インフィニット・ストラトス 虹の彼方は無限の成層圏(一時凍結) 作:タオモン3
そんな十話目です。
ユウキサイド
目が覚めてみると部屋に飾ってある時計は6時を差していた。
ベッドから出て固まった体を伸ばす。
う~ん、よく寝むれたな。
体調はすこぶる良好だね。
「…………結局、兄さん帰ってこなかったな」
兄さんはガトー少佐に連れてかれてから戻るどころか再開の祝杯を上げに、ガトー少佐の部屋に向かってしまった。
昨晩、ISのプライベート・チャンネルで、
『ユウキ、これからガトーに部屋に飲みに行くから』
『はあ?』
『彼女は正真正銘アナベル・ガトーだった。姿が変わってもな。再開ついでに色々と話したいから行ってくるな』
淡々と自己完結したことを言われてもさすがの僕でも伝わらないよ。
え?結局の少佐だったの?あの人?あんなガチガチの長身で男だった人が、美人で凛々しくてスタイルもいいし…………後、胸も大きくて…………
「……………………」
……ああ、なんだろう。思い出したらムカムカしてきた。
『いいけど……実機試験明日かもしれないからほどほどにね』
『わかった』
そう言う時ほど絶対分かってないよね。
『念を押すけど……ほどほどにね』
『ああ、わかっている』
通信が終わる直前にため息が聞こえた。
うっわ、むかつく。人が心配して言ってあげてるのにその態度はなんですかね。
まったくもう。昔からそうなんだから。
いつも思うけど兄さんは気分屋だよね。後さき考えずに行動するとこ。
……僕が言えたわけじゃないけどさ。
そのすぐ後に束ちゃんと千冬さんが合流。
またちがう意味で食堂は大騒ぎになった。
ISの生みの親、天災とも呼ばれる人物がいきなり現れればそうなるよね。
でも、
「騒ぐな!」
と千冬さんの一言で静まり返った。
その時一夏ちゃんは小さく震えていた。
ただ声に驚いただけじゃない気がした。
うまくは言えないけど……恐怖と不安……なのか。
夕食を食べ終え、用意してもらった部屋に行く前に、ロケットに置いてきた荷物を取りに戻り、千冬さんに案内をしてもらった。
その時束ちゃんが、
「私が居てもうるさめんどいことになると思うからラボに帰るね☆ 四人ともがんばってね。バイバ~イ♪」
行きに使ったにんじん型ロケットで飛び去って行った。
……自由な子だよね。
兄さんの荷物は僕の部屋に置いてある。盗まれることはないと思うけど、一様に。
それより、千冬さんが居た時の一夏ちゃんは僕のそばを終始離れようとしなかった。
会うのを避けているのは明確だけど……なんでだろう。
正門の前で、震えたのも気になるし。
……千冬さんとの間になにがあったんだろうか。
コンコンコン。
「ん?」
思案していると扉をノックする音が聞こえた。
だれだろう?こんな朝に。
「はーい、どなたですか?」
「おはようございます、一夏です」
訪ねてきたのは、今考えていた一夏ちゃんだった。
僕は鍵を外して扉を開けた。
「おはよう、一夏ちゃん。早いね」
「いつもこのくらいです。ユウヤさんは戻ってこなかったんですか?」
「うん……たぶん大丈夫だと思うよ。ガトーしょ……さんと一緒なら」
「でも……ユウキお姉ちゃんたちって別の時代の人だよね? 知ってる人なんているの?」
最もな一夏ちゃんの質問に僕はやや言葉を選びながら答えた。
「なんて言ったらいいかな……あの人は兄さんの友達なんだよ…………僕たちの居た世界だと男だったけど」
「え?」
ああ、キョトンとしてしまった。
女なのに男って言うのも変だよね。
「まあ~詳しくは兄さんに訊いてね」
「……うん」
曖昧に一夏ちゃんを頷かせた。
説明をするのが苦しくなった、というより僕自身よく分かってないから兄さんに丸投げすることにした。
「それよりどうしたの?」
「朝ごはんを食べに行こうと思って……」
「あれ? クロエちゃんは?」
「……先に行って席を取ってもらってる」
なるほど、一人なのはそういうことね。
「りょ~かい。すぐに着替えるから待っていてね」
僕は部屋に戻り、寝間着を脱ぐいで持ってきた衣服を入れたカバンから着替えを取り出す。この世界に来た当時は衣服なんかパイロットスーツの下に来ていたTシャツと作業用のズボンしかなかった。
兄さんも似たようなもの。季節が冬だったから防寒着の役割は果たしてくれたけど、何日も着ていると衛生的にもよくないし、衣服の調達は優先事項であった。
けど、束ちゃんのラボは意外と人里近く、衣服や日常品などはすぐに手に入った。
街というより村と呼んだ方がいいような人口が少なく、過疎化が進んでいる地域みたいだった。ノーマルスーツを着て歩いていても「最新の防寒着ですか?」とか言われる始末だった。お陰で助かったけど。
代金は束ちゃんが肩代わりしてくれた。
彼女は所持金を……軽く1000億以上所持していたのは驚きだ。
本人曰く、「ISのコア作ってやったらこんなにくれた。特に使い道ないからいいよ」だと。
いやいや、これだけもらえればいろいろ使い道あるでしょ!
