鎮守府への道   作:ariel

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季節は冬になり、山野少尉が横須賀鎮守府で過ごすのもあと僅かになってきました。そして、そろそろ山野少尉の次の配属先が決まろうとしている訳ですが…。


第六話 交渉と説得

横須賀鎮守府 司令部  戦艦 敷島

 

 

いよいよ今年もこの時期が来てしまいましたか。新任少尉の来年度の赴任先を決定する時期が。私が直接面倒を見ている少尉達は、軍令部門、軍政部門、そして実戦部隊とそれぞれの適正に合う場所を考え、私の一存で決定しました。流石にもっとも目をかけていた小堀少尉については、直接面談をした上で決めましたが、少尉は軍政部門を希望し、私もそれがもっとも少尉の適正に合うと考えましたので、揉め事もなく決める事が出来ました。

 

また妹の朝日や、その他の艦娘が面倒を見ている少尉達も、問題なく片付いたと思います。もっとも…朝日については、指導をしていた全ての少尉を実戦部門に配属させようと考えていたようで、各自の適正を考えた上で配属先を再考するように説得が必要でしたから、苦労をしたと言えば苦労をしたのかもしれませんね。とはいえ、これは毎年の事なので、私も慣れてしまいましたが。

 

「敷島、今年度の少尉達の配属先はもう決定したのか?」

 

「はっ、提督。一名を除いて全て決定しました。」

 

しかし一名…もっとも扱いが難しい少尉の配属先が決定出来ていません。

 

「あの小僧か…。三笠の希望はどうなっている?」

 

「三笠は軍令部門への配属を希望しているのですが…。」

 

「しかし、敷島は反対なのだな?」

 

南郷提督の仰るとおりです。三笠は、山野少尉の次の配属先として、軍令部門を推薦してきました。三笠の考えている事は、私には手に取るように分かります。三笠が影響力を発揮出来る場所は、実戦部隊そして軍令部門。司令官職はまだしも、山野少尉の現場指揮官としての適正は人並み程度ですから、自分が影響力を発揮でき、かつ山野少尉の適正に合いそうな場所を選んだのでしょう。

 

おそらく軍令部門に配属させ、自分の影響力で出世街道に乗せる。そして早い段階で鎮守府に呼び戻そうとしているのでしょうね。これについては、私も非難するつもりはありません。私は軍政部門には顔が利きますので、私が指導している小堀少尉は、私の力でなんとしてでも出世させるつもりです。

 

問題は山野少尉自身の適正、そして彼の最終目標…さらに現在の帝国の政治状況です。山野少尉の最終目標は、南郷提督のように艦娘を指揮する鎮守府の司令官だった筈です。この目標への最短距離は、確かに三笠が考えるように軍令部門の職を中心に昇進していき、実戦部隊の職を時々経験する形でしょう。前大戦のように戦時の場合、間違いなくこのコースが一番の出世コース。そして三笠の介入があれば、より簡単に山野少尉は出世街道を進んでいくでしょう。しかし今は平時です。軍備の維持、軍備計画の立案、国際関係の維持、予算確保…これらの仕事が中心の現在の帝国海軍では、軍令部門や実戦部門での活躍は難しいです。

 

またこれは私の個人的な考えですが、山野少尉の適正は、軍令よりも軍政にあるような気がするのです。私の厭味を受け流しつつ反撃を加えてくる論法、鎮守府の風紀を乱すための計画立案とその実行のための組織作り、不法物資の購入に必要な予算の確保、そして富士さんのような先任艦への賄賂攻勢。この一年間、私もいたちごっこであの少尉には散々苦しめられましたが、今考えれば、あれは少尉の適正の一つの発現だったのでしょう。

 

「はい提督。私としては、山野少尉は軍政部門に出したいと考えております。」

 

「なるほど…たしかに小僧の適正を考えれば、軍政でも問題ないだろう。問題は三笠の説得だな?」

 

