あのアースラでの対談から10日経っていた。
現在アースラの隊員が回収したジュエルシードの数は9個。
フェイトたちが何個集めているかはなぞだったが、それでも残りは5,6個だろうと推測していた。
そして、陸では見つからず、これだけの密集度からして海鳴市をそう離れるはずがないとの考えから
海鳴の海を捜索しようとしていた矢先だった。
なのはがジュエルシードのことは気にしつつも闇の書戦に向けて訓練していた。
そしてある時、ジュエルシードの強大な反応を確認した。
力の方角から、おそらく海の上だと確信したなのははユーノとともに
最大戦速で海のほうへと向かった。そしてそこで見たのは・・・
波と風と竜巻に今にも飲み込まれそうなフェイトだった。
それは少し前のことだった。
管理局と鉢合わせした段階で、アルフは撤退をフェイトに進言したことがあった。
そもそも、アルフはジュエルシードの回収には反対だった。
プレシアがあんなロストロギアに何を願うか知らないが、
使い魔として主であるフェイトが危険なことをやらせる気は起きない。
「フェイト・・・」
今、アルフの目の前には、海の中に強力な魔力流を撃ち込んでジュエルシードを強制発動させたフェイトがいる。
地上は管理局員が見つけただろう。それでも管理局員が去らないと言うことは
まだジュエルシードはすべて回収されていないはず。
ならば海の中にもあるだろうだろうと言うフェイトの読みが当たった形になった。
しかし、ただでさえ疲労する魔力流の行使に、ジュエルシードの封印を6つ同時に行う。
はっきり言えば無茶を通り越して、無謀だった。
フェイトの魔導師ランクは低くはない。むしろ高いほうだが、
それでもジュエルシード6個なんてフェイトが二人でも居なければ不可能だとアルフは感じていた。
フェイトは焦っている・・・疲労がたまっている。
しかしそれでもあきらめたくないと言う気持ちが、精神リンクを通じて感じられた。
だからアルフはこれ以上文句はフェイトには言わない。ただ言うことはある。
「頑張れ、フェイト!」
その応援がフェイトの耳に届いたとき、アルフは目にした。
6つ分のジュエルシードの魔力の波に押されていたフェイトが、少しだけそれを押し返した。
まるでアルフの声に応えるように、尽きかけている魔力を絞り出して。
気のせいかもしれない。自分の妄想かもしれない。それでもアルフは嬉しかった。
「・・・あれは!」
その時、空に視界の端にいくつかの魔法陣が展開されるのをアルフは見つけた。
それを行使している人物を見て、アルフはどこか安心感を覚えていた。
しかし、邪魔をするなら容赦はしない。そう思いながらアルフは彼女達に突撃して言った。
(まずい・・・魔力がもうない・・・!)
降り注ぐ雷と荒れ狂う高波を必死にかわしながら、
魔力を制御しつつフェイトはそう考える。
(どうやってジュエルシードの封印を・・・くっ!こうしている間にも魔力が・・・!)
考えながら魔法を放ちつづけ、それでも妙案は出ず、悪戯に魔力を消費し続ける。
それは完全なる悪循環だ。利益にまったくなってはいない。
先ほどのアルフノ応援で持ち直したものの『-』が『0』になっただけ。
こうして今もそれを続けていればまたマイナスにもどってしまうのはある意味で当然だった。
もはや気力でどうにかなる問題を大きく越えていたのだ。
それでもフェイトは諦めない。母の為に、温かな生活の為に。
(・・・っ!?)