驚くことに、これでもほんの一部で残りは隔離された家族に渡したらしい。
せめてもの償い……なんだよねきっと。
「………………」
「ユウキお姉ちゃん?」
「あ、うん。いまいくよ」
しまったしまった。一夏ちゃんを待たせているんだった。
急いでTシャツとジーンズを着て、部屋を出た。
「ユウキさん、一夏様こちらです」
食堂に入るとクロエちゃんの声が聞こえた。
6人程が座れる広めの席を確保していた。
「おはよう、クロエちゃん」
「おはようございます。ユウヤさんは昨晩、御帰りにならなかったのですか?」
「そうなんだよ。まったくしょうがなんだから。帰ってきたら少しお灸を添えないとね」
「ユウキさんってなんかお母さんみたいだね」
「そうですね」
どこか納得したように頷く二人。
まあ、今に始まったことじゃないし、父子家庭で育ったから、自然と兄さんの面倒というか……そういうのには慣れてしまった。そのせいかよく兄さんにくっついて遊んだりしてたら、いつの間にか一人称が『僕』で定着しちゃったけど。
その所為か、士官学校時代は…………ああ、思い出しただけで泣きたくなる。
「そ、それより二人とも朝食頼み行こうか」
「うん」
「わたしは最後にします。席が盗られてしまってはいけませんから」
「わかった。じゃあ、僕と一夏ちゃんが先に行くね」
クロエちゃんを残して二人で朝ごはんの食券を選びに行く。
昨日食べていてそうだけど、此処のごはんおいしいんだよね。
軍隊のごはんって必要最低限の栄養しかないし、味は兎も角、何より見た目がおいしそうに見えないんだよね。
食べれるだけマシだけど。
「一夏ちゃんはなににする?」
「和食定食のB。ユウキお姉ちゃんは?」
「そうだね……ランチのAでいいかな」
食券を買ってカウンターに向おうとすると、
「ガトー先生、おはようございます!」
「おはよう」
「先生~おはよう~」
「ああ、おはよう」
ガトーしょ……じゃないガトー先生は生徒たちに挨拶を返しながら、食堂に入って来た。その後ろを兄さんがとぼとぼと、どこか気まずそうな足取りで続く。
「ねえねえ、あの人誰? 昨日も食堂に居たけど」
「知らないの?! あの後ガトー先生に中庭に連れてかれて、そのまま部屋に行って、さっき一緒に出てきたんだって!」
「ええ!! それって……二人はそういう関係ってことなの?!」
生徒たちはキャーキャーと年頃女の子特有の空間を作り出している。
分からなくもないけどね。
「ん? どうしたユウヤ? 先ほどから顔色がよくないが」
「ああ、うん。気にしないでくれ」
ぐったりとしている兄さんを気遣うガトー先生。
たぶん、この雰囲気が精神的に受け付けないんだろうね。
「おーい、兄さん」
助け舟を出すつもりで、兄さんに声を飛ばす。
「……おう」
僕に気が付き、返した言葉に覇気はない。
ノックアウト寸前のボクサーみたいにフラフラと近づいてくる姿はなんとも痛々しい。
……きっとガトー先生との間にもなにかあったんだよね。
「大丈夫?」
「……ダイジョウブダ……モンダイナイ」
兄さん……信用ないよその言葉。
「という訳だ。彼女は俺たちの知っているガトーだ」
半分回復した兄さんは昨晩、ガトー先生に連れてかれてからことを簡単に説明してもらった。
しかし、なかなか信じ難い内容だった。
転生……なのかなこれ。
「つまり、記憶はあるん……ですよねガトー先生」
「そういうことだ。改めて、久しいなユウキ少尉」
「はい……本当に」
本人を見れば見るほど信じ難い。だってこんな美人の人があの、ソロモンの悪夢って誰が信じるだよ!
「IS学園1年次のIS教習官を受け持っているアナベル・ガトーだ。そこの二人もよろしく頼む」
「お、織斑一夏です。よろしくお願いします」
「クロエ・クロニクルです」
「……………………」
お互いに自己紹介すると、ガトー先生はクロエちゃんを凝視した。
え?なんで?
