目がさめる。
そこはいつもの見慣れた部屋ではなかった。
気持ち悪いほど白に染まった部屋。輝く光の眩しさに耐え切れず、再び目をつむる。
そのまま再び眠りにつこうとした彼だが、誰かの吐息が聞こえたのと同時にふと目を開く。
そこにはこのみさんと伊織がベッドにもたれて寝ていた。
二人の寝顔を眺めながら考える。
(ここは…病院…?だとしたら何で…なんかあったっけ?)
頭が働いていないのを自覚した。
(なんか忘れてる気がする…。あああ、仕事…の事じゃないよな…?)
寝起きの頭で考えてたせいか、一向に思い出せない彼だったが、ガラガラとドアが開く音に驚き、頭を振る。
「ああっ…。プロデューサーさん、目が覚めたんですね…!」
現れたのは、今にも泣きそうな顔のあずささんだった。
「よかった…本当に……。」
か細い声で呟くと同時に、彼女の瞳から涙がこぼれ落ちる。
「本当に…本当によかったぁ……ううっ…ひぐっ…うああああぁぁぁん!!!」
「あ、あずささんっ!?」
普段のあずささんからは想像もつかないような泣き方だった。
落ち着かせようと試みるも、泣きじゃくる姿にただ困惑することしかできなかった。
困ったようにキョロキョロしていると、ベッド脇で寝ていた二人がもぞもぞと動き始めたのが見えた。
よく見るとその二人のまぶたは赤く腫れていた。二人ともあずささんみたいに泣いていたのだろうか。
あたふたしているうちに伊織が目をさます。
「このバカプロデューサー!!死んじゃうかと思ったじゃないいぃっ!」
寝ぼけた顔をすぐに消し去り一喝。もしかしたら今までで一番大きな声だったかもしれない。その叫び声でこのみさんの体がブルッと震える。
彼女も完全に目を覚ましたようだ。
「びっくりしたぁ……あれ…?もしかしなくてもプロデューサー?!」
このみさんも結構な声量だった。
俺が目覚めるのってそんなに驚くことかな、なんて考えていた彼だったが、ふとベッド脇に置かれたそれを目にした瞬間全てを思い出した。
「そうだ!!あのあれはどうなった?!ええと、あれだよっ!あの怪物!あの肉の塊みたいにぶよぶよしてて触手の生えたあれ!」
すかさず上体を起こし、矢継ぎ早に捲したてる。
急な事だったためか誰一人として反応出来なかった。
「君が変身した巨人の放った光線により、完全に消滅したよ。水瀬君のお父上の調査によって、あの近辺におかしな成分や痕跡がない事は確認済みだから安心したまえ。」
答えを待つ彼の耳が聞いたのは、聞き覚えのある男性の声だった。
「しゃ、社長…。」
まだまだ聞きたい事はあるが、ひとまず気を落ち着かせ社長の話を聞く。
「犠牲者の数は…まだ不明だ…。都市の機能もいくらか麻痺している。だが、少なくとも765プロ関係者の中で怪我人や不明者はいない。君は立派に使命を果たしたんだ。その事は胸に刻んでおいてくれ。それと、この事は彼女たちにも知らせた。じきにやって来るだろうからしばらくはここにいてくれ。では、4人とも、失礼させてもらうよ。」
俺の肩にぽんっと手を置いたかと思うと、そのまま病室から出て行ってしまった。
他の3人はしばらくぼーっとしていたが、俺が再び体を倒すとはっとして俺を取り囲んだ。
「その…あの時はちゃんと見てたからプロデューサーの事も…知ってるわ…」
このみさんが何故だかバツの悪そうにまたたく。
別に知ってたって俺は困らないし悪い事では無いんだが…。
「社長から事情を一通り聞いたわ。でも、あんた自身の口から聞かせてよ…ね?お願い。」
少し落ち着いたのか口調も柔らかくなる伊織。
「えっと、さっきは取り乱してごめんなさい。あと、私からもお願いします。出来れば他のみんなにもお話してください。」
いつもの落ち着きを取り戻しつつあるあずささんであった。
「あーっと…3人とも無事で何よりだよ。他のみんなも無事なら取り敢えず安心かな。俺の事を話す時間はまた作るよ。だから、今は俺に色々教えてくれるとありがたい…。」
さっき社長に聞きそびれた事がいくつかある。彼女たちに教えてもらわないと。
「それじゃあ…どうしようか。何から聞こう…。ああー、そうだな…あのあとってどんな感じだった?」