「はっ…」

 

三笠の説得。これは姉の私でも難しいでしょうね。少尉を軍政部門に配属させるとなりますと、三笠の影響力があまり発揮できず、私が影響力を発揮する部門への配属。私と少尉の関係を考えれば、三笠は私が少尉の昇任を邪魔するつもりだと邪推する事は間違いありません。勿論私は一少尉のために、そのような邪魔をするつもりなどありませんが、三笠は絶対にそうは思わないでしょうね…。身から出た錆とはいえ、少し困りました。

 

「敷島。直接小僧と接触して説得しろ。小僧の口から言わせれば、三笠は説得出来るだろう。敷島、自分の希望を押し通すなら、お前自身で少尉を説得するんだな。」

 

「それは…分かりました、提督。そのように取り計らいます。」

 

自分で直接説得しろ…という事ですか。流石に南郷提督、厳しい方ですね。とはいえ、言っている事はもっともな事です。三笠には内緒で少尉に接触して、私が直接説得するしかなさそうですね。問題はどのようにして少尉に接触するか…ここは小堀少尉にお願いするしかなさそうです。しかし…これは完全にルール違反ですね。これまで私はルールを守って、その範囲で最善の行動を採って来ましたが、あの少尉と会ってからというもの、ルールを踏み外している事が多くなっている気もします。私も知らず知らずの内に、少尉や三笠に影響されているのかもしれませんね…。

 

 

 

横須賀鎮守府 食堂  山野少尉

 

 

「おぃ、小堀?来年度の配属、もう決まったのか?やっぱり軍政部門か?」

 

「あぁ、俺は軍政部門に行く事になってるよ。敷島様も賛成してくれたし、海軍省経理局に配属されそうだ。貴様はどうなんだ?山野。」

 

「俺は…まだ決まってないんだよな。三笠様は軍令部門への配属を勧めてくれているんだが、敷島様によってまだ保留らしい。横須賀鎮守府の風紀を乱す少尉として、俺は敷島様にだいぶ睨まれているからな…。」

 

三笠様が推してくれているから、すんなり決まると思っていたんだが、まさかここで敷島様がストップをかけてくるとは予想外だったな。いくらなんでも、いきなり敷島様の介入があるなんて予想していなかったから、ちょっと油断していたか…。そのおかげで、三笠様は敷島様にだいぶ怒っているし、金剛さんも機嫌悪いんだよな…勘弁してくれよ。軍令部門への配属なら、鎮守府に出張で来る事も多いから、次の任地に移っても金剛さんに簡単に会えると思っていたんだけどな…。

 

「まぁ、敷島様には敷島様の考えがあるとは思うんだが…。それに流石に俺や貴様のような一介の少尉相手に敷島様が妨害してくる事はないと思うぞ。いや、別に俺の指導艦だから敷島様を庇っているんじゃなくて、敷島様の性格的にそれはないと思うんだがな。」

 

「小堀、それは俺も分かってる。敷島様は良い意味でも悪い意味でも真面目だから、流石にこの段階で俺を潰しにかかるなんて事はないだろうさ…。しかし俺の配属、何時決まるんだろうな…流石に少し心配だぞ。」

 

「おぃおぃ、山野。そう落ち込むなって。よしっ!ここは一丁、パ~ッと遊びに行かないか?俺達少尉でも遊べる個室茶屋があってな。そこの子がまた綺麗なんだよ~。お前も来いよ。」

 

こ…こいつ、いつのまにそんな素晴らしい店を開拓してたんだ!どうせ敷島様の厳しい訓練から逃れる束の間の休息なんだろうけどな。俺は休暇中もほとんど三笠様に拘束されていたから、そんな所で遊んでいないんだぞ。まぁ、金剛さんが一緒だったし、三笠様も休暇中は甘いところがあるから、別に問題なかったけどな。とはいえ…今日は丁度三笠様や金剛さんも出かけているし…よしっ、ここは小堀に連れて行ってもらうか!