「一つ質問していいかな?」
「わたしにですか?」
「そうだ……ラウラ・ボーデヴィッヒという名に訊き覚えはないか?」
その名前を聞いたクロエちゃんは平静を装っていたようで、ほんの少し驚いたように体が小さく震えた。
「……知りません」
「そうか。容姿があまりにも似ていたのでな。てっきり親族だと思ったのだが――ん?もうこんな時間か」
食堂の時計は7時半を示していた。ガトー先生は朝食のトレイを持ち立ち上がった。
「わたしは準備などがあるので先に失礼する。ユウヤ、実機試験を楽しみにしているぞ」
そう言うとガトー先生は食堂を後にした。
「……ユウキ」
「……うん、訊かなくてもいいよ兄さん」
僕と兄さんは顔を見合わせながら、額に嫌な汗が滲み出ていた。
……大変嫌な予感してきた。
ユウヤサイド
朝食を終えた俺たちは、それぞれの部屋に待機していた。
勝手にうろうろしてもいい身分でもないからな。
おそらく向こうから連絡があるだろう。
部屋の割り振りは、一夏とクロエ、俺とユウキになっている。
「……なあ、それなんだ?」
待ち時間、ユウキは工具を片手に何かを制作しているの訊いてみる。
ライトグリーンで球体のような何かをだ。
「これ? これは『ハロ』っていうマスコットロボだよ」
「マスコットロボ? そんなもの作ってどうするんだ?」
フフンっと鼻を鳴らしながらユウキは『ハロ』を抱き上げた。
「ただのマスコットロボじゃないんだ~。これは僕が独自に改造を施すことで簡単な会話、データの記録、ハッキングなどができる高性能型なんだよ」
誇らしげに語るユウキ。ベッドに横になりながら呆れて溜息しか出ない。
いつもそうだが、ほんとこういう時は水を得た魚のごとく生き生きしているよな。
「後それに……思い出の品でもあるしね」
ユウキは最後に小さく呟いた。
『ハロ』見つめるその姿はなんだかとても、照れくさそうにしているが、どこか寂しそうな風にも見て取れた。
それに思い出の品?
「……どういう意味だ?」
「な、なんでもない! それより、いつになったら連絡が来るんだろうね」
「……さあな」
慌てながら話を逸らしたが、俺も追及する気はなく、それで終わりにした。
静寂になった室内を『ハロ』を作る作業音の中、待つことさらに30分後。
コンコンコン。
「はーい、どなたですか?」
『ハロ』と工具を置き、ユウキが扉越しに訊く。
俺もベッドから起き上がると扉まで行く。
「わたしだ。ガトーだ」
ユウキは扉を開けた。
ようやく来たか。
「実機試験の準備が整った。支度をしたまえ。準備が出来次第に第三アリーナに向かうぞ」
「……今更ですけど、ガトー先生も試験官ですか?」
「そうだ。轡木学園長からのお達しでな。わたしと山田先生が君たち4人の試験官として当たらせてもらう」
ガトーに案内され第三アリーナの管制室に来た。
そこには轡木澪学園長と織斑先生、眼鏡をしたやや小柄な女性に壮年の男性、一夏とクロエも即に集められていた。
「集まったようだね。では、四名の実機試験を開始しようか」
「はい」
壮年の男性は澪学園長にそう促した。
格好は用務員の制服を着ているが、この人が。
「貴方が本当の学園長ですね」
「そう。わたしが本来の学園長轡木十蔵だ。この学園の経営を任せられているが、世が世だけにね。表は妻に任せているんだ。許してほしい」
「いえ、こちらこそ。無理な要望を聞き入れていただきありがとうございます」
差し伸べられた右手を握り返す。温和で友好的な人物のようだ。
「そちらの女性は?」
「彼女は山田麻耶先生。一年次の副担任だ」
「織斑先生のクラスで副担任をしています山田麻耶です」
ぺこりと山田先生は頭を下げた。
優しそうな雰囲気だが、どこか大人びて見せようとしている雰囲気の女性だ。
彼女がガトーの言っていたもう一人の試験官か。
「実機試験に関してだが……ユウヤ君は専用機を所持しているときいているが、本当かね?」
「はい、そうです」
「ほかの3人も?」
「はい」
「ならこの試験は専用機で行ってもらいたいだ」
なるほど、入学は認めるが実機試験は受けてもらう意味はそこか。
「データ採取をしておきたい訳ですか?」
「そういうことだ」
十蔵さんは頷いた。
「ISは各国にそれぞれ分配された数少ない現代最強の兵器。
ここでは各国のISが新技術の試験を行うところでもある。最低限の情報は我々も把握してなければない義務があるんだ。万が一、条約違反のシステムや装備があっては学園の安全と信用だけでなく、争いの火種になるからね」
