京太郎放浪記   作:偶数

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不吉な金曜日 1-3

 その日の天気は嫌でも目に焼き付いていた。

 晴天、戦争が終わったことを心から感じさせる程の晴れ晴れとした晴天であった。

 そんな晴天に似合って今日という日は米兵達の給料支給日であり、ママのクラブのVIP席には大枚を持った米兵達がギラギラとした鋭い表情でごった返していた。そして、その大枚を手に入れるために店の店員達も酷くギラギラとしていた。

 京太郎はそのギラギラとした雰囲気に少しだけ気負いしていた。普段なら、自分も闘志をたぎらせてかけに向かうはずなのだが、今日という日は酷く胸騒ぎがしてならなかったのだ。

 

「流れが、流れがないんだよな......」

 

 京太郎は普段は麻雀しか打たないのに不思議とルーレットの前に立ってチップではなく百円札を赤の場所に置いた。するとルーレットは赤の場所に止まり、倍付けの二百円になって帰ってきた。次はその二百円をまた赤の場所において賭けをはじめる。そしたらまた、倍になり、四百円になって帰ってきた。

 だが、これが京太郎の運の流れの読みを狂わせる。まるで、今日は何か仕組まれているように勝てるが、その裏に何か、何か大きな不運という津波が訪れそうという不思議な不安感が出来上がっていた。

 京太郎は冷や汗を袖で拭い、トイレに向かった。そして、ルーレットで勝利した四枚の百円札を靴下の中に仕込んで久しぶりにチンチロ部落にでも足を運ぼうかと店を出た。

 

 ◆◇◆◇◆

 

 気分転換にチンチロ部落に足を運ぶとお凛が嬉しそうに京太郎のことを出迎えた。京太郎は苦笑いを見せながらもお凛の隣りに座って特別運の流れを感じることなく金銭を惜しまないで六面体を回した。

 

「クラブでプロやってるらしいじゃないの? 景気はどう」

 

 お凛はニヤニヤと自分が紹介したクラブのことを尋ねてきた。

 京太郎は良いお師匠さんに巡り会えたから景気は物凄くいいよと言い、美味しいご飯が毎日食べられているとにこやかに告げた。

 

「じゃあ、私のスナックにも来てちょうだいよ!」

「俺、未成年ですよ?」

「コーラを大量に用意しておくから♪」

 

 京太郎は苦笑いに近い愛想笑いを見せてサイコロを回した。

 久しぶりにサイコロを回しているとドサ健や上州寅のことを思い出す。よく考えれば、自分の博打打ちとしてのはじまりはこのチンチロ部落からだと酷く思う。そして、流れ流されて社会的にみたらプロ雀士として生計を立てている。

 京太郎は胸がいっぱいだった。

 部活で麻雀を打っている頃とはまったく違う、圧倒的な成長と際どい勝利の連続。それが現代に居た頃の京太郎の消えかけていた麻雀に対する認識、そして、何よりも重要な勝利への欲。喉から手が出るほど欲しいと思える欲が芽生えた。

 誰がどう見てもプロ雀士、麻雀で生活しているプロ雀士、雀ゴロなんていう輩とは違う。本物の麻雀打ち。

 京太郎にとって、今、今この時代に打つ麻雀こそが本物の麻雀。

 オカルトを駆使する打ち手なんかよりずっと、ずっと戦っている快感が得られる。勝利の美酒に酔える。

 だからこそ、薄れてきた。オカルトに対する恐怖が......

 

「いたいた! 京太郎さん!!」

 

 ママのクラブのバーテンダーが青褪めた表情で部落の中に入ってきた。

 京太郎は酷く不思議そうな表情で何かあったのかとバーテンダーに尋ねてみる。するとママが旦那さんが会わないといけないのに横浜で米兵達がママの足止めをしている。だから、代打ちとしてすぐに店に向かって欲しい。車は用意していますからと答えた。

 京太郎はお凛にチンチロで勝利していた二百円をコーラの仕入れ代だと渡してバーテンについて店に向かった。

 

 ◆◇◆◇◆

 

 京太郎はバーテンダーにママは誰と麻雀を打っているのかと質問したが、米兵とだけ告げてそれ以外は知らないと答えた。

 これは京太郎の持論だが、ママは旦那に会いに行くついでに知り合いの店に顔を出して成り行きで麻雀を打ったんだ。そして、米兵達がママを拘束して、代打ちとして自分を連れて来ている。酷く不毛利な内容だが、ママには色々と恩がある。それに、数居る知り合いの中で自分を選んだことを誇らしく思った。

 京太郎は煙草を咥えてゆっくりと暗くなっていく空を見上げた。

 

「ママの時間は間に合うのか?」

「八時までに来れれば十分です。横浜に着いたらすぐに代わってくれれば問題ありません」

「わかった」

 

 京太郎は二口しか吸っていない煙草を窓から捨てて復興が進んでいる街を眺めながら横浜の街まで向かった。

 

 ◆◇◆◇◆

 

 ようやく横浜に到着し、バーテンダーに案内されるまま道を歩いていると米兵達の姿が増えてきた。そして、甘い危険な匂い。他の言い方を使えば流れの歪みを感じはじめる。

 近い。ママは近いと京太郎は直感的に感じることが出来た。

 そして、バーテンダーが足を止めた三階建てのビルを見ると日本語で皮肉めいた言葉が書かれていた。

 日本人立ち入り禁止。

 京太郎は今日もまた米兵かと苦笑いを見せて店の中に入った。

 京太郎は気付いていなかったが、今日は十三日の金曜日だということを......

 

 

 

 




 次回、不吉な金曜日が終了します。
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