Hortensia Saga if story 呪医は魔女に含まれるか? 作:Tiffler
こいつらからこのオルタンシア王国とやらの情報を得ようと決めたあたしだったが問題があった。
まず一番簡単に喋ってくれそうなお人好しがマリユスとやらとじゃれあってるせいでどうにも話を聞きにくい雰囲気であるということだ。
他に眼帯強面とショボい装備の鎗使いがいる、だけど眼帯強面はなんか睨んできてるから面倒そうだし、鎗使い野郎はこっちをなんだかいやらしい目で見てる気がするから論外だ。
眼帯強面は話せば分かるやつな気がするし、聞くならこいつかと思っているといつの間にかじゃれあいを終わらせたお人好しが声をかけてきた。
「それで?そんな復讐を望む君はなぜこの村を助けてくれたんだ?」
そう、今あたしが居るのはオーベル領とやらの村の一つだ。そしてこの辺には魔女だなんだといちゃもんをつけてくる黒服の教会騎士とやらが居ない、お陰でここ数日村で空き家を借りて久々に屋根の下で休むことができた。
野宿が常の冒険者とはいえさすがに激闘の後いつまでも野宿し続けたいとは思わなかったんだ。
冒険者は助け合いが大事な稼業だからね。屋根を貸してくれた人達を守るのは私たちとしても吝かではなかったんだ。
なにせ襲ってきたのは魔物とやら、世界樹の迷宮で慣れ親しんだやつらとは少し違ったけど人でもフカビトでもモリビトでもなく、ただこちらを殺そうとするだけの生物だった。
そんなやつらの命と屋根の恩がある村人たち、どちらを優先するかなんて火を見るより明らかじゃないか。
だけどそんな事を言ったらこのお人好しに自分と同じと思われそうだ。
でもあたしはお人好しじゃない。ないったらないんだ。
「気が向いたからよ。久々に戦いたい気分だったの。」
怪我人の手当てをしている時点で嘘だとバレバレだけど、でもこの時はこれしか思い浮かばなかったんだ。だからこそお人好しの返事には唖然とする他なかった。
「そうか。理由はともあれ村を救ってくれてありがとう。お礼と言ってはなんだけどうちで夕食を食べていかないか?」
情報収集がしたいあたしとしては渡りに舟だった。こいつはもうどうしようもないお人好しだと割りきって大人しく招待を受けるとしよう。だけどその前に、
「爺!もう出てきていいわ!こいつらは私たちエスバットの敵じゃないわ。」
そう、撤退支援の準備をしながら隠れていた爺と合流することにしたんだ。こいつら相手に無駄に気張って後に疲れを残すなんてバカらしいと思ったから。
「アーテリンデお嬢様」
そう言いながら爺はお人好し達の後ろから音もなく表れた。背後から表れた爺に驚いたのか黙りこんでいるお人好し達を尻目にあたしは続けた。
「話は聞いていたわね?今からこいつらの屋敷で食事をしに行くわ。ああ、こいつらに自己紹介くらいしときなさいな。」
爺は無言で頷き、厳かに口を開いた。
「ライシュッツだ。」
お人好したちはそれだけかみたいな雰囲気になっている気がするので仕方ない、あたしが補足してあげよう。
「爺はガンナーよ。よろしくね!さ、早く案内してちょうだい。」
どこか腑に落ちない顔のお人好したち、この表情の理由を知ることになるのは暫く後のことであった。
「道すがら少し情報交換しましょう。」
あたしがそう言うとここぞとばかりにショボい装備の鎗使いが口を開いた。
「俺はデフロットっていうんだ。なあ、あんたいい女だな!」
そんな下らないことを言うのかこいつは、先程こいつに聞こうなどと血迷わなくてよかったと思いつつ、とりあえず爺を止めなくてはなと思った。
あたしは見ていた。爺が愛銃に弾を、それもバーストショット用の特殊弾を装填するところを。
あれを食らわせればそりゃあ人一人くらい黙らせられるけど、良好な関係を築くどころではなくなってしまうからね。
「爺、止めなさい。この程度の男にその弾は勿体ないわ。」
あたしがそう言うのとマリユスとやらがデフロットとやらに抗議するのはほぼ同時だった。
「デフロット!お前はいつもそうして!」
ああ、またこのパターンか、話はいつになったら始められるのだろうと思わず天を見上げそうになったあたしに眼帯強面が声をかけてきた。
「なああんたその服もそうだがその得物も随分変わりだねだよな?どんな戦いかたをするんだ?」
そう言ってあたしの得物、薙刀を指差した。まあ今まで便宜的に薙刀なんて言ってきたけど実はちょっと違うんだ。
「これはケリケイオンっていう最高級の杖の先端に真竜の剣っていう最高級の剣を取り付けた物で巫剣って呼ばれてる武器だよ。」
まあ形的にブシドーたちの故郷で使われてる薙刀ってのが近かったから普段便宜的にそう言ってるんだ。
間合い的には鎗使いと変わらずその上で巫術の発動を補助する効果まで付いている逸品、何より旅立つあたしにあのファフニールたちが贈ってくれたこの世に二振りとない最高の代物なんだ。
「じゃあそっちの爺さんの得物はなんなんだ?刄もねぇし妙にちっこいが?」
これはもしや銃を知らないのか?そんな事があるのかと思いつつも説明することにした。
「爺の武器は銃、細かい分類で言うならハンドガンよ。」
眼帯強面男は分からないのかしきりに首をかしげている。これは余計なこと言っちゃったかなぁと後悔しているとショボい屋敷が見えてきた。
「着いたぞ、これが俺の屋敷だ。」
そう言うとお人好しは門を自分で開けて入っていった。
後に続いたあたしの視界に飾り気の無いものの整理整頓が行き届き、綺麗に掃除されている屋敷がうつった。
「お帰りなさいませ~」
そんな声が屋敷の玄関から聞こえてきた。メイドというやつか。
「ただいま、ノンノリア。すまないけどいつもより二人分多く夕食を作ってくれないか?さっき領内の村を救ってくれた二人を連れてきたんだ。」
どうやらメイドとは言ってもかなり親しい間柄らしい。
ハイ・ラガードと比べてかなり田舎っぽいから仕方のないことなのだろう。ハイ・ラガードでこんなメイドが居たらすぐにクビだななどと思いつつもあたしとあたしの後ろに控える爺は屋敷の中へ入っていくのであった。