意味不明なところとか、設定を詳しく知りたいという方は感想に書いてください。できるかぎり説明しますので。
シャルルが転校してきてから、五日が経った。もともとの性格からかシャルルはすぐに周囲と打ち解け、この環境に適応するのに時間はかからなかった。
そして今日、シャルルと一夏はアリーナの真ん中で向かい合っていた。両者ともすでにISを展開している。
今日は土曜日だ。午前は授業があるが、アリーナが全面開放される貴重な一日でもある。その一日を使って、一夏はシャルルと模擬戦することにしていたのだ。
「行くよ、一夏!」
「来い。全力でな!」
開始のブザーが鳴った。
一夏は『白式』を駆り、シャルルは『ラファール・リヴァイブ』を操る。シャルルの『ラファール・リヴァイブ』はイコライザが倍、つまり他のISとは搭載できる武器の数が違う。遠距離から中距離を軽くこなすその様は、ちょっとした火薬庫のようだ。
開始のブザーと共に、シャルルの構えたアサルトライフルが火を噴いた。しかし、その時には一夏も動いていた。回転しながら射線の上をぎりぎりで通り、遠心力をプラスして加速するその一刀。
すなわち瞬剣。
「うおおおおぉぉぉぉぉッ!」
気合一閃。
音の速さで刀が振られる。音速を超える感覚を掴んだ一夏は、もはやよほど無理な体勢ではないならば簡単に音を置いていく。
しかし、振り切られた刀から伝わる手ごたえは失敗を告げていた。
「くっ!どこだ?」
斬ったと思っていたが故に、その姿を見失ってしまった。慌てて周囲を確認するが、もう遅い。振り向いた眼前には、幾つもの手榴弾が放られていて――
そして、はじけ飛んだ。
「ぐ、おぉ……!」
体を貫いた衝撃に耐えきれずに呻く。いくらISがダメージを殺そうが、体を抜ける衝撃はあるのだ。どれほど慣れていようとも、衝撃波によって硬直する体はどうしようもない。
その絶好の機会を見逃すシャルルではない。
あの一瞬で下方へ降りていたシャルルがライフルを連射した。雨のような弾丸が、容赦なく一夏を襲う。
「悪いけど、一通りの戦闘データは見させてもらったよ。開幕一番で決めてくると予想はしてたけど、まさか本当にやってくるなんてね」
そう言って、シャルルは微笑んだ。
「あいにく……これだけが取柄だからな!」
叫び、一夏はスラスターをふかし弾丸の雨から抜け出した。そのまま円を描くようにシャルルに近づいていく。
一夏の装備が『雪片弐型』だけである以上、近づかなければ倒すことなどできやしない。だが、シャルルの主兵装は銃だ。相性が悪すぎる。
そもそも、高速戦闘を主とするIS同士の戦いにおいて、ダメージを与えるという面で銃火器は最も効率の良い武器だ。それ以外にも牽制、陽動にも使える万能性。
そのアドバンテージが一夏にはない。
だからどうした?
周りを見ろ。最強を語る奴は、銃など使っていないじゃあないか。
拳より強いものが剣、剣より強いものが銃ならば、銃より強いものは剣であり、拳である。
一夏はそう考えている。故に、装備が『雪片弐型』だけというのは、一夏としてはとてもありがたい。その程度ができなければ、胸を張って千冬の弟と言い切れない。
「行くぞ!」
『瞬時加速』イグニッション・ブースト。
爆発的に加速した一夏がシャルルへと突っ込んだ。
「瞬剣ッ!」
下から掬うように瞬剣を放つ。
シャルルは冷静に後ろに飛ぶことでそれを避け、手榴弾をばらまいた。
だが――
「おおおぉぉぉぉッ!」
「なっ!?」
一夏は切り上げた『雪片弐型』の切っ先を返し、そのまま振り下ろす。当然のごとく、それも瞬剣だ。
新たに振り下ろされた音速の刃が手榴弾を払いのける。驚愕でシャルルの動きが止まった。
「お返しだ!」
その隙に距離を詰め、『零落白夜』を乗せた三度目の瞬剣を発動する。まるで居合のように中腰の姿勢から放たれるその一刀こそ、一夏が使用する中で最も速い瞬剣。
斬撃が直撃したシャルルが吹き飛ぶ。本命の一撃と、余波で生まれる衝撃波がシャルルを貫いたのだ。しばらくは体がしびれて動けないはずだ。
しかし、ハイパーセンサから伝わる寺手の情報がそれを否定した。
「……い、つぅ。ホント、びっくりしたなぁ……」
「……自分から吹き飛んでダメージを軽減したのか」
起き上がるシャルルを見て、一夏はおおよそを把握した。あの姿勢から繰り出される瞬剣は確かに速く、そして強いが、速すぎるために手ごたえを感じられない。一夏が未熟と言ってしまえばそれまでだが、修正しなければならない。
「うん、そうだよ。実習の時、弾君と織斑先生を見てたからね。ああしなきゃ、一撃で全部持ってかれそうだったよ」
「あの時、か……」
シャルルが転校してきた日のことだ。
弾がらしくもなく同じく転校してきたラウラを挑発し、嗾けたあの事件。ラウラを攻撃しようとした弾を、千冬が殴って止めたのだ。
その時、弾は衝撃を逃がすために自ら吹き飛んでいる。
だが、一夏はそれが不思議でしょうがない。
シャルルが今言った通り、これは本来大きすぎて受け止めきれない力に対して使うものだ。弾からすれば千冬の拳など痛くもかゆくもないはずなのに、しかし彼は自分から吹き飛んだ。
そんな自演をして、いったい何があるというのか?
