Scribed a bullet hole   作:byとろ

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原作二巻分突入です。

たぶん、重要な回になります。マジか。

ちなみにサブタイは『二人は〇〇』みたいなノリです。

感想ください。


The two transfer student

五反田弾が持っている前世の記憶、つまり■■■■■であった時。

 

弾同様に彼は強く――否、この場合は彼同様に弾が強いというべきだろうが、とにかく彼は強かった。

 

音速をはるかに超える人間がいるか?

 

空を蹴り、水面に立つことができる人間がいるか?

 

核兵器にすら耐えられる体を持つ人間がいるか?

 

そんな常識を、超えてはいけない境界線を、軽々と飛び越えてしまった。

 

そして今、ここに五反田弾が存在しているのは、彼が死んだということだ。

 

その最後。

 

天寿をまっとうしたわけではない。――彼は十五年しか生きなかった。

 

事故や病気で死ぬほどに軟でもない。――その程度ならばそもそも強いとは言えない。

 

殺されたわけでもない。――彼を殺せる存在など無い。

 

では、死因は何か?

 

彼を殺せる他人はいないが、彼を殺せる自分はいたのだ。

 

すなわち、自殺である。

 

――右目を潰し。

 

――喉を抉り。

 

――左腕を千切り。

 

――腹を穿つ。

 

あらゆる存在を駆逐する呪詛をまき散らし、憎悪に狂った血涙を流しながら。

 

彼はようやく死んだ。

 

死ぬことができた――はずだった。

 

けれど彼はここにいる。■■■■■は五反田弾として生を受けたのだ。

 

その生は劇的だった。彼の望んだものがそこにあった。

 

馬鹿を言い合える友人と、恋に悩む友人と。

 

叱ってくれる年長者と、自分を兄と慕ってくれる妹と。

 

受け入れてくれる家族と、彼がいるべき場所がある。

 

命を賭けてでも守るべき存在たち。

 

五反田弾という世界をなげうってでも残したい場所。

 

――十分だ。これ以上を望めば、身を滅ぼしてしまうかもしれない。

 

けれど。

 

けれど、もし。

 

それ以上を望めるのなら――。

 

 

 

>>1

 

 

 

休日、五反田弾は実家である五反田食堂に帰ることにしていた。入学から一ヶ月と少し経っているが、いろいろあって今まで顔を見せることもなかったのだ。ようやくトラブルも収まったので、こうして帰ることができる。

 

久しぶりに見る実家は昼時ということも合わさってだいぶ繁盛していた。五反田食堂から出てくる人が皆、嬉しそうなのを見るのは気分が良い。

 

 

「おや、弾ちゃんじゃあないかい」

 

「ひさしぶりっすねぇ、おばさん」

 

 

家の前まで行くと、顔見知りの近所のおばさんが声をかけてきた。近くで八百屋を営んでいて、五反田食堂もお世話になっている。

 

そのおばさんが食堂の厨房に向かって叫ぶ。

 

 

「ちょっと厳さん!お宅の孫が帰ってきてるわよ!」

 

「なにぃ!弾か!?」

 

 

野太い声と共に現れたのは弾の祖父であり五反田家の大黒柱、五反田厳だ。中華鍋を一度に二つ振るうその筋骨隆々の体躯は、八十を過ぎてもなお健在である。そのあたりは、やはり血筋だろうか。

 

 

「よぉじいちゃん」

 

「『よぉ』じゃあねぇだろ。ちったぁ連絡を入れやがれ。馬鹿もんが」

 

「だからこうして顔を見せに来たんじゃあないか。親父は?」

 

「あいつは出かけてるよ。おい、蓮!弾が帰ってきたぞ!」

 

「聞こえてますよ、お父さん」

 

 

優しい笑みを浮かべた女性が店の奥から出てきた。五反田蓮、弾の母親である。

 

 

「ただいま母さん」

 

「ええ、おかえりなさい。上に蘭がいるわ。あなたがいなくなって寂しがってたから、行ってあげなさい」

 

「おっけ。んじゃあまた後で顔出す」

 

 

厳と蓮にそう告げ、弾は裏口から家に入った。面倒くさいが、これにより店の喧騒が私生活に入らないようにしてあるのだ。

 

