鎮守府への道   作:ariel

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今回が「鎮守府への道」の最終話になります。新司令長官となった山野提督が、きちんと「身辺整理」をしてから、新鎮守府に着任するまでの回になります。


第二十一話 鎮守府への道

横須賀鎮守府 司令長官室  南郷大将

 

 

あの小僧が、わしの後継者になる日が来るとはな…いや、わしも期待していた事はたしかだが、本当にその期待に最後まで応える事になるとはな。特に、米田との司令長官候補を選択する投票戦の際、小僧が見せた政治的な立ち回り。これからの司令長官は、わしのように海軍省や軍令部から一定の距離を置くのではなく、積極的に介入するような事も必要になるのであろう。

 

それにしても…わしもいよいよ司令長官を退任する事になるのだな。元帥海軍大将であるため生涯現役とはいえ、役職が外れる以上、わしの時代は終わった…いや違うな。ようやく次の世代にバトンを渡せるようになったという事か。まぁ、想定していた以上に若い世代に変わるというのは、ご愛嬌というところだが。

 

「失礼します。南郷司令長官。山野、入ります。」

 

小僧もこの鎮守府に来るのは、これが最後。明日は陸路で呉まで移動し、小僧の新しい鎮守府の立ち上げが始まるのだな。まぁ、最初の立ち上げである以上、一緒に連れて行ける戦力は、わずかに駆逐艦が数隻ではあるが、予定どおりであれば来月には水雷戦隊が、そして半年後には小僧の空母戦力も配属できよう。

 

「山野…入れ。」

 

ふむ…この小僧も覚悟が決まったと見える。実に良い表情をしておるな。まぁ、このわしの後継者なのだ、それくらいの覚悟を見せてもらわなくてはならんわな。

 

「山野、いよいよだな。海軍省から既に辞令が出ておると思うが、本日付でわしは、司令長官職を退任する。山野、これからの帝国海軍をよろしく頼む。情報部からの話では、深海棲艦の活動が再び活発になっている現在、次の大侵攻は近いと見るべきだろう。そしてその時、帝国の盾となり戦うのは、貴様だ。しっかりやれ。」

 

「南郷提督。後のことは、自分が引き受けます。これからの帝国海軍のことは、自分にお任せください。」

 

どうやらわしは、後継者に恵まれたようであるな。この小僧であれば、わしの代わりに帝国海軍を任せることができよう。…そうとなると、わしが小僧に最後にしてやれる事は、小僧が司令長官として動きやすくしてやる事であるな。まぁ、これについてはもう話がついておるから、教えてやるか。

 

「山野、先日海軍大臣の佐藤とも少し相談をしたのだがな、佐藤もこのわしと一緒に、海軍大臣を退任するそうだ。流石に軍令部総長の宮様には、帝国海軍の要石として、今しばらく現役でいてもらわねばならんが、司令長官が世代代わりした以上、軍政側も世代代わりすることが望ましい。それに貴様も、海軍大臣が同期の方がやりやすかろう。」

 

「…閣下、まさか。小堀少将が次官から海軍大臣になるのですか?」

 

「…小堀中将だ。流石に少将で海軍大臣と言う訳にはいくまい、山野中将。貴様も本日付で中将に昇進だ。しっかりやれ。」

 

流石に司令長官と海軍大臣が少将という訳にはいくまい。これについては海軍上層部の総意として、二人を中将に昇進させる事が急遽決まっておる。本当は役職的に大将にしてやりたいところだが、いかんせん小僧共の年次ではな。まぁ、ぎりぎりなんとかなる階級ではあるから、後はそれぞれの役職で功績を立てれば、時間が解決してくれよう。

 

「山野中将。これでわしが貴様にしてやれる事は、もう無い。これからは貴様の時代だ。存分にやれ!以上だ。」

 

「南郷提督。ご配慮感謝いたします。…それでは、失礼いたします。」

 

もはや引き継ぎも終わっておるし、今更小僧に伝える言葉もあるまい。それに小僧に対する戦艦娘達を含めた評価も申し分ない以上、十分にやっていけるであろう。これでようやくわしも、肩の荷が下りたという事だな。

 

まぁ、これでわしも無任所で時間も出来よう。これからは、三笠の相手をもう少ししてもよいのかもしれんな。あやつには、相当苦労をかけてきたからな。

 

 

 

横須賀鎮守府 談話室  三笠

 

 

