刀剣乱『腐』に万事屋がログインしたようです   作:空飛ぶ鶏゜

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 和室で洗濯物を畳んでいた新八は、壁にかけられた時計を見上げる。

 古びた時計の針は丁度、午後一時を指そうというところ。

 山と積まれた洗濯物を振り返り、昼の準備をするべきか、それとも一気に畳んでしまうかと頭を悩ませる。

 万事屋の朝は遅く――寝汚いどこかの銀髪侍の所為であったが――世間一般でいうところの昼飯時に昼を食べるという事は殆ど無い。食べられない時もあるというのがなんとも悲しい事実であったが、先日依頼をこなしたばかりで、今はそこまで食うに困るという程ではなかった。

 畳んでからでも構わないかと、新八が決めると同時に、玄関チャイムの音が鳴った。

 

「坂田さん、お届け物でーす」

 

 新八は洗濯物を畳んでいた手を止めて、居間の方を向く。

 開け放たれた襖越しに見えるソファーの背もたれ。そこからジャンプがチラリと顔を覗かせていた。

 いつものごとく、寝転がりジャンプを読んでいるのだろうとあたりをつけ、新八は銀時に声をかける。

 

「銀さん。出てくれませんか?」

 

 一度決めたからには、とっとと片付けてしまいたかったのだ。家事を手伝いもせずにゴロゴロしているマダオへのあてつけも含まれていた。

 

「あー? 今の俺にジャンプを手放せつってんのか、新八。それは死ねって言ってるようなもんだぞ」

「なんでジャンプを手放す事が生き死にの問題になるんですか。ジャンプ手放したぐらいで死ぬわけないでしょう!?」

「死ぬよ死ぬ。もう一瞬にして死ぬ。なんたってジャンプは少年の魂だもの、そんなん手放したら少年死んじゃうよ」

「どこに少年がいるんですか! いるのはおっさんだろうが! いくつサバ読んでんだよ!」

 

 だが銀時は、掲げたジャンプから視線をわずかに動かすだけで、微動だにしない。

 新八はその態度に、呆れと、怒りをにじませる。

 それでも白髪頭の主は、ジャンプのページをめくりながら、いつものごとく舌を回す。

 思えば今月も給料は未払いのままで、普段は温厚な少年もとうとう声を荒げた。

 だが、銀時はまったくもって悪びれない。

 

「堅てぇ事いうなよ、ぱっつぁん。男はいつまでたっても少年なんだよ。それに、お前だってマスを毎日しこしこしてんだろ? サバもマスも似た様なもんじゃねーか」

「なっ、そんなことする訳ないじゃないですか! 適当な事言わないで下さい! もういいです……神楽ちゃんお願い」

 

 これ以上続けてもこの男の事だ、のらりくらりと言い逃れ、時間を無駄にしかしないと、新八は代わりに神楽に頼む。

 銀時の向かいのソファーにて、寝そべりテレビを見ている神楽だったが――。

 

「嫌アル」

 

 即座の否定に新八の何かが切れた。

 

「あーもうこの人達はぁあああああ! ジャンプと昼ドラと家事! 何が優先されるべきか分かるでしょぉおおお!?」

「ジャンプ」

「昼ドラ」

「言うと思ったよ!」

 

 だらしなく寝そべりながら、さも当たり前の様に告げる二人。

 当然の如く、新八は更に切れる。

 けれど、

 

「済みません! いないなら帰りますよ!」

「ごめんなさい! 今行きます!」

 

 しびれを切らした配達人の声に全てを諦め、新八は肩を落とし、玄関へ向かうしかなかった。

 

「最初からそーしとけば早いアル」

「そーだそーだ」

 

 追い打ちをかける声に、反応しては負けだと、新八はあえてその声を無視する。

 

 

 

 

 戻ってきた新八は小包を手に持ち、首を傾けていた。

 

「これ何だろう? 差出人もないし……。銀さん、通販とか頼みました??」

「知らねえなぁー。神楽じゃねーの?」

 

