面白ければいいあ艦これ   作:ふぅん

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にわ

 ソロモン諸島が南方海域。

 鉄床海峡と呼ばれる最前線戦域を埋め尽くすほどの砲火と黒煙が耐えない大海戦の最中。

 沖の鬼島鎮守府の艦娘もまたそこで戦っている……。

 

 暁型の4隻は眼前の駆逐艦隊を前に1歩足りとも後退せず相対する。その手には碇の鎖が握られ、音速を超える碇と鎖が大気を掻き乱して爆音を鳴らしているのだ。

 彼女たちが進むたび、囲む深海棲艦がするりと後退する。

 

「海底へお帰り。」

「この先はお前たちの世界じゃないの!」

「恨みに我を忘れてるのです……。」

「しずめないとだわ。」

「「「沈める?」」」

「しずめる。」

 

 ――――閃光。

 そう錯覚するほどの爆裂音と水柱。

 

「おおっ! 深海棲艦が海へ帰っていく!」

「碇だけで深海棲艦を沈めてしまうとは。」

「二時の方角から艦爆が来るぞ!」

 

「姉さん、あれは。」

「ヲ級の旗艦級だわ。でも、飛び方がおかしい。」

 

 航行形態時は頭部に装着している飛行ユニットにしがみついて下降しつつあるヲ級は、自身の艦載機を最前線の駆逐隊へ特攻させようとしていたのだ。

 まさしく砲弾と化して突っ込んでくる艦爆の群れに艦娘たちは青ざめ、暁型の4隻は冷静に碇を振り回して全面の防御を作る。

 

――――よぉ、相棒。まだ生きてるか?

 

 駆逐隊の見上げる先で艦爆が爆ぜる。パッと花開くように終わりを迎えていく敵の爆撃機たちはみるみる内にその数を減らしていく。

 注意深い響は空に咲く彼岸花の中に蒼と橙に塗られた零式艦上戦闘機を見た。たった2機で敵編隊の中を縦横無尽に駆ける片割れ、片羽を赤く塗った橙の機体がもう1機へ語りかけているようにも感じる。

 2機は鬼神のようだった。悍ましい形相の猛犬が描かれた戦闘機から逃げ惑う艦爆の母艦ヲ級は太陽を呆然と見上げていた。

 

「二航戦だ……。」

「沖の鬼島第2航空戦隊だ!」

 

 絹を裂くような甲高い音と共に、それらは降り立った。

 甲板の上へ立ち、空に満ちる霊気の波に乗って下降する2隻の空母は自身の霊力の色彩に塗れている。蒼龍と飛龍は体幹を操って霊気の流れに沿って甲板を操った。

 ヲ級が慌てて回避運動をするも時既に遅く。霊力を宿す甲板がすれ違いざまに船体を深々と抉った。

 

「交戦規定はただ一つ。」

「生き残れ。」

 

 敵船へ叩きつけた甲板後部の前へ押し込むように前足を踏み込むことで飛行形態を回復した二航戦は、海面へ触れることなく高度を上げていく。

 それぞれたった1機の艦載機を引き連れ、別の戦域へ移動していった。

 駆逐隊は知っている。彼女たちが空母の中で鳳翔、一航戦に次ぐ実力者だと。

 

「……さぁ、前進しよう。」

「そうね。」

 

 

 

 

 

 一方、別の戦域で戦う艦隊は窮地に立たされていた。妙高と高雄が率いる二個艦隊は旗艦級のル級を含む深海棲艦の大隊に横当てを受けた。

 交戦する深海棲艦ごと雷撃され、軒並み損傷した。大破した駆逐と軽巡を撤退させ、2隻で殿を務めた妙高と高雄は周囲をぐるりと塞がれて背中合わせの交戦を強いられる。

 いくら胸部を反射装甲で固めた高雄とは言え、限界は存在したのだ。まして、妙高などは息も絶えようかという様。

 轟沈の2文字が頭を過ぎる。

 

『シズメ……。』

 

 ル級の放った砲撃の1発を胸部装甲でバインと弾いた高雄の目に、膝を折った妙高が飛び込んできた。

 力尽きたか、右膝を深く沈めた妙高に深海棲艦が群がる。

 

「みょ――!?」

 

 船の形を捨てた負債というものがある。艦砲一つ、魚雷一本で沈められる相手に、なまじ選択肢の多い形を得たことでそうしなくなる“無駄”

 その“無駄”が覆しようのない戦局を、変えてしまう。

 

「――――……首を、置いていきなさい。」

 

 全力で機関を回した重巡の体が跳ね上がる。振り回された右脚に履いた艤装の船底部が吐いた熱が景色を歪めた。

 歪む景色の向こう。妙高は海を蹴りつけるように着地し、深い息を飲み込んだ。

 

「みょ、妙高……?」

「…………。」

 

 背を向けた妙高の隣に、首無しの船が赤黒い泡沫と共に沈む。

 高雄は焼け付くような圧力を、重過ぎる戦意を全身の肌で覚えた。

 否、思い出したと言うべきだ。

 

「そんな……。帰ってきた……帰ってきてしまった……!」

 

 “首狩り妙高”

 かつてそう畏怖された重巡がいた。

 それを思い出した。

 

《連装砲、投棄》

《対空砲、投棄》

《対空機銃、投棄》

《魚雷発射管、投棄》

《補助艤装、投棄》

《基礎艤装、投棄》

 

