知らない天井だ…。
目を覚ますと俺は知らない部屋にいた。
一体何が起きたんだ?
思い出そうにもうまく思考は働かない。
ついでに言うと手足も動かせない。
なんだ?
突然の身体の異変に手足を見ると、どうやら手足をベッドに拘束されているようだ。
いや、気づけよ俺。
「あら、起きたようね。気分はどうかしら、お寝坊さん?」
そう言いながら雪ノ下が部屋に入ってきた。
…そうだ。思い出した。
「そうか…お前の…。とにかくこれを外「嫌よ。」……。」
俺の言葉は雪ノ下に遮られる。
「…どういうつもりだ、こんなことをして。一体何が目的なんだ。」
察しがついているとはいえ、聞かずにはいられなかった。
「ふふっ。大方は貴方の考えている通りよ。貴方はすぐに他の女に尻尾を振って…。貴方は優しいから他の女も寄ってきてしまうのでしょうね。由比ヶ浜さんも、一色さんも…本当に目障りね…。比企谷君は私のもので、比企谷君も私を愛しているというのに…。…貴方は私の、私だけのものなのだから、私の事を考えて、私だけを見ていればいいのよ。」
「っ…。」
恐怖のあまり言葉を発することができない。
だが、ここなら雪ノ下さんの監視カメラがあるはずだ。刺激しないように時間さえ稼げれば…
「それと。」
雪ノ下が俺の考えを見透かしたように言う。
「貴方の考えているような事は起こらないわよ。前もってカメラは撤去しているし、姉さんも今日は家の用事でパーティに行っているもの…。
例え気づいてここに来るとしても、どれだけ早くても1時間はかかるはずよ。
私、同じ失敗は繰り返さないの。」
なんだと…。
じゃあ、誰も助けには来ない…?
「私、言ったわよね?私の事だけを考えていればいいと。聞き分けの悪い子ね…。悪い子にはお仕置きが必要でしょう?多少痛くても我慢できるわよね。ふふっ、そんなに震えちゃって…。心配しなくても殺したりはしないわよ。それに、お仕置きの後には狂うほどに愛してあげるわ。」
俺は恐怖のあまり震えていたようだ。
思い出すのも恐ろしい。
以前雪ノ下の家を訪れた際に刻まれた、身体の"印"が疼く。
「お、おい。待てって…。お願いだ雪ノ下。考え直してくれよ。い、嫌だ!やめてくれ!」
「大丈夫よ…。痛いのは最初だけだから…。すぐに私の事しか考えられなくなるわ。」
雪ノ下が近づいてくる。
誰か、誰か助けてくれ‼︎
その願いが通じたのか俺の携帯が振動する。誰だ?いや、この際誰でもいい。電話にさえ出られれば…。
雪ノ下は俺から携帯を奪う。
「あら…。小町さんからね…。流石にこんな時間まで家に帰らなかったら不審に思うものね…。」
そう言うと雪ノ下は電話に出る。
「お兄ちゃん?今どこに「私の家よ。」…雪乃さん?…どうして雪乃さんの家にお兄ちゃんがいるんでしょうか…?」
「彼に今からお仕置きをしなければならないの。私というものがありながらすぐに他の女の所に行ってしまうのだから…。…そうだわ。お仕置きは後回しにして、貴方に私達が一つになる瞬間でも聞かせてあげようかしら?貴方が着く頃には全て終わっているでしょうね。それなら貴方も比企谷君の事をきれいに諦められるでしょう?私ったらなんて優しいのかしら…。」
「お兄ちゃんを……?…ふざけるな‼︎お兄ちゃんに手を出したら許さない!そんなことしたら絶対に殺してやる‼︎」
「ふふっ、そんなに吠えても何も変わらないわよ。妹は妹らしく、私達のことを祝福していればいいのよ。」
そう言うと雪ノ下は携帯をベッドの隅に置き、俺に覆い被さってくる。
「さあ、愛し合いましょう…。貴方のかわいい声を妹さんにも聞かせてあげて…?姉妹になるんですもの…。お零れぐらいは分けてあげないと可哀想だわ。」
ここまでか…?
