京太郎放浪記   作:偶数

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最初の天和 1-2

 京太郎はゴクリと生唾を飲み込んで自分の手牌を覗き込んだ。

 配牌は並、よりは少し悪い程度だ。

 平和を作ろうと守り重視でゆっくりと打ち回していると対面に座る鷲鼻の大男が簡単にタンヤオをツモ和了した。

 京太郎は気を引き締めて自分の出せる力を全て出し切って勝利することを考える。

 

「チー、チー、チー......ロン、一通」

 

 アルシーアル麻雀では鳴いて役がなくとも和了することが出来る。それなら、守りこそ薄くなるが確実に役を作り相手を翻弄することが出来る。だが、危険なら確実に降りる押し引きが必要だ。

 次の配牌は鳴かないで作ることが出来る物だったので、ゆっくりと門前で手を作り上げて――

 

「リーチ」

 

 この時代に登場した役の名前を高らかに叫んだ。

 すると次の順にツモ和了し、

 

「リーチ、門前、平和、タンヤオ」

 

 この局は京太郎の独壇場だった。日本式麻雀で培ったセンスと守りの技術で放銃を一度も許さないでジワリジワリと点差を広げ、この半荘は圧倒的な勝利で幕を閉じた。

 米兵達は若干の苛立ちを見せながら信じられない枚数のお札、それも全て百円札を卓の上においた。

 震える手をどうにか押さえつけて、お札をゆっくりと手に取った。

 体中に行き渡る脳内麻薬、それを分泌させるのにこの大金は少なくはない額であった。

 スーツのポケットの中に全てのお札を収納して水を一杯くださいと後ろで点数を教えてくれていたママに頼む。するとわかったわと言ってガラス製のコップに入った水を一杯持ってきてくれた。

 まだ手が震えている。右手に持たれたコップの中の水がブルブルと震えているのがよくわかる。

 

「京太郎、小便に行こうぜ」

「ああ、わかったよ......」

 

 ドサ健が対局が終わったと同時に京太郎をトイレに誘った。

 

「はじめて聞く役ばかりで物凄く緊張したぜ......」

「何位だったんだい?」

「ん? 一応は二位で場代と一週間分の飯代は手に入れた。でも、今日は流れが悪い。先に帰らせてもらうぜ」

 

 ドサ健も手が震えているのが見えた。

 京太郎はポケットの中に入っている札束を握り、自分自身にまだ自分に流れがあるかどうかを尋ねてみる。返事はない、ただ、あるのは心臓のゾクゾクとした気味の悪い音色だけだった。

 ドサ健はそのまま店を後にして店に残ったのは京太郎だけになった。

 

「ママさん、今日はもう帰るよ......」

 

 点数計算をしてくれていたママにそう告げるとさっきまで麻雀を打っていた米兵が京太郎の元にやってきてもう一局打てと言ってくる。

 正直、京太郎はこれ以上勝負をしたい気分ではなかった。これ以上の勝負は自分の心の揺れ方が尋常じゃないし、あの大量の札束が出された瞬間がフラッシュバックする。もし、その札束が自分の持っている札束なら? もう勝負をしたくないと思うのは当たり前である。

 だが、この店にいるすべての米兵達が京太郎のことを睨みつけた。そして、威圧感がゆっくりと京太郎を卓につかせるのだ。

 米兵が下手糞な日本語で京太郎にこう告げる、差し馬をやらないか? と......

 差し馬とは、麻雀の勝負においてどちらが上の順位かを争い、もし、自分が相手より低い順位ならば差し馬で提案された金額を払い。逆に高ければそれを受け取る。

 京太郎は首を横に振ろうとしたが、周りの米兵達がそれを許さない。

 

「チー、チー、ロン」

 

 先ほどと同じように鳴きを駆使した戦術で少しずつ相手を翻弄する。

 流れ自体は京太郎に存在した。配牌もツモも、そのすべてが京太郎の肩を持ち、連勝の香りが漂い始めた。

 だが、違和感が京太郎の背中を漂いはじめた。

 さっきまでの流れが消え失せ、米兵達が少しずつ和了しはじめてきた。流れが尽きた瞬間である。

 広げていた点差が徐々に迫ってきて、京太郎は青褪めた。だが、まだ、自分がトップに立っている。負けていない、逆に勝っているんだと言い聞かせて牌を握った。

 

{⑧⑥北⑧32北⑦1北北⑧三三}

 

 こんな配牌が入ってきた。京太郎はこれがテンパイしているとは思わず、とりあえず{北}をカンした。

 すると嶺上牌は{⑤}だった。

 京太郎は冷静に綺麗に手牌を並べていると思いもよらないとダラダラと汗を流し――

 

「つ、ツモ......天和」

 

 その場に居合わせた人間が唖然とした表情になる。確かに和了っているのだ。

 

「おい! それのどこが天和なんだ!?」

 

 対面に座る鷲鼻の男が目に見えた苛立ちを見せながら京太郎に掴みかかった。

 京太郎は凛とした表情でこれが天和以外の何なんだと逆に質問すると鷲鼻の男は二回ツモしているのだから天和は消える。これはただの門前と嶺上開花だと主張した。

 すると後ろに立っていたママが鷲鼻の男をなだめて、流石に天和は無理だから満貫で許してあげてと京太郎に提案した。京太郎は周りの視線に負けて満貫分の点棒を受け取り勝負に戻った。

 京太郎にもう一度流れが戻り、勝利が確定的となった。

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