 

 

「お前…いつのまにそんな所見つけていたんだよ!そういう事はな…同期の俺にもちゃんと教えておけって。友達甲斐のない奴だ。ほら、行くぞ小堀。」

 

「山野…貴様も好きだねぇ~…ハハハハ」

 

 

 

横須賀市内 個室喫茶  山野少尉

 

 

へぇ、なかなか良さそうな所だな。小堀が言うには、一人で部屋で待っていれば、可愛い子ちゃんが来てくれるという話だったが、どんな子が来るんだろうね。いつもは三笠様のように怖い美人や、金剛さんのように積極的な子に囲まれているから…こういう時くらいは、慎ましやかな大和撫子のような子が…。小堀の奴が、後は任せておけって言っていたけど…小堀、期待してるぞ。

 

「失礼いたします。」

 

おっ、来た来た。どんな子か楽しみだな。

 

スーッ

 

「少尉、期待しているところすいませんが、内密にお話がありましてね。申し訳ありませんが、小堀を使わせてもらいました。」

 

…おぃ。小堀…怨むぞ。なんで敷島様と、こんな所で二人っきりで会わなきゃならんのだよ!それに敷島様も敷島様だよ。今日はどうせ三笠様も金剛さんも鎮守府に居ないんだから、普通に俺を司令部の会議室にでも呼び出せばいいだろっ。よりにもよって、俺のこの純真な心を傷つけるようなやり方で騙しやがって…絶対にこれは普段の仕返しだよな。

 

とはいえ、わざわざこんな所まで敷島様が出向いてきたという事は、鎮守府では出来ない相談…俺の来年度の配属先…そして俺を通じた三笠様の説得が目的か。だとしたらこの会談…そう簡単にこちらが折れる訳には行かないという事だな。まずは場の主導権を取り戻さないと…。このまま交渉が始まったら、一方的に敷島様に押し込まれそうだ。

 

「これはこれは…敷島様。こんな所でお会いするとは思ってもいませんでした。まさか敷島様が一時とは言え、私の相手をしてくれるとは…。敷島様?ここでの事はお互いに秘密という事で…それでは失礼しますよ。」

 

「なっ、ちょ…少尉!何を…止めるのです!」

 

「いや…流石に冗談ですよ。それで、相談というのは何でしょうか。」

 

敷島様、意外と初心なんだな…。これ以上調子に乗ると本気で殴られそうだから、この辺りで止めておくけどさ…。敷島様も多少は動揺してくれたようだし、なんとか主導権は取り戻せたか?

 

「少尉…なかなか面白い手を使ってきますね。まさかこのような方法で私を動揺させようとするとは…。少尉は、鎮守府の風紀の敵であるだけでなく、艦娘の敵ですね。私としては、これでますます少尉を鎮守府司令官にする訳には行かなくなった…という事ですね。」

 

いやいや…風紀の敵とか艦娘の敵とか、流石に酷すぎないか?…ん?敷島様の雰囲気が変わったな。どうやらここからが本番ってとこか。

 

「さて少尉、冗談はこの辺にして、少しお話があります。短刀直入に言います。少尉の来年度の配属先ですが…軍政部門を考えています。」

 

「三笠様の希望は、私の軍令部門への配属だったと思いますが?」

 

「それを承知の上で言っています。」

 

軍政か…。俺の配属が決まっていない時点で、大方こんな事だろうとは思ったが。まさか自分の牙城に俺を押し込めて、飼い殺しに…。いや、流石に敷島様がこの時点で、そこまで露骨な対応をしてくるとは思えん。それにわざわざ俺を呼び出して話をしているという事は、三笠様との関係を悪化させるつもりもないという事。問題はどういう意図があって、敷島様が俺を軍政部門に入れようとしているのか…まずはそれを突き止めないとな。敷島様が相手だ。余計な小細工なしで、一気に切り込むか。