いよいよ、あの坊やも呉に赴任しちまうんだね。新しく鎮守府の立ち上げからやる事になるとは、本当に貧乏クジだよ。第一、これから拡張していく鎮守府だ。今の現状では、せいぜい数隻の駆逐艦を係留するくらいしか出来ない。まぁ、工事は急ピッチで進んでいるようだから、来月には一個水雷戦隊程度であれば、受け入れられるだろう。もっとも…空母を含む大型艦が受け入れられようになるまでは、半年はかかりそうだね。

 

「三笠、俺は明日には呉に向かう。新しい鎮守府を作る…というのは苦労しそうだが、まぁなんとかなるだろう。その内、こっちにも来てくれよ。…いつも来られたら、困るけどな。敷島も朝日も、富士様も、任務でこっちに来た時は寄ってくれ。」

 

「山野提督。近くに出撃した際は、寄らせてもらいますが。あまり緩い鎮守府はいけませんよ。今度の鎮守府の規模、最終的にはこの横須賀鎮守府よりも大きくなるでしょう。緩すぎる規則では、収拾がつかなくなります。それと、あまり働きすぎて、健康を害してはそれこそ本末転倒。特にしばらくは単身赴任なのですから、自分の体の管理はしっかりしなくてはいけません。それとですね…」

 

「し…敷島、そこまで言われなくても大丈夫だ。ちゃんと秩序は作るし、健康にも留意して勤務するさ。」

 

全く、敷島姉さんらしいと言えば、らしいね。まぁ、敷島姉さんからしても、あたし同様に、坊やはいつまで経っても、あの新任少尉時代の坊やなんだろうさ。でもね、そんなに五月蝿く言っていると、殿方には嫌われるよ?なんでも、海軍省に居る自分の旦那にも、最近は相当煙たがられているみたいだしね。

 

「山野。あたいもその内そっち遊びにいかせてもらうけど、ちゃんと歓待しろよ?山野も司令長官で中将になるんだ。歓待の内容には期待させてもらうからな。それと…ここまで来たんだ。今更言う事でもないんだろうが、これから頑張れよ!」

 

「あぁ、朝日。ありがとうな。こっちに来たら、朝日が食べきれない程のご馳走を出してやる。それと…朝日も元気でな。」

 

朝日姉さん、接待を要求してどうするんだぃ…。まぁ、朝日姉さんからしたら、今まで面倒を見てきた弟分が出世したから、今度はちゃんと歓待しろよ?くらいのつもりなんだろうけどね。

 

「山野提督。これからは、いよいよ山野提督の時代ですね。…ですが、気をつけなければいけませんよ。好事魔多しという言葉もあります。順調な時ほど、慎重に行動するのですよ。まぁ、山野提督の場合は、女難の相がありそうですけどね…うふふふ」

 

「ふ…富士様、やめてくださいよ。これでもちゃんと身辺は整理してから赴任予定なのですから…」

 

坊や…身辺整理は「これから」だろう?もうあの二人は、坊やを待っているよ。まぁ、後ろから刺されない程度には、身辺整理をしておくんだね。それと…一応あたしからも釘はさしておかないとね。

 

「坊や…その身辺整理、どうするのかまでは関知しないが、選べるのは一人だけだからね。…それと、これはあたしの希望だが、選ばなかった相手にもちゃんと配慮して、いつかは責任をとるんだ。どちらを選ぶにしても、選ばれなかった相手は今更違う人を…という訳にはいかないだろ。ちゃんと機会を見つけて、もう一方に対してもそれなりの処遇をするんだよ。…坊や程の人物だ、それくらいの器量はあるだろう。」

 

「…分かっている、三笠。いつになるかは分からないが、ちゃんと両方に対して責任はとるつもりだ。…いや、約束する。」

 

「ほぉ…約束ね。まぁ、それならいいんだけどね。」

 

ふん…どうだろうね。大方こういう場合、男というのは逃げるものだって相場は決まっているからね。とはいえ、坊やがあたしに約束をするという言質はとったんだ。もし何もしなかったら、その内文句の一つでも言いに行ってやるかぃ。

 

「いずれにせよ、しばらくは忙しくなって連絡も少なくなるかもしれないが、皆には本当に世話になったな。感謝している。準備が出来たら連絡するから、その時は是非来てくれよ。…では行ってくる。」

 

あの坊やの門出だね。敷島姉さん達も、皆嬉しそうな顔をしているし、坊やが新司令長官に選ばれて本当に良かったよ。あたしはもう現役艦という訳ではないが、この日をこの形で迎える事が出来て、本当に幸せだったよ。

