秋
戦艦寮 三笠私室 巡洋戦艦 金剛
「坊や、一度くらいはあたしも、坊やの手料理が食べてみたいもんだね。何か食べさせておくれ。海軍士官たるもの、坊やも料理の一つくらいは出来るだろう。」
相変わらず三笠様は少尉さんを困らせる事ばかり考えてるネ。Oh…少尉さんも困ってマ~ス。普段の訓練では、三笠様の指示を苦もなくこなす少尉さんデ~スけど、流石に今回は困ってるようデース。But、困っている少尉さんも良い顔デスネ。もう少し困らせてみたいデスネ。
「Hey, 少尉さん。私も少尉さんの手料理が食べたいデ~ス。Hmm…偶には、欧州の料理が食べたいデスネ。イギリスの料理を、」
「お待ち、小娘。イギリスの料理なんて作らせてどうするんだぃ。どうせならもっと違う料理を作らせるんだよ!坊や、イタリアの料理が美味しいんだが、それを作っておくれ。それじゃ、頼んだよ。」
「ちょっと待ってくださいよ、三笠様。イタリアの料理を作れって、そんな無茶な…。まったく…金剛さんが余計な事言うから…。金剛さん、手伝ってもらいますよ。」
Oh…これはchanceですネ。少尉さんとの仲を縮める絶好の機会が到来デ~ス。最近私も、少尉さんの良さが分かって来ましたネ。この少尉さんは、将来間違いなく南郷提督のような素敵な人になりマ~スね。ですから、今の内に少尉さんをしっかり捕まえておきマ~ス。今回は、私も三笠様の我侭に感謝デ~ス。
「Hey! 少尉さん。私にgood ideaがあるネ。Follow me。」
たしか、装甲巡洋艦の春日のおばさんが、イタリア出身でしたネ。日進のおばさんもイタリア出身ですけど、今遠征中で鎮守府にいまセ~ンから、春日のおばさんにお願いするしかないネ。たぶん春日のおばさんにお願いすれば、イタリア料理は大丈夫な筈デ~ス。春日のおばさんは、私達金剛姉妹にとても優しいデ~スから、私がお願いすればきっと助けてくれるネ。ここで少尉さんをhelpして、point getデ~ス。ついでに私も少尉さんの手料理を食べさせてもらうネ。
戦艦寮 春日私室 巡洋戦艦 金剛
「Hey! 春日のおばさ~ん、私と少尉さんを助けてくださ~い!」
「金剛…相変わらず賑やかね。それと…おばさんじゃなくてお姉さん。そろそろ覚えなさい!それで?三笠の所の坊やも一緒のようだけど、一体何があったの?また三笠から無理難題でも出されたの?」
イタリアで生まれた春日のおばさんは、very気さくな人で私も話しやすいデ~ス。でも, もうお姉さんと呼ばれる年ではないネ。この鎮守府には、三笠様もそうですけど、若く見られたがる人が多すぎて、本当に困りマ~ス!But、今日は春日のおばさんにお願いをしないといけないデ~スから?今回は仕方ありませんネ…。
「そうデ~ス。三笠様から、イタリア料理を作れと命令されたネ。春日のおば…お姉さん、私と少尉さんを助けて欲しいネ。」
「三笠も相変わらずね。坊や?イタリア料理は良いのだけど、坊やは料理は得意?…には見えないわね。となると、簡単に作れそうな物でそれなりに食べられる料理ね…。」
「すいません、春日様。料理の方はからっきし駄目でして…その…味付けなら兵学校で化学は得意でしたから、大丈夫だと思いますが…。」
Oh…少尉さん、料理は全く駄目ですか。私もあまり得意ではないデ~スから、お互い様ね。ん?waitネ。だとすると、私が少尉さんと一緒になったら、誰が料理するデ~スか?Ah…仕方ないネ…私がしっかり勉強するしかないデ~ス。少尉さん、仕事は出来るかもしれませんけど、家庭では駄目そうネ。But、少尉さん大丈夫ネ。私がちゃんと少尉さんをsupportしてあげるデ~ス。
「坊や、化学が得意だから味付けは大丈夫というのは…まぁ、一面の真実ではあると思うけどね。とにかく、まずは材料の買い出しに行くわよ。それにしても、三笠にも本当に困った物ね。」
「春日のお姉さん、分かったデ~ス。少尉さん、早速一緒に行くデ~ス。」
春日のおばさんは料理好きデ~スから、お願いすればきっと助けてくれると信じていま~した。何を作る事になるのか、楽しみデ~ス。それに少尉さんと外に出て、一緒に買い物できるのは、very嬉しいデ~ス!