 

「敷島様。無理を通そうとしている以上、説明はいただけるのでしょうね?どうやら敷島様も、三笠様との関係悪化までは望んでいないようですし、私も条件によっては、三笠様の説得はしますよ?」

 

 

 

横須賀市内 個室喫茶  戦艦敷島

 

 

一気に切り込んできましたね。話が早くて助かりますが、三笠との関係は悪化させたくない…という私の希望を理解した上で交渉に臨んできましたか…こちらの思惑は知られていますから、やっかいですね。それに少尉自身が、軍政部門に配属される事を明確に拒否している…という訳ではありません。ですから、たしかに少尉の言うとおり、『条件次第』で三笠を説得してくれるのでしょう。問題は、どの程度の『条件』を落とし所にするか…という事ですか。…少尉、やはりあなたは軍政部門が合っていますよ。

 

「やはり説明は必要なようですね。少尉、現在の帝国海軍の状況は分かってますね?現在は平時、帝国海軍では次の深海棲艦の侵攻に対応するため、軍備の増強そして更新、新技術の開発などがその主な任務となっています。」

 

「…なるほど、敷島様。つまり、軍政部門の方が出世は早いだろう…という事ですか?」

 

「その通りです、少尉。」

 

流石に理解が早くて助かります。戦時であればともかく、今の平時の海軍で大きな力を持っているのは軍政部門です。勿論、軍令には軍令の重要な仕事がありますし、実戦部隊はいざという時のために練度向上を行っていますが、それでも予算の決定や、これからの海軍の大方針を立てるという意味において、軍政部門である海軍省の力はとても強いのです。

 

少尉は考え込むような素振りをしていますが、おそらく私の提案のメリットとデメリットを天秤にかけているのでしょうね。少尉にとってのメリットは、帝国海軍の中心部門に配属される事で出世する確率を上げる事が出来る事、そしてデメリットは海軍省では三笠のサポートが得られない事と私の妨害のリスク、そして…将来鎮守府司令官として戻る事が出来ない可能性…でしょうね。

 

「敷島様?出世の件はなんとなく分かりますが…三笠様のサポートは得られない、そして敷島様の妨害が入る可能性がありますよね?その辺りはどのようにお考えですか?いえ、この際ですからはっきり言いますが、海軍省に配属されたとして、私を上げるつもりが敷島様にあるのですか?」

 

やはりまずはそこから来ましたね。いくら確率的に出世しやすいとは言っても、三笠のサポートがないとなれば、軍令部で三笠のサポートを得た方が良いと思う事の方が自然です。まして、軍令部であれば私が妨害出来る余地はないのですから…。どうやらこの辺りが、最初の交渉のポイントになりそうですね。

 

「大人しく海軍省に配属されるのであれば、私はサポートする意思があるのですがね…少尉。」

 

「なるほど…しかし敷島様のサポートが得られるという保証は?」

 

「おや、私では信用出来ない…という事ですか?少尉。」

 

「敷島様…まさか私が、口頭での約束を信用するとでも?」

 

やはりそうでしょうね。私と少尉の間では色々ありましたし、私の牙城に配属される訳ですから、少尉が警戒する事はむしろ当然でしょう。それに、もしこの程度で私の言葉を信用するような愚かな少尉でしたら…私は少尉を海軍省で飼い殺しにするでしょうね。

 

「…いいでしょう。少尉の出世の面倒は私が責任をもって見るという約束を書面にして、三笠に渡しましょう。」

 

「敷島様?その出世の面倒というのは、どの程度の面倒でしょうか?」

 

「常識的な範囲です。」

 

「非常に曖昧な表現ですね…。そこは『小堀少尉と同程度に』と文面を修正してもらいましょうか。」

 

「少尉…私にそこまでしてあげるメリットがあるのですか?」

 