蘭の部屋の前に立ち、ノックする。すぐに「はーい」と間延びした声が聞こえたのでそのまま扉を開けた。

 

弾と同じく赤みがかった髪を後ろで一つにくくっている蘭が、ラフな格好でベッドに寝転がりながら雑誌を読んでいた。

 

 

「一ヶ月じゃあ何も変わらねぇなぁ」

 

「ふぇ?――って、お兄!?帰ってきてたの!?」

 

 

声をかけられてやっと弾だと気付いた蘭が驚愕の声を上げた。雑誌を読むのをやめて上半身を起こし、ベッドのふちに腰掛ける。

 

弾もその辺にあった椅子を引き寄せ、蘭の正面に座った。

 

 

「ああ、さっきな。俺がいなくて寂しかったんだって?」

 

「ち、違うよ。そんなことないもん」

 

「はっはっは」

 

 

顔を赤くして唇を尖らせる蘭の頭を、わしゃわしゃと撫でてやる。意地を張っていた蘭も、撫でてやると途端に機嫌をよくした。抵抗しないのを確認し、少しずつ手つきを優しくしていく。

 

 

「あうぅ……気持ちいいよぉお兄……」

 

「……まぁ、こんなもんだな」

 

 

蘭の目がトロンとなってきたところで撫でるのをやめた。昔知人に見られたときに『性犯罪の現場に出くわしたのかと思った』と言われて以来、過度なスキンシップは控えるようにしている。

 

しばらく呆けていた蘭ははっと我に返り、さっきより顔を赤くしてぽこぽこと弾の体を叩いてきた。

 

 

「もう!止めてよああいうの。私中三なんだよ?」

 

「お兄ちゃんの愛情が嫌なら抵抗しろ。嫌がるそぶりをちょっとでもしたら止めてやるよ」

 

「うぅ……」

 

 

そういってやると、蘭は呻いて体を縮こめた。兄離れは当分先のようだ。

 

 

「まったく、そんなんじゃあ一夏の奴を盗られちまうぞ。鈴も日本に帰ってきてるし」

 

「えっ?鈴さんが?」

 

「ああ。他にも一夏に好意を寄せてるやつは結構いるぞ。ただでさえアイツはモテるのに、周りが女子だらけじゃあな」

 

「うわぁ……。そんなような気がしてたけど、やっぱりかぁ……」

 

 

蘭は深くため息をつきながら、ベッドに寝転んだ。そのまま天井を仰ぐ。

 

肩を落としているようだが、思ったよりもショックではないらしい。普通、意中の相手の競争率が高いとなればもっと落ち込むと思うのだが。

 

弾は恋をしたことがないのでその辺は勝手な想像だ。

 

 

「もっと気落ちするかとも思っていたんだが、そうでもないな」

 

「まぁ、予想はしてたしね。それに、なんて言うかな……冷めたっていうわけじゃあないんだけど、あんまり気にしなくなったんだよね」

 

「……?」

 

「一夏さんと私じゃあ住む世界が違う、みたいな?う~ん、うまく言えないんだけど……」

 

「???」

 

「つまり、神様みたいなものかな。触れられないけど、力をくれるっていう感じ」

 

「……俺にはわからん。わからんが、半端な気持ちじゃあないのならいい」

 

 

理解できなかったが、蘭は割り切ってしまったということだろうか。これも一種の失恋なのか、弾にはさっぱりわからなかった。だが、蘭の表情は晴々としている。ならば、いいのだろう。

 

 

「しかし、一夏が神格化されるとはな。アイツとんでもねぇな」

 

「さっきのは喩えだよ。喩え。それより、お兄はどうなの?」

 

「どうって、なにが?」

 

「好きな子とかできないの?告白されたりとか」

 

 

一瞬、呆気にとられてしまった。

 

好きになる?俺が?だれを?

