刀剣乱『腐』に万事屋がログインしたようです   作:空飛ぶ鶏゜

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 ――ミーンミンミンミーン

 蝉の鳴き声がかしましく、ドタドタと走り回る音が廊下に響く。

 篭った熱が苦しく、寝がえりを打つと首筋に濡れたタオルが当てられた。それが気持ちよくて寄せていた眉を緩めると、ふふふっと柔らかい声が降ってきた。

 もう一度深い眠りにつこうとして、大事な何かを忘れている――その思いが、落ちそうになる意識を留める。

 ふわりふわりと上下する意識がやがてゆっくりと浮上していく。

 パチリと目を開けた。最初に視界に入ったのは日の光を通し白く眩しい障子紙だった。

 なら……タオルは誰が? 身動ぎしたのが分かったのか、首筋からタオルが離れる。ああ、そのままでも良かったのに――。

 

(かね)さん? 狸寝入りはダメですよ?」

 

 その声に、和泉守(いずみのかみ)はハッと身を起こす。するとそこには相変わらずブサイクに笑う国広がいた。

 

「で、なんでオレは助かった訳?」

 

 布団の上で、あぐらをかいて座る和泉守は膝に置いた腕にアゴを乗せ、片眉を上げる。

 その真向かいに座る国広はその疑問に答えるべく、するすると首元から何かを取り出した。

 

「お守り……主さんが持たせてくれたでしょう?」

 

 そう言えばと和泉守が胸に手を当てると、いつも身につけていたモノが無くなっていた。

 主さんに感謝ですねとにっこり笑う国広に、そんな事ついぞ忘れ、今生の別れだと恥ずかしい事をぶちまけた己を思い出し、和泉守は赤面する。

 思わず手で顔を覆った和泉守に、やはり国広はふふふっと笑った。

 

「どう? 目、覚した?」

「あ、主さん!」

 

 障子戸がスッと開くと、白衣と緋袴、巫女服姿の審神者(さにわ)――いつも通りの主がそこにいた。

 久方ぶりだというのに、一刻前に別れたかのような気楽さ。

 

「アンタ生きてたんだな」

「酷い言い草じゃない。ほら二本の足見える? たくし上げようか? 特別に太ももまでならサービスしてあげちゃうよ?」

「勘弁してくれ……」

 

 うら若き乙女とは思えない言葉に、まごうことなく己の主だと和泉守は確信する。

 銀時等が来た時、彼等がもう戻らない主の代わりではないかとそう考えた。正直それでも良かった。あの人以外の主など、正直誰でも良いと密かに考えていた。だがそれは、偽りであった事に気づく。

 変わりのない元気そうな顔を見てほっとしたのだ……。

 

「いい、楽にしてて。病み上がり? 床上がり? まあ、半病人みたいなもんだし……」

 

 流石にと居住まいを正そうとした和泉守にパタパタと手を振って審神者はその隣に座ると、右手を取りペタペタと触りだす。

 肘から上、肩へと上がり、首、背中。突然の行為に、「あ、主?」と声が溢れた。

 

「違和感はない? 手入れは得意じゃなから……あまり無茶しないで」

「あ、ああ。大丈夫だ」

 

 刀剣の損傷は自己治癒しない。主による手入れをもって初めて修復される。

 首筋に回った腕に力がこもり、抱きしめられる。

 良かったと呟かれる声と埋められる頭。恐る恐る和泉守はその背に触れる。

 そうすると更に込められる力。

 折れても良いと決めた覚悟は今も胸にある。それでも折れずに良かったと、胸に熱いものがじんわりと広がっていった。

 

和泉守(イズミン)起きたアルか?」

 

 続けて入ってきたのは神楽だった。

 その声に引かれてやってきたのか、「兄弟、雅は取り戻せたかい?」「あー! 和泉守だけ可愛がって貰ってズルい! 俺も!」と次々と刀剣等が集まってくる。

 なぜか皆、酢昆布を咥えていた。あの風流を是とする歌仙兼定(かせんかねさだ)さえも。

 

「ああ、神楽が好きだというから取り寄せたんだけど。なんだか皆気に入っちゃったみたいでね、今ブームになってるのよ」

 

 和泉守の視線に気付いた審神者はそういってケラケラと笑った。

 幼い姿の短刀等はともかくも、蜻蛉切、果てはあの山姥切までもが赤い箱を片手にくちゃくちゃと酢昆布を咥える姿は、知らぬものが見れば目を疑う光景だろう。

 こうも大量の酢昆布が集まるとその臭気は酷いものがある。

 

「あーもう、お前等くせえよ、障子開けろ。臭いが篭って仕方ねぇ」

 

 和泉守の悲鳴に開かれた障子戸。そこから見える庭はいつもの本丸で、立ち上がった和泉守は肩を回す。

 

「か、兼さん! もうちょっと寝てた方が」

 

 それに慌てたのは国広だ。自身も立ち上がり、部屋から出て行く和泉守の後を追う。

 

「この和泉守がこんな格好いつまでもしてると思ってんのか? 国広ォ、まだ少し体が動かしづらくてなぁ、身支度手伝ってくれよ。相棒なんだろ?」

「――はい! もちろんです」

 

 その後姿を微笑ましそうに見ていた審神者だったが、さてとと立ち上がる。

 向かうの先にいたのは神楽であった。

 

