二年後 海軍省 大臣室 小堀中佐
「志位君に堀田君、それに山野君に小堀君も集まったな。まずは例の案件についての話だ。この件については、山野君の計画通り、英国と米国を巻き込む形で実行する事になった。既に各国政府及び軍部との調整も終了している。そして、最終利害調整のための会議と調印は、英国のロンドンで3ヶ月後に実施する事に決まった。調印式には私自身が参加するが、調整のための会議については、君達四人にも参加してもらう。準備をしたまえ。」
嵐の前の静けさといったところか…。この話、未だ海軍のほとんどの軍人には知られていないが、表沙汰になった時の騒動は俺も予想がつく。昨年、敷島様や朝日様、春日様達を海防艦に艦種変更した時ですら、横須賀鎮守府を中心に猛反発があったからな。あの時は、既に事情を知っている南郷提督が横須賀鎮守府内を抑えてくれたし、肝心の敷島様達も粛々と従ってくれたから騒ぎは収まったが、今度ばかりはな。
「了解いたしました。佐藤閣下。志井、細かい数字については経理局の方で頼む。山野君、軍務局からは私と君を中心に数名で会議に参加する。準備をしたまえ。閣下、ロンドンまでの移動ですが、軍艦を出させるか、シベリア鉄道を使うかどうされます?」
「帰りはまだしも、行きは色々と機密が絡む相談も多かろう。軍艦を使用するしかあるまい。横須賀の南郷には私から伝えるから、そちらは任せてくれ。」
そうだよな。行きは、おそらく道中様々な打ち合わせをする必要がある以上、軍艦を使う事が望ましいだろう。ん?そうだ!山野…お前には、先日の礼をたっぷりしてやらないとな。あれのおかげで、俺様は…。
「佐藤閣下、堀田軍務局長。僭越ではありますが、使用する軍艦について意見具申があります。使用軍艦ですが、いくら友邦である英国への移動とはいえ、帝国の威信を示す必要があるため、小型艦での移動はもっての外。ここは戦艦クラスでの移動が適当でありますし、速度という観点からも金剛級を使用するのがよろしいかと。さらに申し上げますと、一番艦の金剛は、元々英国で生まれた艦。この機会に里帰りさせてやるのがよろしいかと。」
「お…おぃ!小堀、貴様何言っているんだ。金剛さんは、気分屋なところがあるから、ここは安定した性能の出る榛名さんの方が良いと思うぞ。」
「佐藤閣下、山野はこのように申していますが、この件は問題ありません。山野が乗艦するとなれば、金剛さんも張り切り、良い状態で航行可能だと考えられます。まぁ、山野には金剛さんのご機嫌取りに勤しんでもらう事になるでしょうが。」
「小堀!き…貴様…。」
これくらい、貴様も苦労しろや。こっちは例の件で、大変な目にあっているんだからな。俺が受け入れなければ、例の件は動かなかったから仕方なく承諾したが、あの一件以来、南郷提督からはからかわれるし、横須賀鎮守府に出向けば一般将兵からも冷やかされているんだぞ。
「ははは、若い奴等は元気があってよろしい。まぁ今回は、敷島の旦那となる小堀君の案を採用して、金剛の使用許可を南郷の奴に依頼してみるか。ということで、道中は頼むよ、山野君。」
「は…はぁ…。」
あきらめろ、山野。貴様もこの機会に…って、多分そんな余裕はないよな…。その頃には全ての将兵が事情を知っているから、往路の間にしっかり金剛さんに説明して理解してもらうんだな。俺はそのための時間を、貴様に作ってやるという好意でこの提案をしているんだぞ。感謝しろよ。
「堀田、忘れていたが、戻ってきた後の警備は抜かりないのか?帰国する頃、おそらく俺達は多くの海軍軍人から恨まれているぞ。特に、今回の発案者である山野の身辺は注意が必要だと思うが…。」
「志位、それは問題ない。実は、横須賀の南郷提督から、山野の身辺警護のため横須賀から海軍陸戦隊を派遣すると言われている。なんでも、南郷提督が直接この件を話して、説得した連中らしいから、一番信頼出来るだろう。」