 

それだけならまだしも、好意を寄せられるなんてありえない。

 

 

「何を言い出すかと思えば、そんなことあるもんかよ」

 

「なにそれ。時々不安になるんだけど、お兄って実は不能?それともホモだったりするの?」

 

「おまっ、何言ってんだ。気持ち悪い」

 

 

妹の口から不能とかホモとか聞くことがあるなんて思いもしなかった。

 

嫌な汗と共に鳥肌も立っている。こんな戦慄を覚えたのは初めてだ。

 

サイキョーはうちの妹だった件について。

 

 

「その様子じゃあ違うんだよね。でも、それならそれでやっぱりおかしいよ。だって、女子高でしょ?女子だけでしょ?選び放題の食べまくりじゃん。食べまくりんぐじゃん」

 

「日本語で頼む」

 

「若さが迸ったりしないの?青い衝動を未成熟な果実にぶつけようと思わないの?」

 

「聞いてねぇな、俺の話」

 

「お兄だって贔屓目なしにしても格好いいんだからさ。長身だし、足長いし。きっと陰でモテてるよ」

 

「ねぇよ」

 

「というか、なんでお兄は自分のことに無頓着なの?もう少し――」

 

 

それから小一時間ほど、弾は蘭の説教(?)を受け続けていた。

 

最終的には、弾が頑張って今年中に彼女を作るという意味不明な約束をさせられることで決着がついたのだった。

 

 

 

>>2

 

 

 

いつものように学生寮で起きたら学園内で『学年別個人トーナメントの優勝者は織斑一夏と交際できる』という噂が広がっていた。

 

どうしてこうなった?

 

ちなみに学年別個人トーナメントとは名前通りに学年別でのISトーナメント戦だ。学園生徒全員が参加するため、一週間をかけて開催される。

 

一週間というと長い気がするが、数百人の生徒を捌くのだ。実際いそがしい。

 

ともかく、噂の広がり方は尋常ではなかった。

 

発端がいつかはわからないが、学年別トーナメントの開始が予告されてからのことなので、つい最近のことだ。そこかしこで噂の真偽を確かめる女子たちが見受けられた。

 

この学園で知らない生徒はいないのだろう。皆熱心に裏付けを取り、その時流れた噂が更なる噂を呼んでいる。酷い悪循環だ。

 

嫌でも耳に入る女子たちの興奮した声を聞きながら、寮の食堂まで朝食を取りにぼけっと歩いていると、肩に何かがぶつかった。

 

 

「きゃっ!」

 

「ん?」

 

 

ぽすっ、と軽い音が響き、注意を向ければある女生徒が尻餅をついていた。今、この女性にぶつかったらしい。

 

慌てて散らばった書類をかき集め、手を貸して立たせる。

 

 

「すいませんね。ぼーっとしてたもんで」

 

「い、いえ。大丈夫です」

 

 

立ち上がった女性は書類を受け取り、苦笑しながら頭を下げてきた。制服から察するに、三年生だ。気のせい程度だが、どこかで見た覚えがある。

 

確か……。

 

 

「生徒会の人?」

 

「あら、よく知ってますね」

 

「いや、まぁ……」

 

 

苦笑を返しながら、やっぱりかと心中で頷いた。入学式や何かの集会で挨拶をしていたはずだ。びしっとした雰囲気とメガネで、秘書とかキャリアウーマンを連想させる。

 

女性は佇まいを直すと、もう一度頭を下げた。

 

 

「では、これで」

 

 

立ち去っていく女性の背を、弾はじっと見つめる。廊下の先に消えていく女性を見ながら、らしくもなく「名前を聞いておけばよかった」と思った。

 

今からでも遅くはないはず、と歩き出そうとした時、一夏がいつもの面々を連れてやってきた。

 

 

「弾、そんなところで立ち止まってどうしたんだ?」

 

「あ?いや……なんでもない」

 

 

出鼻をくじかれ、弾は女性を追うのを諦める。どうせ、大したことでもないのだ。蘭に言われたために意識してしまっただけのこと。

 

そう自分に言い聞かせて、弾は一夏達と共に食堂へ歩いて行った。

 

 

 

>>3

 

 

 

教室でも学年別トーナメントの織斑一夏についての噂はあちこちで交わされていた。他のクラスはいつもより三割増しでテンションが高いが、このクラスだけ倍の勢いでテンションが高い。

 

件の織斑一夏がいるからか、それとももともとそういうクラスだったのか。おそらくは後者である。

 

 

「ねぇねぇ、五反田君は何か知ってる?」

 

