京太郎放浪記   作:偶数

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 オリジナル作品の執筆に執着していて、二次創作に力が入りません。ですが、麻雀を打ちたくなって、気分が乗ったら、この作品は確実に書くと思います。


夜明けの譜 1−1

 清水さんに紹介してもらったクラブで打った後に、上野のカニ屋に足を運んで、高い夕飯にありついていた。京太郎が物静かに夕飯を食らっているとドサ健が店の中に入ってきた、浅黒い少年二人を連れて。

 

「よお、景気はどうだ?」

「高級住宅街に家一軒建てられるくらい」

「それは凄い。あのクラブは潰れたし、他の場所で打ってるのか?」

「まあ......でも、危険な場所だから毎日は行きたくない」

 

 京太郎は白米をガツガツと口の中に運び、代金を置いて出て行こうとする。だが、ドサ健になだめられて、もう少しカニ屋に留まることになる。

 

「酒でも飲むか?」

「いいよ、趣味じゃないから」

「なら、ジュースはどうだ? ラムネくらい置いてるだろ」

「それなら、後ろの二人に飲ませたらどうだい? 俺よりずっと子供でしょう」

「違いない!」

 

 ドサ健は後ろの二人にラムネを注文し、京太郎には水を頼んだ。

 京太郎はドサ健の服装を見て、麻雀で何かしているのだろうと思った。この時代に賭け事で人財産を築いた人間は多い。京太郎も数年間は豪遊できる程の資金を麻雀で蓄えている。だからこそ、自分と同じように麻雀で成功している者が理解でいるのだ。

 

「日本は復興しているぜ」

 

 ドサ健は出された酒を飲んで、一息入れる。そして、熱く語り始める。

 

「平和日本の構築だってよ。だが、ごまかされてはいけねぇ。平和なんてこの世界にあるものか。平和なんていう甘い言葉に乗せられて、世間と仲良く手を取り合ったつもりでいると、俺達みたいな狼に喰らい尽くされる。世の中は弱肉強食、食うか食われるかなんだからな。そうだろ? 京太郎」

 

 冷たい水を口の中に含んだ。

 

「俺達たちが、豚みたいにじゃなく生きていくには、自分流の生き方、頑固な地面を作るしか無いんだ。おまえだって、そう思うだろ?」

 

 京太郎の頭の中に走馬灯のように部活で打った麻雀の景色が流れた。そのすべてが運、不運では解決できないような、不可解な負けの連続。そして、敗北の連続。人はこの敗北を努力の差と呼ぶ。だが、努力を怠っていなかった京太郎にとってみたら、それは努力とは表現できない、実力とも表現できない、まるで、能力のようなものに感じられた。

 

「俺ぁ、今度社長になったぜ」

 

 ドサ健が誇らしくそう告げた。

 

「なんの会社なんだい?」

「博打会社さ」

 

 京太郎は水をもう一口飲んだ。

 

「なるほどね」

「わかるのか?」

「わからないけど、なんとなく理解できた」

 

 ドサ健は高らかに説明した。

 賭博といえば麻雀だ。これに限る。それに、麻雀は運じゃない。腕も必要になる。それに、複雑だから面白い。すぐに日本中のバカ達がやりはじめるに決まってる。サイコロやバッタ、花札の時代は終わったんだ。

 

「今じゃあ、この辺りにも十件近い雀荘が出来てやがる。その雀荘から俺のところに客を増やしてくれって、頼みにくるんだ」

「十件全部かい?」

「まだ、そこまでじゃないが、直ぐにそうなる。それくらい、俺に頼めば顕著に人が増えるんだ。俺の言葉だけでな」

 

 京太郎はドサ健の言葉が真実なんだと理解した。そして、ドサ健の行動力に驚いていた。

 

「そのうち、すべての店が俺にやっかいになるだろうよ」

「つまりは、愚連隊ってやつだね」

「まあ、そうだ――」

 

 ドサ健は苦笑いを見せながらも、続けてこう告げた。

 

「だが、もっと高級なこともやってる。汚れ仕事ばかりをするわけじゃないんだ。なあ、京太郎。おまえも来ないか?」

「来ないか? 社員としてかい」

「ああ、社員としてだ」

 

 後ろの少年二人を見つめて、あいつらも社員なのかと京太郎は質問した。

 

「そうさ」

「難しい仕事が出来るようには見えないんだけど」

「あいつらにやらせてるのは店の下調べだけだ。たいして難しくない。その下調べを俺が帳簿につけて、良い客が居たら他の社員を出向かせて、他の場所に鞍替えさせる。簡単だろ?」

 

 京太郎はそれもそうだ、と、頷いた。

 ドサ健は酒をもう一杯注文した。

 

「今、あいつらは寅に世話をさせてんだ。どうだ、適任だろ?」

 

 最近、寅さんと会っていないが、こんな仕事をしていたのか。

 

「子供が好きそうには見えないけど、寅さんも妙なところで活躍してんだね」

「違いない」

 

 ドサ健は新しい酒に口をつけて、ゆっくりと京太郎に告げた。

 

「なあ、デカイ仕事があるんだ。組まないか?」

「組む? 健さんとかい......」

「ああ、ドサ健と、坊や京だ。このコンビはいい。いいコンビになると思うんだ」

 

 京太郎は少し悩んだ。この仕事を受ければ、健さんの部下となって安定した金が入ってくる。だが、群れたところで手に入れられるのは緊張感に欠ける虚しい勝利だけだ。京太郎は頷くことは出来なかった。それをよく理解していたからだ。

 

「ごめん、健さん」

 

 京太郎は悲しそうにそう告げた。

 

「せっかくだけど、俺は、誰とも手を握りたくないんだ。手を握ったって、俺に平和は来ないし、心が踊るような対局なんて出来やしない。――安定なんて、博打打ちに対する冒涜だろ?」

 

 京太郎はゆっくりと立ち上がり、カニ屋を出た。

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