輸入品スーパーマーケット『穴の貉』 装甲巡洋艦 春日
料理をあまりやらないこの坊やでも出来るイタリア料理ね…。まぁ、乾麺パスタを使えば簡単に美味しいイタリア料理が作れるけど…。しかもペペロンチーノ辺りなら、材料さえ良い物が手に入れば、この坊やは化学が得意だったと言ってるから味付けは大丈夫そうだし、簡単に作れるかな…。いえ、たぶん駄目ね、あの三笠がそう簡単に満足するとは思えないわね。
三笠は時々私のイタリア料理を食べているから、イタリア料理の事をそれなりに知っている。となると、この少尉が作れそうなイタリア料理はある程度予想している筈。三笠を驚かせて満足させるとなると…普通のパスタでは駄目ね。何か工夫をしないと…。この坊やは、いつも三笠の無理難題に振り回されているし…それに敷島には睨まれていて、朝日にもキツクしごかれている。多少は私が助けてあげないとね…最先任の富士さんも色々と影からこの坊やを助けてあげているようだし。それにしても…日進も遠征中でなければ良かったのにね…。あの子が帰ってきて、今回の出来事を話したら、『自分だけ面白い事に参加できなかったじゃないか!』って怒りそうだね。
それと金剛もいつのまにか女の子になったね。完全に坊やに首ったけじゃない。こうやって買い物に来るだけでも、坊やと一緒に外に出られて凄く嬉しそうだしね。ま、ここはひとつ、坊やの料理の手助けをしてやって、ついでに金剛の恋路も手伝ってあげますかね…。
しかし…何を作らせようかしら。見た目が派手で尚且つ簡単な料理…マカロニグラタン…あれは白一色でちょっと派手さに欠けるか…。ならここに赤いソースが入れば色合い的には…そうね…ホワイトソースとトマトソース系の赤が絡むような料理…ラザニア!これなら市販の物を組み合わせて作れば、あの坊やでも作れるし、見た目も味も悪くないわね。
「とりあえず作る物は決まったわ。ラザニアを作りましょう。坊や、缶詰コーナーからミートソースとホワイトソースの缶詰を持ってきて頂戴。金剛はパスタコーナーから、パスタシートです。それと途中の乳製品のコーナーで、ピザ用でいいから、溶けるチーズもね。」
私の所に、パルメザンチーズや乾燥パセリの粉はあるし、ホワイトソースを少し緩くするための牛乳も…戦艦寮の冷蔵庫に誰かの牛乳があるはず。耐熱皿は私の持ち物を貸すとして…後必要な物は…一緒に楽しむイタリアワインね。今回は肉料理という訳ではないし、軽くて飲みやすいワイン…そして、あの坊やでも無理なく払える程度のワインとなると、トスカーナのキャンティの若いワインかな。たぶん少し軽めのキャンティなら、三笠でも満足すると思うわ。
戦艦寮 台所 山野少尉
いつのまにか、戦艦寮の台所に連れてこられて料理する事になってるけど…金剛さんも春日様もノリが良すぎるだろう。金剛さんは買い物の間ずっと上機嫌だったし、春日様もいつの間にかワインまで籠に入れていたし…。ま、それ程高く無いワインだったから、俺でも普通に払えたけどさ。しかし、俺がイタリア料理を作る事になるとは…人生何が起きるか分からんとはよく言ったものだよ。あれ?金剛さん、料理は手伝ってくれないのか?俺の後ろに椅子を持って来て、座ってるだけなんだけど。
「坊や、とりあえずホワイトソースとミートソースの缶詰を開けて。それとパスタシートを茹でるから、鍋で湯を作ってね。塩を入れるのを忘れては駄目よ。」
「は、はい。春日様。金剛さん手伝ってくれないのか?」
「今回は、私は手伝えないネ。三笠様は少尉さんの料理を食べる!と言っていましたネ。私が手伝ったら三笠様に怒られそうデ~ス。それに私も少尉さんの手料理が食べたいデ~ス!」