俺は雪ノ下のものになってしまうのか…?
俺が諦めかけていると不意に扉が開いた。
「そこまでよ、雪乃ちゃん。」
「先輩から離れてください。」
この声は…雪ノ下さんと一色?
なんでここに…?
「姉さん…?どうして…。今日はパーティのはずじゃ…。」
「そのつもりだったんだけどね…。小町ちゃんから電話があったのよ。比企谷くんが危ないって。」
「そんな…じゃあ…さっきのは…」
「ただの時間稼ぎですよ。小町ちゃんが来るには時間がかかりすぎてしまう。だからああやって気を引いて、その間にわたし達が来たんです。」
なんだ…?一体どうなってんだ?
だが、どうやら雪ノ下さん達は俺を助けに来てくれたらしい。
「せんぱいを監禁したいという気持ちは大いに共感できますが、だからといって許すことはできません。」
「そうね、やりすぎよ。雪乃ちゃん。このことはお母さんにも報告するからね。」
俺が目を開くと雪ノ下が雪ノ下さんに拘束されていた。
雪ノ下さん強すぎでしょ。
「せんぱいっ、大丈夫ですか?こうやって縛られてるせんぱいもなかなかに煽情的なんですが初めてが他の女の家とか吐き気がするので責任を取ってせんぱいの家で初めてを貰ってくれないと嫌です。ごめんなさい。」
最後にぺこりと可愛らしく頭を下げると俺を拘束していた枷を外す一色。
だからなんでヤンデレにも振られてんの俺。
助かったという安堵からかこんなことを考える余裕も生まれたようだ。
*****
一悶着を終え、マンションの外に出る。
雪ノ下さんが家まで送ってくれたようで車を手配してくれるらしい。
「ありがとな、一色。それに陽乃さんもありがとうございます。」
「ううん、こちらこそ雪乃ちゃんが酷いことをしたね。1度ならず2度までも…本当にごめんね?」
「いえ、雪ノ下さんは何も悪くないじゃないですか。謝らなくていいですよ。」
「それと…雪ノ下のことなんですが……」
「ああ、それなら心配しないで。もうすぐ家の者が来るだろうし、そしたら「いえ、そうじゃなくて…。」…何かな?」
鋭い雪ノ下さんの目に怯んでしまう。
「まさか、雪乃ちゃんのことを報告するなとか言わないよね?…もしそうだとしたらきみはどれだけ優しいんだろうね…。あんなことをされて、その張本人を許そうだなんて。」
「…そうなんですか?せんぱい。やっぱり雪ノ下先輩に何か「違うんだ、一色…。」……何が違うんですか。せんぱいを見てたらそんな風には思えませんよ!だって、自分を監禁しようとした人間を許すなんて…。」
雪ノ下さんと一色は納得がいかないようで不満を撒き散らしている。
「その…なんていうか…。こいつは俺のことが好きでこんなことをしたんだろ?そりゃあ怖かったし、今もまだ恐怖が残ってる。「なら…」でも‼︎」
一色の言葉を遮り、俺は続ける。
「でも、俺なんかをこんなに好きになってくれた人間をどうこうしちまうなんて…俺にはできない。」
「…いいの?雪乃ちゃんを放っておいたら、また同じことをするかもしれないよ?今度はもっと周到に、誰もこない廃墟にでも攫われちゃうかもしれないよ?」
雪ノ下さんの言うことは最もだ。
自分でも甘い、馬鹿な考えだと思う。
雪ノ下を放置すればいつまたこんな目にあうかも分からない。
今回、前回は運良く助かったが、次は助からないかもしれない。
でもこれが俺の、比企谷八幡の本心なんだ。
だから、この気持ちに嘘はつきたくない。
「ええ、いいんです。それに…。」
「それに、もしまた何か起きても雪ノ下さんや一色たちがきっと助けに来てくれますから。」
きっと彼女達なら俺のことを助けてくれる。今回のように。
女の子に助けられるというのはちょっと癪だが。
「………あははっ。…そうかそうか。やっぱりきみは面白いね、比企谷くん。…うん。きみがそこまで言うなら…、今回は私からの厳重注意にとどめておくよ。」
良かった…。
雪ノ下さんの厳重注意とか超怖いけど罰だと思ってくれ。
「でも、油断しちゃだめだよ?次はガハマちゃんかもしれないし、ここの一色ちゃんがきみに同じことをしないなんて保証はないんだから。」
そんなこと…ないとは言い切れんな。うん。割と近いうちに起こりそうで怖い。
「そうですね…。肝に命じておきます。」
「それと…」
ん?まだなにかあるのだろうか?