そうだよな…。この件、おそらく山野は一番貧乏クジを引くことになるだろうな。先日の艦種変更の際も、三笠様だけが戦艦に籍を残されたから、山野が独断で敷島様達を海防艦に押し込んだと思われている。実際、三笠様を退役させるという事情を知らない連中からしたら、三笠様だけを特別に贔屓していると思われても仕方ないからな…。ただ、あの時は武勲艦三笠様だから仕方ないと考えたり、三笠様を信奉している連中も多かったから、それ程大きな問題にならなかったが、今回はな…。
「そうか、南郷がそのような事を言っていたのか。志位君、堀田君、海軍省は私がなんとしても抑えるが、君達も若い連中の暴発を可能な限り抑えてくれ。軍令部の宮様からは、いざとなったら山野君を軍令部で預かると言われているが、海軍省としても今回の功労者を危険に晒させる訳にはいかんからな。」
どうやら海軍上層部は、俺や山野の功績を正当に評価してくれるようだな。南郷提督が思っていたよりも協力的で助かったということか…。敷島様からも聞かされたが、退役後も三笠様が横須賀鎮守府で暮らすという事が決まり、南郷提督はホッとしていたようだからな。そういう意味では、今回は山野の利害調整が上手く行ったという事か。
「了解いたしました、閣下。この件、軍務局内は一枚岩ですので問題ありませんが、他の課についても、可能な限り私の方で抑えます。志位、経理局もそうだが、そっちもよろしく頼むぞ。」
「分かっている、堀田。」
「堀田君、志位君、よろしく頼むぞ。それでは、ロンドンでの会議までに、各自準備を進めてくれたまえ。退室してよろしい。」
いよいよ大一番だな。ここで、英国や米国を巻き込む形で一時的な軍縮が成立すれば、帝国海軍は一息つける。もっとも、将来的には大幅な軍備増強は必要になるのかもしれんから、束の間の休息になりそうだけどな。
ロンドンへの道中 巡洋戦艦『金剛』 巡洋戦艦『金剛』
「Hey!中佐さん。たしかに里帰りは嬉しいけどサ~、次の軍縮会議で本当に戦艦の数を削減するのデ~スか?」
「だから金剛さん。何度も言っている通り、帝国としては戦艦の数を10隻で抑えることになるから、既に敷島様達を海防艦に艦種変更しているのです。海軍省として、帝国の現在の経済状況を考えるとこの結論は動かせません。それより、金剛さんもそろそろ覚悟を決めてください。貴方がこれから最先任の戦艦娘として、横須賀鎮守府の戦艦部隊を纏めるのですよ。」
Hmmm…。少し前に南郷提督から、一度英国に里帰りしてこいと言われて、ついでに中佐さんをロンドンまで連れて行けと命令されましたネ。私としては、しばらく中佐さんとtogetherできるから、very very happyでしたけど、しばらくして雲行きが怪しくなってきたネ。なんでも中佐さんが英国に行くのは、ロンドンで開催される英国と米国との軍縮会議に参加するためと聞かされましたし、その会議の議題は戦艦の削減という事ネ。
ここ最近、敷島のBBAや朝日様、春日のおばさん達が海防艦に艦種変更されたり、三笠様の周辺がざわついていたのは、これが理由だったようですネ。噂では、中佐さんがその計画の中心人物という事ですが、あの中佐さんが戦艦の数を削減する事に同意しているのは、最初は信じられなかったデ~ス。でも今回の航海中に中佐さんと話をして、私もunderstandネ。今回の戦艦の削減、それに伴う敷島のBBA達の艦種変更、それと…私は今でも信じられませんけど、三笠様の退役…その計画の絵を描いたのは、中佐さんネ。