 妙高の全身から白煙を巻いて艤装が落ちていく。最早、重りは必要ないと言わんばかりに。

 

「あなた、旗艦ですね? 旗艦です。

 なら、首を置いていきなさい。」

『キサマ、シッテル……クビカリ、ダ! ギソウガナイ、ジュウジュン!』

「武勲になりなさい。」

「妙高っ……!」

 

 戦艦ル級と妙高の戦いは戦略も戦術もなく、暴力と殺意の衝突に違いなかった。見境なく潰し合う両者に巻き込まれないために誰もが逃げることを余儀なくされ、奇しくも艦娘たちは撤退を完遂することができた。

 高雄だけが、その場に留まり続けた。昔と同じように。

 

 

 

 

 

「姫級だ! 武蔵と陸奥は行け!」

「任された。」

「長門と大和も気をつけるのよ。」

 

 姉妹艦を見送りながら主砲を放つ2隻は打撃力によって敵を沈め続けることで囮の役目も担っていた。

 深海棲艦は隙を伺う随伴艦の魚雷で数を減らしながらも2隻の戦艦に向かわざるを得ない。

 

「あ、あれは!? あの時のレ級!」

 

 深海棲艦の先、悠然と海面を歩く小柄な姿を見つけた長門は行く手を遮る重巡に主砲を撃ち込んで前へ進む。

 旗艦級レ級の砲戦強化型と見られるその深海棲艦に、鬼の沖島鎮守府第一艦隊はかつて辛酸を舐めている。6隻大破撤退という結果を残した唯一の相手だ。

 

『コイ、ナガトォ!』

「おおおぉぉぉぉーーッッ!!」

 

 艤装を変形させる長門の肩を大和が掴む。

 

「ダイワー!?」

「やまと。下がっていてください、長門! 奴への恨みならこの大和が先に晴らす権利がある! 陸奥とは共に艤装を改良し続けた長年の親友だったんです!」

「陸奥が沈んだような言い草はやめてくれないか。」

「やい、フラレ改とかいう奴! この大和が海の底に沈めてやります!」

「やめろ! レ級にはお前の知らない隠された力がある! ッッ!?!?」

 

 長門の目には大和が増えたように映った。繊細な艤装の操作による特殊な航法がそう錯覚させたのだッ!

 

『ン〜? ヘェ、オモシロイウゴキダ。チョウセンカントイウモノハ、クンレンシダイデ、コウイウフシギナミノカロヤカサもタイトクデキルノカ。』

 

 まるで紙風船と見違えるほど穏やかに、排水量60トンを超過する大和のワンダフルボディが浮かび上がった。

 

『フッ。ダガナァ! コノワタシハイチヤニシテコノヨノドンナチョウセンカンヲモコエタンダ!』

 

 空中で姿勢を変えた大和の蹴りがレ級を襲う。それはさながらドロップキックだ。重さは実に60トン超え。

 

『REEEEEEEEEEE!!!

 ソンナネムッチマイソウナノロイウゴキデ、コノレキュウヲシズメラレルカ!』

 

 レ級の背に“二本”の尾がのたうち、大和の足へ食らいつくとバシィンと左右に広げて蹴りを殺してしまう。

 だが、これこそ大和の作戦だったのだ。交差させた手刀がレ級に振りかざされる。

 

「かかりましたね、阿呆さん!

 稲妻交差炸裂攻!!」

「凄い! 交差させることで攻撃と同時に相手に晒すことになる船体も防御する! 攻守において完璧よ!」

「これを破った深海棲艦は1隻としていない!」

 

 

 

「ッッ!?」

「馬鹿な!!」

『ムダムダムダムダァーッ!!』

「空いている自分の両手で!?」

「二本の尾で蹴りを防いで、虚を突かれたはずの手刀を掴みとった! 尾が二本あることによって倍の手数という優位を使った戦術! それにしても凄まじいのはダイワーさんの膂力を受け止めるレ級の性能!」

 

 

 

「レ、レ級……ッ!」

『ヒンジャクヒンジャクゥーッ!

 チョイトデモワタシニカナウトデモオモッタカァ? コノマヌケガァ!』

「……ふっ、私の勝ちです。」

『ナニィ!?』

 

 絶体絶命の危機であるはずの大和が、笑っていた。目を見開いたレ級は彼女の胸部装甲と腰の上に妖精がいることに気付く。

 胸部装甲の上にいる妖精は老齢、腰の上にいる妖精は若く精悍な顔をしていた。

 

《霊力弁閉鎖。 霊力充填開始》

《安全装置、解除。照準望遠、開放。》

《電影交差率明度20。》

《霊力充填120%》

《対衝撃、 対閃光防御。 》

《最終安全装置、解除。》

《波動砲、発射。》

 

「波動砲、てぇーっ!!!!」

 

 大和の咆哮を塗りつぶすように蒼白の震動が世界を震わせる。

 超戦艦の股間から放射された霊力砲は褌を蒸発させ、レ級の船体をも一瞬にして消し飛ばした。

 海底まで届いた霊力は文字通り海を割り、深海棲艦の船団を焼き払う。

 

「で、でた、“失禁砲の大和”……。」

「下劣戦艦は伊達じゃない……。」

「もうやめるんだ、大和ぉ! お前は女を捨て過ぎなんだ!」

 

 

 

 第四次ソロモン海戦、決着!

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