Scribed a bullet hole   作:byとろ

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All girls in school

高校入学後、第一日目。

 

本来、間違いさえ起こさなければ、これほど人生に希望を与える日はないだろう。定義的な子供から解放され、自由を謳い、青春を謳歌するための大切な日だ。

 

そのはずなのだが……。

 

 

「なぁ、一夏よぉ……」

 

「どうした……弾」

 

「いや……なんでもない……」

 

「そうか……」

 

 

そのはず、なのだが……。

 

 

「弾……」

 

「……なんだ」

 

「……やっぱ、いいや……」

 

「ははッ……」

 

 

さっきから、ただこれだけのやり取りを何回もしている。

 

意味はない。意味はないが、会話が途切れることに一夏と弾は恐怖する。

 

今現在、このクラス、いやIS学園全体の中に、男子は一夏と弾の二人しかいなかった。

 

IS学園はその名の通りIS操縦者を育成する学校だ。そしてISを動かせるのは女性だけ。つまり、IS学園は女子高なのだ。本来ならば。

 

しかし、ここにイレギュラーが誕生した。一夏と弾という、男性なのにISを動かせる異物が。

 

故に、IS学園内で男性は彼ら二人だけ。当然、注目の的になるわけである。

 

 

「……くん。織斑くんっ」

 

 

もはや現実逃避し始めた一夏に、突然声がかかった。

 

 

「は、はいっ!?」

 

 

一夏にとっては完全に不意打ちで、思わず声が裏返ってしまう。案の定、クラスのあちこちからくすくすと笑い声が聞こえて、一夏はさらに落ち着かない気分になった。

 

声の主はこのクラスの副担任、山田真耶女史。背丈が低く、大きめの眼鏡にだぼっとした服装で、『子供が無理して大人の格好をしました』的な不自然さが出ている。

 

 

「あっ、あの、大きな声出しちゃってごめんなさい。お、怒ってる?怒ってるかな?ゴメンね、ゴメンね!でもね、あのね、自己紹介『あ』から始まって今『お』の織斑くんなんだよね。だからね、ご、ゴメンね?自己紹介してくれるかな?だ、ダメかな?」

 

 

そんな真耶は、もはや挙動不審とも言ってしまっていいような雰囲気で一夏にぺこぺこと頭を下げた。

 

 

「いや、し、しますから自己紹介。落ち着いてください先生」

 

「ほ、本当?本当ですか?本当ですね?や、約束ですよ、絶対ですよ!」

 

 

自己紹介をするといっただけで真耶は一夏の手をぎゅっと握ってきた。どれだけ緊張してたのだろうか?

 

ともあれ、やるといったのだからさっそくやるとしよう。そう思い、立ち上がって後ろを向く。向いたのだが、さっきから背中に集中していた視線をまともに受ける体になって、一夏はたじろいだ。

 

 

「えー……えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

 

無難にあいさつを終えるが、クラス全体から『もっと色々喋ってよ』的な視線をうけた。『これで終わりじゃないよね?』という空気がヒシヒシと感じられる。先程まで一緒になって気まずい思いをしていたはずの弾すらも、露骨に『もっと話せ』という視線を飛ばしてくる。

 

何を言えばいいのか全く分からない一夏は、窓側の席にいる六年ぶりに再会した幼馴染である篠ノ之箒に助けを求めるが、空しく視線をそらされてしまった。

 

これ以上しゃべらずに『暗いやつ』のレッテルを張られたくないので、意を決して口を開く。

 

 

「以上です」

 

 

がたたっ、とずっこける女子が数名いたが、一夏は気に留めない。ていうか、何言えばいいんだよ。

 

弾がこらえきれなさそうに体を震わせていて、なんだかむかついた。

 

ふてくされたその瞬間、

 

バシンッ!

 

といい音をさせて頭を叩かれた。

 

 

「いっ、つう……」

 

 

痛みに思わず頭を抱えるが、しかしこの叩き方には覚えがある。

 

弾が笑いをこらえていたのは、つまりこっちか。

 

 

「げぇっ、関羽!」

 

 

バァンッ!

