鎮守府への道   作:ariel

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第十話 三笠の決意

横須賀鎮守府 三笠私室  山野中佐

 

 

「三笠様、山野です。ちょっと南郷提督の所に用事がありまして横須賀鎮守府に来ましたので、ついでに寄らせてもらいました。」

 

「なんだい坊や、あたしのところはついでかぃ?」

 

「Hey 中佐さん。一週間振りデ~ス。中佐さんがonly一年で異動したからサ~、私very very悲しくて、大暴れしたネ。」

 

金剛さんまで居たか…これは参ったな。流石にこのような話を金剛さんには聞かせたくないし…困ったな。

 

「坊や、どうやら海軍省でいきなり無理難題にぶつかったようだね。まぁいいさ。その話は後からゆっくりするとして…面白い艦娘が着任したんだ。良かったら、紹介してやるからあたしと一緒に来るかい?」

 

新しい艦娘?…あぁ、例の艦娘がついに戦力化したという事か。遥か昔、航空機を洋上で運用するために建造された航空母艦…これまで艦娘としての艤装が困難なため、研究段階だった新しい艦種の艦娘。たしか…鳳翔という名前だったかな。なんでも凄く美人さんだという噂を聞いた事があるぞ。折角のこの機会、三笠様に紹介してもらうのも悪くな…ゲシッ

 

「Hey!中佐さん!な~に、だらしない顔しているネ。中佐さんには、私がついているデ~ス!とりあえず私も一緒に行って、鳳翔が中佐さんにちょっかいを出さないように監視するデ~ス!」

 

痛いって、金剛さん。別に浮気とかそういうのではなく、ただ純粋に興味があるだけで…決して海軍省で噂になっている『物静かな日本美人』の艦娘に会ってみたいという訳では…。いや、ちょっとは興味あるけどな。

 

「小娘が何を粋がっているんだぃ…まったく。まぁ、それはそうとして、どうやら坊やも、新しい艦娘の話は聞いた事があるようだね。その調子では、どんな艦娘なのかも知っているようだ。まぁ、まだ実際に運用可能なのか検証も出来ていない艦娘だ。本人も不安があるようだし、坊やからも元気付けてやっておくれ。」

 

そうだよな…たしか航空機の着艦は可能だが、未だに発艦に問題があるため、運用を検討中との事だから、本人も不安が大きいだろうな。三笠様も心配しているようだし、俺も出来る限り力に…って、金剛さん睨むなよ。別に浮気している訳でもないのだからさ。

 

 

 

横須賀鎮守府 艦娘練習所  巡洋戦艦『金剛』

 

 

なんだか面白くないネ。折角、中佐さんが来てくれたのに、三笠様は中佐さんを鳳翔のところに案内するようデ~ス。私は物静かな鳳翔は苦手デ~ス。別に悪い艦娘じゃないけどサ~、私とは正反対で物静かで、おっとりとしていて、中佐さんも鳳翔の事を気に入りそう…Noooooネ。やっぱり会わせない方がいいネ。

 

「BBA、鳳翔は今、航空機の運用方法の考察でbusyな筈デ~ス。鳳翔の邪魔をするのはよくないネ。やっぱり、これから中佐さんを誘ってtea timeにしませんか?」

 

「ん?小娘が何言っているんだぃ。坊やはこれでも海軍省の中枢にいるんだ。早いところ、新艦種でもある鳳翔を見てもらって、運用方法を海軍省でも考えてもらった方がいいに決まっているさね。ん?ひょっとしてこの小娘は、鳳翔に坊やを取られると思って焼餅でも焼いているのかぇ?」

 

「Noooo、そんな事ないデ~ス。なんで、この私がそんな心配をしなくてはいけないネ!中佐さんは、私のものデ~ス!」

 

相変わらず、三笠様はズバリ正解を言ってくるネ…。たしかに、中佐さんと私の仲は長いけどサ~、なんだかとっても嫌~な予感がするネ。鳳翔とは会わせない方良いネ。But、仕事という意味では、三笠様の言っている事は利に適ってマ~ス。海軍省の中枢部に居る中佐さんに、早いところ鳳翔を紹介して、新しい戦力を理解してもらった方が良いに決まっているデ~ス…困ったネ…。

 

 

Hmmm… ついに鳳翔が練習をしているところに来てしまったネ。No… やっぱり中佐さんは、鳳翔の事をしっかり見ているデ~ス。もっと私の方を見るネ。そんな新人の艦娘より、私の方が中佐さんの役に立つネ。

 

「坊や、鳳翔を紹介するさね。鳳翔、ちょっとこっちに来るんだ。こちらは、海軍省の山野中佐だよ。あたしが新任少尉時代に面倒を見ていた士官でね、今は海軍省の軍務局に勤務しているんだ。きっと鳳翔の力になってくれるさね。」

 

「こ…航空母艦『鳳翔』と申します。小さな艦ですが頑張りますので、よろしくお願いいたします、中佐。」

 