 聞かれた銀時は、新八の方を見ようともせず神楽へ話を振る。

 振られた神楽は一瞬だけテレビから目を離し、新八と抱えた荷物を見るが、すぐに興味を失い、やる気なく応える。

 

「知らないネ。新八が何かエロいメガネでも買ったんじゃないアルか?」

「なんだよエロい眼鏡って! 意味わかんねーよ! 大体自分で頼んでおきながら何か買った? なんて他人に聞かないでしょ普通」

 

 言いがかりも(はなは)だしいと、新八は乱暴に机の上に小包を置く。――音から察するに、そう重いものではないようだ。

 しかしそんな声など聞こえないとばかりに、神楽の視線はテレビを向いたままピクリとも動かない。

 

「シェイクって奴ネ」

 

 神楽にくわえられた酢昆布が、口の動きに合わせ揺れた。

 

「それを言うならフェイク! なんでそんな面倒くさい事僕がしなくちゃいけないのさ!」

「お前がヤンジャン(エロ本)をジャンプで偽装する奴だって事は、このグラさんまるっとお見通しヨ」

「なっ、しませんー、絶対そんなことしませんー。侍ですからどうどうと抜身でレジ持っていきますぅー」

 

 その言葉に心あたりはなきにしもあらずで、新八は神楽の態度を(いさ)めるよりも先に、己の動揺を押し隠そうと、弁明の言葉を重ねが、 そんな態度を見透かし、神楽はいやみったらしい顔を作り、あざ笑う。

 

「そんなことはメガネからモンシロチョウが取れてから言えヨナ」

「モンシロチョウってなんだよ! なんか可愛くなってんだろ! それを言うなら蒙古斑!」

 

 お互いムキになった新八と神楽が騒ぐ中、銀時はジャンプ片手にチラリと箱を見る。

 

――そーいやこの前飲んだ帰りにアンケートにご協力下さいって……景品が当たるとか……。やっべ、これ俺んじゃねーの? でもよ、今更俺のだって言ってもなぁ。そもそも景品ってなんだよ。エロいアレ的なソレとか? なんか雰囲気怪しかったし? もしそんなんで、名乗り上げたら取り返しつかなくねぇ? 修学旅行で「落し物、誰のですか―」って言われて手ェ上げたらパンツだった! みたいなノリになるよ完全に。後からやっぱ違いました! なんて否定しても、パンツと心についたシミは取れねえよ? けど、いい感じのモンだった場合、後から俺のだつっても……。

 

 目を細めてもダンボールが透ける訳は無いのだが、モザイクが消えんだからダンボールも消えてもいいんじゃね? なんてバカな事を考えた銀時は、目を細めたり、縦にしたり横にしたりと見つめる。

 

「そもそもこの荷物、宛先が坂田になってんだから僕にじゃなくて……って銀さん……やっぱアンタのなんじゃないんですか?」

 

 視界の隅に映った挙動不審な銀時の動きに、新八が気づく。

 ツッコミの止まった口に、神楽もその視線の先を追う。

 視線の集中砲火を浴びた銀時は、ビクッと分かりやすく体を震わせ、慌ててジャンプで顔を隠した。

 

「いや、知らねェよ」

「そんな事言ってじっと箱見てたじゃないですか、何なんですかコレ」

 

 そんなん俺が聞きてぇよ! という心の声はお首にも出さず、銀時は「知らない」を繰り返す。

 二人のやりとりを尻目に、黙って箱を見ていた神楽がベリベリと箱のガムテープを剥がしていく。いい加減面倒臭くなったのだ。あまり物事を深く考えない彼女らしい行動ともいえた。

 

「なんかビデオ出てきたネ。『貴方の見たことのないめくるめくる禁断の世界にご招待。今……審神者(ピー)になれないなら、絶対再生しないで下さい』ってなにアルか??」

「やっぱそっちかぁああああ! ちょっとまて! それお前にはまだ早い奴ぅううう!」

 

 ダンボールを開けた神楽は、一緒に入っていた紙を音読する。読めない漢字を効果音で誤魔化すせいで、卑猥な文章になってしまっているが、それを抜きにしても意味の分からない単語の羅列に、少しだけ悩んだ末、見ればわかるアルと、そのままにビデオをセットする。