 

恐る恐る振り向いたところをまた叩かれてしまった。あまりの音に、女子が若干名ひいている。

 

 

「誰が三国志の英雄か、馬鹿者」

 

 

トーン低めの凛々しい声を響かせたのは、何を隠そう織斑一夏の実姉、織斑千冬である。

 

混乱する一夏を置いて、千冬は真耶に向き直った。

 

 

「織斑先生、会議はもう終わったんですか?」

 

「ああ、山田君。クラスへのあいさつを押しつけてすまなかったな」

 

 

真耶はいえいえ、と若干熱っぽい視線を送りながらはにかんだ。

 

 

「さて、諸君。私が織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になる操縦者にする育てるのが仕事だ。私の言うことはよく聞き、よく理解しろ。できないものにはできるまで指導してやる。私の仕事は若干十五歳を十六歳までに鍛えぬくことだ。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな」

 

 

まるで暴君だ、と一夏は思うが、教室には黄色い声が上がった。

 

 

「キャ――――――!千冬様、本物の千冬様よ!」

 

「ずっとファンでした!」

 

「私、お姉様にあこがれてこの学園に来たんです。北九州から!」

 

「あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しいです!」

 

「わたし、お姉様の為なら死ねます!」

 

 

黄色い声が多数上がる中、千冬はうっとうしそうにため息をついた。

 

 

「……毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。特に今年は、厄介なものが二つもある」

 

 

厄介なものとは、一夏と弾の二人に違いない。

 

 

「ひでぇな、千冬サン」

 

「ひどいぜ、千冬姉」

 

 

一夏と弾の抗議の声が被った。

 

バシンッ!ババシンッ!

 

またもや出席簿が振り下ろされた。一夏は避けようもなくそれを食らうが、弾はにやにやと千冬を見ている。

 

 

「避けるな、馬鹿者」

 

「断りますよ。あんなのろいんじゃあ、ね」

 

「五反田ァ……!」

 

 

千冬が怒りに体を震わせた。プルプルと震える出席簿が超凶悪的。

 

ちなみに、教室ではクエスチョンマークであふれかえっている。先程の応酬は、実力がないものには全く分からないだろう。単に、千冬が出席簿を振り下ろしただけに見えるはずだ。

 

実はさっきの出席簿、弾には当たっていない。

 

つまり、千冬が振り下ろした出席簿を、弾がそれ以上の速度ではじき返しただけなのだが、いかんせんそれが速すぎて、当事者と一夏を除いて誰も理解できていなかった。

 

 

「チッ……まぁ、いい。で?お前は満足にあいさつもできんのか?」

 

「いや、千冬姉。俺は――」

 

 

バァンッ!

 

 

「織斑先生と呼べ」

 

「……はい、織斑先生」

 

 

四回目の出席簿を食らって、しぶしぶと訂正するが、時すでに遅し、教室中に一夏と千冬が姉弟なのがもろバレだった。

 

 

「え……織斑君って、あの千冬様の弟……?」

 

「なにそれすごい」

 

「ああっ、いいなぁっ。かわってほしいなぁっ」

 

「だまれ、お前ら」

 

 

色めき立つ教室を、千冬が手をはたいて静まらせる。

 

 

「五反田、お前も自己紹介ぐらいしておけ」

 

「うぃーす」

 

 

ババシィンッ!

 

出席簿が以下略。

 

 

「……避けるなと言ったが?」

 

「断りますよ。あんな以下略」

 

「五反田ァ……!」

 

「おぉ、怖い怖い。――っと、そういうわけで五反田弾だ。趣味は料理、実家も定食屋をやってる。気が向いたら来てくれ。まっ、時間もないからこんなもんだな。んじゃあ、これからよろしく」

 

 

もはや開き直ったのか、さっきまでの緊張を微塵も感じさせないにこやかスマイル&颯爽とした自己紹介だ。

 

一人だけ自己紹介を成功させた弾に、一夏は恨めしげな視線を送る。滅べ。

 

それを察知した弾が一夏に向かっていやらしい笑みを浮かべたところでチャイムが鳴った。

 

 

「さぁ、ショートホームルームは終わりだ。諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう。その後実習だが、基本動作はこれも半月で体に染み込ませろ。いいか、いいなら返事を「うぃーす」――お前は黙っていろ、五反田!」

 

 

へらへらと笑っている弾を、千冬が射殺さんばかりに睨み付ける。一般人なら卒倒するレベルの威圧を直に受けているはずだが、弾は意に介していない。

 

まだ千冬が一夏のもとから失踪する前から、この二人は仲がいいのか悪いのか分からなかった。なんだか、あのころに戻ったみたいで、一夏は知らず知らずに胸を躍らせる。

 

とんだ初日になるところだったが、これなら大丈夫そうだと一夏は思った。

 

 

「何をにやにやしている。早く座れ、馬鹿者」

 

 

訂正。やっぱり酷い。

 

親友のからかいの言葉と姉の暴力、幼馴染の不機嫌な視線も受けながら、一夏はこの先の学園生活に不安を隠せなかった。

 

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