チンチロ部落についたと同時に京太郎はチンチロリンと甲高い音色を奏でるむさ苦しい男達の輪に入り、昨晩と同じように流れを見極めようとする。そして、同じように全員が親を経験したと同時に自分も賭けを開始する。だが、昨晩のように大きな額を賭けるわけではなく、十円や二十円と小幅な金額でビギナーズラッグだったのか、それとも自分の理論が正しかったのかを確かめる。
「あら、新しい顔の人がいるじゃない? それも中々の顔ねぇ~」
お凛と呼ばれるオカマが京太郎を舐めるように見つめる。
嫌な予感がした。このオカマ、何か仕掛けをしている。京太郎の第六感がそう叫び、お凛が親の時に賭けることを躊躇させた。
「じゃあ、私の親ね! さあ、賭けて賭けて!!」
京太郎は十円札を畳の上に置こうとしたが、ざわりと嫌な汗が流れ、それを躊躇った。
「ごめん、降りさせてもらうよ」
「何よ! 賭けたんなら降りちゃダメでしょ!?」
「いいじゃないか、まだ振ってないんだから」
周りの客に助けられて賭けるのを取りやめることが出来た。
「(何なんだ、この違和感は......)」
京太郎はお凛が親を引き受けたら降りることを繰り返し、ようやくこの違和感の正体に気がつくことが出来た。こいつ、サイコロに仕込みを入れていると......
本来ならば問い詰めるのが筋なのであろうが、京太郎はそれをしなかった。この場所には、この場所の賭け方がある。それに、もしこの仕込みを入れたサイコロについて脅せば、ここ以外の賭博場を紹介してもらえる可能性も少なからず存在すると思い。指摘することはなかった。
「おお、京太郎、来てたのか」
ドサ健が部落に入ってきて京太郎の隣に腰を下ろした。そして、来たばかりの京太郎と同じように全員が親を務めるまでゆっくりとその場に座るだけという行為を繰り返す。
「今日はあんまり賭けてないようだな」
「うん、今日は昨日の勝負がビギナーズラッグじゃないかを確かめてるんだ」
「ビギナーズラッグ? 何だそりゃ......」
京太郎は初心者が運がよく勝つことだよとドサ健に説明する。するとそうか、俺も初心者によく負けてすっからかんになるんだよと高笑いしながら背中をドンドンと叩いた。だが、京太郎と同じくこの場にいる人間の運の流れを鋭く観察していた。
全員が京太郎とドサ健以外が親を経験したと同時に京太郎は細い金額から、太い金額へシフトチェンジした。だが、絶対にお凛の時に賭けることはなく、絶対に勝てる相手から確実に金を毟り取る。昨晩と何らかわりのない賭け方だ。
「流石は京太郎だ、冷徹なまでに運の流れを理解してやがるぜ......」
ドサ健は冷静に場の流を読み、自分の運で他人の運を食らう勝負師として最も必要なものに惚れ惚れしていた。もちろん、その勝負師として必要なものはドサ健も持ち合わせている。だが、切れ味が違う。絶対に勝つとわかっていても生半可な気持ちで賭けられるわけじゃない。時にも勝てる勝負も放して逃げ出してしまうこともある。だが、京太郎は絶対に放さない。食べられる獲物は絶対に食らう。底知れない勝負師の器だ。
「どうだ、親をやったらどうだい?」
京太郎の真正面に座る君の悪い男が親にならないかと提案してくる。
「いや、今はまだ早いような気がするんだ。もう少し流れを読ませてください」
京太郎が親を引き受けるのは本当に自分に運があると思った時だけだ。本来、親というのはそれ相応の覚悟がなければ引き受けてはならない。もし、生半可な気持ちで親を引き受けたら自分より運の強い奴に飲み込まれて有り金が全て飛んでいってしまう。
「お金を持ってるのに親を引き受けないのは卑怯よ!?」
「貧乏なんですよ......」
イカサマをしているくせにと少しだけ頭にきたが、それでも、一日でも多く食事にありつけるようにするためには機械的に勝負し、機械では図ることの出来ない運の流れを理解しなければならない。理系脳と文系脳の融合が賭け事で勝つ方法の一つだ。
「じゃあ、親を引き受けますね」
自分の隣二人が親を引き受けて大敗したと同時に京太郎は親を引き受けた。嗅ぎつけた、親で勝利するタイミングを。ドサ健はこれは今日は京太郎の一人勝ちだと苦笑いを見せて十円札を一枚だけ置いて、その場を去った。
チンチロリン、出た目は『四五六』倍付けである。
◆◇◆◇◆
京太郎は二夜連続して勝利した金を使って、闇市におもむき購入したコーラやチョコレート、ビスケットを持って今日出会った神父がいるであろう教会へ足を運んだ。すると教会の前で楽しげに遊んでいる子供達がいる。
「なあ、君達」
「ん? なに」
「おっきな箱だね」
子供達は無邪気に京太郎の前へ近付き、何しに来たのと質問してくる。
「神父さんに伝えてくれないか? 貴方の優しさに馬鹿な博打打ちが心打たれたって......」
「うん、わかった!」
子供達に箱を渡して、京太郎は次の賭けが出来る程度の金を持って安宿に向かった。
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