インフィニット・ストラトス 虹の彼方は無限の成層圏(一時凍結) 作:タオモン3
ガンダムタイプのISを目の前にガトーはどうする?
そんな十二話目です。
アウトサイド
「ガトー先生を相手に20分……すごいでね、彼は」
管制室のモニターで観戦していた十蔵は感嘆していた。自身が戦闘教官としてスカウトしたアナベル・ガトーの実力は世界で五本の指に入る。第二回IS世界大会が初出場でありながら優勝候補のアメリカとイタリアを打ち負かし、初代ブリュンヒルデである織斑千冬と互角。その彼女と相対した世界初の男性操縦者のユウヤは四十分間持ちこたえのだ。
「山田先生、表示されたデータは正しいんですよね?」
「は、はい。彼はISに操縦した時間は……五十分です」
なりよりクロエと一夏以外を驚かせたのが、ISに搭乗して1時間未満であることだ。
「五十分?! それだけの操縦時間でガトー先生を選んだのですか?」
「……IS委員会を一人で退かしたことはありますね」
妻の澪から昨日IS委員会との概要は知らされていた。IS委員会のIS部隊は各国から集められた優秀な人材ばかりで構成されている。その大半が代表候補性、IS学園で優秀な成績を収めた者であり、自然と女性至高主義傾向の人間が多い場所でもある。昨日送り込まれた部隊は一五機の内、五機の《打鉄》は日本政府からの要請で出撃した自衛隊配備のIS部隊ではあるが技術面においても遜色はない実力である。結果は……一五機中、ダメージレベルCが五機、Bが九機、一機が無傷と手痛いものであった。
(恐ろしいですね。彼らが脅威でなければいいのですが……)
十蔵は心中で呟いた。
一夏サイド
ユウヤさんが負けた。昨日、IS委員会の人たちを寄せつけもしない強さだったユウヤさんが翻弄されていた。束さんとユウキお姉ちゃんが造ったISを使っても勝てない相手。私だったらどうなのだろう。ISは今まで使ったことはない。初めてであんなに動かせるだろうか。
「………………」
左手に待機状態の《白零姫》の白いガントレットを見つめるけど、この子は何も言ってくれない。そうだねってしゃべられても困るけど、不思議と大丈夫って言った気がした。
「次は……ユウキさんですね」
「うん」
ガトー先生とユウヤさんはピットに入っていった。次はユウキお姉ちゃんの番だ。
この試合だけは見逃せないと、モニターから目を離さないように集中する。
「………………」
千冬姉さんがそわそわしながらわたしを見ていたことに気付いた。
そして……ユウキお姉ちゃんがピットから出てきたのがモニターに映った時、睨んでいた。
ユウキサイド
兄さんとガトー先生が戻ってきたけど、僕は戦慄していた。
模擬戦の結果自体もそうだけど、なにより兄さんと《ネオサイコ・ドーガ》が満身創痍となっていることが僕自身、信じることができなかった。
「兄さん大丈夫?」
「……そう見えるか?」
座り込む兄さんは溜息交じりにつぶやく。うん、ごめん。
「ユウキ、準備して待っていろ。ISのシールドエネルギーを補給でき次第始めるぞ」
ガトー先生は疲れを感じさせない足取りで行ってしまった。あれだけ動いて疲労しないって……化け物?