「……一夏?」
「ん?ああ、すまん。こんな時に考え事なんて失礼だな。さぁ、再開しようぜ」
今はどうでもいいことだ。考え事なら後でもできるのだ。
シャルルに構えるよう促し、一夏は気合を入れなおす。
勝負はまだ、始まったばかりだ。
>>1
「はぁ……くそっ勝てなかったぁ!」
息も切れ切れといった様子で、一夏はアリーナに倒れた。シャルルが苦笑している。
結局、シャルルには勝てなかった。粘りに粘ったが、そこはやはり経験の差か。圧倒的な技術と精密な操縦によってシールドエネルギーを削り取られてしまった。
「いや、でもすごいよ。まだISに乗り始めて二ヶ月ちょっとなのに、あれだけ食いついてくるなんて」
「そうか?……ああ、でも悔しいな」
「悔しいなら、もっともっと努力しなきゃね」
「おう」
「あの二人も随分気合入ってるみたいだし」
そう言って、シャルルは隣で攻防を繰り広げている二人を見た。
鈴とセシリアである。
どうも真耶に負けたことが相当悔しかったのか、ずっと二人で鍛錬をしている。傍目には積極的に攻撃を加えず、ただ向き合って移動しているだけのように見えるが、どこまで相手の意図をくみ取りそして動くことができるか、という訓練だそうだ。
最初の頃こそぎこちなかったその動きは、今になってはまるで二人で舞っているかのような印象すら覚える。さすがは国家代表候補生といったところであろう。
セシリアこそ最初の一回、つまりクラス代表を決める一戦だけは勝てたものの、今となっては手も足も出なくなった。相性が悪すぎるのだ。
正直へこむ。
というか、曲がるビームに、死角から迫る一撃をどうかわせというのだろう。卑怯だ。
「はぁ……」
自分もまだまだ未熟だということを改めて思い知らされ、憂鬱な気分になってしまった。一気に体の力が抜け、激しい脱力感に襲われる。
と、そこへオープン・チャネルから声が聞こえた。
「おい」
不機嫌そうなその声はラウラ・ボーデヴィッヒのものだ。無視するわけにもいかないので、仕方なく答えてやる。
「……なんだよ」
「貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話が早い。私と戦え」
「嫌だ。理由がない」
「貴様にはなくとも、私にはある」
そうだろうな、と一夏は思う。ドイツ、そして千冬と言えば一つしか思い当たらない。
第二回IS世界大会『モンド・グロッソ』の決勝戦。
織斑一夏はその日、誘拐された。目的はいまだわかっていないが、一夏は暗闇に閉じ込められ監禁されていたのだ。
しばらくして千冬が助け出してくれたが、決勝戦を棄権してのことであり、千冬は大会二連覇を逃した。一夏の誘拐事件については公表されていないが、千冬に一夏の情報を提供したドイツ軍関係者だけは全容を把握している。そして、千冬はその借りを返すために、大会終了後の一年と少し、ドイツ軍で教官をしていた。
そのあと足取りが分からなくなり、現在IS学園で教師をしている。
「貴様がいなければ教官が大会二連覇の偉業をなしえただろうことは容易に想像できる。だから、私は貴様を――貴様の存在を認めない」
どうやら、ラウラ・ボーデヴィッヒも千冬の強さに惚れ込んだ一人のようだ。故に、千冬の顔に泥を塗った一夏を許せない。
一夏自身も、あの時の自分の不甲斐なさを恥じ、そして嘆いている。
だが、それはそれだ。今は関係ない。
「また今度な」
「ふん。ならば――」
ラウラがISを起動する。漆黒の装甲が展開され、左肩に装備された大型の実弾砲が一夏に向いた。
「戦わざるを得ないようにしてやろう!」
刹那、砲口が火を噴いた。
迫る実弾をシャルルがシールドで弾き、同時にアサルトカノンをコール、ラウラに向ける。
「……こんな密集空間でいきなり戦闘を始めようとするなんて、ドイツの人はずいぶん沸点が低いんだね。五日前のことを見る限り、まるで見当違いってわけでもなさそうだし」
「貴様ァ……!」
