そう思わずにはいられません。
それは確かに大きくなった。
一度のみならず何度も繰り返しどんどん大きくなっていく。そしてその巨体で街を飲み込んで行く。
不思議なことに、人がすぐ近くに居ればその人達を触手で捕らえ、自らの目の前で振り子のように振り回していた。
そしてまた一段と体が大きくなる。
体が動かない。
何故かは分からないが彼の足は動かず、逃げる事を許してはくれなかった。怒りが湧いてくる。しかもそれは自分の怒りではない。今俺は怖い。目の前の惨状がただただ怖い。だが、その恐怖とは違う感情が段々と彼の体を包んで行く。
もはや彼にとって自分の知らない何かが流れてくるのは当たり前となっていった。
怒っているのは分かる。しかし、何に対しての怒りなのかが掴めない。例えるならぶかぶかの服を着たかのような違和感に覆われていた。
目の前の光景から目を逸らさず、じっと考える。記憶を辿りこの感情を探っている。
なんだか…ちょっと前に同じような怒りを感じたはずだ…。
そう…あれは……。
確か…仕事の帰り道に…捨てられた子猫がいて、そうだ。見つけた時には息も絶え絶えで、結局死んじゃったっけ…。
それで…、響と環にその話をして。して……3人で怒ったっけ。
そうだ。これはその時の怒りだ。あれ?でも俺達は何に怒ってたんだ…。
立ち尽くしたまま考える彼の背後に、それはせまっていた。
「プロデューサーさんっ!!!」「プロデューサーくんっ!!!」「プロデューサーさぁんっ!!!」
音無さん、このみさん、あずささんの3人の叫びが響く。
はっとして振り向く
そいつは俺も飲み込もうとした。いや、確かに飲み込んだように見えた。
あの肉の塊に押しつぶされたと、その3人は考えた。
だが、次の瞬間に光が溢れる。その光は太陽を思わせるように白く、暖かく輝いて辺りを照らした。
「きゃあぁぁあああ!!」
悲鳴が聞こえる。あれは…誰のだろうか。
俺は死んだのかな?
だとしたらここは天国だろうか。
無意識に変身していた彼は、あまり驚くこともなく冷静にそんなことを考えた。
何のことはない。彼は怪獣がのしかかるよりも早く、懐のそれを引き抜いていただけだ。
だが、彼は自身の状況を理解していなかった。
そこは温かな心に包まれているように安らかで、泉のように光が溢れていた。
ふと自分の体を見てみる。しかし、そこにあったのは人間の手では無かった。手だけではない。脚も胸も人間のそれでは無かった。
身体が…変わ…る…。灰色…?
そうか…この前見た…。
天に突き出した拳をまじまじと見つめる。そうしているうちに、自らの周りに溢れていた光が溶け出した。光から抜け出しつつあるのだ。
完全に光から出たとき、眼下に広がっていたのは壊れた街、そして蠢めく肉塊だった。
光を湛えてその者は現れた。
黄昏と焔で赤く染まった街で、銀色の光をまといながら。
気付けば俺の目線は奴を見下ろせる高さにあった。
ごちゃごちゃだった頭が整理されていく。今の自分の姿に驚かなかったこと、自分が何をすればいいかを知っていた事に疑問は沸かなかった。
そう、目の前のそいつを消せばいい。そいつがすべての命の敵であり、倒さなければならないことを知っていた。
「プロデューサー…さん…なんですか…」
足元からあずささんの声が聞こえる。その顔を見る為に振り向く。そして力強く頷いた。
良かった…皆無事みたいだ。
安堵の気持ちが溢れる。
3人の心に巣食っていた恐怖もだんだんと取り除かれていく。
そして、彼ー巨人は再びそれに向き直り集中する。そして胸に腕を当てがうと、その体を紅く変化させた。
やはり不思議だ。俺はこの体の使い方を知っている…。
光のエネルギーを一点へ集中させ、頭の中にロープを思い浮かべる。
指先に光を集め、それを捕らえられている人達へ放つ。イメージとしては投げ縄だろうか?