「油断するなよユウキ。ガトーは強い。想像以上にな」
「わかってるよ」
兄さんが忠告してくれる。見ていて勝てる自信なんかないよ。
「あと一つ忠告しておくぞ」
「なに?」
「……お前のIS、外見がガンダムタイプだろ? アイツはたぶん俺のときよりも凄味は増すぞ」
……うわぁ、聞かなきゃよかった。
「それと……制圧力のある射撃武器を《ネオサイコ・ドーガ》に入れてくれ。ああも接近戦ばかりだと身が持たないからな」
確かに、体を使った技術は士官学校の時以来だしね。しょうがない作ってあげますか。
「……わかったよ。束ちゃんのラボから資材と機材は専用のISで持ってきてあるから合間を見て作っておくよ」
「なるべく早く頼む……ってIS二つも持ってたのかよ?!」
「正確にはISってとは言えないよ。|装甲とかスラスターとかの展開する部分をすべて拡張領域《バススロット》にした収納箱かな。わざわざ束ちゃんのラボで製作して送ってもらうって手間かかるし、申し訳ないからね」
正直なところ《ネオサイコ・ドーガ》と《アサルト・ゼータ》は荒削りの原石に近いIS。二人で造ったみたいになってるけど、実際は束ちゃんの指導を受けながら僕なりに設計して作り上げたISだ。改良の余地はいくらでも出てくる。この実機試験だっていいデータ集めになる。さすがにファンネルを四機を破壊されたことは想定外だけどね。
「その……《ネオサイコ・ドーガ》は大丈夫か? ファンネル四機潰されたが」
そんな心中を察したのか兄さんは不安げに訊いてくる。
ガンダ二ウムの残りも少ない。軽度の損傷はISの自己修復機能で賄えるけど破壊されればそれまでだ。
「多少はね。でもこれからはなるべく壊さないでよ。造るのも大変だから」
「……肝に免じておくよ」
ファンネルも消耗品だからな仕方ないか。まぁいざとなれば、ばらして別のISを造ればいいかな。時間はかかるけど。
「待たせたな。ではユウキ、君のIS出したまえ」
補給を終え、ガトー先生が戻ってきた。兄さんとやる前にも沸々とした気迫は衰えていない。
「……はい」
意を決して《アサルト・ゼータ》を展開するとガトー先生は驚きで目を見開いた。
「なんと……ガンダムとはっ!」
今にも飛び掛かってきそうなほどのプレッシャーが溢れ出た。
この人にとってガンダムはある意味呪うべきものだ。浴びせられたプレッシャーで息が苦しくなる。
「落ち着けガトー。ユウキのISがガンダムだからってそう荒れるな」
兄さんがガトー先生を宥めるとすっとプレッシャーが弱まったが、背筋に冷たい感覚を僕は久しぶりに味わった。ほんとに勘弁してほしい。
「……………すまない。ガンダムは私にとっては因縁深い存在だからな。最後の相手もそうであった」
昔を懐かしむように僕の《アサルト・ゼータ》をしばらく眺めてカタパルトに向い、アリーナに飛び出していった。
「頑張れよ」
「……うん。それじゃあ――」
《アサルト・ゼータ》の脚部をカタパルトに固定。ややひざを曲げる。
「ユウキ・キサラギ。《アサルト・ゼータ》行きます!」
カタパルトシャフトが高速で滑り、アリーナに打ち出される。タイミングを合わせ
「よっと」
前後左右と体を翻す。ISは宇宙空間を想定しているから地上でもPICが働いてるから無重力の中を動くのと同じか。宇宙育ちのせいか初めて動かした気がしないな。
「操作には慣れたかユウキ?」
「大丈夫です」
「ならいい」
僕はガトー先生と同じ高度で停止した。
「…………」
改めて相対するとわかるけど、プレッシャーがすごい。肌に刃物が突き刺さるような感覚がする。初めて会った時もこれくらいの感覚だったけ? いや少し違う。なんか……柔らかくなってるのかな。
「ではいくぞっ!」
「はいっ!」
ビーッ!
ブザーが鳴り響いた。《アサルト・ゼータ》の
「遅いぞっ!」
「え?」
ガトー先生が突っ込んでくる。その手にはブレードが握られている。ほぼ同時に展開したはずなのに、向こうのほうが早い!?
「はあああ!」
ま、まずい。
「……っかは!」
急加速に一瞬息が詰まる。身体にくるGが予想よりきつい。スラスターの出力を調整しないと無理な機動をすれば死ぬね。
「ほう。高速機動型のようだな。瞬間的な加速は
「なんですかそれ?」
「ISの技術のひとつだ。スラスターのエネルギーを再度取り込むことで、二回分のエネルギーを使い加速するものだ。直線的な軌道しかできないが、タイミングを見計らい相手との間合いを瞬間的に詰める――」
キュイイイイーードンッ!