私も最初は凄く中佐さんに怒ったけどサ~、中佐さんや、同行している小堀中佐から帝国の現在の状況を何度も説明されて、understandしましたネ。どうしても…今回の計画を行わなくてはいけない理由を。それにしても、中佐さんも水臭いね。こういう大事な事は、中佐さんにとって一番importantな私に、もっと早く相談するネ。…相談されても、私も困るけどサ。ただ私も不安デ~ス。今まで、三笠様達が居たからこそ横須賀鎮守府は一つに纏まっていたね。でも敷島のBBAは第一線から退きマ~スし、三笠様も退役。戦艦の最先任は私になりマ~ス。本当に大丈夫なのか心配デ~ス。
「そんな事分かっているネ。But、とても不安ネ。それにしても、中佐さん?相当前から今回のことは計画していたネ。どうしてもっと早く、私に教えてくれなかったデ~スか?」
「金剛さん、この軍縮の話が表沙汰になった瞬間、帝国がどうなったか知っているでしょう?少なくとも海軍の上層部だけでも意思統一するためには、時間が必要でしたし、それまで外野に騒がれては困ってしまいますからね。」
Hmm…たしかにその通りネ。この軍縮会議の話が新聞に掲載された瞬間、帝国では凄まじい騒ぎが起こったネ。それに海軍内部の騒ぎも酷かったデ~ス。中佐さんも、今回の航海までに何度も襲われそうになったようですし…。それにしても、三笠様が以前言っていたけどサ~、中佐さんはとても優秀な士官だったネ。この話が公表される前に、海軍上層部の意思をちゃんと統一させていたのだから。それに三笠様の件も、最終的に記念艦として横須賀鎮守府内で一般公開されるという話が出た瞬間、それまで反対の声が多かった地方人達の反対も止みましたネ。よく考えているヨ。
「それは私もUnderstandネ。But、三笠様や南郷提督をよく説得できたネ。敷島のBBAは、若いツバメを見つけてホクホクしているから、問題なさそうですけネ。小堀中佐もお気の毒ネ。」
「まぁ、敷島様は元々小堀を狙っていたみたいですから、折角の機会を最大限利用したという事でしょう。まぁ、小堀も満更でもなさそうですから、これはお互いに良かったと思いますよ。それに三笠様や南郷提督も、許容出来る最低限の部分は確保出来ていましたし、お二人とも帝国の現状を誰よりも理解していましたので、説得出来たと思っています。…それに、帝国を守るという気概を、誰よりもお持ちの方々でしたから…。」
三笠様や南郷提督の許容出来る最低限の部分、これは私も今となってはよ~く分かりマ~ス。あの二人は、なんだかんだ言ってお互いに惹かれていましたから、近くに居る事が出来ること…これが最低限の部分でしたネ。そういう意味では、記念艦とはいえ横須賀鎮守府に三笠様が居る事が出来れば、南郷提督としては今回の件を甘受出来るという事ですネ。
まぁ、敷島のBBAが秘書艦をそのまま勤めるのでしょうけど、あのBBAも、これからは若いツバメの許で暮らすでしょうから、必然的に三笠様が南郷提督のお近くに居る時間も増えるでしょうし、お二人にとっては良かったのかもしれませんネ。やっぱり、中佐さんはよく考えているネ。
「ただ…正直に言いますと、退役しない戦艦娘達からの反発には、堪えましたよ。予想はしていたのですが、あそこまで反発されるとは思っていませんでしたから。」
「たしかにそうネ。長門達にとっては、退役される先輩戦艦娘達は、頼れる先輩達でしたからネ。どうしても今回の件を画策した中佐さんへの反発は大きくなってしまうネ。まぁ、こればかりは時間が解決してくれるのを待つしかないと思いマ~ス。」
正直、長門達の反発がここまで酷い物になるというのは、私も予想出来なかったデ~ス。私達金剛姉妹にとっては、敷島のBBAや朝日様、三笠様達から直接教えを請けていましたから、香取姉妹達とそこまで大きな関わりは無かったデ~ス。But、長門達は香取姉妹達から直接教えを請けていましたネ。おそらくその部分が、今回の件に対する、私達金剛姉妹と長門達の反応の違いになっているネ。