光の綱がまっすぐに伸びて途中で幾つも枝分かれし、触手に捕まった人々へ向かう。
怪獣に締め付けられているのにもかかわらず、光はその人達をだけを確かに捕まえた。あとは引き寄せるだけだ。
光が指先へと戻っていき、その手の中を確認する。皆ひどく怯えているが、命に別状はないようだ。
救助した人達を早く下ろそうとしたが、奴の触手が再び迫りくる。反射的に背中を向けてしゃがみ手の中の小さな命を守る。
背中に触手を受けながらもその人達や彼女達を庇う。
攻撃は止まなかった。一発一発は大した威力ではない。しかし、同じ箇所に何度も何度も食らえば、やがては焼けるような痛みがほとばしる。巨人のダメージが自分にフィードバックしている事を理解する。
不意に声が漏れる。いや声では無く呻いているような変な出ている。
そんな自分を不安そうに見つめている瞳があった。
やがてその瞳が恐怖に包まれていくのを確かに見ていた。そしてどんどん攻撃は激しくなるようなきがした。
そうしているうちに胸の宝石のような物が赤く点滅しだした。自分の脈拍も上がっているきがして、不快な感覚が全身を包む。
!?…危険を報せているのか?
だとしたらまずいな…。はやく、倒さなきゃ…。
細心の注意を払ってなんとか手の中の人達を下ろした時だった。
突然攻撃が止んだ。
チャンスと思いすかさず振り向けば、さっきまでよりもひと回りもふたまわりも大きくなった奴の姿が見えた。
そして疑問が解けた。
そうか…こいつは人間の恐怖を吸っているのか…。
すぐに殺してしまわないのは、恐怖を与えるためだったというのか!!
ふざけた奴だ…!
そいつの特性に気付いた彼は、暁に激情を照らし出す。そして、さっきの何者かの怒りは、命が弄ばれることに憤怒していた事を理解し自身の怒りへと変えた。強者に弄ばれる弱者を目の当たりにしたときの怒りが全身をつつむ。
ゆるさないっ!!
自分ではそう言っていた。しかし、さっきと同じように声では無く変な音だった。
だが、悲鳴のようなそれとは違う、力強さと勇気に満ちた雄叫びに似ていた。
眼下赤い光の点滅は燃えさかる怒りを表しているように激しく脈打っていく。
身体中に光と力が満ちてゆく。
彼の右腕が光り、輝きを放ち始めた。彼自身それを感じていた。そうなるようにエネルギーをコントロールしているのではない。内に秘めていた怒りのエネルギーが自然と体の外へ出そうとしているのだ。輝きはどんどん増してゆく。
そして放出されるエネルギーをイメージし、左手を添えて出し尽くす。
右手を目の前の肉塊に向けると、瞬間三日月型のエネルギーが放たれカッターナイフで切り裂くようにその怪物の触手を切り落としていく。
その怪物が断末魔のような叫びをあげた。
苦しんでいるのだろうか…?
いや、違う。自分の中の何かがそう告げている。
とにかくダメージを与え続けねば。
断面を焼き切る程の熱量に体をうねらせる怪物に、光を纏った拳と蹴りを放つ。
その巨体が大きく後ずさると、ピタリと動かなくなった。おそらく体の内部から破壊されたようだ。
両腕を胸にあて、光を纏わせる。今度は稲妻のようなエネルギーが迸り、あまりの強さに腕の外へと漏れ出しているのが眼下に見えた。そして限界まで貯めると腕を高らかに上げ、エネルギーを安定化させる。
次の瞬間腕をL字に組み、光線を敵へと放つ。
必殺技といったところだろうか。光が命中した箇所から怪獣の体が溶け出すように分解されていくのを感じ取る。
ついに怪獣の全身まで分解されると、光線を打ち止める。
そして、青くかがやく肉塊だったものは夜風に乗って消え去った。
星屑のようにきらきらとした光が地上に降り注ぐ。
かつてない疲労と達成感に包まれる彼の意識は、そこでフェードアウトした。
投稿遅くてこの文章…。
自分に対する嘆きがとまらない。