帰国後 海軍省 大臣室 南郷平三郎提督
ふん…。小僧達が帰国してから、騒がしくて適わん。帝国の状況を考えれば、今回の軍縮会議の結果は帝国が望んだ形、そして…次回開催される予定の第二回会議で補助艦艇の削減も行われるが、これも受け入れざるを得ないだろう。たしかにあの小僧が描いた形で、帝国は軍縮に臨む事になったが、これはあの小僧が悪い訳ではあるまい。あの小僧は、小僧なりに帝国のために体を張って頑張っただけであろうに。
まさか帰国して早々に、小僧が反対派の海軍軍人達の襲撃を受けるとは思って居なかったぞ。予め、横須賀の海軍陸戦隊を小僧の警護に回しておいて正解だったということか。犯人の一味は、海軍刑務所に叩き込んでやったが、第二、そして第三の襲撃を許す訳にはいかん。わしの目の届く範囲だけでも、小僧を守らんと。しかし…小僧もそれだけ重要人物になったという事か。なんせ、小僧の処遇を考えるために、こうやって海軍の上層部が雁首を並べている訳だからな。
「…で、佐藤。あの小僧と、敷島の秘蔵っ子。どうするのだ?小僧どもは帝国を救ったのだ。いくら抵抗があるとはいえ、閑職に回す訳にはいかんだろう。とりあえず昇進させる事は確定として、どこの部署に押し込むか…だな?」
「そうだな…南郷。海軍省としては、どちらも海軍省で預かりたいと考えている。なに、海軍省でも反発はあるが、そんなものは私が抑える。それに流石に実戦部隊に回すとなると、残された艦娘達からの反発は厳しいだろうし、時が解決するのを待つしかあるまい。軍令部の意向は?宮様。」
「軍令部としては、少なくとも山野の方は預かりたいと考えています。小堀は敷島の旦那となる以上、こちらは海軍省からは動かせないでしょう。次回の人事異動で、私は軍令部次長となりますので、軍令部を抑える事は可能です。そろそろ山野を、軍政から軍令に移したいと考えていますが、いかがですか?あくまで個人的な意見ではありますが、山野のために、第一部の第一課長の席を準備しようと思います。」
ほぉ…花頂宮は、あの小僧をかなり買っているという事か。第一部の第一課長と言えば、軍令部の花形。おそらく次の昇進に合わせて、軍令部第一部長にする予定だな。佐藤の方も、次の昇進に合わせて、軍務局長に押し込むつもりだな。とはいえ、花頂宮が言うように、そろそろ小僧を軍政から出さなくてはいかん…という事は、わしも賛同だ。
「佐藤、あの小僧をそろそろ軍政から出してやる事については、わしも賛同だ。たしかあの小僧の希望は、艦娘の司令官だった筈。今の時点では戦艦娘からの反発はかなりあるが、そろそろ小僧の将来のためにも、軍政からは出したい。…それに、これ以上あの小僧の経歴を傷つける訳にはいかん。退役した三笠のためにもな。」
「南郷、やはり三笠は怒っていたか?」
たしかに…三笠は表面的には怒っているよ。だが、今回の一件は帝国には必要だった外科手術。その必要性も理解していたさ。実際、今回の一件で小僧への批判は大きいが、それと同時に小僧を支持している高級軍人も多い。時が経過し、今回の一件を冷静に見る事が出来るようになれば、今回の小僧の功績は正当に評価されるであろうな…。
「たしかに、三笠は怒っておった。だが、今回の一件の必要性も同時に認めておったわ。だからこそ、何も恨み言を言わずに退役の道を選んだのであろうな。」
「そうか…立場的に私が直接頭を下げる訳にはいかんが、三笠に詫びておいてくれ。…どうやら、小堀はまだしも、山野の方は軍令部に預けるしかなさそうであるな。」
ふん…前大戦時であれば、お互いに『すまん』の一言で済んだが、ここまで立場が出来てしまうと、うっかり頭も下げられんか…。お互いにやっかいな物よな…。しかし、やはり小僧を実戦部隊に戻すのは難しいか?戦艦娘達の反発は強いが、何か手があれば…。軍令部であれば、いざとなったらこちらに戻しやすいが、それでもそろそろわしの手元に、小僧を置いておきたい。戦艦娘に関わらない部署…か。ん?そうだ。
「佐藤、それと花頂宮、申し訳ないが、小僧はこちらで預からせてもらう。そろそろ小僧を実戦部隊に戻してやりたいし、小僧と関わる事で、艦娘達の小僧への誤解も解けると思うのだが…。」
「南郷。山野は大佐になる以上、実戦部隊ではおそらく主力艦の艦長となるだろう。現在、金剛四姉妹以外の戦艦娘は山野に反発していると聞く。金剛型の艦長という手はあるかもしれんが、危険が大きく過ぎないか?」
たしかに佐藤の言うとおりだ。ここで小僧を金剛型以外の戦艦娘の艦長とすると、お互いの信頼関係が全く無い状態での赴任となり、これは流石に難しいだろう。だからと言って、金剛四姉妹のいずれかの艦長にしてしまえば、それこそ反発も大きかろう。しかし…
