京太郎放浪記   作:偶数

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不吉な金曜日 1-2

 京太郎は朝から晩まで稼ぎに行くことを忘れて積み込みの練習を行った。

 そのお陰である程度の速度で積み込むことが出来るようになり、一色元禄、三元牌元禄を仕込むことが出来るようになった。勿論、実戦で使用できる領域の完成度だ。

 それ以外には、左手芸、爆弾、キャタピラ、ドラ表示牌すり替え、ギリ技などなど、サマ師として十分過ぎる程の技を習得した。正直、習得し終えて達成感よりもイカサマにすべてを頼ろうとしている自分が恥ずかしくなったと心のなかで思っていた。

 

「坊やも大分、様になってきたじゃない。次の段階に移行しようかしら」

「次の段階ですか?」

 

 ママは箪笥の中から煙草を取り出した。

 銘柄はゴールデンバット、日本で最も歴史がある煙草だ。

 

「次は通しと壁の練習をしましょう」

「通しと壁?」

「ええ、今から説明するわ」

 

 ママは通しと壁について説明した。

 通しとは、コンビで麻雀を打つ際に自分の和了り牌を教えたり、卓下での牌の交換の際に使用する特定のサインのことである。通し有ってこそのコンビ打ち、通しが無ければコンビ打ちは成立しない。

 壁とは相手の手牌を見て聴牌しているか、聴牌しているのなら和了り牌を教える人間のことである。これも通しを使用する。

 京太郎はママから通しのやり方を教えてもらい、必死に暗記した。

 

「通しは煙草を使うのが一番手っ取り早いわ」

「煙草ですか......俺、未成年ですよ?」

「いいのよ、貴方くらいの子供が煙草を吸ってるなんてふつうのことだから」

 

 京太郎は渋々ゴールデンバットを受け取り、一本口に含んで火を付けて吹かしてみる。

 

「それは吹かしているだけよ、こうやって吸うのよ」

 

 ママはバットを取って口に含み、呼吸をするように煙を吸って、ゆっくりと吐き出した。

 

「両切りタバコだからあんまり煙を吸い込み過ぎるのはダメよ。煙が濃いからね」

「わかりました......」

 

 京太郎ももう一度煙草を受け取り、ゆっくりと肺の中に煙を入れた。

 

「ゲホッゲホッ!?」

「まあ、肺に入れたそうなるわよね。少しずつ慣れなさい」

「はひっ......」

 

 ◆◇◆◇◆

 

 煙草を加えて壁役のママの姿を見る。まだ聴牌はしていないが、高い手だから振り込むな。そう通している。京太郎はママの危険信号が出るまではゆっくりと打ち回し、危険信号が出た瞬間に現物を叩いていく。

 ママが卓に入った時は煙草を使った通しで客と善戦する。

 イカサマを使う客が現れた時は完膚無きまで叩き潰し、プロたる由縁を見せつける。

 京太郎はまだまだ半人前だが、プロとして麻雀を打てるようになった。

 

「坊やもこれでプロの仲間いりね」

 

 ママは京太郎のことを優しく褒めた。だが、京太郎は下を向いて溜息を吐き出した。

 

「不思議なくらい勝てますね。そして、不思議なくらい客を喜ばせられますね......」

「ええ、それがプロですもの」

「――でも、麻雀本来の面白さはない」

 

 虚ろな瞳で星々が輝く空を見上げる。

 京太郎は運の流れを誰よりも理解して際どい大勝を続けてきた。だからこそ、価値の確定した戦いに快感を得られない。本来、ギャンブルというものは、不安定な確率の中で勝利する快楽を味わうものなのだ。その不安定な確率が100%の勝利に豹変してしまえば、快楽など存在しない。ただの作業に変わってしまうのだ。

 ママは京太郎の頬を思い切り殴った。パーではなく、グーでだ。

 京太郎は地面に這いつくばって何故、自分が殴られたのかを考える。だが、答えを出す前にママがその答えを高らかに説明した。

 

「坊や! 確かにアンタの流の読み方は誰にも真似できない最強の技だよ。だけど、それ以外の技はどうだい? まだまだ半人前、ようやく実戦で使える程度。イカサマはね、他人を楽しませるだけじゃなくて、もし、一人で旅立つ時に大きな盾になるのよ......」

 

 ママは怒って這いつくばる京太郎の姿など眼中にないと言わんばかりにその場を後にした。

 だが、これだけは言える。ママは京太郎が自分の元から巣立つ前に自分の出来る技と生き方を叩きこもうとしているのだ。それくらい、京太郎を愛しているのだ......




 駄文ですが、面白いと思ってもらえれば幸いです。
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