「助けてあげたってことで今度お姉さんとデートしてね。」
…は?
「あっ、ずるいですよ、はるさん先輩。せんぱい、わたしともデートしてくれないと嫌です。…デートしてくれないと監禁しちゃいますよ?」
お前もかよ⁉︎
っていうかお前が言うと冗談に聞こえねえよ。…いや、冗談だよね?
「お兄ちゃーーん!」
ん?この声は…。
振り返ると思っていた通り小町がこちらへ向かって走ってくる。
え?この時間に家から走ってきたの?やだ、俺超愛されてる。
その勢いのまま俺に抱きついてくる。
…すっげえ痛いんですけど。
まあ心配かけちまったし、このくらいならなんてことないか。
「陽乃さんにいろはさん、兄を助けていただきありがとうございます。」
そう言って頭を下げる小町。
「でもこれとお兄ちゃんとは関係ありませんからね。
これにかこつけてデートなんて小町が許しません!」
あれ?まだその時小町いなかったよね?なんで聞こえてんだよ。
「はぁ…。小町。今回助けてもらったのは事実だし、1回だけなら俺は構わねえよ。」
そう言い小町の方を見る。
あれれー?おかしいぞー?小町からどす黒いオーラが見えるぞー?
思わず某名探偵の子どもみたいになっちまったよ。
「お兄ちゃんはこの人達を選ぶの…?小町のこと愛してるって言ったじゃん…。…あれは嘘だったの?」
ハイライトさん仕事して!
まだお前の仕事は終了してないぜ‼︎
…こうなったらやることはひとつしかない。2人の前でやるのは些か恥ずかしいが仕方ない。
「小町…。心配しなくても、俺はお前のことを世界で1番愛してるからな…。」
「あわわわわ…お兄ちゃ……ふみぃ…。」
八幡の全力攻撃!
効果はバツグンだ!
小町は倒れた。
「うわぁ…せんぱいが…。……小町ちゃんずるいなぁ…。」
「あの比企谷くんがこんなことするなんてねぇ…。」
なんか言われてるが気にしたら負けだ。
俺が何をしたかって?それは神のみぞ知る。いや、ここにいる4人は知ってるな。
こんなことをしているうちに陽乃さんの呼んだ車が来る。
2台呼んでいてたらしく小町を片方の車に乗せる。
「本当にありがとうございました。一色もありがとな。じゃあな。」
陽乃さんと一色に改めてお礼を言い、別れを告げる。
俺が乗ったのを確認すると運転手は車を出した。
やっと帰れると思うと、どっと疲れが押し寄せてきた。本当に長い1日だった。彼女達が助けに来てくれなかったらどうなっていたことか。
「お前もありがとな。」
寝ている小町に礼を言いながら頭を撫でる。
幸せそうに寝るなぁこいつ。うん。可愛い。
小町を撫でていると睡魔が襲ってきた。流石に体力が限界でうつらうつらと船を漕いでしまう。
ふと、頭に考えがよぎる。
そういえば、どうして小町は俺が雪ノ下の家にいることが分かったんだろうか。
限界を迎え、俺はそのまま眠りについた。
6話目です。
やっとゆきのんの話が終わりました。
書いている視点からだととても長かったように感じます。
感想ありがとうございます。
返信が遅れてしまい申し訳ないです。
次回もよろしくお願いします。