リリカルなのはサーガ   作:DFGNEXT

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パル転がひとまず一区切りついたので、こちらのほうを進めていきます。
今までに溜めてきた分を一日2つ、投稿する予定です。





SAGA 46「それでも少女は涙を拭わない」

 

 

「・・・・・・ミツケタ・・・・・・・・・」

 

遥か上空、まさに天に立つ彼女はそう告げた。

瞳から光沢が消えて表情のなくなった目を向けながら・・・

 

だが、はやてとフェイトはある違和感に気付いていた。

彼女の顔の表情は今までのなのはとは違う表情だったのだ。

 

以前までの、心のない感情の読み取れない顔とは違う。

そこにあったのは笑顔。それもどこか狂喜に満ちた笑顔だった。

 

「あひゃ、あはは・・・やっとだよぉ・・・やっと見つけた

 ずっと探してたんだよ・・・砕け得ぬ闇・・・あなたが持つエグザミアァ・・・」

 

そんななのはを見ながらU-Dはさげすむような眼を彼女に向けて話す。

 

「・・・偽りの迷い人・・・心を手にしてまで何を望む」

「決まってるでしょう! わたしはわたしを取り戻す!!

 あなたの持っているエグザミアを手に入れて!!」

 

なのははそう言いながら手に持つレイジングハートを振りかぶりU-Dに殴りつける。

U-Dは避けるそぶりすら見せずに自らの背中から出てくる魄翼で防ぎきる。

 

そんな様子を見て、はやて、フェイト、シュテルは疑問符をあげることしかできない。

キリエはともかく、なのはにエグザミアを手にしたい理由などなかったはずだ。

私を取り戻すとも言っているが、一体どんな関係があるというのだろうか?

 

そして特にはやてとフェイトは話し方にも疑問符をあげていた。

あんな話し方などなのははしていない。するはずもない・・・はずだ。

だが、同時にあんな話し方をする存在も二人は知っていた。

 

なのはを操っていた闇の書以外のもう一つの存在。

今はナハトヴァールに封じられているはずの・・・忌まわしき5の存在を・・・

 

三人がそんなこと思っている最中もなのはは攻撃の手を緩めない。

今の彼女は目的を果たすためにならば、容赦をする気は全くない。

なのはは先ほどの攻防で自分に密着しているU-Dを右足で蹴り飛ばすと

吹き飛んだ彼女に向けてディバインシューターを六発放つ。

 

「シュートッ!!」

 

放たれた六発のディバインシューターは弧を描くように旋回し

吹き飛ばされていくU-Dの体に直撃していく。

 

「ディバイン・・・バス、ター!!」

 

続けて追撃のディバインバスターをなのはは撃ちこむ。

U-Dは体を回転させながら、それを難なく避ける。

それは彼女の防ぐ必要すらないという意思表示だった。

 

「・・・ふざけてるの・・・?」

「ふざけてなど・・・いない・・・沈むことなき黒い太陽――

 影落とす月――――――――ゆえに、消して砕かれぬ闇

 私が目覚めたら――あとには破壊の爪痕しか残らない――

 だから・・・あなたの願いはかなえられない・・・」

「あなたが知らなくても構わない。それにシュテルが言っていたんだもの」

「・・・私が・・・?」

 

なのははU-Dに対してシュテルから聞いたと言っているが、

シュテル本人はそんなことを言った覚えはなかった。

もっと言えばなのはに対して名を名乗ったこともなかったはずだが・・・

 

そう考えているシュテルに対して、なのはは話しだした。

それを聞いて、シュテルは言葉の意味を取り違えたことを知る。

 

「そうだよ!あの子たちが居るって!だから私は探したんだ!

 『始まりの園』・・・調べるのは随分と苦労したけどね」

「ちょっと待ってください。あなたの行先がそこだということは聞きましたが、

 そこに本当のあなたがいるとは私が言ったわけではないでしょう?」

「・・・そうだよ・・・だけどね・・・いるってだけで十分だよ、シュテル。

 あの子たちがいるってことだけで充分。あとはわたしが調べたんだよ」

 

(どういうことですか?・・・というよりもあの声の情報は正しかったのですか)

 

「そしてやっと見つけたんだ。始まりの園のこと・・・

 『すべてが始まり、終わりがまた向かう場所』・・・そしてその扉を開けるのが

 永遠結晶エグザミアだってことを!!」

「残念ですけど・・・エグザミアにあなたを蘇らせる力はありません。

 始まりの園などという存在につながるなどということも知りません」

「あなたがそれを知らなくても構わない!!