金剛さんも俺の料理を食べる気なのか…だとしたら、手は抜けないな…って、春日様が見てるから、元々手は抜けないんだろうけどさ。とりあえず、鍋に水入れて、ここに適当に塩を入れて…(坊や、もう少し塩を入れなさい。)はいはい春日様…もう少し塩を入れて、これを火にかける…と。
「お湯が沸いたら、そこにパスタシートを入れて頂戴。そしてそのまま、袋に書いてある時間茹でてね。」
えっと…袋には5分茹でろと書いてあるから、ここで5分だな。…よし、そろそろいいかな。
「春日様?時間になったので、この鍋の中身を外に出せば良いですよね?」
「えぇ、茹でていたパスタシートを外に出して頂戴。そしてよくお湯を切っておくのよ。あと、先にオーブンの予熱が必要だから、200℃に余熱しておいて頂戴。」
了解~、春日様。とりあえずお湯から上げたパスタシートを…おっと、結構柔らかくなってるんだな…これをザルの上に置いて、湯を切るか。それとオーブンを200℃にセットして…こんな感じか?
「坊や、そしたら次はホワイトソースの準備。缶詰のままだとちょっと硬すぎるから、そこの冷蔵庫から適当に牛乳持って来て、缶詰の中のホワイトソースを少し伸ばして頂戴。牛乳の入れ過ぎは注意よ。」
「了解~春日様。少し柔らかくなるように薄めればいいですよね?それなら…これくらい牛乳入れれば…。」
ホワイトソースを薄めて柔らかくするのか…なんか本当に化学の実験みたいだな。兵学校での生活が懐かしいぜ。あの頃、まさか自分がこんな風に料理をする事になるなんて思っても居なかったが、意外と料理も実験と同じで楽しいもんだな。
「坊や、いい感じね。それなら、これから材料を全部この皿の中に入れるから、私の言った通りに入れて頂戴。…金剛、三笠には黙っていてあげるから、坊やを手伝ってやりなさい。」
「分かったネ。春日のおば…お姉さん。少尉さんと共同作業デ~ス!」
「金剛、そういう台詞はまだ早いわね。それに金剛、あなたももうちょっと料理が出来ないと、坊やに逃げられるわよ?」
「N…No Problemデ~ス!My sister達には、少尉さんは渡しませ~ん。それに私がたとえ料理が上手でなくても、少尉さんは私を連れて行ってくれる筈デ~ス!」
「金剛、あなた甘いわよ。たしかにあなたなら、あなたの妹達には負けないと思うけれど…将来どこから敵が現れるか分からないものよ。まぁ、将来それで失敗しない事を願っているわ。それと坊や、金剛を大事にしてやってね。あなたのお友達の、敷島の下についている…たしか小堀少尉だったかな…彼も金剛の事は好きなようだけど、金剛は坊やの事が好きみたいだから。」
おぃおぃ、春日様。いきなり何言っているんですか。金剛さんが俺の所に…その…と…嫁いでくれるなら、俺は大歓迎ですよ!春日様の指示で、金剛さんが俺の横にくっつくように立ったけど、本当に可愛い子だよな…。小堀、お前には悪いけど金剛さんは渡さないぞ。
「ほら金剛、くっつき過ぎよ。それじゃ坊やが料理出来なくなっちゃうでしょ!さ、いつまでもイチャイチャしてないで、料理の続きよ。それじゃ、まずこの耐熱皿にさっき緩くしたホワイトソースを敷き詰めるように入れて頂戴。それが終わったら次はミートソース、パスタシートの順番に並べるのです。そうしたら次は溶けるチーズを万遍なく並べるのですよ。」
「分かったネ、春日のお姉さん。少尉さ~ん、私が皿を抑えていますから、ホワイトソースやミートソースを入れるデ~ス!」
よし!金剛さんが直ぐ横に居るし、俺も少しは良いところを見せないとな…。まずはホワイトソースを敷き詰めて、その上にホワイトソースの層が崩れないようにミートソースを敷き詰めたら、茹でていたパスタシートを…最後は溶けるチーズだったよな?…よし!結構良い感じに載せられたんじゃないか?
