京太郎放浪記   作:偶数

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 イカサマは基本的にやらないので表現が難しいです。


夜明けの譜 1−2

 暮から正月は、よく稼げた。

 ほとんど連日、清水さんから教えてもらった唯一のクラブで牌を握った。

 京太郎は清水のことを心配して、彼のことを心配して色々と情報を集めたのだが、それでも、彼に関する情報はすべて消えていた。まるで、彼が物語の中で必然的に消えてしまわなければならないように。

 別に、清水のことを好いていたわけではない。だが、彼を極端に嫌っていたわけでもない。彼から教わることも多かったし、自分の知らない技も多く持っていた。だから、京太郎は彼のことをある意味師匠のように感じていたのだ。

 京太郎は時に技を警戒しつつも、殆どが普通に打つことが多かった。理由は単純で、あのクラブに来る連中の殆どが余った金を心揺さぶられるギャンブルに費やしたいと思うような、薄汚い金持ちだけだったからだ。この時代、金を持っている人間は多く居た。東京は焼け野原になり、新たに何かを作り出すことが容易になっている。建造業界などは、それが顕著である。

 京太郎は時に負けることも覚えた。いや、元々から負けることは覚えている。ママの教えを忠実に守り、客の足を渋らせるよには絶対にしなかった。七対三、これが現状の京太郎の勝率。現状の黄金比率であった。

 京太郎は溜め息を吐き出し、肥えた財布を確認する。十代後半の青年が持つには大きい額だ。それに付け加えて、銀行にも大量の金を預けている。だが、金なんてどうでもいいのだ。一日を乗りきれるだけの金があれば、それで満足。それなのに、自分は金のために麻雀を打っているということを薄々だが、感じている。

 自分は金のために麻雀を打ちたいのではない。自分の幼馴染、同級生、先輩、そのすべてを実力で捩じ伏せたいのだ。もし、それが出来るのであれば、こんな金なんて溝に捨ててしまえる。だが、それは出来ない。彼女達には、能力が備わっている。まるで、牌、役に愛されているような能力が。だからこそ、京太郎の心は、自分が手に入れた金を見るたびに落ちていく。

 

「今の俺ならー―勝てるか?」

 

 京太郎は新しく出来たレートの安い雀荘に足を踏み入れた。

 偶には、金のことなんて考えずに麻雀を打ちたいと思ったのだ。

 中に入るとこの雪が降り、寒い中でも卓は満員になっていた。そして、賭け事が好きで、金を持っている人間というよりかは、仕事帰りのサラリーマンのような人間が騒ぎながら牌を握っているように見えた。

 京太郎の先輩、染谷まこの実家の雀荘に少しだけ雰囲気が似ているように思えた。

 

「すまないね、満席なんだ」

「いいよ、麻雀は大人気だからね」

 

 京太郎は店の中を見渡しながら、サラリーマン達の楽しげな表情を眺めた。

 ーー一瞬で理解できた。こんな和気藹々とした場所に、玄人が紛れ込んでいる。それも、生半可な玄人ではない......。

 視線の先には、サラリーマン達とは対照的に無表情で牌を握っている老人が一人いる。

 

「山を積むのが早い」

 

 玄人は麻雀で飯を食べている。だからこそ、誰よりも早く地山を積みあげなくてはならない。仕込みを入れないといけない。それは普通に打っている時にでも癖のように出てしまう。

 今日は強敵と呼べるような存在と打ちたい気分ではなかった。サラリーマン達と混じり、呑気に闘牌を繰り広げたい気分であった。だが、運命のように玄人の老人の卓が空いた。必然的に京太郎はその卓に座り、老人の顔を見つめた。

 

「坊や、何か俺の顔に付いてるか?」

「い、いいえ......」

 

 京太郎は最初は普通に打つことを考え、仕込みを入れることなく山を積み上げた。

 サイコロを回すと老人の山からの取り出しだった。

 牌を四枚ずつ取り、自分の配牌を睨んでみるとーー信じられないものが入っていた。

 

 {東東東南南西西北北發18八}

 

 京太郎は老人を見た。飄々とした表情をしている。

 これは小四喜、大四喜爆弾だ。だが、なぜ、自分にこんな手を? サイ振りに失敗した? それとも、わざと......。

 一巡目に{西}が出た。京太郎は迷わないでポンをした。

 そして、また{南}が出た。これも迷わないでポンをした。

 そして、これまた{北}も場に出たのだ。

 京太郎は冷や汗を流し、老人の顔を眺めた。だが、やはり飄々としている。

 

「へへえ、大物が出来たね」

「ええ、怖いですよ」

 

 いや、本当に怖いのはこの老人なのだ。

 

{東東東發} {横西西西}{横南南南}{横北北北}

 

 京太郎は少し失敗したと思った。大四喜、字一色を狙って{發}を残したが、この{發}は老人の山から出てきた牌なのだ。だから、老人がこの{發}を握っていることはわかっている。なら、このダブル役満は成立する可能性がゼロに近い。

 京太郎は必死に積み上げた自山の牌を思い出した。そして――ツモ牌をずらしてすり替え、卓に叩きつけた。すり替えた牌は{發}。和了牌である。

 

「ツモ、大四喜、字一色」

 

 老人はニヤリと笑い、懐から金を取り出して卓の上に投げた。

 

 ◆◇◆◇◆

 

 京太郎の親になった。

 正直、老人の意図がわからなかった京太郎はあの役満の仕返しをすることにした。

 自山からの取り出しにするようにサイを振り、老人に大三元を積み込んだ。

 老人はニヤリと笑い、ツモ牌を河の必要な牌とすり替えて大三元を和了した。

 京太郎は老人の真似をして何も言わないで金を卓に投げた。

 

「坊や、おまえさん、どこでそれだけの技を覚えた?」

 

 老人が京太郎と同時に雀荘を出て、外に出た瞬間にそう尋ねた。

 京太郎はすこしムッとした表情で、爆弾を使えないと大勝負は出来ない。元禄を使えないと客を楽しませることが出来ない。技を使えないと麻雀を打つことが出来ない。と、老人に刺がある口調で告げた。すると、老人は高い声で笑い、裏で磨いたんだな、と、京太郎を褒めた。

 

「俺の家で飲まないか?」

「どうしてだい」

「おまえさんにもっと面白い技を教えてやりたくてな......?」

 

 技、その言葉が京太郎の心を掴んだ。

 この頃、京太郎は金なんかよりも、心躍る勝利や技に心を奪われいていた。だからこそ、この老人の『技』という言葉につられてしまった。

 

「――俺はこの辺りでは出目徳といわれておる」

「――京太郎、須賀京太郎です」

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