京太郎放浪記   作:偶数

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 あんまり物語を長く書きすぎると著作権侵害になるので、リスペクト程度に書かせていただいています。


チンチロ部落 1-2

 ドス黒い雲から大粒の雨が降り注ぎはじめた。

 だが、みすぼらしい小屋にいる全員がこの大雨のことなんて気にすることなくただただ、三つのサイコロの目を争い、さかっていた。

 少年は場に到着した瞬間に生唾を飲み込んだ。一回の勝負に高くて百円、安くて二十円という大金が動いていた。それも一回の勝負が非常に一瞬のため、勝負に慣れていない少年には少しばかり刺激が強いようだ。

 寅は少年から渡された十円札十枚を握りしめて、もう一度このチンチロ賭博の輪の中に入った。少年もそれにつられてゆっくりと輪の中に着する。隣は上州寅とこの場所で二番目に年の若いドサ健と呼ばれた男だ。

 

「チンチロリンか......」

「わかるのか?」

「流石にやり方くらいはわかるよ」

 

 少年は気負いながらも場の流れをゆっくりと確かめる。

 チンチロ、正式名称チンチロリンとはサイコロを使用した賭博の代表格の一つである。それに付け加えてサイコロ三つと丼か茶碗さえ有ればすることの出来る。それにサイコロを茶碗に投げるという動作はイカサマをしにくく、サイコロはチンチロリンと甲高い音を立て跳ねるのでサイコロに工夫をしないかぎりイカサマは不可能と断言してもいい。

 出目は至って簡単、二つ重なった二つの目とそうでない一つの目、そうでない目の方が数字になる。つまり、『2・2・1』ならば出目は一、『2・2・6』ならば出目は六となる。それ以外にも四五六『4・5・6』と呼ばれる倍付けの目がったり、一二三『1・2・3』と呼ばれる倍返しの目があったりする。ゾロ目は二~六までのゾロ目は三倍付け、一のゾロ目は五倍付けになる。

 

「坊やは賭けないのか?」

「......場についてすぐに賭けるのは愚かだろ? 少しだけ流れを見たいんだ」

 

 少年は揺れる心を押さえつけてゆっくりと場の流れを見極めようとする。

 一回の勝負の流れが早いと同時に運の流れが見分けやすいチンチロは誰が上がり調子なのか、落ち目なのかを理解しやすい。出来れば全員が親をして、一周した時に金を掛けたほうがいい。麻雀とは違う運の探りあいなのだ。

 男達はゆっくりと流れを探っている少年のことなど考えもしないで自分達の種銭を少しでも稼ごうと大きく掛けたり、自分の第六感を信じて掛け金を下げたりしている。それはまるで愚直に前進し、時に敵兵を殺し、時に殺される兵士に似ていた。逃げる姿、後退する姿などない。

 ようやく全員が親をして、もう一周目に入った。少年は流れをある程度把握し、親で大勝した小太りの中年に親が回ってくるのを待った。寅の方は着々と種銭を減らし、自分に運が無いことをシミジミと痛感している。

 

「百円張らせてもらいます」

 

 小太りの男が親を引く受けたと同時に十枚の十円札を畳の上に置いた。

 

「京! 流石に張り過ぎじゃないか?」寅は冷や汗を流しながら少年の掛け金を心配する。

「寅さんも張ったほうがいい、そんな気がするんだ」そんな言葉は知らないと少年は告げる。

「なら、俺も張らせてもらおうかな」隣のドサ健という男が五枚の十円札を畳に置いた。

 

 寅は狂っていると十円だけ畳に置き、少年の考えを見抜こうとした。

 チンチロリンと甲高い音が小屋の中を響き渡り、親が出した目は『1・2・3』全員に倍返しである。

 悔しそうに掛けた人間達に金を払う男は何故、こんな目が出たんだと心底悔しそうに表情を歪めた。だが、少年にしてみれば、これは必然的な勝利、勝つべくして勝ったのだ。

 

「驚いた、ここまで運の流れを理解できる奴がいるなんて......」

 

 ドサ健はニヤリと笑い、倍の数字の百円を懐に収めた。

 寅の方もこれは少年の理論に乗るしかないと少年が降りたら降りる、少年が張ったら張ることを心がけた。

 

 ◆◇◆◇◆

 

 少年は凱旋をするように札束を数えながらゆっくりとまだまだ復興の進んでいない街を歩いた。その後ろには上州寅とドサ健も続いている。

 

「雑に数えて千二百円は勝ってるぜ......」

「今日はよく勝たせてもらったぜ」

 

 二人は大勝と札束の香りに心を踊らせ、この金をどう使うかと頭を悩ませている。

 

「じゃあ、俺はこの辺りで失礼しますね」

「家に帰るのか?」

 

 少年が失礼すると言った途端に寅は心配そうに顔を覗き込む。何故なら、寅が知る京という人間は空襲で家族を全員なくし、家も燃えている。なら、帰る場所などとうにないはずだ。

 少年はバツが悪そうに真実を上州寅に告げる。

 

「寅さん。ごめん......俺騙してたんだ。俺は寅さんが言う京という人じゃなくて、須賀京太郎。それが本当の名前なんだ」

「え?」

「稼ぎ場所を知りたくて騙したんだ。ごめん」

 

 寅はポカンと放心状態になるが、この金を作ってくれたのは京太郎という少年であり、自分の知る京という人間とそう変わりがないと思った。それに何より、京太郎は自分なんかより運の張り合いをよく理解している。今、この少年との縁を切るのは愚策だと思った。

 

「......おまえが京太郎だとしても、俺の中では京だ。また合ったら博打を一緒に打とうぜ」

「その時は俺もよろしくな」

 

 上州寅とドサ健は京太郎の肩を叩いてその場を後にした。

 京太郎は手に入れた金を握りしめて、ゆっくりと安宿に向かった。これが最初の大勝である。

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