 エグザミアさえあればわたしはわたしに戻れるから!!」

 

なのはがそう言って再びレイジングハートで殴りかかるが、

U-Dは悲しげに顔を伏せながら、言葉を連ねていく。

 

「ごめんなさい――さよなら――みんな―――」

「ま、待て!U-D!!」

 

ディアーチェが叫ぶが、もう遅い。

U-Dの体が静かに消えていき、なのはの攻撃が空を切る。

 

「消えちゃった・・・」

「何々? どうゆーこと?」

 

突然、姿を消してしまったU-Dに対して

フェイトとレヴィが口を揃えてそう言った。

そんななかでキリエはザッパーを構えながら叫ぶ。

 

「待ちなさいッ!わたしはあなたに用があるのッ!!

 全力追跡ッ!!アクセラレイターッ!」

「あっキリエ!!待ちなさい!!」

 

U-Dを追うキリエ、そしてそれを追うアミタ。

二人は高速移動「アクセラレイター」を使い、どこかへと行ってしまった。

 

取り残されてしまった一行は唖然として思考停止に陥るが、

ほんの少しだけ時間を置いた後、復活したメンバーが各々反応した。

 

「あっ、キリエさん。アミタさん」

「ええい、なんなのだ一体!!?桃色は勝手に消えるわ

 U-Dが消えるわ。一体全体何が起こっているというのだぁあ!!」

「王・・・」

 

理不尽な現実に行き場のない怒りを感じるディアーチェ。

そんな彼女をシュテルは心配するように見つめていた。

 

「・・・ちっ、逃がしたか」

 

そして彼女らしくない言葉遣いとともになのははそう吐き捨てる。

どこで覚えたのか転送魔法を使用して、この場から立ち去ろうとしていた。

それに気づいたはやては必死に彼女を止めようと声をかける。

 

「ま、待ってなのはちゃん!! なんでまたいなくなろうとするん!!?」

 

必死でなのはを説得しようとするはやて。

だが、なのはは親友のその言葉を聞いても止めようとはしなかった。

 

「わたしは・・・まだ帰れないから・・・」

「帰れないって・・・! 10年待てばええ話なのに何で!!?」

「・・・わたしが・・・耐えきれないからだよ・・・」

 

もういいよね。そう言いながらなのははその場から立ち去ろうとした・・・のだが・・・

 

「おっと・・・もう少しいてくれてもいいんじゃないかな?」

 

なのはのその細い腕を突然、緑色に輝く鎖状のバインドが縛り付けた。

なのははそのバインドを忌々しげに見つめながら、その発動主の姿を見た。

知っている顔だ。・・・久々に出会ったが、元気そうでよかった。

なのははそんなことを思いながら彼を睨み付け、言ったのだった。

 

「ユーノくん・・・」

 

そこにいたのはユーノ・スクライア。

アミタたちを別ルートで追っているときに、たった今ここにたどり着いていたのだ。

 

「久しぶりだね、なのは。元気そうで何よりだよ」

「ユーノくんもね。よかったよ。怪我の原因にはわたしにも非があるしね」

「そっけないね、君も」

 

話がどんどん進んでいき、情報が行きかう中、

頭がその情報量に混乱してきたディアーチェが頭を抱えながら言う。

 

「・・・ダメだ。全く話についていけないぞ・・・」

「とりあえず王様。・・・U-Dもどっか行っちゃたし、

 アースラで情報交換といこうやないか!」

 

はやての提案にディアーチェは一瞬嫌そうな顔をしながら、

となりのシュテルとレヴィの顔を見る。二人とも肯定の意を示す表情をしており、

さらにシュテルは続けて、自分たちが誘いを受けたい理由を話し始めた。

 