「そうですね」
十蔵さんに同意しながらも、おいそれとデータを渡すわけにはいかない。
俺たちのISは基本性能が既存のISを遥かに勝る高性能機。材質と技術はこの世界に存在しない物を使用している。
もし、学園内部に居る産業スパイに盗まれもしたらそれこそ火種になる。
俺はユウキに目配りする。束が居ない以上、ISの機体データを管理しているのはユウキだ。
「いいですよ。それが義務なら仕方ありませんから」
そう言い、ユウキが首に掛けているユニコーンのネックレスが光り輝く。
光りは右手を包み込み、無機質な金属の腕に変えた。
「ちょっと失礼しますね」
右手からコードを伸ばし、管制室のコンピュータに接続した。
ディスプレイにデータのダウンロードゲージが現れ、数秒足らずにゲージは100%に達した。
「はい。四機分のISデータをこのコンピュータにインストールしておきました。どうぞ確認してください」
ユウキは右手の展開を解除して確認を促した。
「山田先生、確認を」
「わかりました」
織斑先生に指示され、山田先生は確認を始めた。
黙って見ていたが、大丈夫だろうか。
「大丈夫なのか?」
俺はユウキに小声で訊く。
「大丈夫。データがコピー、もしくは抜き出されたら数種類のウイルスに感染させて偽のデータになるよう細工してあるから」
なるほど。言わずとも分かっているか。さすが技術屋、こういうことは心得ている。
「はい……四機分の機体データを確認しました」
「なら、これで試験が始められるね」
「具体的にどういった内容ですか?」
「試験はそう難しいものじゃない。ISを使い、教員と模擬戦をしてもらう。君たちがどれほどの技量を持っているか測らせてもらいたいんだ」
「操縦者自身のデータもほしいと」
「そういうことになるね」
十蔵さんの説明に不審な点はないが、裏はありそうだな。
だが、いまは詮索したとしても意味がないことだ。
「分かりました。それで構いません」
「では、試験官の選抜はどうするかね?」
ここはやはり、皆の意見を聞くべきだな。
「俺はガトー先生を選びます。ユウキは?」
「じゃあ、僕も同じで」
「クロエと一夏はどうする?」
「わたしは……初めてだから……その……強くない人で」
やや臆しているのか一夏は小声で言う。
初の操縦が模擬戦だからだろう。
「なら、山田先生がいいだろう」
「……っ!」
小さく縮こまった一夏は千冬を見て小さく目を見開いた。
「ガトー先生は前大会ドイツの代表だ。初操縦なら荷は重い。なら、代表候補生だった山田先生との方が、気は楽だろう」
「…………」
「それにこれは合格が決まった試験だ。負けてもいい。自身の全力持ってやれ、一夏」
優しそうに目を細めて言うが、一夏は顔を逸らした。
「…………山田先生に……します」
そう言い、ユウキの傍までやってくると服の袖を握りしめ、その姿を見つめる千冬の瞳には悲しみで溢れている。
二人の間の空気は重く、まるで見えない深い谷があるように思えた。
「クロエはどうする?」
「山田先生でお願いします。一夏様のお傍を離れるわけにはいけませんから」
「分かった」
これで決まりだな。俺とユウキはガトーに。一夏とクロエは山田先生と模擬戦をすることになった。
「決めたなら早速始めよう。時間は限られてるからね。まず先にガトー先生の二人。後に山田先生の二人を交代で行いましょう」
「分かりました。ではわたしはピット方に向かいます」
「お願いします、ガトー先生」
「はい。では二名はわたしについてこい」
ガトーの後を俺とユウキは続き、管制室を出ようとするが一夏はユウキの袖を離そうとしない。
「……一夏ちゃん?」
「…………」
ギュッと力強く握りしめ、無言を貫き一夏はユウキを制止させた。
ここから居なくならないで――そう語っているように一夏の瞳は震えていた。
ユウキは震える瞳を見つめ、一夏の頭を優しく撫でながら語りかけた。
「大丈夫だよ一夏ちゃん。ちょっと行ってくるだけだから、ね?」
「……うん」
名残惜しそうだが一夏は握りしめた袖を放し、少し強張りながら笑顔を見せた。
「ユウキお姉ちゃんにユウヤさん頑張ってね」
「うん」
「ああ」
俺とユウキは答え、ガトーの後を追い管制室を出た。
次からようやく試験になります。
四人分の戦闘描写…………頑張ります…………
感想、ご指摘、誤字脱字報告などお待ちしております。