この一件が報じられてから、中佐さんが何度か横須賀鎮守府に来ましたケド、その度に長門達から詰れていましたネ。私も一生懸命宥めたりしたけどサ、あそこまで拗れてしまうと、仲裁は難しいデ~ス。本当にあの娘達を率いて、私が最先任艦としてやっていけるのか、少し不安デ~ス。
「たしかに時間が解決してくれるのを待つしか無さそうですね。ところで金剛さん。今回期せずして里帰りする事になる訳ですが、どなたか向こうで知り合いとお会いするのですか?」
「Hmm…もう英国を出て長く経ちますから、あまり知り合いは居ないデ~スネ。But、出来れば私が進水する頃に起工することになった、喧嘩友達のえ~っと…あ~Warspiteに会おうとは思っていますネ。私はヴィッカースで、向こうはデヴォンポート海軍工廠でしたけど仲は良かったネ。」
「喧嘩友達のWarspiteさんですか…。なんだか名前とは正反対のような気もしますが…。機会があったら紹介してください。」
「嫌ネ。これ以上中佐さんに、余計な艦娘を近づけないデ~ス。だいたい、最近は横須賀鎮守府に遊びに来ても、鳳翔のところばかりに行っているネ。私は知っているデ~ス。鳳翔との距離がどんどん近くなっていますし、会っている時間もどんどん長くなっているネ。この事は、戻ったらきちんと説明してもらうデ~ス!」
まったく。中佐さんには困ったものデ~ス。たしかに鳳翔と会っているのは、航空母艦の運用についての話をしている事は知っていま~すし、鳳翔の発艦方法の探索やその調査をしている事も知っていま~す。But、面白くないネ。それに、私は知っていますネ。中佐さんは、私のような騒がしい艦娘よりも、鳳翔のような物静かな艦娘の方が好きそうですね。だから、あのWarspiteに中佐さんを会わせたら大変な事になる事くらい、私はよ~くunderstandネ。
あのWarspiteは、私とは厭味を交えた喧嘩をalwaysしていましたけど、殿方の前では猫を何十匹も被ってお淑やかに見せかけていましたネ。あんな悪い女を中佐さんに会わせたら…中佐さんが騙される可能性が高いネ。今回の英国滞在中、なるべく会わせないにしないといけませんし、もし会う事になってしまったら…フフフフ。
「だから金剛さん、鳳翔さんとは何も無いと、何度も説明しているでしょう?まぁ、私も今回の滞在中は忙しくなると思うので、それ程自由な時間はないと思いますが、機会があったら本当にお願いしますよ。今後、英国との関係が重要になる局面も出てくるかもしれませんから、その時のためにも英国の主力艦の艦娘とは顔を合わせておきたいのです。」
本当に理由はそれだけデ~スか?まぁ、中佐さんの言っている事はよくunderstandですから、なるべく他国の主力艦娘と繋がりを作りたいという気持ちは分かりますネ。But、それでも他の女を紹介するのは嫌ネ。とはいえ、私もこれからは最先任の戦艦娘になる以上、私情を捨てる事も学ばないといけないネ。もう…三笠様達は居なくなってしまうからネ…。
「しょうがない中佐さんデ~ス。向こうに行ったら、私とちゃんとtea timeをしてくれたら、Warspiteを紹介してもいいネ。OKですネ?」
いよいよロンドン軍縮会議に出発です。主力艦の削減ですから、史実でしたらワシントン軍縮会議なのですが、今回は話の都合で英国を舞台にしたかったため、ロンドンで主力艦も補助艦も削減という形にしようと思います。やっぱり…折角ゲームでも登場しているのですから、Warspiteさんを登場させたいですからね。
ゲームのWarspiteさん、非常にお淑やかな淑女…にも見えますが、個人的には台詞のところどころに英国人らしく、厭味たっぷりの台詞も混じっていますので(意図的かどうかは知りませんが)、この小説でのWarspiteさんは、非常に裏表のある艦娘にしてしまおうかと…。