Hortensia Saga if story 呪医は魔女に含まれるか? 作:Tiffler
私たちエスバットと彼らの出会いは必然だったのかもしれない
聖王歴771年某日オルタンシア王国オーベル領にて
私たちエスバットは世界樹の迷宮の全てが明らかとなったあの日、ハイ・ラガード公国を旅立った。
お姉さまが命を落としたかの国を離れるのは嫌だった。
だけど過去を乗り越えて今までの贖罪を、殺してきた幾多の冒険者達への罪滅ぼしをしなくちゃという想いがあったんだ。
あの国の世界樹の迷宮は踏破され、今後はそうそう犠牲者が出ることはないだろう。
だから私たちは他の世界樹の迷宮を探索することで迷宮による犠牲者を少しでも減らそうと心に決め、旅に出たんだ。
そんな私たちがなぜここオルタンシア王国にいるかって?気になるなら今から教えてあげよう。あっと、その前に怪我人の手当てをしていいかな?
「そういえばずっと名乗ってなかったわね。あたしはエスバットのアーテリンデ。」
あたしは目の前の怪我人の手当てをしながら今までの事を思い出していた。
本当は巫術を使えばこの程度一瞬で治せるんだけど、この国ではどうやらそういうことが出来る人は魔女として狩られるらしい。本当に面倒な話だ。
面倒な話だがあたしの周りにいるこの騎士っぽい一団、まあ一人だけ場違いなショボい装備の鎗使いがいるけど、こいつらが魔女を狩ろうとする一団だと下手に巫術を使えばお尋ね者になってしまう。
そしたら折角掴んだ元の世界への、あの忌々しい世界樹のある世界への帰還へのヒントを追いかけるどころではなくなってしまう。
なんとしてもそれだけは避けなくちゃいけないんだ。
「私たちは旅をしてるんだ。魔法の力を求めてね。」
あたしがそう言うと目の前の一団の中の眼帯の強面男と妙に女々しい男が緊張しだした。
こいつらはなにか知ってるなと思いつつもあたしは続けた。
「あたしのお姉さまはある魔法使いに殺されたんだ。」
完全な嘘じゃない。あたしのお姉さまはオーバーロード、超科学を駆使する者に殺された。そして進みすぎた科学は魔法と見分けがつかないと誰かが言っていた。
こいつらに完全な真実を明かすわけにはいかない。だけどこいつらに魔女と疑われたら終わりもしかすると魔女として追われる身となってしまうかもしれないんだ。
この一言の衝撃でこいつらが思考停止に陥ることを期待していた。
だからさ、男の返事を聞いたときあたしが思わず笑い出しそうになってしまったのは仕方のないことだと思う。
「それは大変だったね。」
そいつはこう答えた。
リーダーらしき若い男はお人好しに見えるしそうそう疑われやしまいとは思っていた。
見た目にみあわずということもよくあるのが世界樹の迷宮の常と迷宮潜りのプロである冒険者として最悪を想定し、薙刀に手をやろうとしたあたしがバカみたいに思えた。
そう思いつつあたしが返事をしようとした時、そいつの肩を妙に女々しい男が掴んで言った。
「なに納得してるんだ!見るからに怪しいじゃないか!」
そいつの言葉はとても痛いところを突いていた。確かにあたしの服装はこの辺りでは珍しい物だろう。しかもイメージ的には典型的な魔女に近い服装だ。
悪目立ちするだろうとはわかっていた。でも、あたしにはこの服を変えることは出来なかった。
巫術の発動を補助する効果が備わっているすばらしい一品、呪印の兵装、あたしのためだけに職人が作ってくれたこの服を捨てることなんてできやしなかった。
しまったなぁと内心思うあたしだったが、またもお人好しの一言に吹き出しそうになる。
「マリユス、人を見た目で判断するのは良くない。それにもし魔女だとしても悪いことをすると決まったわけじゃないだろう?」
確かに見た目で判断しないでもらえた方が助かる。それは事実だ。しかしこいつはここまでお人好しで大丈夫なのかと思ってしまった。
雲行きが少し怪しいなと思ったあたしは一応離脱する準備をするように予め決めていた動作、薙刀の石突きを地面に突き立てることで爺に伝えることにした。
そう、あたしは一人じゃない。私たちエスバットは二人組のギルドなんだ。
なにやら微笑ましい言い争いを続けているお人好しとマリユスとやらの二人はさておき、どうも眼帯の強面男は厄介そうだ。歴戦の猛者といった雰囲気を漂わせている。
とはいえ眼帯強面男以外は皆警戒を解いているように見えた。
他は修羅場を潜った事のない素人連中なのだろう。
ならば逃げるだけなら簡単だ。
簡単だけども、ずっと逃げてばかりじゃ埒があかないのもまた真実、私たちエスバットがここ、オルタンシア王国とやらに来てしまってからもう一月近い。
海都の世界樹の迷宮再深部にいた禍神とでもいうべき存在を討とうとしていたあの時、やつが消滅するのと同時に私たちエスバットの二人はこの異国に飛ばされた。
そして見慣れぬ風景に戸惑っている時出くわしたのがフードを深く被った黒服の根暗っぽい自称教会騎士とやらの一団だった。
やつらはあたしが禍神討伐時に負った手傷を巫術で癒すところを見てあたしを魔女だなんだと言っていきなり捕縛するとか言い出したんだ。
とりあえずその場は凌いで逃走したのはいいんだけどどこの町に行こうにも教会騎士とやらがうじゃうじゃ居て、あたしの服を見るなり魔女だと言って追いかけてくるからこの一月町でここ、オルタンシア王国とやらの情報収集が出来なかったんだ。
ん?なぜオルタンシア王国って名前を知ってるかって?
簡単な話さ、町には行けなくとも村で聞き込みくらいいくらでもできたんだ。
とはいえそれも教会とやらがない寂れた村でだけだったから今のこの国がどうなってるのか知るには不十分だったってわけさ。
この騎士っぽい一団は魔女っぽい服のあたしを見てもあたしを捕まえようとはしなかった。でも、あとで教会騎士どもに情報を流さないと決まったわけじゃない。
まだこいつらを信用するのはリスクが高すぎる。それが
ギルド、エスバットのリーダーとしてあたしが、アーテリンデが理性的に下した判断だった。
だったのだが、こいつらのじゃれあいを見ていて気が変わって。こいつらの緩い雰囲気に毒気を抜かれたとも言えるだろう。
こいつらは仲間のためならきっと出来る限りのことをする、あのファフニールたちのパーティーと同じように、そんな感じがしたんだ。
だからあたしは方針転換することにした。とりあえず逃げるのはやめて、こいつらと良好な関係を築こうと。
これが私たちエスバットと彼ら、オーベルの者たちとの出会いだった。