「あなた達にはうちの刀剣が随分世話になったみたいだし……和泉守の快気祝いも兼ねて、今日は派手にぱーっとやっちゃおうか?」

「本当アルか!」

 

 目を輝かせる神楽に本当だよとその頭をグリグリと撫でる。

 

「ぱーっともいいけどよ、俺等いつ帰せそうなんだ?」

 

 いつの間に来たのか、天然パーマの侍が部屋の入口に立っていた。

 

「先ほど通達があって、明日か、明後日には。この度はご迷惑をおかけしたこと、政府に変わってお詫び申し上げます」

 

 審神者はそう言うと、態度を一転、凛と伸ばした背筋を深く折り、頭を下げる。

 政府――審神者を管理する存在であったが、時に強引なやり口で事を押し進めるきらいがあった。

 今回の発端もそうだ。

 

「いいって、頭上げろ。大将が簡単に頭下げちゃいけねーよ。それに、アンタが悪いんじゃねーんだろう?」

「審神者も政府機関の一部として考えるなら、その責任の一旦は私にも」

「あー、もううっせえな、被害者(俺等)がいいつってんだから、グダグダ抜かしてんじゃねーよ。政府の一旦がお前なら、地球の一旦もお前か? じゃあ、俺の暴れん坊地球号の責任もついでにとって◯◯◯して――」

「じゃねーよ!」

 

 台詞の途中で、銀時は背後から金◯を蹴り上げられ地面にうずくまった。ピクピクと体を震わせ、泡を吹くその後ろで、メガネがきらりと光る。

 

「なに人の弱みにつけ込んでセクハラぶちかましてんですか」

 

 腰に手を当ててゴミ虫を見るような目で、新八は銀時を見る。

 

「これ……大丈夫なんですか?」

「大丈夫ヨ。今までも金◯切り取られたり、潰されたり、ご飯にぶっかけれたり。銀ちゃん、こんなん慣れっこネ」

 

 頬に汗を一筋垂らす審神者と遠巻きにそれを見る刀剣達。だが、神楽は問題ないと口にする。

 苦悶の声が「だ、大丈夫な訳ないだろ」と聞こえたが、それは黙殺された。

 

「それにしても君たちも災難だったよね……。まさかリクルートに困っているからといって素質がありそうな人間を、詐欺まがいの手口で引っ張ってこようとするなんて。しかも量産された招集用のビデオに粗悪品が混じっているとか……ほんっっと、ありえない!」

「気にしないで下さい。酔っ払ってたとはいえ内容も確かめずに契約書にサインしたどっかのクソ天パが全部悪いんですよ」

 

 頭がいたいと審神者は首を振る。

 それに新八は笑い返した後、未だうずくまる銀時に視線を落とす。やはりゴミ虫をみるような目だった。

 

 勢力を増す遡行軍(そこうぐん)、正体不明の検非違使(けびいし)。時空の歪が拡大することを恐れた政府は躍起になって人を募るも、戦に率先して参加しようなどという人間はそういるはずもなく、かつ、招集される側の人間にもそれなりの素質が必要となれば、人員は常に不足気味であった。

 

 銀時が書かされたアンケートという名の誓約書。きちんと見れば事細かく注意事項が乗っていた。欄外に、小さな文字でではあるが……。『詐欺まがい』とはそういう意味である。

 そして、粗悪品と審神者が口にしたビデオ。本来は基本説明と、審神者候補生を転送するためのシステムだったが、それにまったく意味のない映像と、受け取った人間を政府本庁ではなく、アトランダムな本丸に飛ばすという酷いモノが紛れ込んでいた。

 曰く、『合戦場で散った刀剣の呪い』だとか、『政府に反する勢力の妨害工作』だとか様々な憶測が流れたが、原因は不明。政府からの回答は目下調査中とのこと――どこまで調査を行っているのか疑心は残る。

 

「んじゃあ、喧嘩両成敗ってことで!」

 

 打って変わった審神者の態度に、胡乱な新八の視線が突き刺さる。

 

「いや、なんか意味違いません?」

「若いのにそんな細かい事気にしてたらハゲるよ? ともかく、湿った話はここで終わり。そんな事よりも! 戦利品! みんな見たいか!」

 

 パチンと手を打って刀剣を振り返った審神者は拳を空に向け突き出す。すかさず「おー!!」という声が返り、ニッカリと満足の笑みを浮かべた。

 新八と神楽は、事後処理でお披露目出来ていなかった戦利品を取りに部屋に向かう、審神者の軽やかな姿を見送る。そして……銀時は未だうずくまっている。

 

「神楽ちゃん……僕達はどっか別の場所に移動しようか?」

 

 戦利品。その言葉にげんなりとした顔を浮かべた新八は、銀時の足首を掴みズルズルと引っ張っていく。

 

「なんで? 私も見たいヨ。金銀財宝ザックザクネ」

「金と金しかないから、むしろ玉と玉というか。とにかくここにいたら精神が腐敗するから、ほらいこう」

 

 首を捻りながらも新八の後をついていく神楽。きっとここでは今夜開かれる宴の一次会が開かれるのだろう。

 刀剣の性質は、産みの親にも大きく左右される。蛙の子は蛙。それを三人が聞いたのは帰り際、こんのすけからだった。

 コミックマーケット――それは乙女達の戦場である。

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