの記憶から読み取るといつもこうらしいのだが……いや、本当に貴族の威厳ってなんだろうね。
公私の区別はついているのだろうが、これを見ると他所でもこんな感じとしか思えんぞ……。
◇
――訓練所。
先程居た父上の部屋から数分歩いて外にでた所に建っている建物。
そこに俺とメイは居た。
外観は……体育館だな、うん。学校とかにある体育館。
鉄でできた横開きのドアを開け、中に入る。
室内の床はフローリング……ではなく土でできていた。
恐らく、地属性の魔法を使うためだろう。
どういう魔法があるかは知らないが、水晶に地の文字が書いてあったし地属性の魔法があるのは確定的に明らかだろう。
壁には木で出来た人型の模型が立てかけてある、的だろうか……。
プラ板でできた人型じゃいかんのかね。どうせ射撃用なんだし。いや、鉛弾じゃなくて魔法だけれども。
まあプラスチック加工ができないだけなのだろうけど。
ぱっと見た所、仕切られてはいないので中を全部見渡せる。
どうやら、俺とメイ以外の人間はいないようだ。
ステージは無いが倉庫はあるので、その中まではわからないのだけれども。
メイが突然歩き出したかと思ったら、立てかけてある的の一つへと右手を向け、こちらへと振り返る。
「シンラ様、先ずはお手本として一度見せますね。フレアアロー!!」
メイの突き出した右手からは火で出来た矢が現れ、一直線に飛んでいく。
その矢は、的の腹へと吸い込まれていき、直撃。霧散した。
直撃した部分が焦げていたが、それもほんの数秒で消えた。
「これが一、二番目に簡単な魔法です」
手から魔力を型どり放つ、ただそれだけの簡単な魔法。
本当にただそれだけなのだとしたら一番簡単なはずなのだが……一位二位を争うレベルの魔法がもう一つ有るみたいだ。
有るのであれば見せていただきたい。
「もう一個のほうは?」
「ボールです、いきますね。フレアボール」
もう一度右手を模型に向ける。今度は矢ではなく球が飛んでいき、同様に霧散した。
結局、型どった魔力を放つだけのようだ。……期待して損した。
初めて魔法というものに触れて感じたこと……ただただ地味だな、うん。
だがまあ、どのような魔法であれ魔法は魔法。
所詮飛び道具なんてスリングショット程度の物しか触ってこなかった人生だ、楽しみじゃないと言えば嘘になる。
「地味……ま、いいか。どうやるのか教えて」
「私の場合ですけど、右手に魔力を集めて、手からニュっと形作りながら飛ばす感じですかね」
そんな抽象的なイメージでいいのか魔法さんよぉ……。
まあ、そのイメージでとりあえずやってみるか……丸い餅からちぎれて飛んでくイメージ……。
「こうかな。フレアボール……お、でた……消えた」
普通に出た。いや、やばくない?
よくよく考えてみたら木の表面を焦がす程度の威力だとはいえ、こんな凶器を小学生に持たせても良いのだろうか。
まあ、大貴族だから其の辺は大丈夫か…?
いや、大丈夫じゃないからこうやって仕込まれるのか、自(己解)決したは。
「……次は別の属性でやってみましょうか」
そういえば移動中にメイに教えて貰ったのだが……
炎、水、雷、地、風、闇、光は基本属性とされ、人々はこの中から多くても3つの因子を持つらしい。
更に、極々稀に希少属性を持って産まれてくる事もあるとかないとか。
実際に現れた希少属性では、血とか時とかが有名らしい。
ただ、さっき俺が魔力測定で使った一般的な測定器では基本の七属性しか測れないらしい。
魔力量は十歳児の(俺除く)最高が十万ちょっと、人類最高が約六千万だそうだ。
ちなみに水晶が放った光で素の質がわかるらしい、俺の“銀”は恐らく人類最高。
で、この“質”は同じ魔法を全く同じ魔力量で放った場合の優劣の原因になるのだとか。
俗に魔力を練ると呼ばれる行為はこの“質”を上げる行為らしい。
あ、メイの十歳時の魔力は千六百五十だって。五年で大体二倍に増えるらしいね。
俺の中三の魔力量は大体四億になるのか……規格外にも程があるだろ……。
閑話休題、アローやボールの前にフレアと付けたから炎属性の矢が出たらしい。
この接頭語を変えるだけで初歩中の初歩のこの魔法は属性が変わるらしい。
その接頭語は、水はアクア、雷はサンダー、土はアース、風はエアロ、光はライト、闇はダークらしい。
らしい続きになるのは今現在進行形で聞いているだけで、自分で見たわけではないから確証が持てないからだ。
言うより早いか、また、魔力の塊から餅をちぎるように放つイメージで詠唱―というほど大それた物でもないが―をする。
「アクアアロー!」
手から放たれた水でできた矢は的を居抜き、その場を濡らした。
うん、とりあえず無問題。
「流石シンラ様、次は雷属性で――」
他の属性も試してみたが、基本的に全部魔力だからあれだな、見た感じダメージは変わらない。
フレアアローもフレアボールもぶつかった所が少々焦げ付くくらいだし、アクア系はどっちも湿っただけ、それ以外は見た感じあんま差がわからなかった。
……地属性のボールは物理的に痛そうだけど。
だって拳大の岩だぜ?
暫く魔法を出して遊んでいるとメイに止められた。
「シンラ様、そろそろ昼食の時間です」
「戻る?」
「そうなされたほうがよろしいかと」
「はーい」