「いや、何もしらねぇぜ」

 

 

隣の女生徒が聞いてくるのに対し、正直にこたえる。嘘をついたところで得になるわけでもないし。

 

まぁでも、どうしてこんな噂が流れているのかは推測できた。

 

箒が顔を真っ青にしているのと、いつものほほんとした女生徒がいる三人組がにやにやと笑っているからだ。

 

おそらく箒が一夏に『学年別トーナメントで優勝したら付き合ってくれ』とか言ったのを聞いていたあの三人組が、何を勘違いしたのか『学年別トーナメントで優勝したら織斑一夏と交際できる』と広めたのだろう。

 

おそらく一夏自身は箒に告白された時点で買い物に付き合う程度の認識なのだろうけれど。

 

決死の覚悟で挑んだ告白を勘違いされ、さらに意中の相手が盗られてしまうことになりうるなんて、箒がすごく不憫に思える。

 

中立を誓っている弾だが、このときばかりは箒を応援したくなった。

 

 

「なあ弾、なんで皆熱心に語りこんでいるんだ?」

 

「……ボケが」

 

「酷くね!?」

 

 

そんなこんなで話していると、予鈴が鳴り千冬が入ってきた。それと同時に、喧しかった喧騒がピタッと止み、全員が整然と自分の席に座る。

 

 

「諸君、おはよう」

 

「おはようございます!」

 

 

綺麗に一致した挨拶を聞いて千冬は満足そうに頷き、事務的な内容を語りだした。

 

本格的な実践訓練にうつるということであり、それに伴うISスーツの話だ。忘れた者は水着(絶滅危惧種のスクール水着)、それすら忘れた者は下着で授業を受けさせるとか。

 

ちなみに専用機持ちは『パーソナライズ』というものがあり、着替えなくてもIS展開時に自動でISスーツになる。無駄にエネルギーを食うので緊急時以外は普通に着替えるのだが。

 

ところが弾は完全に違う。もはや服装を含めてISであるらしく、どんな格好でも強制的に変換されるのだ。便利か不便かで言うと便利だ。着替えなくていいのだから。

 

 

「では、山田先生。ホームルームを」

 

「は、はい」

 

 

ぱぱっと事務報告を終わらせて、ホームルームを始める。

 

慌てて佇まいを直した真耶が教壇に立ち、ドッキリを仕掛けた人物のような笑顔で口を開いた。

 

 

「今日はなんと転校生を紹介します!しかも二人!」

 

「え……」

 

 

教室内の空気が固まった。

 

そして、

 

 

「えええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 

耳をつんざく様な大音量が学校に響き渡った。

 

その声量はあの千冬が思わず耳をふさいでしまうほどである。

 

 

「え、ええっと……まぁ、いいですよね。入ってきてください」

 

「失礼します」

 

「……」

 

 

苦笑いしている真耶の言葉でドアが開き、二人の生徒が入ってきた。

 

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました」

 

 

一人は温和そうな、金髪でエメラルドの瞳が輝く絵本から出てきたような人物。

 

というか、男であった。

 

 

「お、男……?」

 

「はい。こちらに僕と同じような境遇の人がいると聞いて本国より転校を――」

 

 

そう説明するデュノアの立ち姿はまさしく『貴公子』そのもの。リアルに白馬の王子様を行っている。

 

そして当然、女子のテンションもマックスになる。

 

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!」

 

「男子!三人目の男子!」

 

「しかもうちのクラス!」

 

「美形!守ってあげたくなる系の!」

 

「テラワロスwww」

 

「う……うろたえるんじゃあないッ!IS学園生徒はうろたえないッ!」

 

 

騒ぐクラスを、千冬が一言言って黙らせた。「静かにしろ」だけで本当に静かになるのだから、実にやりやすい。

 

続けて、二人目に注意が向く。

 

イメージで表すならば軍人。綺麗な銀髪にゴツイ眼帯。背筋を伸ばし胸を張るその姿は、実際鈴と同じような身長にもかかわらず、同年代とは明らかに一線を画していた。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

何も言わずに立っているので、自然とクラスも沈黙に包まれた。

 

見かねた千冬が、ため息をつく。

 

 

「……挨拶をしろラウラ」

 