「へ~、坊や、なかなか筋がいいじゃない。それじゃ、その調子で同じように、順番に積み上げるのよ。皿の一番上がホワイトソースになるようにして頂戴ね。」
「了解です、春日様。それにしても…料理も意外と簡単に出来るのですね。」
「えぇ、そうね。先生がいいからでしょうけどね。」
春日様、やっぱりノリがいいよな。イタリアから来た方だという事もあるけど、横須賀鎮守府に居る先の大戦で戦った主力艦の中では一番ノリがいいよ。さて…そしたら春日様に言われた通り、順番に乗せて…最後にホワイトクリームの層が来るようにして…(坊や、最後に溶けるチーズと、このパルメザンチーズの粉、乾燥パセリを振りかけて頂戴)。…言われた通りにして…おっ、まだ完成してないけど、結構良い感じじゃないか?
「Oh…少尉さ~ん、とっても美味しそうネ。これならあの三笠様も満足すると思いマ~ス!」
「いえいえ、金剛さんが手伝ってくれましたから…」
「はいそこ!恋愛遊びは中止!まだ終わっていないから、最後の仕上げよ。余熱したオーブンに耐熱皿毎入れなさい。熱いから耐熱手袋を忘れないでね。後はこのまま30分も焼けば完成よ。」
「りょ…了解しました、春日様!」
ようやく料理が終わった…。といっても、結構楽しい時間だったな。三笠様の命令とはいえ、こんな楽しい時間を過ごすことが出来たのだから、三笠様には感謝ってとこかな…。後は待つだけか。しかしこの量だと、三笠様と金剛さんだけでは食べきれないんじゃないか?いくら三笠様がたくさん食べると言っても、耐熱皿が大きかったから少し作り過ぎな気も…。
「あの?春日様?ちょっと作り過ぎではないでしょうかね?」
「ま…まぁ、調子に乗ってちょっと多かったかな…あっ、私ももらうからね?ただそれでも、三笠と金剛と少尉の分としては多過ぎか…。金剛、あなたの妹達を誘ってあげたら?」
「I YA NE! これは少尉さんが、私のために作ってくれた料理デ~ス!my sister達といえども、渡せないデ~ス!」
残念…金剛さんの妹達まで来てくれれば、両手に華どころ、周り全部華状態だったんだがな…
ゲシッ
…痛いよ、金剛さん。顔に出ていたかな…だからと言って蹴飛ばす事はないだろ…ちょっと夢を見ただけなんだからさ。
「少尉さ~ん!また何か悪い事を考えていましたネ!浮気は駄目ネ!」
「いやいやいや、そんな事ない、そんな事ないよ?金剛さん。…ま、まぁ、そんな事より、三人じゃ多すぎだから、誰かは誘わないと…富士様じゃ駄目かな?」
敷島様を誘うのは問題外、朝日様を誘ったら食い散らかされて三笠様の機嫌が悪くなるからこっちも却下…となると、金剛姉妹が誘えない以上、富士様を誘うしかないだろ…。いくら友人とはいえ、折角両手に華状態なのに、小堀を誘いたくないしな…。
「あら、坊や。なかなか良い選択ね。それに富士さんなら、三笠も大人しくなるだろうし、金剛も文句はないでしょう?」
「そうネ。富士様なら、私も文句は言わないデ~ス。」
ま、富士様には色々と見逃してもらったり、面倒もかけてるから、その恩返しにもなるし丁度いいからな。おっ…チーズが焦げる良い香りがオーブンからしてきたし、もうそろそろだな。とりあえず富士様と三笠様を呼んでくるか。
「うん、そろそろ出来上がりね。それじゃ、私が富士さんと三笠を呼んできてあげるから、坊や達は出来上がった料理を机に運んで、小皿を準備しておいてね。それと、ワインの準備も忘れちゃ駄目よ。」
春日様、何から何まで本当にありがとうございました。この恩は忘れません。
戦艦寮 食堂 海防艦 富士