「私の件で三笠様との関係が修復不可能な状態になる事を防ぐ…敷島様にとっては十分なメリットだと思いますが?それに三笠様との関係が悪化すれば…南郷提督の秘書艦としての敷島様の御立場も危うくなるのでは?」

 

…なかなか痛い所をついてきますね。しかし少尉?少し私を甘く見ていませんか?たしかに三笠との関係は重要ですし、南郷提督の秘書官としての立場も大事ですが…私への南郷提督の信頼はこの程度の事で崩れる程軟な物ではありませんよ。それに少尉は自分の件で三笠との関係が修復不可能になるかもしれない…と言っていますが、しばらくは悪化するでしょうが、それが未来永劫続くとは考えられません。三笠もああ見えて、良く考えていますからね。

 

「少尉…なかなか興味深い意見ですが…、私を甘く見てもらっては困りますね。少尉を小堀と同程度に出世させるのであれば、三笠との関係悪化を選ぶ…という選択肢もあるのですよ?」

 

「…なるほど、たしかに敷島様の言う通りかもしれませんね。」

 

少尉、降参ですか?まぁ、ここまで抵抗した少尉の勇気に免じて、『通常の兵学校恩賜組程度の出世には協力する』という文面でしたら考えてもよいのですがね。

 

「しかし敷島様?敷島様の御立場を考えれば、海軍省に使い勝手の良い駒が一枚…では足りないのではないでしょうか?敷島様もいつの日か、富士様と同じように海防艦として艦種変更という措置がとられるでしょう。その時、敷島様の意を実現出来る士官が小堀だけでは…いくら小堀が優秀でも難しいと思いますよ?」

 

…言い難いことをズバリ言ってきますね…。たしかにこれについて私も不安を感じている事はたしかです。これからどんどん新しい艦娘が計画され出てくるとなると…私が戦艦として居られる時間はそれほど長くはないでしょう。そして少尉が言うようにそのうち、富士さんと同じように私も海防艦になると思います。そうなった時、海軍省には私が指導した海軍士官は大勢いますが、海防艦になった私の意を理解して動いてくれそうな士官となると…。

 

小堀については、私はこれまで私が担当してきた少尉以上に彼を指導してきましたから、おそらくその恩を忘れずに私の意を叶えてくれるように尽力するでしょう。しかし少尉が言っているように、小堀一人では完全にそれを実現する事は難しいでしょうね…。やはりもう一枚…大駒を用意する必要がありますか…。

 

「小堀少尉は優秀です。彼一人でも問題ないのでは?」

 

「敷島様、自分でも信じていない事を信じているように言われても困りますね…。」

 

仕方ありませんね…。ここは自分の将来の権限維持のためにも、文面の変更を飲むしかありません。しかしこの少尉、本当に私の意に沿って動くのでしょうか…逆にこちらが信用出来ません。

 

「少尉…文面は少尉の希望どおりに変更しましょう。しかし少尉?少尉が私の意に従って動くという保証はどうするのです?」

 

「…小堀と連名で誓約書をしたためます。」

 

なるほど…小堀少尉と連名という事は、自分の友人の前で私に約束するという事ですね。私が三笠に誓約書を提出するのと同じ効果という事ですか…。それならば信用しても良いかもしれません。

 

 

 

横須賀市内 個室喫茶  山野少尉

 

 

ふぅ…綱渡りのような交渉だが、なんとか敷島様に条件を飲ませる事に成功したか…。それにしても、俺を出世させるくらいなら、三笠様との関係悪化を選ぶという手もあるんだぞ…と言われた時は、流石に肝が縮んだよ…。まぁ、敷島様と三笠様はきちんと根っこの部分では信頼し合っているようだから、実際に俺程度の事で修復不可能な溝が出来るとは考えられないもんな…。

 