 

 

 

横須賀鎮守府 山野提督 私室    山野中将

 

 

「二人とも来てくれたか。…まずは業務連絡からだ。二人とも俺の鎮守府に配属される事は決定しているが、赴任時期はもう少し先になる。まずは鳳翔。鳳翔の赴任は、おそらく半年後だ。その頃には、新鎮守府も大型艦を迎え入れる事が出来る準備が整っているだろう。赤城や加賀そして龍驤と共に赴任する事になるだろうな。」

 

「了解いたしました、山野提督。それまでは、横須賀鎮守府の米田中将の許で、訓練をしています。受け入れ態勢が整ったら、直に連絡してくださいね。直にそちらに向いますから。それと…しばらく自炊ですが、大丈夫ですか?あまり外食ばかりでは駄目ですよ?」

 

半年間は、自分の直卒艦隊の無い司令長官か。まぁ、新鎮守府を作るのだから、仕方ないよな。それよりも…半年間は、鳳翔の手料理も無しか…こっちの方がキツイぞ。艦長になってから、ほとんど料理は鳳翔がやってくれていたから、自炊はしばらくやっていないし。早いところ、呉鎮守府近くで美味しい店でも見つけないと、拙い事になりそうだ。

 

「金剛、お前の方はもう少し赴任まで時間がかかるぞ。なんせ、お前達は姉妹揃って近代化改修をしないといけないからな。本当は呉で改修したかったんだが、未だそんな設備はない。だからと言って、これ以上お前達の近代化改修を遅くする訳にはいかないから、今回は横須賀で改修を受けてもらう。まぁ…来年には、全ての改修工事が終わって、こっちに赴任出来るはずだ。」

 

「Hmm…一年間ですか~。But, これは仕方ないですネ。分かりました、一年間は我慢するネ。でもさ、改修が終わったら直にそっちに行くデ~ス。私が新しくなった姿は、提督に早く見てもらいたいデ~ス!」

 

金剛達姉妹の場合は、近代化改修が入っているからな。研究費は無事に今年度予算についているから、後ろ倒しは出来ない。となると、呉に改修用ドッグを整備してから…という訳にはいかない以上、横須賀で改修を受けさせるしかないんだよな。俺の策、金剛達の引き止めには有効だったが、時間的制約も出てしまったから、金剛には悪い事をしてしまったかもしれんな。…それに。

 

「金剛。こちらに来たら、俺の秘書艦としてしっかり働いてもらうから、覚悟しろよ。」

 

「What? 私が秘書艦ですか?鳳翔じゃなくて、いいんデ~スか?」

 

「金剛が赴任するまでは、鳳翔に秘書艦をしてもらう予定だが、お前が赴任したら、秘書艦はお前に任せる。多分、お前の方が向いていそうだからな。これからも仕事の面で、俺をしっかり支えてくれ。」

 

「…。…山野提督?やっぱり鳳翔を選ぶんですネ?」

 

『仕事の面で』という一言で察したか。昔はともかく、今は金剛も優秀な艦娘だからな。いや、正直俺も非常に迷ったさ。だが、やっぱりここで金剛を選ぶ訳には行かない。…すまん。

 

「金剛…すまん。ここまで結論を引き延ばしておいて、本当に申し訳ないんだが、俺は鳳翔を選ぶよ。いや、お前には本当に感謝しているんだ。でも、お前を選べない。…本当にすまん。」

 

「提督…酷い人ネ…。ここまで私を待たせておいて、本当に酷い人デ~ス。私、もう今更、他の人のところに行くというselectionは、無いですヨ?…でもいいネ。私を秘書艦にするという事は、私を信頼している事は分かりマ~ス。…普段提督の一番近くに居るのは、私デ~ス。それに…こんな酷い提督は、そのうち鳳翔に愛想を尽かされる事は確実デ~ス…だから、私は待っているネ。提督が鳳翔に愛想を尽かされる日まで…」

 

「な…金剛さん。そんな事は、私はしませんよ。提督?私を選んでくれて本当にうれしいのですが、金剛さんを秘書艦にするというのは、ちょっといかがでしょうか…。金剛さんは全然諦めていなさそうなのですが…。」

 

いや…。ここで金剛を秘書艦からも外すなんてした日には、俺は間違いなく刺されるぞ。それに、秘書艦としての仕事は、綺麗事だけでは済まないからな。勿論、俺に南郷提督程の絶対的な力があれば、相手に配慮させる事で綺麗事だけで終わらせる事も出来るだろうし、敷島のような規律を遵守するタイプの秘書艦で問題ない。