この少尉さんは本当に楽しい少尉さんですね。あの三笠が気に入った少尉さんという事で、私もこれまで、少し注意して見て来ましたが、見ていて本当に飽きない少尉さんです。今や私は海防艦になってしまいましたが、このような面白い少尉さんが見られるのであれば、南郷提督に無理を言って横須賀鎮守府に置いてもらっている甲斐がありますね。以前、私の所に虎屋の羊羹を持って来て、『ちょっと当直の時に、目をつぶっていてくれませんか?』などと言われた時は驚きましたが、考えてみれば南郷提督も若い頃は、よく規則破りをしていましたし…この少尉さんも南郷提督と同じですね。
そしてその時以来、この少尉さんは頻繁に私の所に茶飲み話に来てくれていますが…まぁ、こちらは半分以上、私が面倒を見ている金剛の妹、榛名と話すためでしょうね。南郷提督もそうでしたが、英雄色を好むという事なのでしょう。おそらくそのような英雄の気配を三笠は敏感に感じ取った結果、この少尉さんの事を気に入ったのでしょうね。流石に私の年齢になってしまいますと、もうそのような浮世話ともほとんど縁はありませんが、私がもう少し若ければ、金剛のようにこの少尉さんと色々と楽しめたのかもしれません。とはいえ、見ているだけでも十分に楽しませてもらっていますから、これはこれで結構な事なのですが。
今日もその少尉さんが何かやったようですね。いえ、原因は三笠のようですが、急に春日が訪ねてきて、『三笠の所の坊やがイタリア料理を作ったんだけど、多すぎるから富士さんも誘われてるよ』と言われました。この年になっても、美味しい食事には目がありませんから、勿論私もお呼ばれされましたが、一緒に榛名を連れて行こうとしたところ、春日から止められてしまいました。なんでも金剛が自分の妹達を呼ぶ事を凄く嫌がったようです。金剛のやきもちですか…。少尉さん…あまり金剛を泣かせたら駄目ですよ。いずれにせよ、あの少尉さんがどのような料理を作ったのか楽しみですね。
「おや富士さんも呼ばれたのかぃ?坊や、変な物を作っていないだろうね?富士さんは凄く味に五月蠅い方だからね。あたしに恥をかかせるんじゃないよ!」
三笠?私はそれ程味に五月蠅いという訳ではありませんよ。ただ…口に合わないと、あまり食べたくなくなる…それだけです。それに、今回は春日がきちんと見ている筈ですから、不味い料理という事はないでしょうに。
「少尉さん、今日は呼んでいただきありがとうございます。三笠が何か言っていますが、私はそのような事はないので安心してください。あら…これを少尉さんが作ったのですか?なかなか美味しそうな料理ではないですか。早速いただきましょうか。少尉さん?取り分けてもらえますか?」
「は、はいっ、富士様。それでは、これを…。」
少尉さん、ありがとうございます。なかなか綺麗に出来ているようですね。白と赤のコントラストが見事なラザニアですし、表面のチーズがパリッと少しだけ焦げている部分も非常に美味しそうです。香も…とても香ばしくて私は好きですね。昔、まだ私がイギリスで生まれた頃、様々な欧州料理を楽しんだ記憶がありますが、この料理もなかなか良い線を行っていると思いますよ。春日の助けがあったとはいえ、たいしたものです。
お味の方も…なかなかよろしいですね。春日からは、少尉さんはあまり料理に慣れていないと聞いていましたから、おそらくこれは市販の物を組み合わせた料理だと思います。しかし、市販の物を組み合わせているだけあって、非常に安定したお味ですし、基本には非常に忠実に作られています。ホワイトソースの濃厚な味と滑らかな食感、そしてミートソースの香と味でパスタが包まれていますし、溶けたチーズも良い塩梅に入っています。初心者の料理としては、十分に合格点ですよ。
