鎮守府への道   作:ariel

26 / 26
時代は一気に進み、「鎮守府の片隅で」の時代を超えて、いよいよ山野提督が退官する時代の話をエピローグとしました。


エピローグ
エピローグ


呉鎮守府 司令部  山野 元帥海軍大将

 

 

そろそろ俺も退役する時が来たようだな。後進も順調に育ってきているし、深海棲艦との戦いもこちらがだいぶ有利に進んでいる。そろそろ潮時だな。退役したらどうするか…鎮守府近くの建物は確保してあるから、鳳翔と一緒にそこで、本格的に料理屋を開くというのも悪くないか…俺と一緒に料理屋を開くというのは、あいつの夢だったからな…。ま、今でもあいつは鎮守府の片隅で店をやっているから、店の場所が少しだけ移ると考えれば、あいつにとっては今とあまり変わらんのかもしれん。ただ…退役するとなると、三笠との約束も果たす時が来たという事か…。

 

「金剛、最近は深海棲艦との戦いも有利になってきているようだな。それにこの鎮守府も順調に軌道に乗っている。お前には秘書艦として苦労ばかりかけてきたが、これまで本当に助かったぞ。」

 

「Hey! 提督~。いきなりどうしたデ~スか。これからも私が、提督を支えていきますネ~。」

 

「いや…そろそろ退役しようと思っていてな…。」

 

金剛の奴、目を丸くしているな。こいつのこんなに驚いた顔は、本当に久しぶりに見た気がするな。まぁ、これからもっと驚くことになるのだろうが…いや、怒る可能性もあるのか…。

 

「提督!何言っているネ!退役なんてNoなんだからネ!第一、提督が退役してしまったら、残された艦娘はどうするデ~スか!」

 

「なに…後進も順調に育ってきている。次代の司令長官に席を譲る時が来た…という事だ。それに海軍大臣の小堀もそろそろ退役を考えているようだからな。お前も知っているように、俺達は同期なんだ、退役する時は一緒と決めていたからな…。」

 

小堀の奴も、今期限りで海軍大臣を辞任して海軍からも退役すると言っているからな。軍政と実戦部門のトップが二人同時に交代する事になれば、自然に軍令のトップも交代になるだろう。今の軍令のトップは俺達よりも更に兵学校の年次は上。もうそろそろ後進に道を譲ってもらわなくてはいかんしな…。先輩には申し訳ないが、俺達の道連れになってもらうか。

 

「嫌ネ!絶対に嫌デ~ス!提督以外の人には、私は絶対に仕えないネ!だから、退役は止めて欲しいデ~ス。」

 

おぃおぃ、金剛…泣くなよ…って、こいつは結構嘘泣きが多いからな…。ふむ、今回はどうやら本当に泣いているようだな。まぁ、こいつは…俺にとっては初めて出会った艦娘でもあるし、何かと縁もあったな。さて…それでは三笠との約束を果たすか。

 

「金剛…お前がもし良いなら…お前も一緒に来るか?」

 

「What !?」

 

「お前との付き合いも長いし…どうやらお前を長く待たせすぎてしまったからな…その責任はとらないと…な。あくまでも、内縁の…という事にはなるが、それでもいいか?」

 

「Really !? でも鳳翔はどうするネ?提督は、もう鳳翔と一緒になっているデ~ス。鳳翔が私を受け入れてくれるとは、とても思えないネ!」

 

ま、そうだろうな。あいつはああ見えて嫉妬深いからな…。とはいえ、こればかりは俺の責任だからな…ここで俺が逃げたら、三笠に何を言われるか知れた物じゃない。それにこいつとは俺が少尉の時代からの長い付き合いだし、ずっと独り身で待っていてくれたわけだからな…。ま、鳳翔にはぶん殴られるかもしれんが、なんとか説得するしかないだろう…。

 

「金剛、鳳翔を気遣うとは、お前らしくもないな…ハハハ。…鳳翔の説得は俺がちゃんとする。ま、土下座でもなんでもするさ…。あっ、籍を入れる事は出来ないぞ。それで、まだ返事をもらっていないんだが?」

 

「Yesネ!提督~、私もついていくネ!提督…やっと私の方を振り向いてくれましたネ…長かったデ~ス。でも、待った甲斐がありましたネ…。」

 

ほぉ…金剛でもこんなにしおらしくなる事があるんだな…。とはいえ、俺の長い経験から考えれば、こいつがずっと大人しくしているとは思えないし…こりゃ、俺が退役しても我が家は賑やかになりそうだな。

 

バタンッ

 

「ふん…坊や、ようやく決断したかぃ。まったく…世話が焼けるったらありゃしない。」

 

…なんで三笠が来てるんだよ。それに敷島に朝日に春日に富士様まで…。…ゲッ…鳳翔もか…あの表情じゃ、さっきの会話は全部聞かれていたか。大方、また三笠の『勘』で敷島達と呉までやってきた…という事か。で、鳳翔を連れて俺の部屋の前で待っていたら中から面白い話が…という事なんだろうな。三笠の勘については今更だから驚かないが、敷島達まで連れてきているというのはな…嫌がらせ以外の何物でもないだろう。

 

「山野提督、お久しぶりですね。私達も流石にそろそろ退役しようかと思いましてね。その挨拶をするために提督の所に来たのですが…なかなか面白い三文芝居を見せてもらいましたよ…フフフ。とはいえ、ここまでよく頑張りましたね。あの少尉がここまで成長するとは…私も楽しい物を見せて貰った気がします。本当にお疲れ様でした。」