ハウリングのような耳をつんざく音の後に爆音が響いた。同時にガトー先生の《打鉄》が広げた間合いを一瞬で詰めていた。
「こんな風にだっ!」
ブレードが横一文字に薙ぎ払われ左脇腹を捉えた。ボールがバットに打たれたように吹き飛び、次いで衝撃が体に走る。
「っうく……はあっ!」
胃液が逆流しそうになるのを堪えるながら体勢を直すが間を置かせない斬撃の雨が襲いくる。
ガンッ! ギィンッ! ガンッ!
力任せにブレードで殴られ反撃の隙を与えてくれない。ISにダメージはないがこれではなぶり殺しだ。
(このままじゃやられるっ!)
――ターゲット・ロックオン。マイクロ・ミサイル発射!
「なに?!」
マイクロ・ミサイルに気を取られた一瞬を見逃さず、飛び退く。
山なりの軌道を描き、ミサイルは一直線にターゲットへ降り注ぐ。
轟音と爆煙がガトー先生をのみ込んだ。
「やった?」
――全弾命中。敵ISは健在。
爆煙が切り裂かれ、ガトー先生が飛び出す。《打鉄》の両肩部のシールドが黒焦げ損傷している。
さすがに墜ちてはくれないか。
「油断したが、その程度ではなっ!」
バンッと
あの技術は直線移動でしかできない。なら通り道に――
「撃てば当たる!」
ビームライフルを放つ。相対距離を縮めたことで射距離も短くなる。ビームは《打鉄》に吸い込まれていく。
「っ!」
無理に体を捻りながらガトー先生は躱した。それも予想通りだ。銃口を線を描くように横に移動させ、回避予想ポイントに向け二発目を放つ。
「なんとっ!」
ビームは左肩を射抜き、体勢が揺らいだ。――少し遅かったか。ガトー先生をパスして振り返り距離を取る。
「近接戦はお断りですよガトー先生。僕は射撃戦が得意ですから」
向こうのISはおそらく近接戦防御型だと推測される。兄さんとの時に射撃武装を使ってこないのは初手で無力だと思ったに違いない。いくら薄くなっているとはいえガンダ二ウム合金を穿つならビーム兵器または口径の大きな徹甲弾か無反動砲をぶつけるしかない。
近接戦でもそう。ガトー先生はブレードの打撃力で操縦者を疲弊させる戦術で来ている。
なら、僕が取る戦術はひとつだけ――
「確実にあなたを墜とします!」
再装填されたマイクロ・ミサイルを発射。ビームライフルで回避方向の制限と距離を詰めさせないように狙撃する。
「っく!」
次々とマイクロ・ミサイルは着弾してシールドエネルギーを確実に減少させていく。しかし油断はできない。懐に入られたらその瞬間に負けが決まる。接近戦はできなくはないが、勝てる自身はない。得意な兄さんでさえ負かされたのに僕が勝てる道理は皆無。堅実にこの戦術で勝利しに行く。
アウトサイド
「ぬぅ……間合いを取られてはこちらが不利か」
飛来するビームを躱しながらガトーは思案する。この時すでに《打鉄》のシールドエネルギーは100を切っていた。直線的なビームは避けれても誘導型のマイクロ・ミサイルは機動力の乏しい《打鉄》では全弾を回避することは不可能に近かった。
ガトーの技量であるからこそ最小限のダメージで済んでいた。しかし、それも長くは続かない。次のマイクロ・ミサイルの一斉射を無傷で回避しない限りガトーの負けが決まってしまう。これは実機試験だ。負けても戦績に載ることはない戦いだが、ガトーは決してあきらめてはいなかった。
(アサルトライフルを使い牽制しながら接近するか? いや、あの強度ではおそらく効果は皆無。《打鉄》の機動力をフルに発揮したとて追い付けまい。