それにこのワインも、おそらくイタリアの若いキャンティだと思いますが、非常にこの料理に合っています。おそらくこのワインの選択は、春日の助けでしょうね。しかし少尉さん?誰かに助けてもらうというのも、その人の才能です。少尉さんは今回、色々な人に助けてもらっていると思いますが、助けてもらえる環境を普段から作っている…というのも十分な才能なのですから、それを大事にしてくださいね。
「三笠?なかなか美味しい料理ではありませんか。流石は三笠が指導している少尉さんの事だけはありますね。」
「富士さん、そんなに坊やを持ち上げないでやっておくれよ。しかしまぁ…春日の助けがあったとはいえ、なかなかの物じゃないか、坊や。褒めてやるよ!ん?金剛どうしたんだぃ?いつも騒がしい小娘が、今日はやけに静かじゃないか。」
「う…うるさいネ、三笠様!。少尉さんが私のために作ってくれた料理を堪能しているだけデ~ス!少尉さ~ん、このラザニア凄く美味しいデ~ス。こんな美味しい料理は食べた事ないネ。この味は、私ずっと覚えているデ~ス!」
フフフ…金剛にとっては特別な料理になったようですね。好きな人に作ってもらった料理であれば、料理の技術などは関係ないでしょうし、作ってもらえたという事実だけでも美味しいと思う事が出来る筈です。将来、金剛がこの少尉さんと結ばれるか?それは私も分かりませんが、この料理は金剛の思い出の一ページとしてきっと残るのでしょうね。三笠も粋な事をしますね。
「フンッ、坊や…まぁまぁ美味しいじゃないか。まぁ、合格だよ。私の料理の腕に比べればまだまだだけどね。」
三笠も素直ではありませんね。少尉さんはよく頑張ったと思いますよ。それに貴方もあまり人の事は言えないのではないですか?あの時は、結果的に新しい名物料理が出来ましたが…。
「三笠?もっと素直に褒めてあげても良いと思いますよ。それにあなたも料理では、色々やっているではないですか?ほら、何時だったか忘れましたが、南郷提督に『ビーフシチューを作ってくれ』と頼まれた貴方でしたが、作り方が分からず直感で作った挙句、醤油と砂糖で味付けをしてしまって…南郷提督は驚いていましたよ。まぁ、結果的には非常に美味しい料理でしたから、肉じゃがとして鎮守府で広まりましたけどね…フフフ」
「な…その…あれは…い…嫌だね、富士さん。そんな昔の事を…。あれは作り方を詳しく伝えなかった南郷の爺が悪いんだよ!あたしは悪くないよ!コラッ、坊やも小娘も何笑っているんだぃ!春日あんたまで…まったく困ったものだよ…。あれはあれで美味しかっただろっ!」
えぇ、あの料理、私も美味しくいただきましたよ。たしかあなたも、あの時は南郷提督のために必死で作ったのではないですか?ですから、今回の少尉さんの気持ちも分かると思うのですが?…フフフ。それにしても、今回も少尉さんのおかげで、色々と楽しませてもらいました。この調子では…まだまだ私も退役する訳にはいきませんね。
一応、この話が将来、『鎮守府の片隅で』の第72話につながる話になります。という事で金剛さんとしては、この思い出をいつまでも大事にしていたようですね。実際のところ、ラザニアはこのように市販の品を組み合わせて上げますと簡単に作れますので、料理が得意じゃない人でも問題なく作れるのではないかと思います。是非一度…などと言っていますと、『鎮守府の片隅で』のあとがきになってしまいそうですが^^;
さて今回は、三笠様世代の富士様や春日様を登場させましたが、この時代の船は欧州生まれが多いですから、比較的欧州料理との親和性が高いんですよね。そして三笠の肉じゃが…はこれの元ネタは東郷提督のエピソードなのですが、三笠がやったという形に改変して話に盛り込んでみました。肉じゃがは肉じゃがでとても美味しいのですが、ビーフシチューとは少し違いますからね^^;
今回も読んでいただきありがとうございました。