嫌なことを思い出させられてか、ラウラが歯ぎしりしてシャルルをにらんだ。だが、シャルルは人をも射殺せそうな視線を浴びても平然としている。
「フランスのアンティークごときが……!」
「いまだに量産化のめどが立たないドイツのルーキーよりは動けるだろうからね」
緊迫した状況の中、一夏は先程シャルルが見せたコールの速さに驚愕していた。
通常、武装のコールには一から二秒ほどかかる。シャルルはその量子変換を一瞬で、しかも照準を合わせながらやってのけたのだ。
一夏は一人得心する。
やり過ぎともいえるバススロットの拡張は、これがあってこそのものだったのだ。相手の戦闘方法によって変幻自在に、しかも瞬間的に変えられるのだから、持久戦に大きなアドバンテージがある。
シャルルが代表候補生なのにも納得の技術だ。
「そこの生徒!なにをしている!学年とクラス、出席番号を言え!」
突然アリーナに声が響いた。騒ぎを聞きつけた教員だろう。
「……ふん。今日は引こう」
二度の横やりで興がそがれたのか、ラウラはあっさり戦闘態勢を解除してアリーナから出ていった。
「一夏、大丈夫?」
「あ、ああ。助かった」
一夏が礼を述べると、シャルルはビクっとなってから慌ててそっぽを向いて「い、いいよ」と言った。
照れてるのだろうか。さっきの姿からのギャップが何とも微笑ましかった。
その後、一夏とシャルルはアリーナを出た。変な空気になってしまったこともあるが、時間も時間だったので丁度良かったともいえる。
帰り道、真耶から男子も大浴場が使えるようになるという旨を伝えられた。今まで部屋のシャワーだけで窮屈な思いをしてきた一夏にとっては、まさに天からの祝福である。
感激のあまり真耶の手を掴んで喜んでしまったが、なぜかそれを見ていたシャルルが不機嫌になり「シャワーを浴びる」と言って先に部屋に戻ってしまった。
これが原因であんなことになるとは、この時の一夏には良そうもできなかったのだった。
>>2
五反田弾の謹慎が解け、はや二日である。
謹慎中は飯を運んでくる人以外には会うことがなく(一夏達も会いにいくのを禁止されていたようだ)、それが終わって外に出れば当然質問攻めにされると思っていたのだが、そんなことはなかった。
何も聞かれない。
かといって、避けられているというわけでもない。
いたって普通。そう、普通なのだ。
何も聞かないのか?と一夏らに尋ねたが、返ってきたのは「お前が意味のないことをするはずがない」の一点だった。
弾に全幅の信頼を寄せてくれているのか。それとも馬鹿か。
おそらくは前者であるのだろうが、その場合は後者も多分に含まれてくるので、結局どっちも正解だ。
何とも形容しがたい気持ちになりながら、弾は寮の廊下を歩く。
久しぶりに一夏の部屋に行ってみようと思い立ったのだ。フランスからの転校生、シャルル・デュノアがいたから遠慮していたのだが、弾の予想ではそろそろ面白くなっているはずである。それを見逃す手はない。
一応のマナーなのでノックする。
「一夏。いるよな」
返事を待たずに断定。居留守を使おうにも、弾の感覚はもう部屋に二人の人間がいることをとらえている。それが一夏とシャルルだということもわかっている。
「弾!?ちょっと、待て――!」
一夏の焦ったような声が聞こえるが、関係ない。鍵がかかっているがそれを触れただけで破壊し、問答無用でドアを開けた。
そこにいたのは慌てて腰を浮かせた一夏と、金髪の美少女。というか、シャルルであった。
「い、いや、弾。これはだな、つまり、えっと……!」
一夏が超焦りまくって訴えているが、無視する。支離滅裂で、もとより聞く意味もないものだし。
「ついに男装がばれたのか」
不意に言った弾の言葉に一夏は驚愕し、シャルルは「やっぱり……」と言って苦笑した。
「そうじゃないかとは思ってたよ。でも、まさか本当にばれてるとは思わなかった」
「どう隠したところで、骨格は変えられねぇ。口調やしぐさも、完全に異性になりきるなんて無理だ。むしろ、よく今までばれなかったな。そっちに驚きだぜ。一夏は……気づくわけねぇか」