「はい、教官」

 

「私はもう教官ではない。先生と呼べ、先生と」

 

「了解しました」

 

「……はぁ」

 

 

千冬がもう一度ため息をついた。

 

千冬を教官と呼ぶということは、間違いなくドイツ軍に関わりのある人間だ。千冬は昔一年だけ、ドイツで指導していたことがある。

 

素直にドイツ軍人だと言ってしまえばよい。今のご時世、そう珍しいものではない。だが、弾としてはあまりいい気はしない。

 

間違っている、と強く思う。

 

今ここで考えても意味のないことだが。

 

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

「……」

 

 

クラスの皆が続く言葉を待っているが、ラウラはもう用は済んだといわんばかりに直立している。

 

 

「あ、あの、以上ですか?」

 

「以上だ」

 

 

即答。尋ねた真耶も涙目である。

 

と、そこでラウラと一夏の目が合った。

 

 

「!貴様が――」

 

 

いきなり、ラウラが一夏の前に躍り出て、その腕を振り下ろした。

 

 

 

むにゅ。

 

 

 

のだが、平手打ちでは絶対にしないであろう音がした。音というよりは、絵面からくる擬音なのだが。

 

 

「え?」

 

 

一夏が素っ頓狂な声を上げたとしても、仕方ない。

 

目の前で弾がラウラのほっぺをつまんで引っ張っていた。

 

 

「ふぇ?……はっ!ひはま、はいをふる!」

訳:貴様、何をする!

 

 

ラウラがじたばたと暴れるが、その程度では弾を振り切ることなどできはしない。弾も弾で放す気はないようだ。

 

にやにやと笑って、ラウラの頬を弄んでいる。

 

 

「へえい!ははしぇ!」

訳:ええい!放せ!

 

 

ぶちぎれたラウラが問答無用で弾を制圧しにかかるが、しかしそれすらも弾の前では無意味。ひらりと身をかわす。この間もしっかりと頬をつまんでいた。

 

ラウラが負けじと技をかけ、時にはフェイントを入れて弾から解放されようと必死になるが、弾はその全てを軽く流していく。

 

もちろん、ほっぺをつまんだまま。

 

ここで少し説明しておくが、体格の差、重量の差は生身の戦闘では無視しえない要素になる。

 

体格が大きければその分手足が長く、リーチが長いということであり、さらに筋肉量も増える。重量があるということは相応の頑強さがあるということで、投げることも組むこともしづらくなる。

 

それを補うための格闘技であり技術の進歩であるが、しかしその差を無視するにはいまだ至らない。弾のようにぶっ飛んだ人間ならそれも可能だろうが、ラウラはあくまで人間の範疇を超えてはいない。

 

つまり背の高い弾と、女子の中でも背の低い部類のラウラとでは圧倒的にラウラが不利なのだ。加えて弾の規格も合わさって、もはやラウラに勝ち目などなかった。

 

 

「うぅ……うぅぅ……」

 

 

少しの間だけであったが密度の濃い攻防の末、もはやラウラは唸るだけになってしまった。

 

そこでようやく弾が手を放した。

 

 

「はははははッ!楽しいね、まったく!」

 

「き、貴様……!」

 

 

頬をさすりながらラウラが弾をにらむが、睨まれた本人はどこ吹く風で自分の席へと戻っていく。

 

面白すぎる。

 

それが弾のIS学園の評価だった。やはりここに来てよかった。そう、心から感じている。

 

自らを男と偽って一夏や弾に近づこうとしている貴公子に、自然本来の生まれ方をしていない冷水のごとき軍人。

 

そんな奴らが転校してくるのは世界ひろしと言えどもここだけであろう。

 

ざわめいている教室が千冬の咳払いで静かになった。

 

 

「ラウラ、座れ」

 

「は、はい……」

 

 

ラウラが割り振られた自分の席へ戻っていった。その途中で一夏に「私は認めないからな!お前が教官の弟であるなんて!」とか叫んだ。

 

さっきのことを見ていた一夏は、苦笑いを浮かべていたが。

 

 

「あー……では、ホームルームを終わりにする。解散!」

 

 

千冬の投げやりな言葉で、朝のホームルームに一応の決着はついたのだった。

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