「王、我々にも今は情報と戦力が不足しています。

 あれほどの力。我々が求めているモノそのものですが、

 このままでは手に入れるどころか、逆に返り討ちに会いかねません。

 ここはお互いに情報交換をするのが得策かと・・・」

「そうだよねぇ、オリジナルや小鴉ちんに協力したほうがもっと早くやれそうだし!」

「む、むぅ・・・まぁ、臣下の言うことを聞くのも王の仕事だ。

 いいだろう小鴉。その誘いに乗ってやろうぞ」

「誘いって・・・」

 

悩みながらもディアーチェは結局二人の意見を尊重して、

はやてたちについていってアースラに行くことを決めた。

 

それをうんうんと見届けたはやては次に

相変わらずユーノ縛られているなのはを見ながら、にこやかに言った。

 

「もちろん、なのはちゃんも一緒にな」

「・・・わたしも・・・?」

「そりゃ、そうやろ。なのはちゃんが一番情報持ってそうやしなぁ」

 

「・・・手紙に書いた通り、帰るんじゃないからね。

 あくまでも寄り道で偶然会っただけだよ・・・」

 

溜息を吐きながら、なのははそういえば自分の親友はこんな感じだったと思い出す。

 

結局はやてに押し切られる形となってしまい、

なのはは渋々ながらその指示に従うことにした。

 

「了解や。それでええよ。リインフォース、転移魔法は使える?」

「はい、ここにいる全員をアースラに送るくらいならば・・・」

「じゃあ、リインフォース。やっちゃって!」

 

リインフォースはその言葉に返事をすると、ベルカ式の転送魔法陣を展開する。

その魔法陣は徐々に大きくなって、その場にいた全員を囲った後、発動。

その場にいた全員を、アースラへと転送したのだった。

 

 

「・・・いつまで縛ってるの?」

「アースラにつくまで」

 

結局、アースラに着くまでなのははユーノに縛られていた。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

リインフォースの転送魔法によって、アースラへとたどり着いた一向。

ブリッジで彼女たちを出迎えたのは、リンディとクロノだった。

 

「よく来てくれたわね。マテリアルの皆さん・・・

 そして・・・久しぶりね。なのはさん・・・」

「はい、お久しぶりですね。リンディ提督・・・」

「えぇ・・・三か月・・・ぶりかしら?」

「厳密に言えば、三か月と24時間21秒ってところですね」

 

聞くだけならば、他愛もない会話。

だが二人は表面上には見えない一種の駆け引きというものを行っていた。

無論、それに気づいたのはクロノを含むごく一部のメンバーだけだったのだが。

 

「今まで置手紙だけ残してどこに行っていたのかしら?」

「そー。そーや、なのはちゃん!どんだけ皆が心配したと思ってんねん!!」

「はやてちゃん、怒るのはわたしが大切なものを取り戻したらって手紙に書いたよね?」

「う・・・それはそうやけど・・・」

 

確かにそう言ってはいたが、今それを出すのか。

はやてはそんな感情を抱いていたが、当のなのはは気にしてはいなかった。

 

そして、少し時間を置いた後、仕方なしといった表情で溜息を吐きながら答えた。

 

「・・・ま、いっか・・・わたしがどこに行っていたかね。

 少し長くなるけど・・・それでもかまわない・・・?」

「うん、ええよ」

「それじゃあ、話すよ・・・マテリアルの皆も聞く?」

「私はぜひとも聞いておきたいのですが・・・王とレヴィはどうしますか?」

「うむ、臣下が聞きたいのであれば、王も聞かねばなるまい」

「僕もシュテるんが聞くなら聞いておくよぉ」

 

シュテルの問いに二人はそう答える。

それを聞き届けたなのはは自分が今まで何をしてきたかを話し始めたのだった。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

なのはからの話が終わった後、なのはは一足先に与えられた部屋へと戻っていった。

リンディももう少し事情を探ろうとしていたが、うまくたぶらかされてしまっていた。

 

ユーノはその話を聞いて、一度情報を洗いなおす必要があると感じ、

リンディ艦長に事情を話したうえで、再び無限書庫へと戻っている。

 

そんななかフェイトとはやて、そしてリインフォースは

アースラ何に設置されている自販機完備のリラクゼーションルームにいた。

自動販売機に嘱託魔導師の給付金であるミッドの硬貨を入れて、

フェイトは緑茶、はやては珈琲、リインフォースはココアを買う。

 