「佐藤。小僧はたしか、航空母艦の研究のために、何度か横須賀に来ておる。おそらく航空母艦に興味があるのであろう。幸いな事に、鳳翔の艦長職はそろそろ異動時期だ。まずは鳳翔の艦長に任命し、次の昇進で、いずれ結成する事になるであろう第一航空戦隊の司令、そして最後に第一航空艦隊の司令にしようと思う。その後は…小僧次第であるな。」
「機動部隊構想か…。たしかに、これまでとは異なる思想に基づく艦隊の新設である以上、現在の主力艦とは一線を画すことになるか…。しかし、未だ誰も運用していない艦隊の編成と運用…山野も苦労する事になるだろう。」
佐藤は心配しているが、わしとしては、あの小僧であればなんとかすると思うがな。まぁ、どこまであの小僧が頑張れるかは、現時点では分からんが、それでも鳳翔の効率的な運用が確立できれば…今回の戦艦枠の縮小に伴う防衛力の減少は、十分カバー出来ると思うぞ。
「花頂宮、すまんがそういう事だ。小僧は横須賀で預からせてもらう。それと、佐藤と話したとおり、小僧には機動部隊編成を任せるつもりだ。軍令部には軍令部の考えがあるとは思うが、可能な限り小僧を支えてやってくれ。」
「分かりました、南郷閣下。軍令部は私にお任せください。それにしても…山野はこれからも苦労する事になりそうですな。」
当然だ。あやつが本当に、わしのような艦娘の司令官を目指すのであれば、これくらいの障害は乗り越えてもらわんとな。
横須賀鎮守府 司令部 三笠
なんだぃ、まったく。退役して暇になったと思ったら、記念艦として海軍の広告塔。まぁ、横須賀鎮守府にそのまま居る事が出来るから、これはこれで楽しいが、こういつもいつも南郷の爺に呼び出されていたら、適わないよ全く。敷島姉さんは、最近休暇も多いようだし…若いツバメとお楽しみのようだねぇ。まぁ、こっちは爺の面倒で我慢しておくかぃ。それに…今日はどうして、鳳翔まで呼ばれているんさね。
「南郷提督。山野磯郎大佐、只今横須賀鎮守府に着任いたしました。…ん?三笠様いらっしゃったのですか?」
「ん?坊や、今度の異動先はここかぃ。」
そうかぃ、今日は坊やが戻ってくる日かぃ。なるほど…それで鳳翔も同席って事かぃ。これは金剛の小娘が頭から湯気を出して怒りそうだねぇ…。しかし…軍政から抜けられたと思ったら、最悪の時期にここに赴任かぃ、まったく。相変わらず、運が良くない子だよ。坊やに対して恨みを持っている艦娘は多いからね…。まぁ、時間が解決するとは思うが、よりにもよってこの時期に着任とはね…。
「山野大佐。よく来てくれた。貴官にはここに居る航空母艦『鳳翔』の艦長として、空母機動部隊の研究を行ってもらう。いずれは航空母艦を中心とする艦隊を貴官に任せる事になるが、よろしく頼む。」
「!…航空母艦…でありますか。了解いたしました。山野磯郎、謹んで航空母艦『鳳翔』の艦長を受けます。鳳翔さん、よろしくお願いします。」
「山野大佐、こちらこそよろしくお願いいたします。」
南郷の爺も困ったものさね。これじゃ完全に金剛の小娘が怒りそうだよ。艦長となる士官は、着任した艦娘と結ばれるという話も多いからね…。まぁ、流石にこの状態で戦艦の艦長とする訳にはいかないだろうから、苦肉の策なのだろうが…。とはいえ、航空母艦を中心とする艦隊ね…時代が変わりそうだよ。まぁ、坊やなら上手くやるだろうさ。
「小僧…ここが正念場ぞ。」
「はっ、お任せください。閣下。」
うん、二人ともいい目をしているさね。海軍軍人たる者、こうでなくてはいけないねぇ。それに…ついにあの坊やも、南郷の爺と同じ目つきをするまでになったという事かね…。退役したとはいえ、南郷の爺の傍に居て、あの坊やが新しい艦隊を編成する姿を見る事が出来るんだ、あたしはとても幸せだよ。
以上で、今回の第二章は終了となります。山野中佐は、ついに航空畑に進出し、しかも鳳翔さんの艦長さんに任命されました。これにより、主力戦艦娘達との溝はドンドン広がる気も…。それに金剛さんの反応も気になるところです。おそらくこの辺りから、金剛さんと鳳翔さんの序列が逆転していき、『鎮守府の片隅で』の時代には、あのような状態になってしまった…という感じでしょうか。
第三章、正直何時書けるのか全く定かではありません。一応、話の流れは出来ているため、後は書くだけの筈なのですが、結構時間かかりそうなんですよね…。正直に言うと、『鎮守府の片隅で』の後の時代を描くエピローグは書いてあるので、そこにつなげる事が出来るような第三章が書けたらな…と思っています。
ここまで読んでいただきありがとうございました。