京太郎放浪記   作:偶数

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最初の天和 1-3

 流れは完全に京太郎のもの、そして、今はもうオーラスだ。

 勝利は確定的であり、京太郎以外のこの場で牌を握っている人間に勝機などない。あるとするならば、京太郎が満貫、または役満を振り込まないかぎり。

 京太郎は波打つように跳ねる心臓の音に酔いそうになる。だが、これを超えたら最初の勝利の金額の倍が自分のものになる。欲が体中を巡り、その欲が米兵達の運を吸い取る。

 

「ん?」

 

 京太郎は違和感に気がつく。下家の米兵が不可解なまでに山を整えている。それ以外にも対面の鷲鼻の男がツモる時に一枚手牌が減っているような気がする。

 

「(――まさか!?)」

 

 京太郎は目を凝らしてこの場にいる全員の動きを深く観察した。するとボロボロと下手糞なイカサマを披露しているではないか。

 京太郎は鷲鼻がツモる瞬間に腕を掴み、手の中に含まれている二枚の牌を指摘しようとする。

 ガチャリと金属音が響き渡り、その場にいる全員を凍りつかせた。

 上家の差し馬をしている米兵が『M1911A1』と呼ばれる拳銃を京太郎に向けて引き金を引く準備をしている。あと少し指が動けば、撃鉄を叩いて45ACPが発射される。

 

「ジャップ、汚い手で触るんじゃない」

「ジャック! 店で銃を抜くのは禁止だよ!!」

「黙りな、こんなジャップ風情が俺達に歯向かうからだ」

 

 京太郎は恐怖で体が震える。もし、この手を放さなければ自分の命は消え失せる。だが、ここで手を放してしまえばチョンボとして満貫払いで自分の敗北が決まってしまう。

 米兵達はニヤニヤと京太郎の選択を眺めている。

 京太郎はゆっくりと手を放した......

 

 ◆◇◆◇◆

 

 ボロボロの雑巾のように殴り潰され、有り金を全て奪われ、そして、心に多くの傷を彫りつけられた。

 殺してくれと小さな声で呟く。だが、京太郎を殺してくれる人間なんていない。

 京太郎は血の味がする口で大きく息を吸い込み、自分が出せる全力の声で馬鹿野郎と叫び散らかした。

 

「......日本は戦争に負けたが、日本人は負けてないんだよ!!」

 

 涙と鼻水を流し、雲一つない大空に暴言を吐き続けた。

 だが、勝負の世界では引いた者が敗者。あの場所で銃を抜いた米兵を非難した者は存在せず、逆に掛け金が足りていなかった京太郎を非難するものが殆どだった。

 

「米兵なんてあんな奴らばっかりだよ。坊や、あそこでよく手を放せたね......偉いよ」

 

 バーのママが泣いている京太郎の元へやってきた。だが、そんなことは気にしないで京太郎は夜空に暴言を吐き続けていた。それくらい悔しく、そして、苦しいのである。

 ママは京太郎に肩を貸して自分の家に連れて行った。

 

「坊やは偉いよ。意地を通して死ぬより生きることを選んだ」

「死んだ方がカッコイイですよ......手を放した自分が情けないです......」

 

 ママは京太郎の頬を思い切り叩いた。そして、優しく、強く抱きしめた。

 ママは説教をするように死んだ方が良いなんて考えるな、生きていたら良い事もあるし、美味しいものが食べられる。楽しい賭博も出来るし、お酒も楽しめる。煙草も吸い慣れたら美味しい。生きていれば楽しいことが絶対にあると......

 京太郎はママに案内されるまま、ベットに転がり、体を何度も重ねあった。

 彼女と体を重ねると自分の辛い思いを忘れることが出来た。

 何故、戦後初期の日本にタイムスリップしたのか、

 何故、自分が麻雀で勝てなかったのか、

 何故、牌に愛されないのか、

 何故、好きな人は振り向いてくれないのか、

 そんなのどうでもよくなった。ずっと恋心を抱いていた原村和の姿さえ忘れ、ただ、ママと体を重ねた。

 そして、どんな時よりも深い眠りに付くことが出来た。

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