リラクゼーションルームに設置された椅子でそれを飲みながら、

はやてはフェイトに先ほどなのはから聞いた話の話題を振る。

 

「なぁ、フェイトちゃん・・・。なのはちゃんと・・・

 あとシュテルも聞いたんやっけな・・・女らしい声って一体なんやろうな?」

「さあ・・・? 始まりの園になのはが探している心があると言っていたらしいけど。

 結局、シュテルも詳しくは知らなかったみたいだしね」

「始まりの園・・・それは私も今日初めて聞いた単語でした」

 

三人がなのはから聞いた話の内容はこうだ。

 

一つ目に、なのははシュテルと出会った後のこと。

心の場所までは聞けなかったなのはにある声が響いたらしいこと。

 

二つ目に、その声はシュテルも聞いた声であり、女性らしい声だということ。

 

三つ目に、その声はなのはに対して

『シュテルが言っていることは本当だよ。あの子たちはいる『始まりの園』に・・・』

と言っていたこと。

 

四つ目に、なのははその言葉とシュテルが知っていたことから

それが砕け得ぬ闇-システムU-D-・・・そしてそれが持つエグザミアがヒントだと思ったこと

 

そして、最後に先ほどの響いた声がそれらの情報を与えていったことだった。

 

その情報をもとにこの三か月間、どこで習ったのやら転送魔法を駆使し、

地球やミッドチルダ以外の様々な世界を旅してまわっていたらしかった。

 

話を聞けばユーノがいない無限書庫にも侵入していたというから驚きだ。

よほど今のなのはにとってその情報は魅力的だったのだろうと三人は思っていた。

 

「結局はその女性の声になのはちゃんが踊らされているってことやろうけど・・・」

「わからないよ。もしかしたらその声の情報があっているかもしれない」

 

しかしいくら考えてもなのはの言っていることが正しいかどうか、

実際にその声を聴いたことのない三人にはいくら議論しても結論は出なかった。

 

三人はとりあえずは結論の出ないそれの議論を諦め、

話題はなのはの変わりようについてに移り変わっていく。

 

「・・・なんか、なのはちゃん。また雰囲気変っとったなぁ・・・」

「うん、そうだね・・・なんというか、前はナハトの言っていた通り、

 心がなくて、外見からなら無気力にも見えた・・・。だけど・・・」

「今のあいつは・・・まるで心があるみたいだったな・・・

 欲望・・・自分の心を取り戻すという欲望の心を持っていた」

 

心を取り戻したのだろうか?

しかし、ナハトヴァールが言っていた通りなら、修復に10年かかるはずだし。

さらにあのなのはの口調に性格・・・とてもではないが、今までのなのはではなかった。

 

それに心を取り戻したのに、自分の心を取り戻すというのもおかしい。

 

「・・・やっぱり、ジュエルシードが原因なのかな・・・」

「それは少し違うと思われますよ」

「シュテル・・・ッ?」

 

そんな疑惑が浮上する中、同じくリラクゼーションルームに来たシュテルが、

フェイトの出したなのはの今の状態への見解を少しだけ訂正する。

 

「違うとは・・・?」

「はい、管制人格・・・いや、今はリインフォースでしたね。

 その言葉の意味の通りです。私はナノハから記憶などのデータは

 なぜか受け継がれなかったために事情をよく知りませんが、

 ナノハの今のあの状態はジュエルシードは直接の原因ではないと」

「それじゃあ、いったい・・・」

 

はやてが当然の如く理由を聞き、シュテルも頷きながら返答する。

 

「ナノハはかつて、コズミック・スターライトブレイカーを

 ジュエルシードの力を利用して発動し、心を失った。

 ここまではよろしいですね?」

「ああ・・・それで?」

「はい、私が初めて会った時の彼女はまず間違いなく心はなかった。

 いや、今思えばあの時からすでに兆候は見えていましたか・・・」

「兆候・・・?」

 

シュテルの言い出した不穏な空気にはやては耳を傾けていく。

そして大方の状況を説明した後に、彼女は本題を切り出した。

 