まぁ何時だったか忘れたが、富士様との茶飲み話の席で富士様が『あまり敷島に苦労をかけてはいけませんよ?少尉さん。敷島だって将来の事を不安に感じているのですから。私はもう達観していましたから、海防艦への艦種変更を普通に受け入れられましたが、あれだけ権限を持っている敷島にとっては、将来必ずある海防艦への艦種変更は恐怖の筈ですよ。自分の今の権限を海防艦に変わった後も維持出来るのか…私のように達観すれば気楽になれるのですがね…』と言っていた情報が役に立つとは思わなかったな。そういう意味では、今回も富士様に助けられたようなもんだよな。

 

とりあえず敷島様からの譲歩は引き摺り出せたが、あと一つ大きな問題が残っているよな。敷島様が言うように平時の海軍省は出世するには良いかもしれないけど、俺の最終目的は艦娘を指揮する鎮守府の司令官職だぞ。軍令部ならともかく、海軍省でキャリアを積んだ俺が実戦部隊の牙城に戻れるのか?

 

「敷島様、もう一つ伺いますが、海軍省で私が昇進を続けていったとして…将来的に鎮守府司令官への道は開いているのでしょうか?」

 

「現時点では難しいと判断せざるを得ませんね。ですが少尉、これは軍機も絡んでいますのであまり他言をしてもらっては困りますが…今後の鎮守府は、現在の横須賀鎮守府よりも遥かに規模が大きくなり、その司令官職の権限も拡大するでしょう。となると…将来的には軍政部門にも顔が利き、ある程度政治的な動きも可能な人間が司令官職に就く事になるでしょうね…。」

 

規模が拡大する?今の横須賀鎮守府でも、教育機関などを含めればかなりの規模だぞ…。いや…たしかに現在の横須賀鎮守府よりも大きな鎮守府になり、艦娘の数も増えるとなると…それを支援する人員も桁違いに大きくなる。そしてそれら全ての責任者となると…もはやそれは実戦部隊の司令官というよりは、軍政下にある小都市の管理に近い…という事か。だとするとたしかに、敷島様が言うように軍政でのキャリアが…。しかしこれが本当だとすると、何故三笠様は俺を軍令に配属させる事に拘っているんだ?まさか!

 

「敷島様…この情報は、三笠様はご存じですか?」

 

「少尉…先程も言いましたように、これは軍機が絡んでいます。三笠には、まだこの情報は降りていません。少尉、既に研究は進められているのですが、次に深海棲艦が侵攻を行うとすると…先の大戦のように世界各地における局地戦規模…帝国の場合では日本海における局地戦ではなく、太平洋全域を戦場とする大規模な戦いになると考えられています。おそらく米国と共同戦線を張る事になると思いますが、太平洋の西半分は帝国が担当する事になるでしょう。となると、それに対応出来るだけの数の艦娘の維持、管理そして戦力集中…いきつく所は巨大な鎮守府を組織するしかないと、海軍上層部では結論が出ているのです。」

 

流石に南郷提督の秘書艦であり、海軍省に顔が利く敷島様という事か…。俺は鎮守府内で敷島様を適当にからかって楽しんでいただけだが、やっぱりこの人は優秀な人だったんだな。将来への見通しも、残念ながら三笠様よりは敷島様の方が数枚上手ってとこか。たしかにこれだけの情報があれば、軍令部への配属を希望していた俺に対して、自信を持って軍政部門への配属を勧められる訳だな…。悔しいが、ここは敷島様の考えに従うしかないだろ…本来なら三笠様でも知らないような情報を俺に知らせてまで説得してくれたんだからな…。

 

「敷島様、了解いたしました。山野磯郎少尉、海軍省への配属を希望いたします。また三笠様への話は、私が責任を持って行いますので、よろしくお願いします。」

 

「分かりました少尉。それではそのように取り計らいましょう。それと…海軍省での配属は軍務局を考えています。私の期待を裏切らないようにしてくださいね。」

 

「はっ、敷島様。」

 

