Hortensia Saga if story 呪医は魔女に含まれるか? 作:Tiffler
ああ、また爺を止めなきゃいけないのか。それがあたし、アーテリンデがデフロットとかいう、というかもうあれはアホでいいや、アホの言葉を聞いた感想だった。
爺も前はここまで過保護じゃなかったんだけどなぁ。
こうなっちゃったのは多分あたしがとある鍵がなくちゃ開けられない迷宮の扉の奥へ、普通の冒険者には危険な場所へ一人で行ってしまった後だったかなぁ。
その時の目的だったお姉様の銀の髪飾りは爺に言われてあたしを連れ戻しに来たファフニールたちが後で持ってきてくれたからわざわざ危険を犯した目的は果たせたんだけどね。
まぁそれはさておき、爺が煩いアホ君を黙らせてくれた今のうちに真面目なお話といきましょう。
「で?こんな下らない事のために私たちエスバットを招いたの?さっさと本題に入りましょう。」
そう言ってあたしはいつの間にか水が注がれた木製カップに手を伸ばした。
流石は爺だ。あたしが欲しいと思ったタイミングで水を用意してくれていた。
まあ水を注ぐ程度の事に本気の隠行を使わなくてもいいのにと思わなくもないけど、爺はやるといったら徹底的にやる頑固者だから仕方ないか。
「あ、ああ。そういえば名乗っていなかったな。俺はアルフレッド・オーベル、ここオーベルの領主だ。」
そういえばお人好しで済ませて名前を聞くのを忘れてた。あたしだけ一方的に名乗っちゃっていたのはミスだったなぁ。
「俺はモーリス・ボードレール。こいつの叔父だよ。」
眼帯強面も今更ながらに名乗ってきた。まあこいつらは今後は名前で呼んでやるか。見所のあるやつらだし。
「俺はデフロット・ダノワ!」
こいつはどうでもいいわ。というか爺が完全に落とした筈なのにこんな短時間で復帰するなんてこいつは何者なのかしら?
とりあえずもう一度黙らせるべきね。
(爺、やりなさい。)
目線だけで長年組んできたあたしと爺は簡単な意思疏通くらいはできる。
とはいえ過保護な爺がやり過ぎる事も多いというのもまた真実。今回もまた、
「爺!石化の香は流石に勿体無いわ。調合にかかる手間が惜しいの。そいつには物理的に対応しなさい。」
この地で材料が手に入るか分からない貴重なアイテムを情け容赦なく使おうとしてる。
「デフロット!お前って男はつくづく!」
今回は向こうで止めてくれるみたいね。というかアホ君を止めようとしているあの女々しい男は誰なのかしら?
「あなたなんて名前なの?ここで名乗っていないのはあなただけよ。話をするんだから名前くらいは名乗りなさいな。それが礼儀ってものでしょ?」
というかこいつはほんとに男なんだろうか?さっきからマントを脱がないから体格はよく分からないけど顔立ちがどうにも、いえ、これは詮索してはいけない事なのかもしれないわね。
本人が隠そうとしているのなら追求するのは止めておきましょう。
「ああ、すまない。名乗るのが遅れた。僕はマリユス、ただのマリユスだ。アルフレッドの従者をやっている。」
この時あたしの後ろの爺からなにやら不穏な気配を感じた気がするが、どうせこいつも従者失格とか思ってるんだろうな。まあいいけど。
「一応改めて名乗らせて貰うわね。あたしはアーテリンデ、後ろに控えているのはライシュッツ。二人でギルド、エスバットをやっているわ。一応言っておくけど私たちエスバットは遠い国から旅して来たのよ。」
これでお互い話す用意は整った。なにやら向こうでノンノリアとやらが口を出したそうに、多分まだ名乗ってないと言いたいんでしょうね、しているみたいだけど爺の教えの成果が早速出たのか抑えられているみたいね。
「なあ、あんたら遠い国って言ってたがどこの出身なんだ?顔立ちからしてダーイラじゃなさそうだし、北方か?」
モーリスがそう尋ねてきた。あたしたちはハイ・ラガードから来たと言ったら通じるのだろうか?
もしこいつらがハイ・ラガードを知らないとなったら、それは私たちエスバットが想像していたより遥かに遠くに飛ばされたということなのかもしれない。
そうであって欲しくない。
そうであったら私たちエスバットが帰還できる可能性はかなり下がるだろう。
それでもあたしは知らなくちゃいけない。
もしそんな状況なのだとしても、早く状況を把握して行動を始めれば希望はあるかもしれないから。
「私たちエスバットはハイ・ラガード公国から来たのよ。あなたたちハイ・ラガード公国を知らないとは言わせないわよ?」
そう割りきっていたつもりだったけれど、思わずキツい聞き方になってしまったのは仕方のないことだと思う。
あたしの言葉を聞いて顔を見合せ出したモーリスたちの様子を見てあたしがああ、知らないのかと思わず落胆してしまったのは仕方のない事だったと思う。
「そう、知らないのね。ならこの際私たちエスバットの真実を話しておくわ。心して聞きなさい。荒唐無稽に聞こえるかもしれないわ。でもね、それが私たちの真実よ。」
そうしてあたしは全てを語り始めた。
私たちエスバットが何故ハイ・ラガードを離れたか、かくも遠い地に飛ばされる原因となった海都の禍神についても含めた全てを。
この時のあたしは少し気が弱くなっていたのかもしれない。
知り合って間もない連中に全てを語るなんて普段のあたしからは考えられなかった。
ただ一つ言えるのは、あたしのこの時の判断は間違いじゃなかったということだ。
「なるほどな。そりゃあ災難だったな。俺たちに出来ることがあれば協力するぜ?」
最初に言葉を発したのはモーリスだった。やはり長く生きているだけあってこういう話も受け入れやすかったのだろうか?
「ああ、そうだな。出来る限り協力しよう。それにこの国にも魔女と呼ばれる者たちがいる。彼らに帰る術がないか聞いて回ってみるといいかもしれないな。」
続くアルフレッドの返答は予想通りだった。というかこいつらもしかしてみんなお人好しなんだろうか?
というか聞き捨てならない情報がサラッと含まれてた。
「あら?この国では魔女って狩られているって聞いてるんだけど?」
あたしもこの見た目だけで何度も追われたんだ。狩られているのは真実な筈だ。
まともな神経の人間の魔女ならこんな国とっとと逃げ出してるはずだと思う。
まあ帰還への手がかりとなるかもしれないんだから本来歓迎すべき状況なんだけどね。
「ああ、確かに教会に見つかれば追われるだろう。だが魔女というだけで何故追われなければならないんだ?そう思う者も居るということだ。」
そうアルフレッドが言った。
この国にもまともな考えのやつが居ることを知って少し安心した。
一人の魔女の力で彼の禍神と同じレベルの現象を起こせるとは思えないけど一縷の可能性は魔女たちにあるのだろう。
あたしはそう信じて動くしかない。
他に可能性は見当たらないのだから。