「簡単に言えば、心がなくなるという状態は真っ白な布と同じです。

 何色にも染まっていない・・・そして染まりやすいものでもあります」

「・・・・・・」

「そして、もし・・・そんな布地に黒いインクを一滴落としたらどうなるか・・・」

「まさか、無の状態のなのはちゃんが一から心を作り直したゆーんか?」

「少し違いますが、それで大方間違っていないでしょう。

 すなわち、今の彼女は本物を取り戻すまでの捨て駒です。

 あの話し方は本心を隠して言ってますね・・・」

「捨て駒・・・・・・? あのなのはが・・・?」

「本人も覚悟の上なのでしょう――

 それにジュエルシードの進行もまだ続いているはずですしね・・・」

 

今のなのはについて四人で議論していく中、また新たにリラクゼーションルームに

人影が現れる。その人物はなのはのデバイスを整備していたはずのマリエルだった。

 

「あっ、皆も来てたんだね」

「マリーさん? どうしてここに・・・?」

 

親友のデバイスを整備していたはずなのにこんなところに来たマリエルに

はやては疑問符を頭に浮かべる。彼女とは新たなはやての家族になる予定である

『リインフォース(ツヴァイ)』の作成の事で親交があるのだが、

三度の飯より機械弄り――といっても過言ではない機械好きな彼女が、

なのはのデバイスを整備中にリラクゼーションルームに来たわけがわからなかった。

 

マリエルは自身のお気に入りの財布から、硬貨を取り出して自販機に入れ

自分のお気に入りの栄養ドリンクを買って、それを一気飲みした後、

フェイト達の質問に答えたのだった。

 

「実はね。なのはちゃんにデバイスの整備させてって頼んだんだけど

 なぜかブレイズハートしか整備させてくれなくてね――――

 ゼクセリオンドライヴの最終調整も終わったから、少し休憩にね」

「レイジングハートは整備しなくて大丈夫なんですか?

 あれにも確か、ゼクセリオンドライヴを入れたって言ってましたよね?」

「まぁ、レイジングハートはインテリジェントデバイスだし

 コアが破壊されてなければ整備の必要もないだろうからいいんだけどね。

 あっちに関しては優先して調整しておいたから起動させなければ問題ないよ。

 

 でも、なのはちゃんらしくないなあ・・・確かにあの子もデバイスマスターの資格。

 それを取ろうと必死で頑張ってたから、自分でも整備はできるだろうけど・・・

 いつもなら普通に私に渡してくれたんだけどなぁ・・・現にブレイズハートは渡したし」

 

マリエルも今のなのはが普段のナノハと違うことは感づいていたが、

具体的な理由が示せず。結局ここにいた5人が答えを出すことはできなかった。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

そのころアースラに用意された一室でなのはは床に体を置きながら、

その小さな背中を壁に委ねて力なく座っていた。

 

ダラダラと多くの汗が流れてべた付きがある感じの汗が額から流れ、

ずきずきと痛む米神を抑えながら、彼女は絶え絶えに聞こえる呼吸をする。

 

辺りが寂としているため、耳を澄まさなくても心臓の音が聞こえる。

 

全身がギシギシと悲鳴を上げて、なのはにダルさを訴えかけている。

なのはは米神に当てていた手を下におろすと大きく息を吐いた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・皆――元気そうでよかった・・・・・・

 ごめん・・・なさい・・・まだ、帰るわけにはいかないから・・・」

 

先ほどまでとはまるで違う口調。

この喋り方こそがこのなのはの本来の喋り方。

さきほどまでのは素も少し混じっているが、ただの演技だ。

 

なのはがここまで疲れているのには二つ理由がある。

一つはさきほど砕け得ぬ闇であるU-Dに会うまでに闇の欠片達と戦っていたのだ。

 

しかも狙ったかのように自分の姿をした闇の欠片だけだった。

それを吸収して心を取り戻せたのなら苦労しないのだが、

いくらやっても心を取り戻すことはできなかった。

 

ただただ、自分という『異物』の自我がどんどん強くなるだけだった。

 

その現実に彼女の心と体が疲労していたのが理由の一つ。

 

そして、もう一つの理由が――――

 

「レイ・・・ジング・・・ハート・・・」

 

