Hortensia Saga if story 呪医は魔女に含まれるか? 作:Tiffler
魔弾のライシュッツ、儂は巷でそう呼ばれておる者じゃ。アーテリンデお嬢様と二人でギルド、エスバットをやっておる。
かつてはアーテリンデお嬢様の姉、マルガレーテと儂の後輩のガンナーも所属し四名で迷宮に潜ったものだが、それはここで語るべきことではないじゃろう。
「お主はメイド、即ち従者なのであろう?」
儂はそう目の前の若い女、確かノンノリアと言っておった、に話しかけた。何故儂がこやつに話しかけておるかじゃと?ふむ、いいじゃろう。汝には語ってやろうではないか。
我らエスバットはオーベル領主とやらに夕食に招待され彼の者の屋敷に到着したのじゃ。
だがのう、どうにも屋敷におった従者の態度が気に食わぬのだ。
従者たるもの一歩引いた態度をとり、主の命にはきっちりとした返事をして従うべきだと儂は思っておる。
こやつは主と馴れ馴れしい態度で接するばかりか、主の客人たる我らにまでその様な態度を取っておる。
主との関係はそれぞれの環境の違いもあることじゃしまあ許そうぞ、なれどその客人にきちんとした態度で接せずしてなにが従者か。
儂が本当の従者とはいかなるものか見せつけてくれよう、そう思い今宵の夕食ではお嬢様にお願いして儂も給仕に回ることにしたのじゃ。
意気込んで給仕に回ったのはよいが儂らは冒険者、斯様な食事などいつ以来の事じゃろうか。
とりあえず夕食の準備を手伝いつつ、こやつに従者としての心得を教え込んでいけばよかろう。
「なればお主の振る舞いは主の沽券に関わる。斯様な田舎なれば問題はなかろう。されどお主らが都に出た時、恥をかくのはお主の主であるぞ?」
厳しいようじゃがこのくらいが丁度良かろう。若人にきちんと指導を行うのも儂ら先達の務めであろう。
「で、でもですねぇ私と領主様は幼馴染みなのです。この距離感にすっかり慣れ親しんじゃってるので今更変えるのは難しいです!」
ふむ、それでは仕方のない事なのかもしれぬな。なれどきっちりとした振る舞いも仕込まねばなるまい。うむ、
「なれば客人を迎えたときだけでも従者らしく話すことだな。お主がそのように客人の前で主と接すればお主の主は嘗められようぞ?」
こやつの主はさしたる財もなく、権力も持たぬようじゃから嘗められては不味い客人など迎えはせんかもしれぬな。されど見所のある若人じゃ。いつの日にか左様な客人を迎える立場になることもあろう。
そうなった時こやつが主と共に居続けるためにはきっちりとした振る舞いを身に付けておく必要があるじゃろう。
「すぐにとは言わぬ。これからの食事での儂の振る舞いをしかと見ておくがよい。お主の糧となろうぞ。」
儂も甘くなったものじゃな。とはいえこのくらいが丁度いいのやもしれぬな。さて、そろそろ頃合いか。食事をお出しせねばな。
「爺、張り切るのはいいけど程々にしなさいな。折角の寛げる機会だということを忘れないで。」
アーテリンデお嬢様のお気遣いはありがたい。儂とて休みたい気持ちもあるし、普段はこの様に給仕などせず共に食べておる。なれど、今回ばかりはその優しさに甘えるわけにはいかんのじゃ。
「お嬢様、お言葉はありがたいのですが今宵はこちらのメイドにプロの従者としての動きというものを見せると約束しておりますので。この夕食の間だけはお許しを。」
そう言って儂はお嬢様の斜め後ろに音もなく移動した。お嬢様ほどの冒険者ならば音もなく気配が移動すると本能的に警戒してしまわれる事も多いのだが流石に儂と長い付き合いなだけあって仕方ないなぁ、付き合ってあげるといった雰囲気で首を振るとお嬢様は正面に座っている領主殿に向き直られた。
「さて、食事がてらに私たちエスバットの事を話しておくわね。」
こやつらは皆人が良すぎるくらいじゃ。
全てを話したならばこちらに協力してくれるのではないかとも思えるが、時期尚早とお嬢様はお考えになられているかもしれぬな。
じゃがその前に
「なぁ、やっぱあんたいい女だな!座っている姿も決まってるぜ!」
こやつ、デフロットを此度こそ処分せねばな。こんな好色男は本来お嬢様に近付く事すら叶わぬというのに。
儂は完璧に気配すら殺し、デフロットとやらの真横に移動した。
無論既に我が愛銃、アグネアストラとアグネアにはバーストショット用の特殊弾を詰めてある。
かのファフニールたちの餞別の品であり、我が後輩の愛銃であったアグネアを斯様なことで血に汚すのは勿体無いが致し方あるまい。あとは、
「お嬢様、撃ってよろしいですかな?」
アーテリンデお嬢様の許可さえ得ればよい。このような男生かしておいたところで無駄であろう。儂はそう思っていた。しかし予想外の者が儂を止めようとしてきた。
「おいおい、待ってくれや。こいつは確かに遊び人で見境なく女を口説く録でもないやつだがよ、一応しっかりしたところもあるやつなんだぜ。」
そう、お嬢様なら眼帯強面とでも表現しそうな男、確かモーリスとかいったはずじゃ。
歴戦の猛者と見える男が止めようとするなれば故あっての事だと思うたが儂を止めるには弱すぎる理由じゃな。
「お嬢様、宜しいですか?」
なおも淡々と続けた儂にモーリスはこう言ってのけた、
「こいつは俺が金貨五枚で命を救ってやったんだ。まだ金貨五枚分働いてねぇこいつを死なせるわけにゃいかねぇんだ!」
このモーリスの言葉のあと、広間にお嬢様の笑い声が響いた。それはそうだろう。儂も笑いそうになっておる。モーリスとやらは中々に面白い事を言ってくれる。
「アハハハ!爺、今回は彼に免じて許してあげなさい。」
お嬢様は笑いながらそう言いながらこう目で伝えてきた、
(軽く懲らしめるくらいならいいわ)
お嬢様のお許しも得たことだ、軽く、ほんの軽く懲らしめておくとしよう。そう思った儂は愛銃をホルスターにしまうと見せつつデフロットの首筋を銃身で殴り、気絶させてからお嬢様の後ろに戻るのであった。
「あわわ、デ、デフロットさん?」
なにやらノンノリアが慌ててデフロットを看病しているようだが、それはこれから始まる食事の席でお嬢様がどこまで真実を語られるのかに比べてしまえばはるかに些事と言えるであろうよ。