さっきの社長の話を聞けば、取り敢えず危機は去ったと見ていいだろうが、被害の状況及び自分の身に何があったのかは詳しく知りたい彼だった。
3人は顔を突き合わせおもむろにうなづいた。
あずささんが口を開いて話を始める。
「まず…プロデューサーさんが事務所からいきなり飛び出したのは覚えてますか?」
「ええと、はい。」
はっきりしない返事だったが、そこは覚えている。
何かに導かれるように戦いへと赴いたことは。
「あの気味の悪い怪物と戦っていたことは覚えてます。でも途中から意識がなくなったような気がして…」
「えーっと、社長がおっしゃってたようにプロデューサーさんはあの怪物を倒したんですよ。こう…腕をこんな感じに構えてばばばーって。」
すごくアバウトではあるが、ひとまず奴を倒せた事に安堵する。
「それで…その後が大変でした…。プロデューサーさんの体が光の粒みたいになってその場から消えてしまったんです。」
おそらくエネルギーの消耗で巨人としての体を維持できなくなったのだろうということは容易に想像がつく。
「街は…他のみんなはどんな感じですか?大丈夫だとは聞かされても、気になるものは気になります。それからここは何処なんですか?」
取り敢えず今はこれだけ知ることが出来れば充分だろうか。
「ここは水瀬の研究施設内の特別病棟よ。」
あずささんに変わって伊織が話を続ける。
「なんでも、お父様が個人的に研究していた施設の一角らしいわ。詳しい事を知ってるのはお父様含めてごくわずかみたいだけど。お父様はプロデューサーはある程度事情を知ってるって言ってたけど、どうなの?」
「あー…ここの事は知らなかったけど、別の所なら一つだけ知ってるよ。それについてはみんなが揃ってる時に全部話すから今は待ってくれないかな。」
「ふーん…。ま、話してくれるってなら少しはまつわ。」
いつになく聞き分けが良い伊織である。状況が状況だけに当然かもしれないが。
「街は…そうね、ボロボロの状態よ。幸い事務所はちょっと物が散乱してる程度でたるき亭も大事ないわ。」
「そうか…取り敢えず俺の方はもう大丈夫そうだからここから動きたいんだけど…どうかな?みんなにも会いたいし。」
「駄目よプロデューサー。」
すげなくこのみさんに断られる。
「え。」
「だってほら見て。」
そう言って部屋の入り口を指差すこのみさん。
「プロデューサーさん…無事だったんですね!!」
「プロデューサー!!」
そこには見慣れた少女達と女性達がいた。
「色々、話してくれるんでしょ、プロデューサー。」
「もしかして、全員…揃ってる?」
この部屋に入りきるだろうかと心配したが、思っていたよりもずっと部屋は広かった。
今思えば、あの場にいたのは音無さんとあずささんとこのみさんだったのだ。
ここに音無さんがいないのはみんなを呼びに行ってたからだろうか。
「プロデューサーさん!今度こそ本当の事を話してください!」
やや強い口調で俺に詰め寄る音無さん。そういえば俺や社長に関する事は伏せてたっけ。
「あの日、怪物が出てくる前に社長からも色々聞きましたけどプロデューサーさんの口から真実を聞きたいです。」
あの時の音無さんの微妙な表情の謎が解けた。
「お、落ち着いてください…。今から全員に話します。ここに全員揃ってますよね?」
ぞろぞろとみんな入ってくる。みんな不安そうにこっちを見ている。
育や環、海美や麗花ですら不安そうである。
そう、麗花ですら。
「あの、小鳥さんからはプロデューサーさんから私達に話が有るからって聞いててそれで…」
春香が遠慮がちに言う。しかし音無さんの根回しの早さに驚く。
「ああ、それは間違いない…かな。ちょうどみんなが揃ってる時に話たい事が有ったからね。」
それを聞いて安心そうにする春香。いや、よく見れば他の子もホッとしているのが分かる。
無理もないだろう。自分達に近しい人に何かあったら誰だって不安になる。特に千早は弟さんのこともあってか、悲痛な顔をしているように見えた。
「まずみんなが何処まで知っているのか分からないから一から説明するよ。長くなるけどそこは勘弁してくれよ。」
後からでもちょこちょこ直せるとこは直していこうとおもいます。