「うっ……」
反論したいが実際その通りなので、一夏は黙るしかない。
「んで?なんでばれたんだ?」
「僕がシャワーを浴びてて……」
「一夏が覗いたのか?おいおい、その時一夏はシャルルを男だと思ってたんだろ?やべぇな」
「ちげーよ!シャンプーの替えを持ってっただけだ!」
「いずれにしろ、それで裸を見られて露呈したと」
「うん……」
裸を見られた、という部分に反応してシャルルが顔を真っ赤に染めた。実に可愛らしい。一夏もその時を思い出しているのか顔を赤くしていたが、そっちはむかついた。
なのでとりあえず殴っておく。
「ゲブァッ!」
突然殴られ、一夏は腹を抱えてうずくまった。局部を穿ってしまおうかとも考えたが、さすがに勘弁しといてやろう。
「な、何すんだ……」
「黙ってろ。男の敵」
抗議してくる一夏を一言で切って捨てた。そしてシャルルに向き直る。
「さて、本題だ。なんで男装なんてしてたんだ?」
「それは……実家がそうしろって……」
「実家……デュノア社か」
「うん。僕の父がそこの社長。その人に命令されたんだよ」
シャルルの言い方に違和感を感じたのだろう。一夏が首をかしげた。
「命令って……親だろう?なんでそんな――」
「僕はね、愛人の子なんだよ」
「なっ……」
一夏が絶句する。一夏も一夏で普通じゃあない経験をしているが、『愛人の子』と言われればさすがに動揺を隠しきれない。
「引き取られたのが二年前。丁度お母さんが時にね、お父さんの部下がやってきたの。それからいろいろ検査してIS適性が高いことがわかって、非公式だけどデュノア社のテスト・パイロットをやることになってね」
淡々と。
シャルルは言葉を重ねていく。
「それから少し経って、デュノア社は経営危機に陥ったの。デュノア社は量産機ISのシェアが第三位だけど、結局リヴァイブは第二世代だからね。ISの開発はものすごくお金がかかるんだ。ほとんどの企業が国からの支援があってやっと成り立っているところばかりだよ。しかも、フランスは欧州連合の統合防衛計画『イグニッション・プラン』から除名されているからね。第三世代の開発は急務なの。国防の為もあるけど、資本力で負ける国が最初のアドヴァンテージを取れないと悲惨なことになるからね」
そういえば、と一夏は思い出す。セシリアが第三世代の開発について言っていた。
曰く、「現在、欧州連合では第三次イグニッション・プランの次期主力機の選定中なのですわ。今のところトライアルに参加しているのは我がイギリスのティアーズモデル、ドイツのレーゲンモデル、それにイタリアのテンペスタⅡモデル。今のところ実用化ではイギリスが一歩リードしていますが、まだ難しい状況ですの。そのための実稼働データを取るために、私が送られたのですわ」だそうだ。
「話を戻すね。それで、デュノア社でも第三世代を開発していたんだけど、もともと遅れに遅れての第二世代型最後発だからね。圧倒的にデータも時間も不足していて、なかなか形にならなかったんだよ。それで、政府からの通達で予算を大幅カット。次のトライアルで選ばれなかったら援助を全面カット。そのうえIS開発許可も剥奪するっていう話になったの」
「なんとなく話は分かったけど、それがどうして男装につながるんだ?」
「簡単だよ。注目を浴びるための広告塔。それに――同じ男子なら日本で発生した特異ケースとも接触しやすい。可能であればその使用期待と本人のデータを取れるだろうってね」
「それは、つまり……」
「そう、『白式』と『ブラッディ・ロード』のデータを盗んで来いって言われてるんだよ。僕は、あの人にね」
シャルルは少しうつむいて、自虐的に笑った。
総てを諦めたような、それでいて諦めきれないような、曖昧で悲痛な笑みだった。
「でも一夏や弾さんにもばれちゃったし、きっと僕は本国に呼び戻されるだろうね。デュノア社は……まぁ、つぶれるかほかの企業の傘下に入るか、どのみち今までのようにはいかないけど、僕にとってはどうでもいいことだよ」