そんなフェイトがその時感知した、強大な魔力。何日か前に知った、白い女の子の魔力。
刹那、黒い雲を桜色の光が切り裂く。
そしてそれは雲だけでなく空中へと立ち上る水の竜巻すら粉砕する。
現れたのは、足に桃色の羽を生やした白い魔導師だ。
まるで天使のように・・・しかし顔の傷跡がどことなく恐怖を感じさせる。
その顔は自信に満ち溢れていて、どこか見下しているような気もしてしまう。
実際のところはフェイトたちのことが心配で、その原因である竜巻をにらんでいただけなのだが・・・
「フェイトの邪魔を、するなぁぁぁぁ!」
ジュエルシードが起こした雷の拘束を力付くで破り、なのはへと飛び掛かるアルフ。
しかし、それは緑色をしたユーノの防壁に阻まれた。
「違う、僕達は戦いに来たんじゃない!」
「とりあえず、まずはジュエルシードの封印が先決だよ。このままだとまずいことになる」
ユーノに続けて、レイジングハートをカノンモードにしたなのはが言う。
「だから今は、封印のサポートを!」
そういってユーノが打ち出した、緑色のチェーンは竜巻へと巻き付き、動きを制限する。
ユーノに攻撃魔法はないといってもいいが、こういう補助は大得意だ。
「フェイトちゃん!」
その間になのははフェイトへと近づく。
そしてフェイトの腕を握り言った。
「二人・・・二人で一緒に、あれを止めよう?」
なのははそう言いながらディバイドエナジーを使用する。
ディバイドエナジーは数少ない自身の魔力を相手に渡す魔法だ。
なのはとフェイトの残り魔力がお互いに同じ量となる。
こんなことをしたなのはに対しフェイトは驚きながら彼女を見据える。
なのははそんなフェイトを見て口元を上げていった。
「そっちとこっちで半分こ!いいよね?」
一方ユーノの方では、竜巻が更に抵抗を増す。
必死で押し止めるユーノだが、気を抜くと吹き飛ばされてしまいそうになる。
ユーノといえどもジュエルシード6個分の魔力量はきつかった。
「・・・!!」
その時に横から伸びる燈色の鎖。
狼形態のアルフが、ユーノと同じくチェーンバインドで
竜巻の抵抗を押し止めてくれた。アルフはユーノをチラッと見ながら頷いた。
「ユーノ君とアルフさんが止めてくれてる!だから、今のうち!」
《Canon mode》
なのはのデバイスがイルカヘッドをした白い姿へ変形する。
そのまま雷を避けつつ、空中に魔法陣を展開して飛び乗る。
《Seeling form set up》
動かない主に代わり、バルディッシュがフォームを移行する。
「バルディッシュ・・・」
寡黙なるデバイスは喋らない。
しかしそのコアの輝きはすべてを語る・・・
その思いはただ主のために・・・
「ディバインバスター、フルパワー。もちろん・・・行けるね?」
《All right my master》
レイジングハートを構えるなのは。足元の魔法陣が巨大化する。
フェイトも魔法陣を展開し、バルディッシュを上に向ける。
なのはのデバイスの周りに発生する、幾条もの環状魔法陣。
脈打つ桜色の鼓動はやがて一筋の光となる。
そしてフェイトの魔法陣からは雷撃が迸った。
「せー・・・」
「の!」
合図とともに二人の一撃は・・・放たれる!