自身の愛機である紅い宝玉を手に取りながらなのははその名を呟く。

 

――返事はなかった。

 

その理由はほんの三か月前にあった出来事にあった。

 

シュテルの予想通り、このなのはは新たに生まれた心。

『なのは』でも『なのはちゃん』でもない新たな『高町なのは』

 

ほどなくして誕生したなのはだったが、一つだけ問題があったのだ。

人格面でも魔力面でも技術面でもない。もっと根源的なものだった。

 

それは彼女の存在が『なのは』や『なのはちゃん』と違い。

闇ではなく光の方に近かったのだ。・・・そして、そこに問題があった。

 

この体はもともと闇の書が取りついていたため闇側の存在だ。

だが、この体を乗っ取ろうとしているジュエルシードの存在は『光』だった。

 

そのため、本来のなのは以上にシリアル5の浸食は容易。

このままではこのなのははジュエルシード・シリアル5に乗っ取られてしまう。

いや、仮に乗っ取られなくても性質が近い存在であるなのはの存在が、

シリアル5の復活を後押ししているという問題があったのだ。

 

そんなとき、彼女の愛機「レイジングハート」はある博打的な行動に出たのだ。

 

それは自身の意識をすべてシリアル5の進行を防ぐために回すという荒業。

しかしそれが意味するのは演算能力のすべてをそちらに回すということだ。

だから彼女は今起動できない。そして自分の身体から離すことができない。

 

なのは自身もシリアル5の進行を防ごうとはしているが焼け石に水だった。

 

逆にそのせいで疲労感がさらにたまってしまい、今現在こんな状態になっていたのだ。

 

「・・・高町なのはが黒い布なら――わたしは白いインクか・・・

 いくらやっても・・・この体に同調することはない・・・か・・・」

 

そう、シュテルたちの考えは方向性は間違っていなかったが、

根本的なところ・・・光と闇という点が違っていたのだ。

 

ジュエルシード・シリアル5ならともかく、なのはではこの体に同調できない。

 

早めに心を取り戻さないと、彼女の存在自体が維持できないのだ。

だから彼女は親友のはやてすら拒絶して、エグザミアを・・・・・・・・・

延いては『始まりの園』へ早く行こうとしていたのだった。

無論・・・その結果自身の存在が消え去ろうとも――

 

そんなことを考えながら、やがて思考は先ほどまで戦っていた

闇の欠片――偽物の自分たちの存在についてに変わっていた。

 

狙ったように出てきた偽物の「高町なのは」・・・

 

「あ~あ・・・なんでわたしを期待させるようなことするかなぁー・・・

 シュテルならまだ許したけど・・・偽物なんて所詮偽物かぁ・・・」

 

自分もそうだが、結局偽物は偽物なのだ・・・

芸術品で贋作が贋作とすぐにわかるのは本物にはあるものがないからだ。

 

勉強のために模写したものと偽物は違う。

偽物には本物に対する敬意がない。純粋な気持ちが入ってないのだ。

そこにあるのは自らの利益のために手っ取り早さを望む醜い願い。

 

そんな感じが闇の欠片の偽物たちからは感じられたからうんざりしているのだ。

・・・少しだけ期待してソレを吸収したなのはは今も後悔してはいるが・・・

 

「あの子たちだったら・・・全力全開でなんとかするんだろうなぁ・・・」

 

どこか自虐的な言葉を連ねながら、彼女は自身の頬の傷を撫でる。

今となってはこれは勲章なのか、あのころの証なのか・・・

 

高町なのはが高町なのはであることを示すその古傷が、

今のなのはにはただの苦痛にしかならなかった・・・

 

そんなことを考えながらも、余計なことだとなのはは首を振る。

なのはにとっては過去よりも未来がほしかった。

 

『高町なのは』がみんなと平和に暮らす未来が・・・

 

「だから・・・みんな、わたしを止めないで・・・

 わたしを前に行かせてよ・・・それ以外願わないから・・・

 皆には――わたしなんて残らないんだから・・・」

 

心の中にノイズが走る。

彼女に残された時間はもう残り少ない。

 

なのはは残された力のすべてを使って、立ち上がる。

 

まだ、ここで立ち止まるわけにはいかなった――――

 

 

 

 

 

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