「……」
「……」
「ああ、なんだか話したら気が楽になったよ。聞いてくれてありがとう。それと、今まで騙しててゴメン」
シャルルが深々と頭を下げる。だが、一夏は自分でもよくわからない衝動に駆られ、シャルルの肩を掴んで頭をあげさせた。
「いいのか、それで」
「え……?」
「それでいいのか?いいはずないだろ。親がなんだっていうんだ。どうして親だからっていう理由だけで子供を縛る権利がある。おかしいだろう、そんなことは」
「い、一夏……?」
「答えてくれシャルル。本当にそれでいいのか?」
「……いいわけ、ないじゃないか」
少しの沈黙の後、シャルルは答えた。
「いいわけないじゃないか!本当の父親からは道具扱いされて、本妻からは厄介者扱い。それでいいわけないじゃないか!でも……でも、どうしろっていうの!?僕になにができるのさ!?」
「ここにいればいい」
「え?」
そうだ。織斑一夏。おまえの脳みそをフルで回転させろ。絶対に、諦めてはいけない。
「特記事項第21、本学園におけるせいとはその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする」
「それって……」
「つまり、この学園にいれば少なくとも三年間は大丈夫なんだよ。それだけあれば、どうにかする方法を見つけられる。なぁ、弾?」
「甘いな、一夏」
弾が静かに言った。
一夏もシャルルも、緊張で体を強張らせる。
「と言ってやりたいんだが、それしかねぇ。まぁ、なんだったら俺のデータを持ってくか?どうせ使えねぇけどな」
「も、持ってくかって、いいの?そんな簡単に」
「いいぜ。どうせエネルギーシールドと絶対防御のシステムしか入ってねぇんだから。『グラビティ・アトラクション』もどうやら俺専用らしいから使えねぇし」
「それだけなの?でも、筋力のバックアップとかすごいよねあれ」
「筋力のバックアップ?そんなもんねぇぞ?」
「……え?」
「ありゃあ、俺の素だ」
「えええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
シャルルが目でも飛び出しそうな様子で驚く。どうやら、弾の近接攻撃力はISのバックアップによるものだと思っていたらしい。
生身で瞬間移動っぽいこととか、レールカノンを防いでたりしてたのだが、それもISを使ったと思っていたようだ。
「はっはっは!まっ、データ云々はともかく、俺はどこの味方もできねぇ。なるようになるさ」
「おい弾!」
無責任なことを言うな、と一夏が訴えてくる。だが、こればかりは仕方がない。
「だから、一夏。おまえがどうにかしてやれ。唆したんだから、それぐらいの責任はとれよ」
「……!おう、分かった」
一夏はこちらの意図を察したのか、深くうなずいた。
それを確認して、弾は再びシャルルに向かい合う。
「な、なにかな?」
「味方はできねぇが、一つ言っといてやる。どうあがいても、物事の価値は他人によって決められちまう」
「……」
「だから、他人が見ても最良の価値しか見いだせない人生を歩め。その道筋を決めるのは自分だ。おまえが傀儡でなく人間として生きたいのなら、自分自身で最高の価値を掴みとれよ」
「うん、わかった」
弾の言葉に、シャルルは力強くうなずいた。
その瞳には、さっきまでの諦観や絶望は微塵も感じられない。
「はん、らしくもないこと言っちまったな。やっぱ、謹慎の所為かね」
お茶らけた様に言って、弾は部屋を出た。
一夏もシャルルも、決心を固めたようだ。ならば、大丈夫だろう。きっと、これから自分を見失う時がくるだろう。その時、弾の言葉が迷いを断ち切るための手段になってほしい。
そんなことを考えていると、セシリアが横ぎった。そして、一夏の部屋の前で止まる。
その奥からは、箒も来ていた。おなじく、目的地は一夏の部屋。
ああ、これは修羅場になるな、と考えて、弾はご愁傷様と心の中で手を合わせるのであった。