 

「敷島にそう言ってもらえる日が来るとは、俺も思っていなかったな…。」

 

敷島は相変わらずだよな。あれからだいぶ年も取っているだろうし、戦艦から海防艦になり、更に練習艦になっても、雰囲気は昔の敷島のままなんだよな。この人とも随分色々あったもんだよな…。

 

「山野!金剛と上手くやれよ!っていうか、その前に修羅場が待ってそうだけどな~ハハハ。鳳翔、とりあえず一発、山野を殴っておけって。」

 

「朝日…これ以上煽るなよ。それに覚悟は出来ている。」

 

朝日も変わっていないよな。即断即決。そして後には引き摺らない…このサバサバした性格には、俺もいくらか救われたよな…その都度ぶん殴られたのは、痛かったけどな。だが、長門達との仲を取持ってくれた、あの海軍精神注入棒の恩は忘れていないぞ。

 

「貴方…言いたいことは、いろいろとありますが…本当に金剛さんを迎えるのですね?」

 

「あ…あぁ。鳳翔、殴られる覚悟は出来ている。それにお前には何の不満もない。だが金剛のことが、俺の心の片隅に絶えず居た事もたしかだ。そしてその存在を、俺の心から完全に追い出す事は不可能だ。…すまん。」

 

「…」

 

まぁ、怒っているよな…。こんな言い訳が通用しない事は、百も承知だ。だが…鳳翔と金剛の付き合いも長いから、なんとか認めてくれるような気配もある…いや、これは俺の甘えだよな。

 

「貴方?一応確認ですが、あくまでも内縁ですね?籍は入れないのですね?」

 

「あ…あぁ。金剛もそれで納得してもらっている。」

 

「…分かりました。私も金剛さんの事を、少し気にして居た事は確かです。ですが貴方、私に不満が出ないように、ちゃんと差配してくださいね。それと…金剛さんにも不満が出ないように…。」

 

ふぅ…これはキツイ約束になりそうだよな。二人とも完全に満足させるように…って、どう考えても無理だろ。あの嫉妬深い鳳翔に、油断ならない金剛だぞ?とはいえ、これが鳳翔としての最大限の譲歩…なんとか頑張るか。

 

「分かった、鳳翔。約束する。…ありがとう。」

 

「酷い人ですね…もう知りません!」

 

「あらあら、山野提督?これから大変そうですね。ですが、やはり男児たる者、これだけ待たせた人に対して責任はとらなくてはいけませんからね。それと…金剛、良かったですね。」

 

「金剛良かったわね。でも、鳳翔もついていないわね。こんな酷い男が旦那なのだからさ。」

 

「富士様、それに春日も…勘弁してくれよ。鳳翔には、常に感謝している。」

 

なんというか…富士様や春日にも、昔から世話になったよな。だからこそ、こういう時は本当にやり難いったらありゃしない。何を言っても、色々と言われそうだからな…。いずれにせよ、鳳翔も一応?納得はしてくれた…という事でいいんだよな?

 

「鳳翔、金剛、これからもよろしく頼むぞ。…三笠、ちゃんと俺は約束を果たしたぞ。三笠にも、ここまで本当に世話になったな。俺はこれで退役する事になるが、これからは気軽に遊びに来いよ。」

 

「ふん…一応、坊やなりに約束は覚えていて、最後にその約束を守ったってとこかぃ。まぁ、これならいいさ。…それにしても…あの坊やが、本当に艦娘の司令長官までなってしまい、こうやって後進に道を譲るような立場になるとはね。…山野司令長官、本当にここまでよく帝国のために働きましたね…ご苦労さまでした。」

 

…一応、合格点…って事だよな。あの三笠から最後に合格点がもらえる程度には、俺も司令長官職をきちんと務めた…って事か。新任少尉の頃、はじめて三笠に会ってから、かなりの年月が経ったが、結局三笠は最後まで俺の指導艦だったという事なのかもしれんな。

 

「三笠様。山野磯郎は、三笠様のおかげで大変有意義な海軍生活を送る事が出来ました。改めて…感謝申し上げます。これまで本当にありがとうございました。」




提督、爆発しろっ!な結論になってしまいましたが、やはりこの形が一番落ち着くな…と個人的には感じて、このシリーズ一連の話のエンディングとしました。今は時代的に無理ですが、時代が時代でしたら、山野提督クラスの要人であれば、二号さんや、下手すれば三号さんが当たり前という時代もありましたから…まぁ、これでいいや…と思ったわけです。実際のところ、これ以外の結論にすると、どこかで無理が生じてしまうんですよね^^;

という事で、「鎮守府の片隅で」は今休載中ですが、あの後こうなるんだな…とニラニラして、あちらの話も読んでもらえたらと思います。…そのうち、あちらの話も新しい話を書きたいな…と思っていますので、何かの弾みに新作が投稿されるかもしれませんから、あまり期待せずに待っていてもらえたらな…と思います。あちらは、一話完結ですから、終わりはないですしね^^;

ということで、年単位の休載となってしまいましたが、なんとかこちらの話は完結できたかな…と思います。皆様、ここまで本当にありがとうございました。



【挿絵表示】


それと…縁あって、今回puccapucca02様に、山野提督、南郷提督、三笠様、敷島様、朝日様、金剛さんのイラストを描いてもらいました。時代的には第一章の時代のイラストになりますが、私がイメージしていた三笠様達とそっくりに描いてもらいまして、大変感謝しています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。