教師として生徒の問いにはわかりやすく答えることを目指した結果がこの窮地を招きえたことを悔やんでも仕方がないと潔く割り切る。逆にユウキの適応力の速さに感心していた。
しかし、このアナベル・ガトーが自ら敗北を受け入れることはない。それはIS操縦者としての、一人の武人としての誇りが許さなかった。そして何より――ガンダム相手に屈することはできない。
「これで終わりですガトー先生っ!」
《アサルト・ゼータ》からマイクロ・ミサイルが飛来する。躱そうと機動を取ればビームライフルの狙撃が回避機動の妨害か決めにくる。頭上と遠距離からの挟撃。ならばガトーの選択はひとつだけだった。
スラスター最大出力で《打鉄》が駆ける。マイクロ・ミサイルは山なりに下り、ガトーに降り注ぐ。ここで
「やはり……」
ユウキの狙撃は当てる目的でなく機動の妨害。避けれるギリギリを、機体速度が落ちるように狙ってくる。マイクロ・ミサイルで仕留めに来ている――ならばやれる。
左手にアサルトライフル――焔備を呼び出す。ユウキのビームライフルに狙い定め斉射した。機動中であってもガトーの射撃は正確無比であった。ユウキは身を引き左半身でライフルを庇いながら後退する。
「南無三っ!」
正面の狙撃を止め、反転。寸前まで迫っていたマイクロ・ミサイル群に向けて焔備を掃射した。弾幕はひとつのマイクロ・ミサイルを穿ち、爆発。残りのマイクロ・ミサイルは巻き込まれ連鎖爆発していく。素早く体を捻り戻す。12基の爆発エネルギーが爆風となり背中に押し寄せた。――この瞬間をガトーは狙っていた。
《打鉄》のスラスターに爆風のエネルギーを収縮――今までの中で一番大きな爆発的な音を上げ、《打鉄》が駆け抜ける。
「ぅおおおおおおおっ!!」
驚異的な加速に全身の筋肉が、骨が軋む。かかる負担は想像以上のものだ。しかし、その対価はある。他を寄せつかないほどの加速はユウキとの相対距離をその名の通り瞬時に消失させた。
「うそっ?!」
さすがのユウキも度肝を抜かれ、驚嘆の悲鳴を上げた。
射程内に捉えた。焔備を捨て、近接ブレード――葵を握りしめた。ガンダムタイプ特有のツインアイの内側で驚愕の顔をしているユウキをガトーは容易に想像できた。
「しぃいいずぅうううめぇええええええっ!!」
叫びとともに大上段に上げた葵を力の限り、振り下ろした。甲高い金属音がアリーナに響いた。葵は頭部に落とされ、細い刀身に亀裂が走り砕け散った。《アサルト・ゼータ》は無傷。しかし――
「…………あ………っ…」
時が止まったように一瞬静止したユウキは後ろに倒れるようにして地上に堕ちた。地響きをあげ砂煙が包み込んだ。
「はぁ……はぁ………はぁ……」
息を乱しながら大粒の汗が滲み出る。ガトーは砂煙の近くに降り立つ。《打鉄》が表示したシールドエネルギーの残量――19。賭けだった。もしも、マイクロ・ミサイルの爆風で《打鉄》のシールドエネルギーが尽きていれば、焔備の斉射でユウキの狙撃が止まなければ、
砂煙の中から倒れている《アサルト・ゼータ》が現れるが動く様子はない。
「勝った…………のだな………」
アリーナに響くブザーを聞き、緊張の糸が切れたガトーは片膝をついた。ここまで無茶なことをしたのは第二次モンド・グロッゾ決勝以来であった。
ユウキに恨みはないが、前世に果たせなかったガンダムとの結局を与えてくれた運命にガトーは静かに感謝した。
前回続き少佐無双www
ルビとか使ってみましたがどうですかね?
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