海軍省か…本来なら恩賜組が行くところなんだよな…。俺でも大丈夫か?という不安はあるが、まぁ小堀も一緒のようだし、敷島様のサポートも期待できるようだから、なんとかやってみるか。…海軍省に配属されたら、しばらく三笠様や金剛さんにも会えなくなるのが寂しい所だけどな。ま、帝都から横須賀は近いし、休みの時にでも横須賀に遊びに来るか…。

 

「さぁ少尉。それでは鎮守府に戻りますよ。」

 

「はい、敷島様…って、何で手を繋いでくるのですか!」

 

「少尉…ここがどういう店かご存知ではないのですか?こんなお店から出るのに、手も繋がずに出てしまっては、道行く人に怪しまれますよ。」

 

いや…そういう問題ではないと思うんだが…。別に敷島様と手を繋ぎたくないとか、そういう訳ではないけど…なんと言うか、まさか俺が敷島様と手を繋ぐことになるとはな…。金剛さんとは時々手を繋ぐこともあるけど、三笠様とは手を繋がないし…なんと言うか恐れ多いと言うか…。とはいえ、敷島様が言うように流石にこんな店から男一人で出たり、男女バラバラで出たら逆に怪しまれるってとこか…。仕方ない…ここは敷島様に従うか…。へぇ…敷島様の手って思ったより柔らかいんだな。

 

 

「…坊や、何やってるんだぃ。…敷島姉さんと仲が良いようだね…。」

 

「少尉さん…敷島のBBAと何やってるネ!しかも今、個室茶屋から出てきたデ~ス!」

 

…どうせこんなこったろうと思ったよ。俺の運は肝心な所で悪いからな…。敷島様と店を出た所で、丁度鎮守府に戻る途中の三笠様と金剛さんに鉢合わせ。しかもそれを見た敷島様が『先程の仕返しです。まぁ少尉の千枚舌で乗り切る事ですね』と小声で言ったかと思うと、徐に俺の腕に自分の腕を絡めてきやがった。どう考えても嫌がらせ以外の何物でもないだろ!

 

「坊や、この件について色々と白状してもらわないといけないね…敷島姉さんは先に鎮守府に帰っておくれ。敷島姉さんにも言いたい事は山程あるけど…姉さんが居ると坊やもしゃべり難いだろうからね…。って、敷島姉さんいつまで坊やの腕にしがみついているんさね!自分の年を考えるんだよ、みっともない。…さて坊や…そこの店で何があったのか、あらいざらい話してもらおうかね…。」

 

「少尉さん…信じていたのに…裏切られま~した!私の傷ついた心を、そこの甘味処で癒してもらいマ~ス!覚悟するネ!」

 

また俺の懐が…。三笠様も金剛さんもニヤニヤ笑っているから、敷島様と何もなかった事を知っていて俺を責めているよな…っていうか、要は俺の金で甘味を食べる事を考えているだけだろっ!とはいえ…ここで適当にご機嫌をとって、さっきの話を鎮守府で三笠様にして、三笠様を説得するしかないんだよな…。また色々三笠様に言われそうだけどな。…一難去ってまた一難か。




主人公とその友人、名前を見れば元ネタはたぶん直に分かってしまうかと思いますが、友人の小堀少尉の方はモデルとなった人物は某条約の煽りで予備役にされてしまい、史実では海軍大臣になる事が出来ません。とはいえ、ここは艦これの世界ですし、別人物という事になっていますので、最終的に小堀少尉には海軍大臣になってもらわなくてはならず…。となると、三笠様の後ろ盾のある山野少尉も海軍省に入れておかないと…となり、このような話になっています。

まぁ…実際のところ、この物語における三笠様はオールマイティなジョーカーのような設定ですから、敷島様の手助けがなくても山野少尉は、『鎮守府の片隅で』の提督まで行けるのかもしれませんが、ある程度は苦労してもらわないと…。三笠様の台詞ではありませんが、『苦労が男の顔を良くする』らしいですからww

今回も読んでいただきありがとうございました。
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