「こちらこそよろしくお願いします、鳳翔さん。私は海軍省軍務局の山野と申します。何かありましたらお力になります。」

 

「Hey! 鳳翔。中佐さんは私の大事な人ネ。あまり話しかけたらNoなんだからネ」

 

ガツン

 

「痛いネ、BBA!」

 

「小娘、何を言っているんだぃ。相談に乗ってもらうと言うのに、話しかけるななんて言っているんじゃないよ。鳳翔、この小娘のことは気にしなくていい。坊やはこう見えても、あたしのお眼鏡に適った優秀な士官さね。これから、色々と相談するといいさね。」

 

三笠様…そんな事言っていたら駄目ね。それに中佐さん、あまり鳳翔の方を見ていたらNoネ。私の方が可愛いデ~ス。…これは拙いネ、もっと積極的に中佐さんにアピールしないと駄目ネ。

 

「Hey! 中佐サ~ン。鳳翔の相談に乗るくらいならいいけどサ~、私の相手も忘れたらNoなんだからネ!」

 

「いや…金剛さん。そんなつもりは…。私はただ困っている艦娘の子が居るから相談に乗るだけで…。」

 

中佐さん。私は騙されないネ。さっき、中佐さんが鳳翔を見ていた目は、そんな単純な目では無かったデ~ス。それに、なんで鳳翔の手を握っているデ~スか!とっとと、その手を離すデ~ス。油断も隙も無いネ…あまり中佐さんが、鳳翔に近づかないように気をつけないと駄目ネ。

 

「小娘、あまり睨みつけていないで、いい加減、普通におし!まったく…こんな小娘が横須賀鎮守府所属の戦艦の最先任になろうと言うのだから、困ったものさね…。」

 

What?私が最先任??三笠様は、何を言っているデ~スか。私の先輩はまだ一杯居ますネ。三笠様…ひょっとして耄碌したデ~スか?困った人デ~スね。Oh… 中佐さんも驚いて目を丸くしていますね。三笠様が耄碌したと思って驚いたその気持ち、私もよく分かりマ~ス。

 

「三笠様?今の言葉…」

 

「坊や、その話は後さね!それよりも、鳳翔を見てどう思ったんだぃ?」

 

「そうですね…。上手く使う事が出来れば…おそらく戦艦以上に強力な戦力になるかと思います。ただ私が聞いている話では、航空機の発艦方法に難があるとの事でしたが…。やはり、問題があるのですか?」

 

「はい…着艦は可能なのですが、発艦の方で悩みが…。現在は、日本古来の式神を使うやり方で発艦を行っているのですが、大部隊の運用が難しいのです。もう少し効率の良い方法が見つかれば、私ももっとお役にたてると思うのですが、なかなか上手い方法が見つからず…。」

 

…Hmm…面白くないネ。実に面白くないデ~ス。中佐さんは、私の事だけを見ていればイイネ。まぁ、今までこの鎮守府で厄介者扱いされていた鳳翔を元気づけたい…という三笠様の気持ちも分かるけどサ~。それにたしかに、鳳翔は戦闘艦として面白い艦である事も分かるから、中佐さんが真剣に相手をしている事もunderstandネ。But! 面白くないデ~ス。

 

 

「さて…それじゃ、坊やも鳳翔の事を少し理解出来たようだし、とりあえず今日のところはこれくらいでいいさね。小娘、もう少し鳳翔の相談相手をしてやりな。ちょっとあたしも、坊やに話すことがあるからね。」

 

「あ…あの、や…山野中佐。今日は本当にありがとうございました。また、機会がありましたら相談に乗っていただけると。」

 

「えぇ、こちらこそ鳳翔さんの事を知る事が出来て良かったと思っています。また機会がありましたら、私で良ければ相談にのりますので、いつでも呼んで下さい。それと、発艦の方法については、海軍省でも少し検討してみます。」

 

ゲシッ

 

「こ…金剛さん、別に金剛さんのことを無視していた訳じゃないんだからさ…その…もうちょっと…ね?」

 

「うふふふ、お二人とも仲がよろしいのですね。」

 

「そうデ~ス、鳳翔。中佐さんと私は、もう長~い付き合いネ。鳳翔にも、そのうち良い人が見つかると思うネ。だから中佐さんを取ったらNoなんだからネ。」

 

とりあえず、ここで鳳翔に釘を刺しておくネ。まぁ、鳳翔は分別のある艦娘だから、そんな事はないと思うけどサ、念には念を入れておいたほうが良さそうね。とりあえず、その辺りの事をこれからしっかり話さないといけないネ。それにしても…三笠様は中佐さんに話があるようですね。まぁ、三笠様は年齢的に私のライバルにはならないから、三笠様なら問題ないけどサ、一体何を話すのでしょうネ~。

 

 

 

横須賀鎮守府 三笠私室  戦艦『三笠』

 

 

「坊や、どうしたんだぃ。怖い顔をして。座らないのかぃ?」

 