 文章を直接目にしていない銀時は嫌な予想が当たっていたと慌て、ジャンプを放る。

 

「やっぱりって、知らないなんて嘘ぶっこいてアンタのなんじゃないですか!」

「んな事言ってる場合じゃねーだろ、早く止めねぇと!」

 

 そんな銀時の襟首を新八が掴み当たり散らす。

 その一瞬の差が命取り。銀時が、新八を振りほどいて伸ばした手は空を切り、そのままビデオはデッキに飲み込まれていった。

 銀時の懸念を余所に、じわっとテレビ画面に映し出されたのは、古い八ミリフィルムで撮ったようなモノクロの映像。

 チラチラとノイズが走り、手ブレもしている。

 そこに映し出されていた映像は合戦場跡だろうか? 折れた刀が数えきれない程地面に突き刺さった荒野だった。

 

「なんか見たことアルこれ……どこだったっけ?? あっ! 思い出した。この前よっちゃん所でサダエって映画見たアル。なんか似てるねコレ」

「サダエってアレですか、呪いのビデオが主題になった映画」

「多分それアル」

 

 しばらく考えて神楽が出した答えに、新八が補足をいれる。

 うんうんと頷く神楽に、銀時が顔を引き攣らせた。

 

「オイ、だれだよこんなイタズラ仕掛けた奴……いや、銀さん怖い訳じゃないからね。ちょっと悪趣味なイタズラした奴に怒り心頭なだけなんだからね。ほ、ほらこんなくだんないもん早く消そうぜ……アレ? 消えない えっ、嘘」

 

 青ざめてガチガチと停止ボタンを押す銀時に、「またまた」と新八が笑う。

 

「停止と再生間違えてますよ。停止はこっちじゃないですか、なにしてるんですか銀さん。……アレ? 本当止まらない。何これ故障?」

「や、止めろよそーいう冗談。全っっ然おもしろく無いんですけど新八君」

「いや、本当ですって、神楽ちゃんちょっとコンセント抜いてくれる? 一回電源落とすと直るかも」

「コンセントってこれアルよな?」

 

 神楽が手に持っているのは壁に刺さっていたコンセントプラグ。抜かれたコードは正しくテレビに向かって伸びていた。

 けれど映像はチラチラ映るそのままで、やがてアングルが切り替わり、小高くなった丘の山頂付近を映し出す。

 

「いや、ちょっとまってまって。300円上げるから……そーいう冗談皆止めよう」

「じょ、冗談なんて……」

「これほんまモンアルか! こんどよっちゃんに自慢するネ!」

 

 流石の新八も若干顔を青ざめる。きらきらさせて、テレビを見つめるのは神楽ただ一人。

 

「自慢とかそんなんいらないからって、な、なにコレ誰」

 

 顔面が青を通り越して蒼白になっている銀時が見たのは一人の女。

 野草が生い茂った中に、場違いな程艶やかな着物が印象的であった。正絹(しょうけん)特有の光沢のある紺地に白い小紋が雪のように飛んでいた。

 長い髪を揺らし、女がゆっくりと、よくよく見ていないと動いていることに気づけない程、ゆっくりと振り向く。

 

「こ、これってアレですか? 振り向いた顔を見たら……とか、そーいう系?」

 

 裏返った声で新八が銀時に問うも、すでに限界を迎えた銀時は、「いやいや、無理、本当、無理。無理って何が、何がってアレだよソレ」と一人の世界に閉じこもり、新八の声は耳に入っていなかった。

 ゼンマイの最後の一巻きが解かれるように、その(かんばせ)が――そう思った時、画面が突然フラッシュを焚いたようにカッと光を放った。

 

「うっ……」

「ま、眩しいアル」

「ああ……なんか明るくなった。コレ天国? 天国? 俺もう頑張ったよね、ゴールしていいよね」

 

 無我の境地に辿り着いた銀時と共に、三人の姿が万事屋から消えた。

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