「サンダー・・・」
「ディバイーン・・・」
二人の魔力が一気に増幅する。 そして・・・
「レイジーッッッ!」
「バスタァアアーッッッ!」
金色の雷光、桜色の砲撃。
絡まるように放たれたそれはジュエルシードの竜巻に同時に炸裂した。
その威力はジュエルシードの思念体を粉砕し、海水を貫き、大地を露出させる。
こうして6つのジュエルシードは、封印された。
二つの魔法により、巻き上げられた海水が雨のように降り注ぐ。
事態は、終息した。
なのはとフェイトの目の前には青く輝く、六個のジュエルシード。
二人で封印したロストロギア・・・それを眺めていたなのはが切り出す。
「それじゃあ、さっき言った通り、フェイトちゃん」
なのははそう言いながら、ジュエルシードを三つ掴んで投げつける。
そしてジュエルシード三個がフェイトに渡される。
『・・・なのはさん?どうしてジュエルシードを渡したんですか?』
突然モニターで現れたリンディ提督になのはは冷静に答えた。
「約束は約束だからね。それに後で取り返せば問題はないでしょう
すでに何個か取られちゃってますから・・・】
『それはそうですが・・・』
リンディはそうは言いつつも納得はしにくい。
いくらなのはは便宜上関係ないとは言え、書類上は民間協力者なのだ。
しかし、そうは思いつつもなのはの断固たる覚悟の有る眼を見てとりあえずは保留としておいた。
確かにすでに何個か取られている以上、3つを約束のもと渡すことに突っ込んでいても仕方ないだろう。
時空管理局としてはあまり納得したくはなかったが・・・
そしてなのははすでにその話題は頭になかった。
正直言ってそこは自分とは関係ないと思っていた。
この後フェイトから管理局が目の前で取り返そうとしても文句は言う気はない。
まあ、空気を読めと言いたい気持ちも有るが・・・
なのはは感じていたのだ。目の前の少女は自分と似ていると・・・
何かを糧に、何かを主軸に・・・それが捥がれるとなにもできない存在。
目の前の少女からは、どこかそんな感じがしていた。
ジュエルシードについて知るたびに思っていた。
目の前の彼女がこんなものを自分の利益のために回収するようなものではないと・・・
もしかしたら、誰かから頼まれたのかもしれない・・・
なのははアースラでの対談から、ずっと考えていたのだ。
だから、なのはは彼女にこういいたかったのだ。
「・・・・・・友達に、なりたいんだ。フェイトちゃんのことをもっと知りたいんだ」
唐突になのはの口からはその言葉が漏れた。嘘偽りのない言葉。
たとえ初めての出会いが戦いだったとしても・・・きっとわかりあえる。
フェイトの目がその言葉に見開かれる。
「だから、お話・・・しよう・・・?」
ジュエルシードが作り上げた雲はやはりすぐに晴れて行き、
輝く光がその場にいる二人を照らしていた。
嵐が収まりようやく中の様子を確認できるようになったアースラ。
封印した六個のジュエルシードと、その場にいる全員が映し出される。
しかし・・・そのとき・・・事は起きる。
「っ!次元干渉!?」
休む隙もなく唐突にアラートが艦内に鳴り響く。
「別次元から、本艦および戦闘区域に魔力攻撃来ます!あ、あと六秒!?」
「え!?」
別次元から、紫色の雷が襲い掛かる。それは的確にアースラへと向かう。
「「「うわぁぁぁぁぁぁ!!」」」
ショック体制をとる隙もなく、アースラに直撃する。
そしてそれは、なのは達のいる海域にも降り注いだ。
「・・・ぁ、母さん?」
フェイトがぽつりと呟く。そこにピンポイントで降り注ぐ雷。
フェイトはいきなりだったこととその魔力の主が誰か理解したせいで全く動けない。
直撃する・・・そう思っていたときだった。
「ぐっ・・・あぁああああああああああ!!!!!」
そこに割り込んだのはなのははだった。
持ちうる限りの魔力を込めた広域フィールドを作り、自身とフェイトを守る。
魔法で誰かが傷つくところなんて見たくない。
そういう思いが、彼女のその行動をさせる切欠だった。
だが次第にシールドは破られていく。
入った皹から魔力のエネルギーが漏れていき、
なのはの首筋、左足に直撃していく。
「アルフさんっ!フェイトちゃんを早くっ!」
「言われなくても!」
アルフが人型へと戻り、呆然としたままのフェイトを抱き抱え、
ジュエルシード三つを持ち去っていった。
何とか耐えきったなのははシールドを解除する。額には汗が滲んでいた・・・。
「なのは!大丈夫!? 今治療するから!」
慌てて飛んできたユーノがそう言って治癒魔法をかける中、
なのははユーノに向けて笑顔を向ける。
心配させないためと自分が大丈夫だと教えるために・・・
それを見て安心したのか、ユーノはほっと息をつきながら治療を続ける。
そんななかなのはは結界が解けていく空を見上げながら言った。
「どうやら、お話できるのはまた今度になっちゃいそうだね・・・・・・」
見上げた空にはきらめく星々が何かを示すように輝いていた・・・