まったく…これからあたしに引導を渡さなくてはならないから、緊張するのは分かるが、直立不動で目の前に立たれても困るね…。たしかに海軍省には、敷島姉さんのように太い伝は持っていないが、それでもあたしの所にもそれなりに情報は入ってくるもんさね…。坊やが一年にも満たない状態で艦隊勤務から海軍省に呼び戻された。あたしだって不思議に感じて、理由ぐらい詮索したさ。まさか、坊やが中心人物として絡むことになるとは思っていなかったが…大方、海軍大臣の佐藤の爺が、あたしの説得のために坊やを使った…というのが理由なんだろうね…。南郷の爺もそうだけど、あの時あたしと一緒に戦った司令部の面子は、喰えない爺ばかりだよ。

 

「三笠様…先程、金剛さんに話した言葉…何処までご存知なのですか?」

 

…フンッ。さっきは失言だったかね…。金剛の小娘はともかく、事情を知っている坊やには、こっちの手札が見られた…という事だね。まぁ、いいさ。

 

「坊や…さっきはついでに寄ったと言っていたが、本当はあたしを退役させるために来たんだろ?」

 

「そ…それは…」

 

「なに、このあたしだって、多少は海軍省の内情くらい知っているさね。…で、坊や。どうするんだぃ?」

 

なにを鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしているんだぃ。敷島姉さん達は、海防艦に艦種変更をして海軍に残す事で南郷の爺を説得する。そしてあたしは退役させ…他の退役を余儀なくされる艦娘達のための説得材料に使う…いい戦略じゃないか。坊やの立場で、この計画を実施する事を考えた場合、これが最良の案だという事くらい、このあたしだって分かるさ。

 

「三笠様…申し訳ありません。帝国の将来のため…戦艦三笠として退役していただきたく思います。」

 

「…坊や…いや…山野中佐。退役の件、了解いたしました。戦艦三笠として退役させてもらえること、感謝いたします。」

 

「!」

 

なに驚いているんだぃ。あたしは、坊やの指導艦だったんだ。それに、もう十分艦娘として、戦を楽しんださ。今更現役に悔いもないし、最後にこの身が帝国の役に…いや、坊やの出世の役に立つのなら、本望さね。ま、これまで帝国のために働いてきたんだ。多少の恩給くらいは期待も出来るから、生活に困る事もあるまいしね。

 

「三笠様…その…本当によろしいのですか。もっと…その…退役に抵抗されると思っていたのですが。」

 

「今更何言っているんだぃ。坊やがあたしに退役を勧めているんだろ?実際…坊やが手がけている案件でこれ以外の手はないだろうし、あたしが退役する事で帝国が救われるのなら、この身くらい安いもんさね。…坊や、あたしを誰だと思っているんだぃ。あたしは…先の大戦で帝国を守った、帝国海軍の連合艦隊旗艦さね。最後も帝国を救うために働けるんだ、悔いはないさ。」

 

あたしだって、今の帝国の状況は多少分かっているさね。半分は南郷の爺も悪いが、流石に現役に居る全ての艦娘を維持するなんて、今の帝国の経済力では不可能ってもんさ。とはいえ、海軍も面子という物があるから、海軍省中枢から削減は言い出しにくいし、南郷の爺と正面対決も出来ない。そういう意味では、坊やや敷島姉さんの秘蔵っ子が、貧乏クジをひかされたって事さね。まぁ、退役に多少の不安はあるが、今更最前線にも立てない身さね。後悔はないさ。

 

「三笠様、ありがとうございます。受けた恩を仇で返す事になってしまいましたが、いつかこのご恩は返します。本当に申し訳ありません。」

 

「別に恐縮する必要はないってもんさね。まぁ、退役後の生活くらいは面倒を見てもらう…いや、これは南郷の爺になんとかしてもらうさね、あの爺とは長い腐れ縁だからね。それに今回の件も、責任の半分はあの爺にあるのだから。坊や…いや、山野中佐。今回の件、三笠は了承したと佐藤海軍大臣に伝えてください。」

 

あたしは覚悟を決めたんだ。坊や、あとは坊やに全て任せるさ。ただ少し問題もあるね。いくらあたしが納得して退役したとしても、残される艦娘、特に戦艦娘達は納得いかない子も出てきそうだ。特に新鋭艦の長門辺りは頭が固そうだからね。とはいえ、こればかりは退役するあたしが何を言っても無駄だろうし…坊やがなんとかするしかないという事だね。最後に艦娘の司令官を目指すための大きな壁になるとは思うが、頑張って自分で超えていくんだよ。

 




私の周りに居た人達もそうでしたが、個人的に尊敬出来る上司達は、多くの場合自分の出処進退を誤らず、辞め時を間違えなかった方が多かった気がします。ですから、この小説における三笠様も、ここが退役時という場所で決断してもらう事にしました。

といいますか現実の世界でもそうですが、自分の愛弟子に引退を勧告されれば、普通はきっぱり辞める事が多いと思う…のですが、実際に引退勧告が出来る度胸のあるお弟子さんというのは、少ないですよね^^;
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