 

だが俺にはまだそこまでの力が無い以上、俺の鎮守府では色々と政治的な取引も増えるだろう。そうなったら、金剛の力は絶対に必要だ。だからこの面では、鳳翔にも我慢してもらわないと…。

 

「鳳翔。俺の鎮守府には、金剛のような秘書艦が絶対に必要だ。申し訳ないが、仕事の面については譲歩してくれ。それと…鳳翔…生活面では俺をしっかり支えてくれよ?」

 

「…分かりました。仕事については、提督のご意向に全て従います。それと…生活面では私がしっかり面倒を見ますし、金剛さんに付け入られるような隙は与えませんから。」

 

「Hey! 鳳翔、なかなか言いますネ。でも私は、とってもしぶといですヨ?もう一度提督がこちらに振り向く日まで、待っていマ~ス!」

 

こりゃ…俺の鎮守府は賑やかな鎮守府になりそうだな。まぁ、俺がちゃんと手綱を握っていれば大丈夫だろうし、二人ともある程度の分別はあるだろうから、なんとかなる…よな?

 

「二人ともいい加減にしろ!それと…俺はそろそろ帝都行きの汽車の時間が迫っているから、駅にいかせてもらう。明日には一足先に俺は呉に行くが、これからよろしく頼むぞ。」

 

「提督…お気をつけて。半年後にお会い出来る日を楽しみにしております。」

 

「Hey 提督!元気にやるデ~ス。私も一年後にはそっちに行くからサ。See youデ~ス。」

 

 

 

呉鎮守府 司令部入口    山野中将

 

 

これが、俺の鎮守府の司令部か。まだ小さいが、これから大きくなっていくんだよな。あれ…おかしいな。先に特型駆逐艦が来ていて、俺の案内をしてくれる手筈になっていたと思うんだが、まだ居ないのか?おっ?

 

「…はぁ、はぁ。遅くなってすいません。特型駆逐艦の吹雪です。山野提督でしょうか?」

 

建物の向こうからバタバタ走ってきた艦娘が目の前に居るが、この娘が特型駆逐艦の子か。しかし…あからさまに約束の時間を忘れていた…なんて雰囲気を醸し出しているが、大丈夫なのか?といってもしばらく、俺はこの子を頼らなくてはいけないけどな。

 

「あぁ、俺が山野だ。吹雪君か…よろしく頼む。」

 

「こちらこそよろしくお願いします!それでは、司令部を案内しますね。あっ!すいません、提督が到着した事を皆さんにお知らせしますので、少しだけ待っていてください!」

 

おぃおぃ…大丈夫か?またバタバタ走って、司令部内に駆け込んでいったが…。ひょっとして駆逐艦娘というのは、みんなこうなのか?俺は今まで、あまり駆逐艦の艦娘との付き合いはなかったが、これを機会に色々と話してみる必要がありそうだ。…なんといっても、この子が俺の鎮守府に配属された最初の艦娘なのだからな。

 

「♪ピンポンパン♪ 特型駆逐艦一番艦の吹雪です。皆さんに連絡です。提督が鎮守府に着任されました。これより、艦隊の指揮を執ります!」

 

いよいよ俺の鎮守府が、ここから始まるんだな。はるか昔、新任少尉として呉の兵学校を出て幾年月。ついに司令長官として、呉に戻ってくる事になったんだよな。そして、次の大戦も近いという情報も出ている。責任は重大だが、おもしろい。

 

俺の力の及ぶ限り、全力でやってみるか。これから実に楽しみだ。




最終話までありがとうございました。一応この後、おまけではありますが、エピローグを用意していますので、本日中に投稿する最後の物語を楽しみにしてもらえると嬉しいです。

さて、山野提督の身辺整理でしたが、仕事と家庭で分けた事で、なんとか先延ばし…になったような…。このような状態だったからこそ、「鎮守府の片隅で」の世界でも、金剛さんと鳳翔さんは、あのような関係になっている…という事にしてみました。とはいえ、これはあくまでも先延ばし。話中にあった、三笠様の約束は果たせていません。ですからエピローグで、最後は責任を取る事になるでしょうね…。

いずれにせよ、なんとかこれで「鎮守府の片隅で」の提督に繋げる事が出来たかな…と思っています。ここまで読んでいただき、また長い間待っていただき、ありがとうございました。
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